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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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四七話:暗転

 





 ―――総護は手を尽くした。






 普段から組み手(と本人達は言っているもの)を行っているので、癖などを含むあらゆる動作を厳十郎には知られている。

 だから『昇格試験』では瞬間的に『何か』で厳十郎を上回らなければ勝ち目は無いと、総護は経験上知っている。


 だから今回、総護は環境を利用した。


 二人の【龍殺者(ドラゴンスレイヤー)】によって振りまかれた、強大な『火属性』と『雷属性』の力の残滓。これが、今回の秘策となった。


 総護自身の魔力は心許なかったが、周囲の環境を利用するなら話は別だ。


 幸運にも以前ピー助と『ロマン魔術創ろうぜ!!』といって共同で創った〝厄龍再臨・(とって)天地塵灰の破滅あれ(おきの魔術)〟もあった。

 今回の状況なら、かなりの効果が期待できる―――










 「―――はっ、話にならねぇなぁ」










 ―――はずだった。


 俯せに倒れた総護を鼻で笑い、見下ろす厳十郎の目は―――冷え切っている。


 「〜〜〜ッぐ、ぅぁ、っ」


 腹を斬られた、―――臓腑が溢れそうだ。


 胸を突かれた、―――辛うじて心臓は外したが、肺を貫通した。


 影響は最小限に抑えた―――それでも両肘、両膝から下は悲惨な状態になっている。



 (とお、すぎん、だろ……っ!!)




 結果として、厳十郎には何も届いていなかった。―――いや、届くわけ(・・・・)がなかった(・・・・・)、と言うべきか。




 ―――こと戦闘に於いて、並ぶモノ無し。

 ―――誰からも無双と呼ばれ。事実、頂点に立っている。


 如何に自然体見えたとて、理解の及ばぬ離れ業を無意識の域で操っている。



 だから『気』の運用にも当然、違いが出る。



 『流れ』、一切の緩急無し。

 ―――常時、超高速の激流の如く。


 『密度』、一切の濃淡無し。

 ―――その全てが超高密度かつ均一。


 『消費』、一切の損失無し。

 ―――無駄が介在する余地など無い。


 それは〝身体強化〟の最奥。総護も目指し、数多の武人、戦士が焦がれる理想の領域。




 ―――〝身体強化・(きわみ)




 ただ一人、名実ともに『極』の名を冠している。



 そして、〝厄龍再臨・(ワールドエンド・)天地塵灰の破滅あれファイナル・グローリー〟が届かなかった理由。


 それは、全身から溢れた気が鎧となっていたから。



 ―――〝纏鎧(てんがい)



 全身をくまなく覆う『気』の鎧。そして総護の〝纏鎧〟など比べ物にならない程に強固で、強靭なものだった。


 落雷も、炎も溶岩も、何一つ〝纏鎧〟に阻まれ、熱すら届く事はなかった。



 (―――っくぅ、あま……かった)



 『今回も、きっと大丈夫だろう』

 ―――楽観が、あったのだろう。


 『手加減有りとはいえ、【龍殺者】を相手に少しは攻防が成立していた』

 ―――慢心が、あったのだろう。


 『強くなった』

 ―――驕りが、あったのだろう。



 (クハ、ざまぁ、っ゛、ねぇな)



 当たり前だ。


 いくら『調整』したところで、どれだけ『質』を下げたところで、




 ―――元『極限』と現『未熟』では、その中身が違いすぎる。




 消耗した状態の総護と『同程度』に見せかけていただけだったのだ。

 顔を合わせた時から既に始まっていた事に今更ながら気付いた総護は、自嘲の笑いを止める事ができなかった。


 間違いなく今の厳十郎は、総護の数段上にいる。


 『相手を見誤る』など、問題外だ。笑い話にすら、なりはしない。総護は少し前の自分を殴り飛ばしてやりたかった。


 最上厳十郎という『怪物』を相手に何を血迷ったのか。そして、それらが招いた結果がこれ(・・)だ。




 もう力が入らない、気力が足りない、魔力も足りない。




 今の総護には多少動く手で傷口を焼いて出血を止め、気休め程度の治癒しか出来ない。




 ―――どう足掻いても、状況は絶望的だ。

 ―――ここから逆転する手段を、総護は持ち得ない。



 (こ、こで、……終わり、か)


 元より、そういう『内容』だ。鳴子もきっと、『約束』を守ってくれるだろう。


 後悔は無い。










 (―――やっぱ、死に、たく、ねぇ……っ)










 ―――でも、未練はある。


 やりたい事も、やり残した事もある。

 それこそ、挙げ出したらきりが無い程に沢山だ。呆れるほどに未練タラタラだった。


 でも―――いいや、だからこそ(・・・・・)












 ―――何より最初に浮かんだのは、詩織と陽南の顔だった。












 ジャリッと、厳十郎の動く音が頭の近くで聞こえる。きっと首を断つつもりなのだろう、と総護はぼんやりと他人事の様に思う。



 そして総護は覚悟を決め、厳十郎が振う刃がスルリと首を断―――













 「お嬢ちゃん達を殺しゃあ(・・・・)、ちったぁまともになるかぁ?」













 (――――――――は?)













 ―――つ事は、なかった。



 厳十郎はクルリと総護に背を向け、〝結界〟の方向へと歩き始める。


 「で、べぇっ!?、ゴッ、ゲホッ」


 吐血のせいでうまく言葉が発せない。


 (なん、でっ、どうして、そう、なんだよっ!?)


 完全に予想外で、意味が分からなかったが、―――厳十郎が『本気』なのは分かった。



 総護は師匠である厳十郎の『有言実行』に、幾度となく苦しめられてきた。



 『落とす』と言えば―――崖、谷、ビルなどから容赦なく突き落とされた。

 『避けろ』と言えば―――完全に避けきるまでひたすら斬られ、殴られ、治癒(なお)された。

 『生き残れ』と言えば―――戦場、雪山、無人島、砂漠など期間を言わずに放置された。


 厳十郎は内容を問わず、『やる』と言えば本当に『やる』のだ。過去に例外は一回たりとも無かった。


 だから今回も、―――そうなのだろう(・・・・・・・)


 (ク、ソッ、動け、やっ!! 動け、よ……っ!!)


 どれだけ動こうと思っても、身体は言うことを聞いてくれそうにない。



 歩く厳十郎から殺気が漏れ始める。

 ―――詩織と陽南の表情が一瞬にして青ざめ、大人達やピー助の表情が驚愕に染まる。



 (―――っ、なん、か、ねぇか!?)


 焦燥と鼓動ばかりが大きくなっていく。が、何も思いつかない。



 〝結界〟まであと半分のところで、厳十郎の歩みが止まる。

 ―――ユランとマーシーが厳十郎の足元へ〝火球(ファイヤー・ボール)〟を放ったからだ。どうやら厳十郎が本気だと理解したのだろう。



 (最近、こんなんばっか、っ゛、じゃねぇ、か……っ)


魂喰い(ソウルイーター)】や【龍殺者】、それから【最上厳十郎(世界最強)】と、なんと豪華な顔ぶれだろうか。



 また厳十郎が歩き出す。

 ―――本格的に誠一と剛が、ユランとマーシーが戦闘態勢へ移行する。しかし、やはり困惑している様に見える。



 (どうする………っ!?)


 最近の相手は誰も彼もが同格以上で、今と同じくはっきりと『死』の影を感じている。よく生き残ったと総護は自分を褒めたいくらいだ。


 特に【魂喰い】の時は今と同じようなもので、加えて血も足りず、意識も朦朧として―――










 (――――――――――ぁ)










 ここで一つ、思い出せた。



 (………バカ、だな)



 これが走馬灯というヤツなのかは、分からない。



 でも【魂喰い】を相手に総護は自分が何をしたのか、追い詰められて思い出せた。



 魔術師としての感性なら有り得ないし、誰もが馬鹿げてると言うだろう。『賭け』と呼ぶにはあまりに無茶で、無謀に過ぎる。蛮勇と呼べるかも怪しいところだ。




 しかし、それでも総護は、―――今も生きている(・・・・・・・)




 (―――でき、たんならぁ、今も、多分、できんだろ……っ!!)




 ならば、きっとできるはずだ。

 もとより選択肢は、他に無いのだから。




 (〜〜〜〜、っ)




 『魔力』と『気力』を融かし、曖昧になる程に混ぜて、身体の内側に巡らせていく。


 優しく、丁寧に。でも迅速に、均一に。





 (~~~、―――)





 ―――生死の狭間。


 ―――大切な人の命の危機。





 (――――――)





 ―――集中は深く、しかし最高へと達する。





 『コレならば、いける』



 そう思って総護が僅かに顔を上げると、〝結界〟を斬り裂き、殺気を放ち 詩織と陽南めがけ刃を振り上げる厳十郎が見えた。




 ―――その瞬間、




 「―――ぉ―――」




 ―――総護の内側で渦巻く何かが、爆ぜる(・・・)


 総護の意識はそこでブツリ、と一時途切れた。

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