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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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四五話︰彼、我を知らず

「――でもねぇ、あの子は『まだ足りない』って言うんだよ」





 詩織と陽南はついさっき、その言葉を本人から聞いていた。

 だからそれ程驚かなかったが、周囲の反応は当然ながら違う。


「……『足りない』ですって?」


魔煙王妃マーシー・シャーマイン】の声は、驚きよりも困惑が勝っていた。


「そうだよ」

「冗談でしょ? 魔術師としての【正体不明(アンノウン)】は既に一流よ、断言するわ。それは戦士としても同じではないのかしら。ねぇ、【龍殺者(ドラゴンスレイヤー)】?」


 マーシーの言葉通り、大抵の魔術師など比べられない程の『知識』と『魔力』を最上総護は有している。


「仰る通りです、王妃。総護君は戦士としても一流ですよ」

「そうで無いのなら、ジュニアは去年の『聖女ちゃんの件』を解決できてはいないでしょうね」


 誠一や剛からしても並の戦士など及ばぬ程の『経験』と『技術』を最上総護は身に付けている。



 ――しかし、それでも『足りない』と少年は言う。



「……鳴子。総護君は自己評価が異常な程に、低すぎませんか(・・・・・・・)?」


『世界魔術連盟』の全権を握る【(ユラン)】は、現状の総護の状態をそう結論づけた。


 ――そして、その結論はいたって正しい。


「ええ、あの子の自己評価は考えられないくらい低いよ」


 ――事実、最上総護の中では自身が『強い』などという認識は限りなく希薄だ。


「そ、そんなこと有り得るの? だって去年【正体不明アンノウン】は『大王級』の悪魔を討伐しているのよ?」

「『【穿弓(せんきゅう)】の援護があったから』、『《星鍵(せいけん)》が応えてくれたから』、『相手に油断があったから』。それがあの子の中の成功した理由じゃないかしらねぇ」

「……どうして、そんな解釈になるのっ!?」


【正体不明】としてではあるが、総護が達成したのは間違いなく『英雄』と万人から称えられる――大偉業である。


 例え援護射撃があろうとも、

 例え星鍵(神器)が応えようとも、

 ――相対し、打ち勝ったのは総護なのだ。


 マーシーが頭を抱えるのも当然だった。

 もう、自己評価が『低い』という次元ではない。もはや『歪んでいる』といっても誤りではない状態だ。


「どうして、そんなことになってい――」

「――ねぇ。どれだけ強くなれば、大切な人を守り切れると思う?」


 鳴子はその場にいる全員へ問いかけた。


「どんな存在、どんな理不尽が相手でも大切な人を守るためには――どれだけ『強く』なればいいと思う?」


 それは、かつて厳十郎が鳴子へと向けたものと同じ内容。



「な、鳴子? 何を言って――っ!?」

「っ、まさか!?」

「……ジュニア」

「そ、んな……っ」

(全然話についていけんわっ)

(ピー助、総君は大丈夫なの!?)

(もう、信じるしかないッスよぅ)


 分るモノ達にとって答えなど、たった一つしか考えられなかった。


「――もしかして総護君は【世界最強(ゲン)】を目標にしているんですかっ!?」


 そう、――頂点であるならば、阻めるモノなどいるはずも無いのだから。


「直接本人から聞いたわけじゃないから、分らないけどねぇ。でも、きっと似たようなもの(・・・・・・・)だと思うよ。だってあの子は――」


 再び鳴子の視線が戦地へと向けられる。


「――『大切な人』を『絶対に護れる強さ』を求めてるんだから」


 それは果てしなく遠く、険しい道だ。


 大抵の人間はその道を歩む事を諦めるだろう。もし進むと決めた人間がいたとしても、おそらく途中で折れ、挫け、やはり諦めるであろう。


 しかし、総護は違った。

 幼いながらも歩むと決め、命懸けの道を一〇年間もひたすら進み続けてきたのだ。


(本当に、『強く』なったよ)


 幼い総護は寂しがり屋で、甘えん坊で、他人の痛みですら自分の事の様に感じてしまう程に感受性が強く、そして優しかった。

 かつて父親である慎護が行方不明――総護は死んだと思っていた――になった時、それらが悪化(・・)してしまった。


 誰かが傷付くなら――『自分が代りに傷付つけばいい』と考える様になってしまった。

 誰かを失う事を、病的に恐れる様になってしまった。




「……でもやっぱり、それは総護ちゃんが代わりに傷付いてもいい理由にはならないんだよ?」




 とても小さな鳴子の言葉は誰の耳にも届かず、風に散っていく。


「……総護君が『強く』なりたい理由は、分りました。ですがそれは、総護君の『自己評価』が低い理由にはなりませんよね?」


 総護の『目的』は理解した。その『目的』に到達する為に必要な『手段』も含めて。

 だが、ユランの中ではどうしても総護の『認識の歪み』に鳴子の語った内容では繋がらなかった。


「なるよ。だってお爺さんが見据えてるのも『遙か先』だからねぇ」


 厳十郎が見ているのは、彼方の先に在る可能性(・・・)


「最初から『お前は弱い』、『まだまだだ』、『そんなんじゃあスタートラインにすら立てねぇぞぉ』って口癖みたいにずぅっと言ってるからねぇ」

「――ほとんど『刷り込み』じゃないですかそれ!?」



『――厳十郎(師匠)そう(・・)言うのなら、そう(・・)なのだろう』



 ユランの言う通り、一〇年間絶えず言われ続けた事で総護は自身が『弱い』と思いこんでいた(・・・・・・・)


 そして幸か不幸か、総護が出会うのは『怪物』じみた実力者ばかり。

 総護の『自己評価』が低いのはある意味仕方の無いことだった。


「辿り着けると思ってるんですか……?」


 誠一の口から反射的に疑問が零れた。


「そうでないのなら、こんな『昇格試験(巫山戯たこと)』を続けてない――」


 鳴子の言葉を遮る様に、




「《墜ちるは灼刃(しろ)、昇るは赫炎(あか)。共に天上天下を染め上げよう》」




 ――声が聞こえた。




「《喰い千切れ焦熱(キバ)、噛み砕け劫火(アギト)。此処に最期を彩ろう》」




 ――波打つ様に広がる、言霊の波紋。




「《忘却の水底より浮かぶ古き約定》」




 ――紛れもない魔力の猛り。




「《来たるは審判者、天と地を統べし選定者》」




 ――それは、紛れもない魔術の詠唱。




「《慈悲無き者は、全てを永劫の無へと誘うだろう》」




「これはまた、凄まじい魔術を編み出しましたね……っ!!」


 ――【魔女】の閉じられた『魔眼()』に流れ込む強烈なイメージ。同時に視えるのは、もうすぐ訪れるであろう可能性(未来)




「《絶望せよ、輪廻(イノチ)の環は砕けて消える》」




「ナルコッ、ユランッ、急いでこの〝結界〟の補強をするわよっ。このままじゃ保たないわ!! ああもうっ!! つまり全部ゲンのせいね!? このレベルの大魔術(・・・)が行使できて『弱い』訳がないでしょうに!!」


 ――ゴロゴロと唸る黒雲が集い始め、チリチリと気温が上昇し火の粉が舞い上がる。

 ――【魔煙王妃】が焦るのも無理は無い。体外――つまり周辺に存在する魔力すら巻き込み、己の魔術の糧としているのだから。

 ――それも【龍殺者】の、強大な力の残滓も含めて。




「《此処は運命(サダメ)の収束地》」




「……マジかよ」


 ――【龍殺者】の脳裏に過ぎるかつての光景。




「《諍う者(英雄)よ、その存在(イノチ)を賭すがいい》」




「これは……っ!?」


 ――今でも鮮明に思い出せる、〝異界〟での死闘。




「《さぁ、終焉(オワリ)を始めよう》」




 ――これは有り得たかもしれない、景色。




「――〝厄龍再臨・(ワールドエンド・)天地塵灰の破滅あれファイナル・グローリー〟」




 ――有り得たかもしれない、終焉が顕現する。

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