三九話:【龍殺者】VS【正体不明】(上)
――【竜殺し】
それは古今東西、『神話』や『伝説』などで語り継がれる英雄。
八岐大蛇を討ったスサノオ。
ラードーンを斃したヘラクレス。
ファフニールを仕留めたジークフリート。
――【竜殺し】
人類よりも遥かに強大な力を持つドラゴンに立ち向かい、打ち倒した者に与えられる称号。
だが、木乃町剛と幸原誠一は【龍殺者】
そう、竜ではなく、【龍】
英名では共に『ドラゴン』だが、示す意味は全く違う。
――【竜】とは幻想の一種。
それは強大な魔力を持ち、硬い鱗や巨大な体躯を有し、人が討伐できる可能性がある存在を示す。
――【龍】とは、ある種の異常。
この世の理に当てはまらない存在。ただそこにいるだけで世界を歪めかねない程の規格外。
超弩級異常個体――識別名【炎峰龍】
――『炎嶽を背負う巨亀』
日本が誇る霊峰『富士』と同程度の大きさを誇った、亀の様な姿。
獄炎を背負い、火の海を往く、炎熱地獄の主。
討伐者――幸原誠一。
超弩級異常個体――識別名【界雷龍】
――『雷霆を秘めし大海月』
満月の様な球形の巨体、半透明な白い体色、下部から生える大量の雷電の触手。
万雷を従え、天を進む、狂い啼く雷帝。
討伐者――木乃町剛。
二人を知る者達は口を揃えて、その偉業を讃える。
壮絶なる死闘。
――曰く、世界を救った者。
〝異界〟での血戦。
――曰く、厄災を払いし者。
支援はあれど、挑むはただ一人。
――曰く、神話の再来。
だからこそ、人々は讃える。
『――彼らこそ極東の【龍殺者】』
――それは人類史における最新の【英雄】だと、讃えるのだ。
**********
「――だから、二人のお父さんはホンモノの【大英雄】なんスよ」
「分かったっスか?」とこちらを見るピー助。
「「―――」」
だが、詩織も陽南もすぐには言葉が出てこない。
『普通では無い』という事はさっきの光景から何となく分かっていた、つもりだった。
しかし、スケールが違った。桁外れだ。
――英雄?
――世界を救った?
――神話の再来?
そんな事、想像できるわけがなかった。
「じゃ、じゃあ、お父さん達の『異能』は、もしかして……」
「そうっス、異能――〝龍殺の栄冠〟は《勝者の証》なんスよ」
ピー助の言葉に詩織の目が驚愕に染まる。創作に疎い陽南ですら意味を理解できた。
なるほど、誠一と剛が強いのは分かった。
当然だ、『龍殺し』など超人の偉業。その強さは疑える様なものでは無い。
ならば、だ。
――その二人の【龍殺者】を同時に相手取り、善戦している総護は一体何者なのか?
詩織と陽南がその疑問に思い至るのとほぼ同時、彼女達の視界の先で誠一と剛が吹き飛んだ。
**********
ピー助が詩織と陽南に説明を開始した時、既に激しい攻防が始まっていた。
高速で迫り来る剛拳を寸のところで躱し、蹴撃をもって牽制。
その蹴りの勢いを利用して背後から襲い来る掌底を払い除け、すかさず距離を取る。
しかし読まれていたのか数メートルの距離などすぐに消失し、襲来する拳と掌。
彼我の実力が遠く離れているため、それらだけでも十二分に脅威足り得る。
――しかもその上、『雷』と『炎』を纏っているのだからタチが悪い。
(手加減あってコレかよっ!?)
『両腕のみ使用』
恐らくそれが今回の一戦での【龍殺者】たる二人の縛りなのだろう。
この数分間で総護はそう結論付けた。
――もっとも、総護からすれば『手加減とは?』という話になるのだが。
総護が今使用している障壁術式の名を――〝対龍殺防御陣〟
〝避雷〟〝耐雷〟〝絶縁〟の術式による雷耐性。
〝避火〟〝耐火〟〝断熱〟の術式による火耐性。
〝金剛〟〝衝撃減衰〟〝魔力減衰〟の術式による徒手空拳対策。
それら全ての効果を織り交ぜた術式こそが、
――Anti.
――Dragon slayer.
――Guard.
その頭文字を取って〝A・D・G〟 総護のオリジナルの魔術で、使用者の体を包む様に展開される結界魔術の一種。
名の通り対誠一、対剛を想定したものである。
魔力の消費が激しいがその分性能は高く、半端な『火』と『雷』の魔術ならば完全に防御。
大規模魔術ですら多少の衝撃を受ける程度で防ぐ代物であり、総護も自信を持っていたのだが、
腕で払えば腕が焼け、
躱したところで感電し、
(クソッタレがっ、ふざけんなよ!! 防御が紙じゃねぇか!?)
――自信など戦闘再開後、早々に木端微塵となった。
何故なら総護は現時点で『対炎』『対雷』において〝A・D・G〟以上の性能の防御魔術を作製できていない。
効果が薄い――つまり防御など、もはや無いも同然。気休め程度の、文字通り『紙防御』となっていた。
「――考え事とはな。余裕か?」
「ふーん。じゃあ、ちょっと火力を上げるね」
(はぁ!? ふざけ――)
――噴火する直前の火口、或いは雷が落ちる数秒前の雷雲の真下。
総護が感じたのは、リアルで強烈な『死』のイメージ。
「―――っ!!」
――〝身体強化・流烈〟
瞬間、総護はなりふり構わず全力をもって後方へと飛んだ。
「……殺す気っスか?」
着地し立ち上がると同時に怒気を含んだ疑問が放たれる。
総護が怒るのも当然だ。
もし判断が遅れていれば――『人型の炭』が出来上がっていたのだから。
「なに、【正体不明】なら問題無いだろ?」
「今のままなら、可能性はあるけどね」
〝強化〟された聴覚は誠一と剛の言葉を正確に捉える。
総護の怒気も何処吹く風といった様に、誠一と剛は一切悪びれた様子も無い。
――ビキッ。
(ああ、そうかよ)
なんせ――『覚悟を示せ』と言われ、伝えた決意を足りぬと一蹴され。
挙句――『加減する』と言ったくせに、殺されかけ。
――流石に総護も、頭にきた。
「そっスか」
短い返答。だが、この瞬間方針は定まった。
実力の差は明白。
しかし、加減――本人達曰く――ありきのこの状況、『勝つ』事はできなくとも『痛手』を負わせる事はできるはずだ。
ならば、
(イテェの一発入れてやらぁ……!!)
――一泡吹かせてみせよう。
「――っ、ほう」
「――へぇ」
挑戦と意趣返しの意味を込め放たれた殺気は、誠一と剛をもってして侮れない鋭さを秘めていた。
――彼我の距離、約一六メートル余り。
誠一と剛との距離をざっと把握した総護は〝A・D・G〟を解除し、
「ッ!!」
――〝身体強化・流烈〟
――〝風の子の悪戯〟
一歩で地面を割り砕き、
二歩で景色を置き去りに、
空気抵抗を消し去った総護は、超速で突き進む。
(――疾いな)
姿が霞む速度で総護が接近してくる。その疾さは剛から見ても一級品だ。
しかし、ただ疾いだけ。無闇に突っ込んで来ても、剛と誠一なら十分対応できる。
何より総護は今、武器を持っていない。蹴りでも拳でも今の剛と誠一には届かない。触れる前に強大過ぎる『熱』と『電流』によって焼け焦げ、崩れ去るだけだ。
(どうする、ジュニア?)
そんな剛の疑問はすぐに解消される。
「――ラァ!!」
総護は勢いを損なうこと無く、両手に持つ二振りの剣で滑る様に左右の首をめがけ同時に斬りかかったからだ。
――〝錬成・土剣〟
――〝物体強化〟
直前まで存在していなかった土の双剣。それも鋼鉄を凌駕する超硬度まで〝強化〟された剣だ。
しかし、その程度では誠一と剛は揺らがない。
『雷拳』で粉砕、『炎掌』で消滅。
次いで総護を挟撃が襲う。
〝土剣〟を振り切った総護は致命的な隙を晒している。つまり回避は、不可能。直撃は、必須。
そんな致死の挟撃を前に、総護は嗤う。
(避けれねぇなら、反しゃいい)
――〝A・D・G〟
――〝反射・倍加〟
直撃する寸前、『炎掌』と『雷拳』の前に円形の魔法陣が展開。
魔法陣に触れた『炎』と『衝撃』が、『雷』と『衝撃』がその凶悪な威力を倍加、反転。
「ぬおっ!?」
「っぐぅ!?」
結果として、誠一と剛は凄まじい速度で総護から吹き飛ばされていった。
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