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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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二六話:生還


 「帰ったぞぉ」


 玄関の扉越しに聞こえてくるのは気の抜けた老人の声。


 「ククク、何だぁ? 皆でお出迎えたぁ儂も人気者じゃねぇか」

 「ハイハイ、若い娘に人気でよかったですねぇ」


 楽しげに笑う厳十郎に対して鳴子の返答は雑なものだった。当然それが冗談だという事が分かりきっているからだ。


 しかし、少女達の表情は優れない。


 「おいおいお嬢ちゃん達、そんなに『期待外れ』みてぇな感じにならないでくれや。いくら儂でも傷つくぜぇ?」

 「あ、そ、そんなつもりじゃなかったんだけど」

 「ご、ごめんね、厳爺。お帰り」


 苦笑いの厳十郎の言葉に咄嗟に反応する詩織と陽南。だが、言動を含め心ここに在らずといった状態なのは瞭然だ。


 「安心していいぜぇ、『王子様』は今儂が背負ってっからよぉ」


 だが、続く言葉を聞いて一瞬少女達の動きが止まる。


 「――はぁ」

 「――良かったぁ」


 そのまま糸の切れた人形の様にペタリと座り込む詩織と陽南。安堵し緊張が緩んだからだと思われる。


 色々な事が有りすぎて、限界など越えていた事もあるだろう。


 だから少女達は気付かない。


 ――未だ鳴子の表情が険しい事に。


 ――何故厳十郎が未だに玄関の外に立ち続けているのか、という事に。


 「あ〜、取り敢えず詩織ちゃんと陽南ちゃんは総護の部屋で待っててくれねぇか?」


 少し落ち着いた少女達へ厳十郎の声が届く。ここに来てようやく陽南が違和感を覚える。


 「……なして? というか何で厳爺入ってこらんの?」


 陽南の問に対して遠慮がちに厳十郎は答える。


 「ちょっとなぁ、総護の怪我の具合がお嬢ちゃん達にはなかなかキツいかもしれねぇんだ」

 「――そんな!? 総君は大丈夫なんですか!?」

 「あぁ、死ぬ様なもんじゃねぇから安心していいぜぇ」


 驚く少女達を安心させる様に、穏やかな声で答える厳十郎。


 「だが、怪我なんざ好き好んで見るようなもんじゃあねぇだろ? だから治療が終わるまで総護の部屋で待っててくれやぁ」

 「ほら、立てるかい? 大丈夫、お婆ちゃんがキチンと治すから、ね?」


 鳴子の言葉を聞いてゆっくりと立ち上がった二人は、暗い表情のまま総護の部屋へと歩き出した。





**********





 「……これはまた、酷い怪我ですねぇ」


 横たわり気を失っている下着一枚の総護の姿を見た鳴子は、思わず溜め息と共に感想が出てくる。


 それもそのはず、現状の総護の身体はボロボロだ。


 打撲多数、内出血多数、擦り傷多数。

 ――そして千切れた右腕と、腕の無い右肩。


 「なぁに、死んでねぇなら御の字だろぅが」


 クルクルと総護の身体に巻かれた包帯を巻き取っていく鳴子を横目に、胡座をかいた厳十郎が答える。


 「それによぉ、この程度(・・・・)の負傷なんざ珍しくもねぇだろう?」

 「はぁ、お爺さんに同意を求めた私が悪かったですねぇ」


 呆れた、という様な表情の鳴子はジロリと厳十郎を睨む。


 「……そいつぁちょっと酷くねぇか?」

 「こんな重傷を『この程度』なんて言う人に聞いたのが間違いだと思っただけですよ」


 会話を続けながらも鳴子は手を止めない。


 「これだけの傷なら《回帰》がいいですね」


 包帯を解き終えた鳴子は座りながら総護へ両手をかざし、意識を集中させていく。


 変化は、すぐに現れる。


 まるで逆再生の様に総護の傷が消えていく。

 ――いや、まさにこれは『逆再生』だった。


 打撲痕が消え、内出血が消え、擦り傷が消えていく。

 そして、千切れた右腕と右肩がきれいに繋がるではないか。


 「ふぅ〜、これで怪我はいいでしょう」


 汗を拭いながら鳴子は大きく息を吐き出す。

 目の前の総護の身体からは負傷が消え去っていた。


 「昔から世話になっちゃあいるが、包帯も含め傍から見ると凄ぇもんだなぁ」


 総護の怪我が『巻き戻っていく』様子を横から見ていた厳十郎が率直な感想を口にする。


 「ええ、誰かさんのお陰でこういったものは得意になりましたから」

 「はっ、耳の痛ぇ話しだぜぇ」


 鳴子の視線に対してどこ吹く風といった様子の厳十郎。だが、その声が急に真面目なものとなる。


 「なぁ、婆さん。【魂喰い(ソウルイーター)】、見たか?」

 「ええ、少しだけですけど。かなりの数の魂を吸収してたみたいですから、……真犯人(・・・)といったところですか?」


 鳴子は一目見て、あの男が最近世間を騒がせている『連続失踪事件』の犯人だと感じていた。


 しかし、当事者(そう)であるなら腑に落ちない事が幾つかある。

 だから、厳十郎の問に疑問で返した。


 「あぁ、あいつがやったなぁ間違いねぇ。だが」


 犯人である、という事は合っていたらしい。


 「【魂喰い】に【死霊術師(ネクロマンサー)】みてぇな能力はねぇし、何よりあんな中途半端(・・・・)な不死(・・・)じゃあねぇ」


 そう、鳴子が疑問に思っていたのは男が死者を使役していた事だ。


 【魂喰い】は通常、二種類に分けられる。

 『自身の能力を強化する為に喰らうモノ』と『生きる為に喰らうモノ』だ。


 鳴子は男の【魂喰い】を前者であると思っていた。魔力にしろ身体能力にしろ、『自身の能力』を強化する事を目的として魂を喰っている、と。


 しかし、それよりも重要な事を厳十郎は言っていた。


 「――ちょっと、待って下さい。今、【不死】と言いましたか!?」

 「あぁ、かなり出来損ないだったがなぁ」


 焦った様な鳴子に対して、厳十郎の返答は気の抜けた様なものだった。


 「……はぁ、貴方って人は本っ当にっ!!」


 鳴子が憤るのも無理は無い。


 ――【不死】とは死なぬ(・・・)から【不死】なのだ。


 それは生命の理を歪め、外れる程の規格外の神秘を宿している。


 現在、世界には【不死】と特定されたモノが少なからず存在しているが、そのモノ達は二四時間(・・・)三六五日(・・・・)に及び監視が義務付られている。


 もし、人類や世界の存続に仇なす行為やそれに準ずる影響が確認された場合、あらゆる手段、あらゆる組織の垣根を越えて『封印』・『拘束』・『監禁』という措置が取られる程だ。


「なぁに、【不死】たぁ言ったが限定的なもんだなありゃ」


 それでもなお、厳十郎の余裕は崩れない。


 「『寿命ある限り生き続ける』なんざ下の下の【不死(もん)】だろ。それに儂が何もしてねぇとでも思うか?」

 「そ、そうは思いませんけど」

 「大丈夫だぜぇ。アイツはもう何もで(・・・)きねぇよ(・・・・)、死ぬまでなぁ」

 「はぁ、分かりました」


 厳十郎は断言する。その自信に満ちた顔を見た鳴子はこれ以上追求するのを止めた。


 「それよか問題なのは、アイツに【不死】なんかをを与えたヤツ(・・・・・)がいるって事だなぁ」

 「――は?」


 鳴子の思考が、一瞬止まる。


 「……アレ(・・)が、また動き出しやがった」


 苦虫を噛み潰した様な声と表情の厳十郎を見て、鳴子は全てを察した。


 「そんな、あ、有り得ませんっ!!封印に一体どれだけの犠牲と時間を掛けたと――」

 「――どうやら、儂らより上手だったらしいなぁ」

 「そんな……」


 その報告は、鳴子ですら動揺を隠せない程のものだった。


 「ど、どうするんですか?」

 「取り敢えず各方面に伝えねぇといけねぇわなぁ。あ〜、そっからまた対策を練らにゃいけねぇが――」


 これから想定される混乱などを想像して心底嫌そうにボリボリと頭を搔く厳十郎だが、その視線を総護の方へと向ける。


 「――それよか先に、コイツを嬢ちゃん達ん所に持ってかねぇとなぁ」

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