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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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二九話︰君に感謝を

 「……総ちゃんのお父さんは結局、どーなっただ?」


 遠慮がちな陽南の質問。


 先程の総護の話では総護の父親である慎護(しんご)がどうして行方不明となったのかが語られていないからだ。


 「爺ちゃんが言うには『慎護(自分)ごと封印した』らしいんだよ、違う場所にな」

 「『違う場所』? それって、日本以外っていうこと?」

 「いや、違う世界(・・・・)だとよ」


 少女達にとって本日何度目の驚愕だろうか。


 総護はさも当然のように話しているが、その言葉は『異なる世界』の存在を表していた。


 それから総護は詩織と陽南の質問に一つ一つ答えて言った。


 総護自身のこと、厳十郎や鳴子、ピー助のことなどの身内について。

 『裏』については深くでは無いが、答えられる範囲で話した。


 「……ねぇ詩織ちゃん、ウチもう無理だわ。頭が着いて行かんもん」

 「……そうね、私も色々と予想外すぎて、もう何をツッコめばいいのか分からなくなったわ」

 「まぁ、だろうな」


 少女達の脳ではもう処理しきれないようだ。

 仕方がない。何せ彼女達の『常識』を木端微塵に粉砕する内容なのだ。


 「さぁて、もうとっくに夜中だしよ、寝ようぜ」


 総護は立ち上がると、ドアへと向き直る。


 「お前らはこの部屋で寝てていいぞ。俺は他で寝るからよ」


 そう言って部屋を出ていこうとする総護。


 「――? 何で、開かねぇんだ?」


 ドアノブを回すが、一向に回る気配が無い。


 「鳴子さんが〝回復結界〟? っていうのを張ったらしいわよ」

 「『朝まで出られん』って言っとったね」

 「……マジかよ」


 鳴子特製の〝回復結界〟は『疲労回復』や『自己治癒力』などの効果をかなり上昇させる効果のある結界だ。


 しかし代償として結界の効果が切れるまで内側から外へ出ることが出来なくなるのだ。


 「はぁ、じゃあ俺こっち側で寝るからお前らはそっち側で寝てくれ。……つーか押し入れも開けられねぇじゃねぇかよ」

 「だけんいくら開けようとしても開かんかったんかぁ」

 「いや、元々俺しか開けられねぇ様にはしてあったんだけどよ、今は押し入れの中が『部屋の外』認定されてるみてぇでな」


 総護はもう一度溜息をつくと、机の横に畳んで置きっぱなしにしてあった毛布を手に取った。


 「俺は毛布だけでいいからお前らはそこの布団使って寝ろよ」

 「ダメよ総君。一番休息が必要なのは総君なんだから、ちゃんと布団を使って寝ないと」

 「大丈夫、大丈夫。だいぶ回復したし、お前らよりは丈夫だからよ。それに、客人はもてなさねぇとな」

 「でも総ちゃん――」

 「ハイハイ、寝た寝た、俺は寝るぞ」


 総護は無理矢理会話を切って詩織と陽南に背を向けると、そそくさと寝る体勢へと移行する。


 「待って総君」

 「あぁ? 何だ。何を言われようが布団は要らねぇぞ?」

 「もうその話はいいけん、こっち向いてごさん?」


 総護が起き上がり詩織と陽南の方を向くと――抱きつかれた。


 「ちょ!? おま、何して――」


 不意打ちで抱きつかれた総護が慌てた、その時。


 「「総(ちゃん)(君)、助けてくれてありがとう」」


 左右の耳に同時に囁かれた、感謝の言葉。


 言い終わると同時に少女達は素早く総護から離れると、背を向け部屋の反対側で布団に横になった。


 しばらく呆然としていた総護だが、言われた内容を理解すると一瞬笑みを浮かべるがすぐに影を帯びる


 そして総護も少女達に背を向け横になる。


 当然だが、なかなか寝付けない少年少女であった。


 少女達は羞恥心からか、火照る体を冷ます事に時間がかかり、


 ――少年は己の無力を痛感していた。




 **********




 翌日、詩織と陽南は鳴子に連れられて朝から病院へ赴いていた。


 そして現在、最上家の客室には座卓を挟んで総護と四人の大人が座っている。


 「「ありがとう」」


 座卓の表面スレスレまで頭を下げるスーツ姿の男性が二人。そして二人に追従する様に同じく頭を下げるスーツ姿の女性が二人。


 「ちょ、頭上げて下さいよ!?」

 「いや、これでも足りないぐらいだよ」

 「ああ、その通りだ」


 対面に座る総護も始めからこう来られると参ってしまう。


 「いや、ほんと、いいっスから。気持ちは十分伝わりましたから、頭上げて下さいよ、マジでっ」


 総護とて予想はしていた。が、所詮は予想で想像でしかない。


 (何かすげぇ居た堪れねぇんだけどこの状況!?)


 『大の大人が自分に対して頭を下げている』この状況。相手に何も非が無い為に余計罪悪感が湧いてくる。


 「……本人がそう言うなら、この辺でいいか?」

 「まぁ困らせる為に来たわけじゃないしね」


 木乃町剛と幸原誠一はゆっくりと頭を上げる。


 「総護君、本当に、本当にありがとう。陽南ちゃんに何かあったら、わた、わたし……っ」

 「総護君、私からもお礼を言わせて。ありがとう、詩織ちゃんを、守って、くれ、てっ」


 木乃町瑠璃は涙を流しながらも、幸原香澄は涙を堪えながらも総護に対して感謝の言葉を告げる。


 隣に並ぶ夫達はハンカチを差し出したり、震える背中を優しく撫でている。


 「……いや、全然感謝される資格なんか、ないっすよ」


 そんな大人達の耳に、絞り出す様な声が聞こえた。

 

 「俺が辿り着いたときゃもう、あいつらは、怖い思いをしてました、苦しんでました」


 総護は膝の上で己の拳を握りしめる。


 「……俺は、間に合わなかったんすよ」


 ――総護が二人を救った?

 違う、二人を救ったのは鳴子だ。


 ――総護が二人を守った?

 違う、二人を最終的に守ったのは厳十郎だ。


 「結局俺は何も――」

 「――それは違うぞ、ジュニア」


 できなかった。


 続く言葉を遮る様に、剛が否定する。


 「総護君、君がいなかったら詩織ちゃんも陽南ちゃんも、もう二度と帰って来なかったかもしれない」


 誠一が諭す様に語り始める。


 「僕と剛が昨日何をしていたか、知ってるかい?」

 「……いえ、知らないっす」

 「だろうね。実は知り合いと夜中まで飲み歩いていたんだよ」


 総護は何故誠一が昨日の行動を総護に教えているのか、分からなかった。


 「………? それがどうし――」

 「――僕達はね、娘の危機に気付いてすらいなかったんだ」


 情けない話なんだけどね、と苦笑いを浮かべる誠一。


 「しかた、ないっすよ。どう考えても事故みてぇなもんだったんすから」

 

 事故、まさにその通りだろう。

 〝予知〟や〝未来視〟などの魔術、能力者でもない限り事前に防ぐ事など出来はしない。


 当然、剛にも誠一にも不可能だ。


 「――でも、ジュニア。お前だけ(・・)は違ったんだぞ?」

 「俺、だけ?」

 「そうだ。ジュニアだけが陽南と詩織ちゃんの危険に気が付いた。ジュニアだけが誰よりも早く駆けつけてくれた、戦ってくれた」

 「……でも、俺はそれだけしか、そんなことしか、出来なかったんすよ?」


 ――早めに駆けつけただけ、少し戦っただけ。


 総護はそれだけしかしていない、と言う。


 「それは『総護君の見解』だろう? でも僕達は違うよ」


 誠一は言う。


 「総護君のお陰で娘達は助かった。総護君のお陰で娘達は生きて帰ってきた。総護君がいたからこそ、娘達は今日も生きていける。――全部君のお陰だよ」


 剛は言う。


 「だからジュニア、お前は俺達の恩人なんだ。誇ってくれ、胸を張ってくれ。ジュニアは俺達も救ってくれたんだ」


 ――だから、ありがとう。


 再び四人は頭を下げる。


 「どう、いたしまして」


 ぎこちなくも、総護は笑う事ができた。

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