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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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三七話:有無を言わさず

 

「―――」

「―――」


 離れている父親達の口が動いた直後、少女達の目には父親の姿が消えた様にしか映らなかった。


 ――何、今の?


 その後で理解できたのは少年が立っていた場所が『爆発した』という事実のみ。


 続いて見えたのは『火炎』と『雷光』。


 ついでに、土煙でよく分からないが『うおっ!?』とか『あっつぁい!?』などの奇声も聞こえてくる。


 ――何、これ?


「ど、ドラゴン・ギフトォオオオオッ!?」


 ピー助の驚いた様な声と、周囲を囲む〝結界〟が揺れる振動で少女達の思考が現実に引き戻される。


「え、『ドラゴ――」

「―――や、ヤバイッス!! これはヤバすぎるっスよぉおおおお!!」


 尋常ではないほど焦り、驚くピー助。


 詩織の好奇心に輝く瞳など、完全に気が付いていない。


 確かに普段から騒がしいピー助ではあったが、ここまでのピー助を詩織と陽南が今まで見た事がなかった。


「お、オイラ、ちょっと家に帰って来るっス!!」

「ちょっ、ピー助!?」


 そのままピー助は背中側から蔦を伸ばして〝結界〟に触れると、光と共に消えてしまう。


「……消えちゃった」


 〝結界〟の内側に取り残された陽南の口からそんな言葉が漏れる。


 その直後、〝結界〟が揺れた。


 今度は、ハッキリと見えた。


 猛炎を纏う誠一(お父さん)の姿が。

 紫電を纏う(パパ)の姿が。


「あ、総ちゃん」

「……総君」


 そして、その二人を相手に服をボロボロにしながらも立ち向かっている総護の姿が、見えた。

 服も燃えたり千切れたりして、両腕の部分などは殆ど焼失していた。


 また〝結界〟が揺れる。同時に三人姿が土煙で見えなくなってしまった。


 続く『雷鳴』、響く『爆音』、奔る『衝撃』。


 その『衝撃』だけでも〝結界〟がなければ詩織と陽南などとうに吹き飛ばされている程のものだった。


「……すごいね〜」

「超凄いわね」


 自分達の常識が音を立てて崩れていく気がする。というか現在進行形で崩れている。


「落ち着いとるね」

「三周ぐらい回って冷静になったわ」

「そっかぁ」

「陽南ちゃんも冷静じゃない」

「……ウチはついていけとらんだけだわ。でも――」

「『でも』?」

「これは……ねぇ?」

「そうね、これは――」


 二人は同時に口を動かす。








「「――絶対に『ちょっと』じゃない『わね』『がん』」」








 怒りを滲ませた、至極当たり前の感想だった。


 親として総護に話す事があるのは、分かる。

 そのコミュニケーション方法が――超常混じりの肉体言語でなければ、だが。


「総ちゃん、何て答えただぁか?」

「それは分からないけど、お父さん達が納得できなかったのは分かったわ」


 つい先ほどの事。


『大丈夫、ちょっと総護君に聞きたい事があるだけだから』

『ジュニアがちゃんとしてれば、何もないさ。ちゃんとしてれば、な?』


 誠一と剛はそう言いながら歩いて行ったのだ。この現状から考えられるのは、総護の答えが彼らの意に沿わないものだったらしいという事だけ。


「総ちゃん、大丈夫、だよね?」

「さ、流石に大怪我させるとかはない――」


 ドゴォオオン、という轟音によって詩織の声が遮られる。どうやら〝結界〟のすぐ横になにかが着弾したようだ。


 驚いて悲鳴をあげた陽南と詩織だったが、恐る恐る土煙が晴れるのを待っていると、


「ゲホッ、ゴッホゴホゴホ。いってぇマジ痛てぇ。反則だろあんなもん、絶対ぇ俺に使うもんじゃねぇよ」


 ――ブツブツと文句を言う総護が出てきたではないか。


『大丈夫?』と声をかけようとした二人だったが、言葉に詰まってしまう。


 総護の両腕は少し赤くなっていた。軽度の火傷だという事が一目で分かる状態だ。


「………? っあ〜、酷ぇなぁオイ」


 少女達の視線に気がついた総護は、改めて自身の服へと視線を向けた。


 上着は大部分が焼け落ちて、もはや服としての用をなしてない。長ズボンも膝下までの丈になってしまっている。靴などいつの間にか消えていた。


 ――まるで『火災現場からの生還者』と言われても違和感の無い外見だ。


「つーか、もうあってもなくても変わらねぇなこりゃ」


 そう言うと、総護はさっさと上着だった部分を脱ぎ捨ててしまった。


((〜〜〜っ!? ))


 現れたのは、鍛え抜かれた無駄を感じさせない肉体。

 絞り込まれた身体はけっして細い訳ではなく、表すなら『鋼鉄の人形』。


 隙がなく、硬く、それでいて靱やか。


 弛まぬ努力の結晶がそこにはあった。


 しかし、詩織と陽南が声を出せなかった理由は他にある。


 ――傷痕があった。

 一つや二つでは無い。無数の、大きさもバラバラで数えるのが馬鹿らしくなる程の傷痕があった。


 総護の壮絶な過去を表していた。


「どした? ボケっとして?」


 ――目を、奪われていた。


 その事に気がついた少女達の頬はカッ、と赤くなる。


「あ〜。見ても気分の良いもんじゃねぇだろ、こんな身体(もん)


 二人の表情で総護は傷痕を隠していた魔術――〝変化〟――が消えていた事に気がつく。


「「そんな事ない!!」」


 総護の自虐気味な言葉を詩織と陽南は声を揃えて否定した。


「ウチは『総ちゃんすっごく頑張ったんだなぁ』くらいにしか思わんよ?」


 ――陽南は随分とふんわりとした感想だったが、純粋な尊敬を。


「ッフ、傷の数だけ『乗り越えた試練』があるのだろう? 誇る事があっても、貶す事はないさ」


 ――詩織は何故かドヤ顔を決めていたが、称賛を。


 それが率直な二人の本心だった。


「……おう、サンキュ」


 陽南と詩織の言葉で総護の表情が少し驚いた様にハッ、となる。しかしすぐに収まり、少し嬉しそうな顔になる。


(さて、どうす――)


 どうすっかな、と総護が意識を切り替えようとした時。


「――アニキッ!! よかった、間に合ったっス!!」


 〝結界〟の内部に再びピー助が帰ってきた。


 そして言うが早いか、ピー助は使い込まれた黒い小ぶりなウエストバッグを総護へと投げ渡す。


「お、流石ピー助。グットタイミング」


 総護は受け取ったウエストバッグを素早く腰へと装着する。


「あ、アニキっ」

「分かってるっつーの」


 急かす様なピー助の声。

 しかし、総護は気付いている様だった。


「ゆっくりお喋りとは恐れ入るね」

「俺らの相手なんか、余裕か?」

「……安全地帯(・・・・)にいるんスから、気ぃ抜かせて下さいよ」


 散歩でもしているかの様な足取りで誠一と剛が近付いてくる。

 が、不穏な空気に気付いて、〝結界〟付近で歩みが突然止まる。






「パ〜〜パ〜〜?」

「……お父さん?」






 陽南も詩織も笑っていた。






(……うわぁ、怒ってるねぇ)

(お、親に向ける目じゃ無いぞ、アレは)


 ただし、『氷点下に振り切った』――すぐ近くにいた総護とピー助がビビる程の――笑顔ではあったが。


「ねぇ、パパ。なに止まっちょうだ? はやこっち来ぅだわね」

「待て陽南。話せば、話せば分か――」

「――いいけんこっち来て」

「………、ハイ」


 一方は有無を言わさず呼び出され、




「ねぇ詩織ちゃ――」

「――私喋っていいなんて言ってないんだけど?」

「いや、でもこれ――」

「――お・と・う・さ・ん?」

「………、ハイ」


 一方は有無を言わさず黙らされ、そして同時に正座させられる剛と誠一。


 ――そして〝結界〟から出た陽南と詩織による、お説教が始まった。


(ピ〜〜、おっかないっスぅ)


 剛と誠一とはベクトルの違う『圧』を放つ陽南と詩織を見て、ピー助は総護の肩の上でプルプルと震え始める。


(……へぇ、あいつらあんな感じで怒るんだな)


 剛と誠一には悪いが少女達の普段とは違う一面を見る事ができて、少しだけ嬉しいと思ってしまった総護。


 『英雄』と呼ばれる彼らも、愛娘にはなかなか頭が上がらない様だ。


 なお、時折誠一と剛から『助けてくれ』といった視線が向けられるが自業自得なので気付かない風を装いつつ、総護は火傷を〝治癒〟で治しながら黙々とこの後の対策を練り続けた。

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