五一話:今度こそ―――
「っぐぅ、が、っ゛!?」
―――何だ、こりゃ?
総護には自分が立っているのか、倒れているのか、分からなかった。
たしか地面に倒れ伏していたはずだが、どういう訳か今は自分以外を感じる事ができない。
暗く、自分以外がとても曖昧だ。
だからなのか、
「ぅあ、ぁぎっ、ぉ」
自身の事だけは、これ以上ない程ハッキリと分かる。
内側で、『ナニカ』が暴れ狂っていた。
―――苦し、い。
『ナニカ』は途轍もなく巨大で、歯を食いしばり必死に抑えなければ身体を突き破りそうで、破裂しそうで、壊れそうだ。
それに普段なら感じる『魔力』や『気力』の気配も、酷く希薄だった。
『よぉ、元気そうじゃあねぇか――――――馬鹿弟子ぃ』
苦しみの中で、■■の声が聞こえた。
―――ふざ、けんな。
こんな状態が『元気そう』だと?
相変わらずふざけた事を言う■■だと、総護は思う。
「っ、―――お、ぁ?」
こんな状態だからだろうか。声をかけた■■の名前も、顔も、何も分からない。
「っお、ガァアアアッ!?」
他の事に意識を割いたからだろうか。危うく『ナニカ』を抑えきれなくなるところだった。
『っは、笑わせんじゃあねぇよ。んなざまでよぉ、誰を守ろうってんだぁ?』
『守る』?
いったい、『誰』を?
―――なに、言ってんだ?
■■が何かを言っているが、意味がよく分からなかった。
『随分とぉ、どぉでもいいみてぇだなぁ?』
やはり、分からない。
分からない、が
―――どうでもいい、わけねぇ!!
■■の言葉を許してはいけないと、総護は思った。
どうしてかは、分からない。
でも、認めてしまえば―――自分が自分では無くなる様な気がしたから。
それは―――とても、本当に大切な事だったはずだから。
「ッゴぉ、ぁ、っぐぁ!?」
同時に、■■の言葉は暴れる『ナニカ』を酷く刺激する。
まるで総護の『怒り』に呼応するかの様に、より活発に動き始めた。
『……ここまでかぁ。なら、終いにするかぁ』
このまま『ナニカ』を抑え続けるのも、限界が近い。
そもそも、『ナニカ』は何なのか?
なぜ内側で暴れ狂っているのか?
元々自分が持っていたモノなのか?
どうしてこんな状態、状況になっているのか?
『ここまで』?
『終い』?
疑問は尽きないが、頭の中を掻き混ぜられた様に思考が纏まらない。
―――なんかあった、はずなんだよな。
そういえば何か、目的があったはずだ。
誰かと、戦っていた気がする。
動かなければいけない、理由があったはずだ。
このままでは、いけない気がする。
―――俺は、誰かを、
「―――ッグぁ!? ぁ、うぉ」
また『ナニカ』が暴れる勢いが増した。
まるで『早くここから出せ』とでも訴えるかのように、力が強くなっている。
―――ヤベェ、もう、抑えらんねぇ。
もう限界だ、と総護が思った時、
『―――安心しろぉ、後でお嬢ちゃん達も、ちゃあんと送ってやらぁ』
■■の声を聞いてドクン、と一際大きく鼓動が跳ねる。
「や、め゛っ、ぉ……!!!」
反射的なものだった。
考えるよりも先に浮かんだのは、明確な拒絶。
―――んな事、させるわけねぇだろっ!!
『ナニカ』の事など、どうでもよくなる程の強烈で巨大な衝動。
詩■と■南を害する事など―――絶対に認めない。
そう―――総護はずっと昔に決めたのだ。
理不尽や不条理で『■切■■』が傷付く事など許さない、と。
誰が相手であれ、何が相手であれ負けない『強■』を得る、と。
―――■匠、だろぉが関係無ぇ。
誰が相手であれ、引くわけにはいかない。
『ナニカ』を相手に、ウダウダしている暇など無い。
―――行かねぇと。
一刻も早く、立ち上がらなければならない。
しかし、問題が一つ。
強大極まりないこの『ナニカ』を何とかしなければ、まともに動けそうにないのだ。
―――こん、のっ。
総護は内部へと意識を集中させる。
無秩序に、無差別に、ただ暴れ回る膨大な力の奔流。
抑えるだけで手一杯で、今の総護には制御など到底不可能だ。
しかし、今頃になって思う。
『完全に抑え込む必要があったのか?』と。
別に『ナニカ』を完全に制御する必要は無いはずだ。
どれだけ荒かろうが雑だろうが、少し方向性を与えてやるだけでいいはずだ。
―――いい、加減に、しろやっ。
それは『魔力』や『気力』で似たような事は今まで、さんざん行ってきたはずだ。
『過剰』は、漏れても構わない。
『制御可能』な量だけ、使えばいい。
『在るなら在る』で、利用できそうだから使うだけ。
そういう風にこれまで戦ってきたんだから、今回もそうすればいい。
総護は強引に、でも少しだけ、『ナニカ』の動きを変える。
身体の内側を巡らせる様に使える範囲で循環させていき、制御不能の部分は外部へ無理矢理にでも放出する。
―――イイ感じだな。
結局使えそうな『ナニカ』の量は少ししか残らなかったが、それでもかなりの『力』を感じる。
少しであれ、気を抜いた瞬間に暴走しそうだ。
今更ながらあれだけ派手に暴れていたのに不思議と禍々しい気配は一切感じない事に、総護は気が付いた。
未だに『ナニカ』は何なのかも分からない。
でも、総護は感覚的に『ナニカ』は『魔力』や『気力』に近い性質だと感じる。
師■を相手にするのだから、強大であるなら丁度いいだろう、とも。
―――そんなに暴れたきゃ暴れさせてやるよ。
『力』を、身体中に巡らせて。
自然と固まったモノを、握り。
万全では無いが、これで多少はマシにはなった。
でも、あまり時間はかけられない様だ。
感覚も戻ってきたようで、肌を撫でる乾いた風を感じる。
身体が、動く。
音が、聞こえる。
視界が、開ける。
―――今度こそ、俺が、
そう、今度こそ。
―――護るんだよっ!!!
そう、決めたのだから。
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