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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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三話:舎弟


 七月一三日午前五時四四分。


 「朝稽古お疲れさまッス、アニキ」


 怪我の治療が終わり鳴子の部屋を出た総護はシャワーを浴びて新しいパンツと半袖のシャツに着替えてから自分の部屋へと向かう。ドアを開け自分の部屋に入るとそこには今ではすっかり見慣れた『緑色の毛玉』が机の上にいた。


 「なんだ『ピー助』起きてたのかよ」

 「今日は朝早くに目が覚めたんスよ。アニキが戻ってくるまで時間があったんで片付けとか学校に行く準備とか終わらせといたッス」


 部屋の中を見渡してみると起きてそのままにしてあったはずの布団は綺麗に畳まれ、その上に黒い学ランとズボンがこれまた綺麗に畳んで置いてある。また机の上に目を向ければ今朝総護が見た時は何も入っていなかった青いリュックサックが少し膨らんでいる。


 「マジか、サンキュー。さっすが俺の〝舎弟〟マジ頼りになるぜ」

 「そ、そんなに褒められるとオイラ照れるッスよ~」


 ナハハハハ、と照れ臭そうに笑っているのは総護の舎弟『ピー助』。

 特徴を挙げるならば、手のひらサイズの丸い体。体全体を覆う手触りの良いフサフサで緑色の毛。そしてつぶらな瞳。

 動かなければ可愛らしいヌイグルミと見間違えられそうなピー助だが、もちろんヌイグルミではない。


 その正体は〝精霊〟―――――人間などの動物とは根本的に違う存在。


 総護がピー助と出会ったのは今から約八年前、七歳の秋の頃。



 **********



 学校から帰った総護は鍛錬のため家からさほど離れていない山の中を一人走っていた。

 木の根や枝、石や木を避けながら走っている総護の視界の端で一瞬何かが光った。


 「………なんだろ?なんか光った?」


 面白いものがあるかもしれないと思った総護は何かが光った方向へと歩いてみることにした。

 五分ほど歩いただろうか、総護は木々が少ない拓けた場所にたどり着いた。そこには不法投棄されたであろう壊れたテレビや電子レンジなどの家電製品が山積みになっていた。

 その近くでは二匹の野良猫が緑色の小さなボールでじゃれ合っていてるが、それ以外は特に変わったことはない。


 「な~んだ、テレビとかが夕陽を反射して光っただけか~」


 期待外れの結果にガッカリした総護がまた走りだそうと来た道への一歩目を踏み出したその時、総護のすぐ近くで強烈な光が発生した。

 たまたま光に対して背を向ける格好になっていた総護はなんともなかったが、近くでじゃれ合っていた野良猫達はたまったものではなかっただろう。よほど驚いたのか「「ニギャアッ!!」」と叫び声を上げ一目散に逃げていった。


 光ったということは何かがある・・・・・ということ。総護は期待の眼差しで周囲を見回すが、特に変化は見られない。

 

 「一体何が光ったん―――」

 『……あ…うぐぅ。た……い』


 突然声が聞こえた。総護は瞬時に意識を警戒態勢へと切り替え周囲の気配を探る。だが先程と同様に自身の周りに人の気配は無い。


 「―――ッ!?だ、誰かいるの!?」

 『………け、て』


 また、声が聞こえてきた。細く弱々しく、苦しみに呻く声。今にも消えてしまいそうな声が。

 いや、『声が聞こえた』というよりは『思いが伝わってきた』というのが正しいのだろう、この時点で総護は周囲への警戒レベルを一段階引き上げた。


 「ねえっ!!返事して、どこにいるの!?」


 普通の人間や動物には『思考を相手に直接伝える能力』―――いわゆる『テレパシー』などの超常の力は使えない。つまり今総護の周囲には普通ではないなにか・・・がいる。

 そして相手がどんな存在であろうともテレパシーだけしか使えないと決まったわけではない。つまりテレパシー以外の『能力』も使えると考えた方がいいだろう。

 普段の総護なら既にこの場から逃げているのだが――――今回は逃げようとしなかった。


 何故なら、


 (―――――速く見つけなきゃ手遅れになる)


 総護自身の直感がそう告げていた。


 『こ、こ』

 「ここ?近くにいるの!?ちょっとそこから動か――――あだっ!?」


 とりあえず近くから探してみよう、と走り出した総護だったが数歩踏み出したところで何かに躓いて転んでしまった。


 「くっそ、さっきの猫が遊んでたボールか……!?」


 恨めしそうにボールを睨んだ総護はあることに気がついた。


 ボールが動いていないことに。

 そう、総護の足が当たった・・・・・・のにもかかわらずその場から微動だにしていないのだ。そもそもボールに躓くこと自体がおかしい。けして大きくはないのだから足で蹴れば飛んでいのが普通だ。ボールに躓くなんてことはまずあり得ない。


 (もしかしてこのボールが?)


 『はぁ………はぁ。た………す、け……て』

 

 今度は声と同時に、勝手にボールが動いた。身をよじるように。


 声の主を見つけた総護はすぐさま両手でボール―――のような何か―――を拾い上げた。自分が躓いたとは思えないほどに軽かったことに違和感を感じるが、そんなことを考えている時間はどうやらないようだった。

 緑色の体は傷だらけで淡い緑色の光が血のように溢れている。その上徐々に――――


 「――――ちょっ、体透けてね!?」


 すぐに総護は落とさぬように両手でしっかりと、だが力を入れすぎないように細心の注意を払いながら家へと全力で駆けだした。

 超常の存在を理解し、なおかつ癒やせる鳴子の元へと。



 **********


 「あの傷だらけで何もできなかったピー助がこんなに立派に成長するなんてなぁ、アニキは嬉しいぞ」

 「アニキの舎弟になってもう七、八年ぐらいは経ってるんスからこのぐらいはとーぜんッスよ」


 ニヤニヤとわざとらしい総護の褒め言葉に対して机の上でドヤ顔をキメるピー助。ふざけて笑い合う二人の間には確かな信頼と絆が感じらた。


 「そんな舎弟にご褒美をあげるのもアニキの務めってヤツだよなぁ。ピー助、爺ちゃんが持ってる日本酒の中から好きなのコップ一杯だけ今日の晩メシの時に飲んでいいぜ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 「マジッスか!?アニキ、オイラはこれからも一生アニキの舎弟でいるッスうううぅぅ!!ジュルリ…おっと涎が」


 ピー助の表情が歪んだ。瞳はキラキラと輝きこれでもかというほど見開かれている。口にいたっては半開きになっており端はらは涎が流れている。

 もちろん嬉しさと喜びではあるのだろうが、ちょっと他人には見せられない顔になってしまっている。


 「ウヒ、ヒ、ヒヒヒヒ。今日はいい一日になりそうッス。フヒ」

 「オイその顔と笑うのやめろ、気持ち悪ぃし気持ち悪ぃ」

 「ちょっ、二回も言うのはヒドくないッスか!?」

 「事実だから仕方ねぇだろ。いくら嬉しかろうがその顔と笑い声はダメだろ」

 「……ちょっとぐらい喜んだっていいじゃないッスか。でも勝手に貰っちゃっていいんスか?もしバレたら厳さんに絶対しばかれるッスよ」


 総護の冷たい視線に耐えかねたのか渋々話題を変えたピー助は、ふと思った疑問をぶつけてみることにしたのだが。


 「ハァ、何で勝手に盗る前提なんだよ。きちんと頼むに決まってんだろうが。じゃねぇとマママママジでここ殺されるわ」

 「そそうッスよね、な、何事にもじゅじゅ順序があるッスもんね」


 答えている最中に昔のことトラウマを思い出したのか少し震える二人であった。


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