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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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四二話︰予期せぬ邂逅

 

「よぅ、元気そうだなぁ馬鹿弟子ぃ」

「――この状態が『元気』に見えてんなら、医者に脳味噌見てもらえやクソ師匠」


 いささか物騒な単語をサラッと無視した老爺――最上厳十郎の言葉に対し、総護の返答は辛辣だった。それが皮肉だという事が分かりきっているからだ。


「なんだぁ、やっぱり元気じゃねぇかよ」


 しかし、総護の吐く毒も何処吹く風。厳十郎は全く気にした様子もない。


「ま、んなこたぁどぅだっていいからよぉ」


 それから詩織と陽南の方へ一瞬だ目を向けると、


「――やる気があんならぁ、さっさと『挨拶』済ませてこいやぁ」


 そう、何気なしに告げる。


「……わ――」

「――ゲン、本気ですかっ!?」


 総護が口を開けたその時、焦った様なユランの声が響く。


「ちょっとユラン、急にどうしたのよ?」


 余裕のある雰囲気だったマーシーが少し驚いているところを見ると、どうやらユランが大きな声で喋るのは珍しいのだと思われる。


「そ、そう言えば貴女はあの場(・・・)にいませんでしたね、――そんな話をしている場合ではなくてっ」


 誰が見ても、今のユランは冷静では無かった。驚愕と困惑が、確かに感じられる。


 ――それは、ユランがこれから始まる内容を知っているからだ。


 この場で内容を知っているのはユラン、鳴子、ピー助。そして、厳十郎と総護(当事者の二人)のみ。


「貴方は本気で――」

「――儂ぁ別に『強制』なんざぁ、してねぇぜ?」


 詰め寄る様な勢いのユランを、今度は厳十郎が遮る。聞き分けのない幼子を諭す様な、そんな声だ。


「馬鹿弟子が『どうするか』なんざぁ、儂らが決める事じゃあねぇだろぅ?」

「っ、で、ですが、今回はそういう問題ではないでしょう!?」


 しかし、ユランも引く気は無いようだ。


「――はぁ。いいっスよ、ユランさん。突然なのは、まぁ、いつもの事っスから」


 平行線の会話が続くかと思われたが、ため息混じりの声がユランの耳に届く。


「『常在戦場』ってなぁ昔っから言われてるんで、今回もそういうことなんスよ。それに『いつも準備万端で戦える』とか、俺も思ってねぇんで」


 その声は、彼女の予想に反し落ち着いていた。


「そ、総護君? もっとよく考えて下さいっ!!」

「考えましたって」

「その割に反応があっさりし過ぎていませんか!?」

「だから『突然なのはいつもの事』って言ってんじゃないっスか。この程度で揺らぐ精神力してたら身が持たねぇっスよ。それに――」


 ユランを見据え、総護は己の覚悟を言葉に乗せる。




「――『強くなれる』んなら、俺はなんだってやってやりますよ」




 その言葉を聞いて、ユランは口を噤む。


(……ああ。この子も(・・・・)、もう、止まらないんですね)


 ――総護の覚悟に、懐かしい姿が重なってしまったのだから。


「『内容』は?」


 ユランが黙った事を合意と取った総護は、厳十郎へと視線を向ける。


「いつも通りだぁ。ただし、そのままの状(・・・・・・)態でこいやぁ(・・・・・・)

「……りょーかい」

「それから、この儂を越えたんならぁ『最上流』を名乗っていいぜぇ。あとおめぇを『半人前』と認めてやらぁ」

「俺的にゃクソどーでもいいんだけどよぉ」

「カカカカ。越えれりゃあ(・・・・・・)、儂に感謝してるだろぅぜぇ。断言してやらぁ」

「っは、そりゃ楽しみなこった」


 不敵に笑った総護はクルリとその身を反転させる。


「――んじゃ、ちと待っとけクソ師匠」


 そう言って会話を切り上げると、次いで鳴子を呼ぶ。


「婆ちゃん」

「………わかってるよ」


 総護に促された鳴子は少し離れた位置に、半透明で半球状の〝結界〟を生み出す。


「いつも通り大丈夫だっつーの」


 このやり取りも恒例になってしまっていた。


「……そうだねぇ。怪我、治してあげるから、ちゃんと帰っておいで(・・・・・・)?」


 心配や不安を隠し切れていない、悲しげな笑みを浮かべる祖母。


 少しだけ痛む胸の内に気付かぬふりをしながら、気休めだと思いつつ総護はいつも通りの言葉を返す。


「ああ、最善は尽くすからよ」


 それから総護は、新たに生み出した〝結界〟へと歩き出す。


「つーわけで。詩織、陽南。ちょっとついてきてくんね?」








「「え?」」

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