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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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三六話︰想定内、想定外

 

 薄い雲が空を覆い尽くしている。

 雨雲という程ではなくそのうち晴れてきそうな、そんな空模様。


 薄い灰色の下、


「さぁ、到着っス!!」


 果てしない大地(・・・・・・・)にピー助の元気な声が溶けていく。


 フワフワと空中を漂うピー助の横で、


「「―――――」」


 少女達は、ただ立ち尽くしていた。


 陽南は、常識外れの光景と体験に驚きすぎて。

 詩織は驚きと、それ以上に興奮しすぎて。


「……詩織ちゃん、コレ何て言うだ?」


 ポツリと、消え入る様に小さな声で陽南は詩織へ問う。


 果てない灰色の空と、砂と土と、渇いた風と所々に生えている雑草。

 遠くに見えるのは岩山か、はたまた巨大な岩なのか。陽南の立っている場所からは分からない。


 最上家の庭へとピー助に連れられて移動し、いきなり光に包まれたと思った矢先。


 眼前に広がる景色は――荒野と呼ばれるものになっていた。


「『異空間』、『バトルフィールド』、つまり『特殊空間』ね」


 陽南の質問にさらりと答えた詩織に陽南は少し違和感を感じる。現状はどう考えても詩織が喜びそうな状況だというのに、すごく大人しい。


 そう思って詩織へと視線を向けると、


「し、詩織ちゃん!?」


 ―――両の瞳からボロボロと大量の涙を流していた。


「……陽南、ちゃん。わ、私」


 呆れるほど広大な景色を見ながら、詩織は感極まった様に呟いた。


「生き、でで、よ、がっ、だぁ」


 その言葉を聞いた陽南は、そっとハンカチを差し出した。


(ア、アニキ達が戦い始めたら詩織さん、ぶっ倒れるんじゃないっスか?)


 これから始まる戦いを前に詩織の心配をせざるを得ないピー助だった。


 何故ならば、


(……ここ(・・)に来たって事は、絶対ちょっとした組手とかじゃすまないッスよね)


 ――この世界も含め(・・・・・・・)これから始まるのは、常識など簡単に吹き飛ぶ戦いになるはずだからだ。


 ここは〝簡易世界〟と呼ばれている。


 術式は結界を基礎(ベース)としているが、その規模と術式の複雑さは膨大かつ難解だ。

 限定的なものとはいえ、曲がりなりにも『世界』を形づくっているのだから、当然だろう。


 だが、そんな代物を創り出せる存在は人の範疇を(・・・・・)超えている(・・・・・)


「……昼の荒野、か。まさしく『神の御業』だな」

「実際に『元』神様だからね、鳴子さんは」


 背後から、彼女達の父親が現れる。


 いつの間に着替えたのか、サンダルを履いた誠一と剛の服装は稽古で使用するものになっていた。


「なんだ、意外と驚いてな……大丈夫か詩織ちゃん?」

「グズ、だいじょぶ、でず」

「はぁ、鼻水まで出てるよ。ほらハンカチもグチャグチャじゃないか、ティッシュあげるからこっちおいで」

「ありがど、おどう、ざん」


 色々な液体が溢れている詩織の顔を見て心配する剛と、懐からポケットティッシュを取り出す誠一。


「……コレ陽南ちゃんのハンカチじゃないか。ごめんね、後で洗濯して返すから」

「気にせんでいいですよ、どうせ使う為に持っとるんでっ」

「ご、ごめんね陽南ちゃん」

「だけん、いいってば〜」


 ハンカチとティッシュを誠一がどこからか取り出したビニール袋に入れピー助がそれを一旦受け取った、その時。


 ジャリッ、と地面を踏みしめる音が彼らの背後から聞こえた。


「すんません、ちょっと遅れました」


 白い運動靴に上下水色のジャージ姿の総護が姿を現す。


「来たな。じゃあ、始めるか」


 総護の姿を見て、剛は一言だけ告げるのだった。



 **********



 渇いた風が頬を撫で、何事も無かったかの様に去っていく。


 赤茶けた大地に立ち、向かい合う総護と誠一と剛。


 一人と二人は距離を空け、視線を交わす三人。どちらとも自然体に見える


(……マジで? マジで()んの? この二人と?)


 しかし平然としている総護だが、内心は全く穏やかではない。


 目の前にいるのは己の遥か格上。

 紛れも無い猛者であり、『英雄』。

 ――それは戦う者としての、強者と相対している故の緊迫感。


 目の前にいるのは慕う少女達の父。

 理解者であり、かけがえのない存在。

 ――それは男として、男親と向き合っている故の緊張感。


 視線を外さない総護だったが、この後の展開が予想できてしまっているため気が気ではなかった。


「そんなに緊張するなよ、ジュニア」


 総護の内心を見透かす様に剛が口を開く。


「お前の返答次第で『解散』になるかもしれないんだからな」

「そうだね。だから気負いなく僕らの質問に答えて欲しい」


 意外にも優しい口調だ。


「ジュニア、お前陽南達を助ける為に死にかけたらしいな?」

「まぁ婆ちゃんのおかげで、なんとか生きてますけどね」


 だが、キリキリと。細い糸を引き伸ばす様に。


 ゆっくりと、しかし確実に空気が張り詰めていく。


「じゃあ、もしも今回みたいな事がまた起こったら――」


 そして、今、


「――どうするんだい?」


 ――緊張が最高潮へと到達する。


 ここが分岐点。


 言葉を紡ぐために息を吸い込みながら、総護は先程の剛の言葉を思い出していた。


『その覚悟、示してみせろ』


 剛はそう言っていた。


 つまり、この射抜かんばかりの視線に込められている意味。即ち、


「守ります」


 ――問われているのは、己の覚悟。


 その確固たる決意を以て、総護は答える。


「俺が持てる総てを使って、護ります」


 敵がいるならば、斬り捨てよう。

 降りかかる火の粉は、払い除けよう。


 邪魔など、させない。

 させはしない。


 彼女達を傷つけるものなど、許さない。


「例え自分の命と引き(・・・・・・・)換えにしてでもか(・・・・・・・・)?」

「はい。それが俺の、覚悟です」


 迷うこと無く総護は答えた。


 真剣な総護の答えを聞いて誠一と剛は顔を見合わせると、同時に頷く。


 そして、








「「ダメだ『な』『ね』」」








 ――声を揃えて断言した。


「なんでっスか!?」


 これには総護もつい反射的に聞き返してしまっていた。


「『なんで』って、全然ダメだからだよ、足りてない(・・・・・)

「だな、その程度(・・・・)の覚悟のヤツに娘は預けられないな」


 呆れた様に誠一と剛は答える。


(……『足りてない』? 『その程度』? )


 しかし、解せないのは総護だ。


 己を犠牲にする覚悟があってもなお、足りないと誠一と剛は言うのだ。


「まさか、本気で分からないのか?」

「はぁ、重症だね」

(何が、足りねぇんだ? 何が―――)


 思考を巡らせる総護に、二人の言葉は届かない。


「『荒療治』になるが、仕方ないか」

「だね。だって、完全に抜け落ちて(・・・・・)るんだから(・・・・・)


 そう言って誠一と剛はこちらを見向きもしていない総護へ向けて――殺気を放つ。


(違ぇ、もっと根本的な―――っ!?)


 瞬間、総護の身体は反射的に後ろへと跳んでいた。


「流石は【正体不明(アンノウン)】、いい反応だね」

「そうか? この程度は造作もないだろ」


 数メートルほど飛び退いた総護見て感心した様子の誠一と、『出来て当たり前』だと言う剛。


 そして二人はサンダルを脱ぎ素足で大地へと立つ。

 同時に、誠一と剛から凄まじい『重圧(プレッシャー)』が放たれる。


 息が詰まる程の圧迫感と、触られてもいないのに押されている感覚が総護を襲う。


 続けて、『熱』と『痺れ』感じた時、総護の背中に冷や汗が流れる。


(――いや、待てや、マジか!? 『それ』はダメだろっ!?)





 驚愕に、焦燥に、総護の鼓動が速くなっていく。







「ジュニア。加減はするが、くれぐれも気を抜くなよ」


 ――剛の身体からバチバチと音が発生し始める。







「総護君の事だから、予想はしてたんだろう?」


 ――誠一の周辺の景色ががゆらゆらと揺れ始める。





 誠一の言葉通り、確かに総護はこの事態は想定していた。


 しかし、


「―――っ、〝龍殺の栄冠(ドラゴン・ギフト)〟なんか使われるたぁ思わねぇっスよ!?」


 ――英雄の代名詞(・・・)を発動されるとは、思う訳がなかった。


「ちょっと荒っぽくなるけど、これも娘のため(・・・・)だからね」

「一応お前のため(・・・・・)でもあるんだぜ、ジュニア?」


 今この瞬間も高まり続けていく、『英雄の力』。


(――『俺のため』? つかもう、やるしかねぇ!!)


 総護の疑問など完全に無視して、


「いくよ」

「いくぞ」


 ――此処に『龍殺しの大英雄』との戦いの火蓋が、切って落とされた。

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