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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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四九話:『師匠』として(上)

 

「これでも元からこんな感じで、説明する時間を作るつもりだったんだぜぇ?」


 厳十郎は鳴子達と対面になる様に足を崩して再び座った。


「『事前に』、『最初から』、『行動する前に』の時点で説明が欲しかったんですけどねぇ」

「だぁから、悪かったって言ってるじゃねぇか」

「それを態度と行動で示して欲しいと、前からずっと言ってるんですけどねぇ?」

「『周りに言うより先に行動に移る』。貴方の悪いところですよ、ゲン? 私達がどれだけそれで困ったと思ってるんですか?」

「あ~、…………スマン」


 早速、内容が脱線していた。


「―――ストップだぁ鳴子。今はこのままの方が都合がいいからよぉ」


 鳴子は厳十郎に近付く為に〝結界〟を解除しようと手をかざそうとしたが、厳十郎が待ったをかけた。


「……何を企んでるんですか?」

「それも含めて説明するぜぇ」


 鳴子も厳十郎も詩織や陽南に比べ落ち着いている。


「それより今のうちに総君の怪我の手当てを―――」


 倒れている総護は酷い傷を負っっているのだから手当てをするべきだと詩織は思った。





「―――ちっと前から時間止め(・・・・)てっからぁ(・・・・・)、喋ったところでなぁんも問題ねぇぞ?」






 サラリと、とんでもない事を言ってのけた。


「「――――!?」」


 絶句する詩織と陽南。しかし、二人以外はあまり驚いていない様だ。

 ―――呆れている、と言う方が近いのだろうか?


「そぉ言う訳で、始めんぞぉ」


 んなこたぁどうだっていいだろぉ、と言って厳十郎は話し始める。


「あそこで伏せってる馬鹿弟子から聞いたと思うがぁ、今やってんのは『昇格試験』ってやつでなぁ。弟子レベルに合わせた儂と馬鹿弟子が戦うっつぅもんだぁ」


 それは詩織と陽南、誠一と剛が事前に聞いた内容だ。


「馬鹿弟子が今の儂を超えりゃあ『合格』。できなけりゃあ『不合格』で、次は無ぇ実戦的な試験だぁ」


 相変わらずふざけた内容だと、詩織と陽南は思った。


「―――で、この説明を聞いてどう思ったよぉ?」


 どう思うかなど決まっているではないか。


「ふざけちょーね」

「酷い内容だと、思います」

「どっちも馬鹿ですねぇ」

「私、内容を聞いた時は耳を疑ったんですよ?」

「どう考えてもやり過ぎよ」

「頭おかしいんじゃないか?」

「このやり方はちょっと賛同しかねますね」


 九割が否定的な意見だったが、


「……『力』を得る為にはリスクが付き物だと、オイラは思うっス」


 ―――唯一ピー助だけは違う様だ。


「かかかっ、ピー助の意見はもっともだがよぉ。それにしたって酷ぇ言われようだなぁ。だぁれも分かっ(・・・・・・・)てくれねぇ(・・・・・)とは、泣けてくるぜぇ」


 目を片手で隠し、シクシクと泣いているフリをする厳十郎。


「『酷い言われよう』って厳爺のほうが酷いがん」


 そんな厳十郎の態度に陽南の怒りが再燃し始める。


「ほほぅ。儂のどこが酷ぇってんだぁ?」

「だって、『不合格』だけんって別に、こ、殺すとか意味わからんがんっ」








「―――儂ぁ『殺す』なんざぁ一言も言ってねぇぞぉ?」








「――――――――え?」


 だが、厳十郎の言葉によって陽南の怒りは即鎮火する。

 というかほぼ全員、その言葉の意味が分からなかった。


「分かんねぇならぁ、もういっぺん言ってやろうかぁ?」


 厳十郎は子供に言い聞かせる様にゆっくり、はっきりと言葉を紡ぐ。



「―――馬鹿弟子がぁ今の儂を超えりゃあ『合格』。できなけりゃあ『不合格』で、次は無ぇ実戦的な試験ってのがぁ『昇格試験』だぁ」



 んな事一言も言ってねぇだろぅ? と厳十郎は言う。


「言っとくがぁ、さっきと同じ説明をあいつにもしたんだぜぇ?」

「……厳爺、『不合格』だったら、どうなるの?」

「『宿題』くれてやるだけだなぁ。『もっと鍛えてこい』っつってよぉ」

「『次は無い』ってゆーのは、どーいうことだ?」

「そりゃあできねぇ事に拘る必要はねぇだろぉ? 他の方法を考えるだけだぁ」

「じゃあ、『実戦的』ってゆーのは?」

「そのまんまの意味だがよぉ。『待った』とかぁ『ストップ』っつぅのは無ぇって事だぁ」

「その、全身黒い服装なのは、どうして?」

「返り血浴びんのに白い服とか着るわきゃあねぇだろうぅ? こっちの方が血が目立たなくていいんだよぉ」

「「……………」」


 詩織と陽南の問に淡々と答える厳十郎。


 ここで全員の思いが一致する。




 そう――――『言い方が悪い』と。




「お嬢ちゃん達になんつって説明したか知らねぇがぁ、勝手にあいつが勘違いしてるだけだぁ」


 これは総護が『勘違いした』と言うよりは、『勘違いさせた』と言えるのではないだろうか。

 しかも相手は厳十郎なので、『言っている本人ならやりかねない』と総護は思ったはずだ。


「さっきも言ったがよぉ、儂ぁあいつを殺す気なんざ微塵もねぇぞぉ? んな事しちまったら本末転倒じゃねぇかぁ」


『殺す気は無い』と厳十郎は言っているが、鳴子の話しによれば厳十郎は総護を幾度となく殺しかけているのだ。


 それは組手の最中であったり、厳しい環境の中であったり。状況は様々だが、あと少しのところで魂と肉体の結び付きが切れてしまう程の、本当に死んでしまうという状況まで追い込んでいる様だった。


 ―――厳十郎の言動は矛盾している、とユランは感じた。


「おいおい、なぁんでそんなに意外そうな顔してんだぁ?」



『死んだらそれまで』



 総護が言っていた事を、詩織と陽南は思い出していた。


「儂ぁ、んな冷血漢じゃあねぇよ」

「ならどうして―――」


 ―――どうしてここまで総護を追い込むのか?


 マーシーはそう聞こうとしたが、


「―――あいつがぁ死ぬ気で(・・・・)やらねぇと(・・・・・)届かねぇもん目指してっからなぁ」


 その途中で厳十郎が答える。


「中途半端なんざぁ、あいつぁあ望んじゃいねぇ。本気で、心の底から―――『大切なもんを守れる強さ』を欲してんだよぉ」




『―――理不尽とか不条理とかはダメだ、許せねぇ』

『―――どんな状況になろうが笑って『安心しろ』って言えるぐれぇになりてぇんだよ、俺は』




 総護の言葉が二人の脳裏を過ぎる。


我儘(ワガママ)』だと総護は言った。しかし、詩織と陽南は思う。


 込められた熱意や覚悟は、―――やはり途轍もないものだと。


「随分と昔になぁ、あいつぁ言ったんだぁ―――」


 懐かしむ様に、顎を触りながら厳十郎は言う。


「―――『こんどはオレが、オレがだれかをまもってみせるんだ』ってなぁ」


 それはかつて総護が言った言葉で、今も総護の中に有り続ける言葉。


「腹ぁ括ったやつ相手すんのによぉ―――手抜き手加減なんざぁ失礼だろぅが」


 それから一転して、真剣な声で厳十郎は言った。


「だから儂ぁ、あいつに本気で基礎を叩き込む(・・・・・・・)って決めたんだよぉ。だからよぉ、勘違いだろぅが何だろぅがむしろ好都合ってもんだなぁ」


 つぅか殺すとか有り得ねぇよ、と厳十郎はカラカラと笑う。


 それを聞いて詩織と陽南、ピー助は安堵する。

 確かに度が過ぎてはいるが、それでも厳十郎は総護のためを思っている事が分ったからだ。


 ―――しかし、誠一や剛、ユランとマーシー、鳴子は違う。


「厳さん」

「なんだぁ?」


 誠一は『有り得ない』と思いながらも、



「……まだ総護君は―――基礎ができていない(・・・・・・・・・)、とでも言うんですか?」



 恐る恐る厳十郎へと問う。











「―――当ったり前ぇだろぅが。できてんならぁ『昇格試験』なんざぁやる必要が無ぇよ」

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