二八話︰只管に、強く
俺の母ちゃんが小さい頃、お前らがこっちに来る前に病死したのは知ってっか?
あ? 聞いてない?
……まぁ俺も小さかったからよく覚えてねぇんだが、母ちゃん心臓が悪かったらしくてよ。おかげで一緒に遊んだ事も少なかったんだよな。
で、俺がすげぇ小さい頃に死んだんだ。心臓病だってよ。
ぶっちゃけ小さすぎて人が『死ぬ』って事が分かってなかったんだよ。葬式の記憶も朧気だしな。
……もちろん今は理解してるけどよ。
母ちゃんについて覚えてる事っていやぁ、よく笑ってた事と肉じゃがが美味かった事ぐらいだな。
そんで母ちゃんが死んでからは親父にべったりだったな。
どこ行くのにも一緒についてってよ。離れてる時の方が少なかったかもしれねぇな。
そんな時に俺と親父はあの『山崩れ』に巻き込まれたんだよ。
そうそう、ニュースにもなって結構騒がれたやつだな。
そんとき俺はなんとか救助されたが、親父は警察とかがどんなに探しても見つからなくてよ、今も『行方不明』なんだ。
表向きでは、な。
どういう意味って、そのままだよ。
だっておかしいだろ?
前後に地震も大雨もなかったのに、突然山が崩れるなんて普通に考えて異常だろうが。
そんで俺と親父は、たまたまその山にある公園にいたんだよ。『たまにはちょっと遠くでも出るか』って親父の提案でな。
あ? 原因?
『余波』だな、戦闘の。
ああ、いたんだよ。やべぇヤツがな。
つーか出てきたって言った方がいいかもしれねぇな。
何の前触れも無く、突然出てきやがったんだよ。
見た目は『人の影』みたいだったな。輪郭もボヤけててよ。
多分、親父はすぐ気付いたんだろうな。
俺がいきなり抱きかかえられたと思った時は、
――親父の右腕が無かったんだ。
意味が分からなかったな。
いつもと同じ様に遊んでたのによ、気付いたら親父の右肩から血が吹き出てんだぜ?
そん時、親父が何て言ったと思うよ?
『振り返らずに走れ』って言ったんだよ。
でもよ、急にそんな事言われても動けるか?
ほんのちっこいガキがだぜ?
ま、動けるわけねぇわな。
意味不明すぎて泣きそうになりながら突っ立ってたらよ、俺の右側の地面がゴッソリ吹き飛んだんだよ。
そしたら親父がよ『走れ!!』って今まで聞いた事ねぇぐらいのデカい声で叫んだんだよ。
泣きながら走ったな。
何回コケても起き上がって、傷だらけになっても頑張って走ったな。
でもよ後ろから『戦場か』って思うぐれぇの音が聞こえてくんだよ。
怖くない訳がねぇだろ?
不安にならねぇ訳がねぇだろ?
泣き虫で怖がりのガキはよ、引き返しちまったんだ。
戻った時、どうなってたと思うよ?
燃えて、切れて、溶けて、凍って、腐って、放電して、抉れて、濡れて、あと色々あったけどよ。災害なんてもんじゃなかったぜ、ありゃ。
とまぁ、そんな異常地帯の真ん中に親父を見つけたんだ。
周りの光景も気にせず駆け寄ったな。早く親父に抱きつきたかったからよ。
そん時に俺は初めて『殺気』を向けられたんだよ。いや、『殺意』が表現的にゃ合ってるかもしれねぇな。
ああ、親父からじゃねぇぞ。親父が〝結界〟に閉じ込めてるヤツから向けられたんだ。
黒くて、熱くて、暗くて、鋭くて、禍々しくて、ドロドロしてたな。
『死んだ』と思ったなありゃ、マジでヤバかった。親父が遮ってくれなきゃショック死してたと思うぜ?
親父がソイツと俺の間に立ってよ、なんとか呼吸を整えられたんだ。
そん時に俺は親父と約束したんだ。
『強くなる』ってな。
その後、気が付いたら土の上で寝ててよ。自衛隊だか、警察だかに保護されたんだ。
その後色々あって爺ちゃんに喝入れられたりしてよ、『強くなろう』って決めたんだよ。
まぁ、これが俺の一番最初って言えるかもな。
で、どうだったよ?
面白くも何ともなかったろ?
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