三四話︰彼と彼女と彼女のカタチ
――『好きだ』と、総護は言った。
――『ずっと前から好きだった』と。
その言葉を頭が理解するのに、五秒。
そして心が理解するまで、たっぷり八秒。
合計、一三秒の時間を要した。
ボンッ。
林檎の様に詩織と陽南の顔が紅く、熱くなる。
「―――っ!? 〜〜〜ぅ、〜〜〜っ!?」
詩織は何かを喋ろうと口を開けては閉じてを繰り返しているが、まったく言葉になっていなかった。
「……あぅ、え……えぇ〜?」
固まった陽南は総護が聞いた事がない声を出していた。
共に頭から湯気を吹き出しそうである。
完全に動揺してる、確実に動転している。そんな彼女達の姿を見て、
(なにコレめっちゃ可愛いなオイ)
純粋な感想が浮かび、総護は緩む頬が抑のをえられなかった。
**********
顔が、熱い。
バクバクと、心臓がうるさい。
まともに、目の前にいる少年の顔を見られない。
頭は真っ白だ、何も考えられない。
――でも何かが引っかかっている。
――心に、何かが引っかかっている。
――何だ?
『好きだった』と言ってくれた。
――嬉しかった。本当に、嬉しかった。
しかし、だが、でも。
少年はその前に『何か』を言っていたはずだ。
『ずっと前から』と少年は言った。
少女達は、ほぼ同時に気付く。
――少年が『お前ら』と言っていた事に。
「――総、君。『お前ら』ってどう、いうこと?」
気付いた時、詩織の口からは既に疑問が零れていた。
「……まぁ、そう思うよな」
その詩織の疑問に少年は一つ、呟きを落とす。
「昨日、ある人にケツ叩かれたんだよ」
答えにはなっていない。
「――『伝えられるうちに正直にその気持ちを伝えた方がいい』ってな」
代わりに少年は言葉を紡いだ。
――少女達は言葉を聞いた。
「もしかしたら俺は明日、死ぬかもしれねぇ」
――そんなのはダメだ、嫌だ。
正直で、
「知ってるだろ? 俺は……『普通』じゃねぇ」
――そんな事は無い、きっと『特別』なだけ。
真っ直ぐで、
「んで、夜ずっと考えてたんだよ。でもな、どんだけ考えたところで答えは一個しかなかったんだ」
――嗚呼、そんな顔で言わないで。
熱い、
「俺は詩織と陽南が好きなんだ」
――苦しそうな声で、告げないで。
嘘偽りの無い、想いを。
――自分を責めないで。
――私も、君の事が、
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「自分でもクソみてぇなこと言ってるのは、分かってるっ」
声が震えそうだった。
しかし、構わず口を動かす。
「でも、これが俺の本心だからよ」
手が震えているかもしれない。
しかし、構わず口を動かす。
「もし、もしも、こんな俺でも、よかったら」
自分が今、どんな顔をしているのか分からない。
しかし、構わず口を動かす。
「――俺と、付き合って下さい……っ!!」
総護は、言い切った。
「…………」
「…………」
詩織と陽南は無言だった。しかし、視線だけはしっかり総護を捉えている。
「……総ちゃんのバカ」
「――っ」
陽南の声に総護の肩が跳ねる。
まず最初に静寂を破ったのは陽南だった。
「……最低ね、総君」
「――だよ、な」
次に詩織の声が総護の心に刺さる。
分かっていた事だ。受け入れて貰えるなど夢の様な話だったのだから。
覚悟はしていた。
しかし、想像と現実は違う。
痛かった。想像の何倍も、痛かった。
身体では無く、もっと深い場所が、心が悲鳴を上げている。
――しかし、これは人生でよくある事だろう。全てが思い通りに行くわけがないのだから。
――ましてや、相手は同じ人間なのだ。事態が都合のいい様に動く事など有り得ない。
――これで諦めがついただろう? こんな想い、さっさと忘れて次に向かえばいいだけだ。
早口でまくりたてる誰かが、己の中にいた。
「総ちゃん、酷い顔しとるよ」
陽南は何を言っているのか。当然に決まっている。
「……たった今、フラれた人間が笑えるとでも思――」
「――途中からずっと、よ」
「……は?」
総護は気付いていなかった。
どんな顔をしているのか。
どんな声をしているのか。
それはおよそ、他人に想いを伝えるものでは無い。
「陽南ちゃん、私……」
「いいよ。だけん、ウチも……」
詩織と陽南は確かめ合う様に頷き合うと、
「――っ」
固く握りしめられている総護の手にそっと触れる。
「総君、私ね」
「総ちゃん、ウチね」
声が聞こえる。
陽だまりの様に暖かく、柔らかい声が、聞こえる。
「「貴方が好きです」」
衝撃によって思考に空白が生じる。
これは夢だと思った。都合のいい夢だと、総護は思った。
しかし、手が暖かい。
彼女達が包んでくれている手が、本当に暖かい。
「ぇ、いや………あ?」
先程の彼女達の様に、総護も上手く言葉が出てこなかった。
「ふふっ、さっきの仕返しができたわね」
「そ、総ちゃん面白い顔しとる〜。アハハハハッ」
照れながらも、笑う詩織と陽南。
「い、いや、お前らさっき、『バカ』とか『最低』とか、言ってたじゃ、ねぇかよ」
混乱する頭を振り絞って、総護は何とか言葉を絞り出す。
そう、詩織も陽南も先程総護を拒絶したはずだ。
「だって総ちゃん、ウチらに堂々と『二股する』って言ったがん」
「でも、あれぐらいの罵倒ですむなら安いものでしょ?」
「だよね〜」
――それは、つまり。
「――いい、のか?」
半信半疑の総護の問に、
「いいわよ」
「いいよ」
一切迷わずに答える少女達。
『後は、全部てめぇの覚悟しだいだ。ま、理解が得られればだがなぁ』
彼女達の返事を聞いた総護の脳裏に、厳十郎の言葉が蘇る。
(……俺、すっげぇ恵まれてんなぁ)
彼女達は総護の想いに答えてくれた。
総護の『普通』ではない想いに、真正面から返してくれた。
きっと周囲からは『異常』と思われる答えを返してくれた。
ならば、総護が取る行動は一つ。
「……悪ぃ、言葉が足りてなかった」
「どういうこと?」
「なに、総ちゃん?」
『異常』を『例外』に変えるのだ。
「詩織、陽南」
その答えを総護は知っている。
「俺は、詩織と陽南が好きだ」
だから、伝えよう。
「もし、こんな俺でもいいって言ってくれるなら」
今度は、しくじらない。
「どうか俺と、結婚を前提に付き合って下さい」
少女達の驚く顔を見据えながら、総護は続ける。
「受け入れてくれるんなら、俺は誰にも文句は言わせねぇ」
先程とは違い、笑顔で。
「なんせ、俺ぁ『例外』らしいからな」
少女達の手に優しく触れながら。
再び真っ赤になった詩織と陽南だが、
「これからもよろしく、総君」
「よろしくねっ、総ちゃん」
総護が見てきた中で一番可憐な笑顔で、答えたのだった。
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