三八話︰知っている
「それで? 総君に襲いかかった理由を説明して欲しいんだけど?」
「ウチもそれ、聞きたいかなぁ」
詩織と陽南によるお説教が終わったのは、時計が無いため正確な時間は定かではないが、だいたい二〇分後ぐらいだろうか。
「……ああ」
「そう、だね……」
誠一と剛はかなり疲れた様子だったが、服をはたきながら立ち上がると普段と変わらない姿があった。
「『理由』はね、簡単に言えば君達の為だよ。もちろん総護君も含めてだけどね」
詩織と陽南と、そして総護の為だと誠一は言う。
「全然説明になってないんだけど?」
その言葉を詩織はバッサリ、切って落とした。
「っ、詩織ちゃん、ちょっと僕に厳しくない?」
「そんなことないわ、ただ思った事を言っただけよ。だからもっと詳しく説明して、ね?」
「――ア、ハイ」
素で気圧される誠一。まだ詩織の怒りは収まっていなかった様だ。
「といっても、他に言い方が思いつかないんだよな。それに口で説明した所で理解しづらいと思うぞ、主にジュニアがな」
「……『理解しづらい』? 『総ちゃんが』?」
剛の言葉に陽南は首を傾げる。
「ああ。アレはだいぶ重症だからな」
そう言って剛は総護へと視線を向ける。
「……『重症』って、なに勝手に人を病人扱いしてんスか。つか病人なら丁寧に接して下さいよ」
その視線に対して、総護は皮肉気味に答える。
「え、アニキどっか病気なんすか!?」
「バカ野郎、健康体に決まってんだろぅが。それとも病気に見えるか?」
「全然見えないッス!!」
それからピー助と喋りながら総護が四人へと近ずいてくる。
「……火傷も治ったみたいだし、休憩はこの辺で終わりにしようか」
「準備運動もな」
その言葉通り、詩織や陽南から見ても総護の肉体から火傷の痕が綺麗に消えていた。
しかし、
「待って、まだ続けるつもりだ!?」
「そうだが?」
続く言葉は陽南と詩織が納得できるものではなかった様だ。
「このまま放置する訳にもいかないからね。それに言っても伝わらないなら、ちょっと乱暴になっても仕方ないと思うんだけど」
「だから、どこが『ちょっと』なのよ!? さっきも『火属性』と『雷属性』の魔術使ってたじゃない!!」
そう、詩織や陽南から見れば『ちょっと』どころではない。というか、彼女達以外が見ても同じ感想になるだろう。
「あ〜、今更なんだけど、君達驚かないの? 自分で言うのもなんだけど、僕ら常識突き破ってるんだけど」
「ジュニアからなんか聞いたか?」
本当に、もの凄く今更な疑問が誠一と剛の口から漏れた。
「そうよ!! というか、見て分からないの!? 私、超興奮してるんだけど!? 今すぐ詳しい説明を求めたいぐらいなんだけど!?」
「多少はね〜。ウチはまだ現実感がないわ〜、アハハハ……」
興奮する娘と苦笑いする娘。どちらも分かりやすい回答だ。
だが、自身の常識外の出来事に対する『一般的』な反応では無い。
得体の知れない存在。
自身の常識の埒外にある現象。
それらに対しておおよその人間は、個人の差異はあれ『恐怖』を感じる。
分からないから、怖い。知らないから、怖い。普通じゃないから、怖い。
そう感じるのが『一般的』だ。
二人は誠一と剛の『異能』について何も分からず、何も知らない。
が、まったく『恐怖』を感じていない。
(『怖がってない』のは、一回経験しちゃったから、かな?)
(……だろうな。まぁ俺らは殺気をジュニアにしか向けてないから、怖くないのはある意味当たり前なんだが)
そう、つい最近の事。詩織も陽南も体験している。
殺気を、狂気を、痛みを、彼女達は身をもって知ってしまった。
――誠一にも剛にも油断があった。
日の当たらぬ世界では知らぬ者がいない程に、二人の名前は有名だ。
逸話も、武力も桁外れだと断言出来る。その上に【世界最強】も近くに住んでいる。
実際に今まで家族にちょっかいを出そうとする輩など一人もいなかった。
当然だ、何を仕掛るにもリスクが大きすぎる。どのような結果になるかなど、火を見るより明らかだ。
――だから、油断していた。これからも何事も無く過ぎていくものだと、思っていた。
まさか――『何も知らない【不死】が偶然自分の娘を襲う』など想像すらしていなかった。
「……さっきのは『異能』って言ってね、詳しくはピー助君から聞くといいよ」
「そうだな。頼めるか?」
「っえ!? え〜っと〜。別にいいっス、けどぉ」
突然名前を呼ばれたピー助は、困った様な視線を総護へと向ける。
「そんなに心配すんなって。それより、コッチは任せたぜ?」
「……ウッス、任されたっス」
「おう」
総護と短いやり取りを交わしたピー助はフヨフヨと少女達の方へと飛んで行った。
「ほらほ、二人とも〝結界〟に入った方がいいッスよ? 巻き込まれちゃうっス」
「ひゃっ、ピー助、くすぐったいがん」
「ちょっと、まだ話は終わって、ないんだけ――ちょ、ワサワサしないでよっ」
そしてピー助は背中から蔓を伸ばし、詩織と陽南を押して〝結界〟の中へと入って行った。
「それじゃあ、再開しようか?」
「……はい」
総護が一枚の『札』を取り出すのとほぼ同時に、再び『火炎』と『紫電』が撒き散らされた。
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「……それじゃあ、説明してくれる?」
「そ、そんなに、睨まないで欲しいっスぅ」
詩織の視線にたじろぐピー助だったが、すぐに気を取り直して詩織と陽南の方を向く。
「任されたからにはちゃんと答えるっスよ!!」
「じゃあウチからね。とりあえず、なんでパパ達はそーちゃんに襲いかかっとるだ?」
「そ、それは〜」
「『それは』?」
それなりに自信満々だったピー助だが、
「――わ、分かんないっス」
「ダメだがんっ」
初手からダメ出しをくらってしまう。
「オイラだってなんでこうなってるのか分かんないっス!! でもきっと意味がある、と思うっス」
「『意味』って、どういうこと?」
「それは分かんないっスけど、でも誠一さんも剛さんも意味も無く手を出す人間じゃないっス」
ピー助が知る限り、誠一も剛も常識人だ。
だからこそ、『この状況』には何か意味があると思っている。
「……やっぱり『娘が欲しければ俺を超えていけ』ってことなのかしら?」
詩織が頭を抱えた様にため息をつく。
「え〜っと、つまり?」
「つまり、親の我儘じゃない? 『俺より弱い奴に娘は任せられん』とかね」
「いや〜それも無いことは無いと思うんスけど……」
親として、確かにそれもあるだろう。
しかし、しかしだ。
それだけならば、誠一も剛も知っているはずだ。
知らない訳が無いのだ。
「――二人が想像してるよりず〜っと、ずぅうっっっっと、アニキはめっちゃくちゃ『強い』っスよ?」
ピー助は知っている。
――【正体不明】と呼ばれる頼れる兄貴の渇望を、信念を。
「だって、誠一さんと剛さんは【龍殺者】――龍殺しの大英雄っス!!」
ピー助は知っている。
――総護の強さを、成した偉業の大きさを。例え今は誠一と剛に勝らなくとも、弱くも小さくもない事を。
(アニキ、頑張るっスよ!!)
「「『ドラゴンスレイヤー』!?」」
詩織と陽南が驚くのを横目に、ピー助は心からの声援を送るのだった。
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