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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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二四話︰報い


 「――何故ですか?」


 男は問う。


 「――どうして、糧の分際でっ、私に危害を加えるのですかっ!?」


 怒りながら、総護へ問う。


 「――私は、私はもっと強くならなければなのにっ!! 糧でしかない弱者のあなたが、何故、剣を向け抵抗するのですかっ!? 」


 何故、大人しく魂を差し出さないのかと、問う。


 (くくく、……何だ、そりゃあ)


 総護は内心、思わず笑ってしまった。


 まったく意味が分からない。子供の癇癪の方が、まだ理解できる。

 しかし、本気で言っているのだからタチが悪い。


 男を睨みながら、バランスを崩しながらも総護はゆっくりと立ち上がる







 「……んなもん、『嫌だから』に、決まってんだろぉが」







 ――当たり前だ。







 「……『死にたくねぇ』からに、決まってんだろぉが」







 ――何故、理不尽な死を受け入れねばならない。







 「……『強くなりたい』ってなぁ、立派な想いだ、それだけ(・・・・)は、共感するがよぉ」


 『強くなりたい』 ああ、そうだとも。その通りだ。


 求めている。焦がれている。足掻いている。


 もっと強く、もっと強くと。

 鍛え、戦い、試行錯誤を繰り返している。


 『強くなりたい』 ああ、そうだとも。その通りだ。







 ――だが、


 たとえ、どれだけ立派な想いであろうとも。


 たとえ、どれだけ高潔な理由であろうとも。


 たとえ、どれだけ気高い意思であろうとも。







 「――詩織と陽南を、傷つけていい理由にゃならねぇんだよっ!!」







 ――道を外れてしまったのなら、害悪となる。








 「『私が強くなる』以外の事柄など、ゴミ同然に決まっているでしょう」


 血を流しながらも立ち上がり、殺気を放ち睨みつける総護に向かって、苛立たしげに男は呟く。


 「せっかくいい気分だったのですが、あなたのおかげで台無しですよ」


 消えていたはずの力が、殺気が増す事に男の体から立ち上り始める。


 「もう、いいです」


 そう言うと、男は総護から数メートル程距離をとる。


 ――消し飛ばしてあげましょう。


 『得体の知れない力』が男の右拳へと集まっていく。






 (……決めるつもりだな、ありゃあ。さぁて、どうするかなぁ)


 どうやら一撃で(・・・)終わらせる(・・・・・)つもり(・・・)の男を見据えながら、総護もどう動くか考えていた。


 (魔力も気力もほとんど残ってねぇし、体も重症。失血死寸前だなこりゃ)


 迫る二つの『死』の気配を感じながらも、総護はまるで第三者の様に感じていた。


 (……あ〜ダメだ血が足りねぇ、ヤベェな)


 寒気がする、考えが纏まらない、視界もボヤけてきた。


 まさしく満身創痍、絶対絶命の状況だ。



 こんな状態だからこそ(・・・・・)、総護は一つの対抗策を思いつく。



 (……そうだよ。少なけりゃ混ぜりゃ(・・・)いいじゃねぇか(・・・・・・)




 ――その考えは正常な思考では、ない。




 同時に使用する事はできる。

 実際に総護は、超高難易度の離れ業ではあるが、魔力と気力を併用しながら戦闘ができる。



 しかし、魔力と(・・・)気力は(・・・)混ざらない(・・・・・)

 


 魔力とは精神的エネルギーで、気力とは生命的エネルギー。


 両方の発生源は魂だが、そもそもの力の方向性が違う。

 だから、共存はするが混合はしない。


 その上、反発し合うのだ。


 もし、無理矢理に混ぜようものなら、双方のエネルギーが炸裂。つまり、肉体が吹き飛ぶとさえ言われているのだ。



 決して、少ないからと言って合わせようとすべきではない。



 しかし、今の総護は極度の疲労や怪我、失血などで思考能力が著しく低下している。


 ――だから総護は、混ぜ合わせる(・・・・・・)


 「………ッ!!」


 己の内側で二つの力を高速で循環させる。


 丁寧に、繊細に。

 一定に、起伏なく。


 総護の異常なまでの力の操作能力が発揮されていく。



 (……んな、もん、だな)



 総護の内側には、二つが融合した力が循環していた。

 もし、普段の総護が今の総護の内側を循環している力を見たならば、きっとこう言うだろう。






 ――得体の知(・・・・)れない力だ(・・・・・)、と。







 (……こ、れで、こ…せる………)


 総護は霞みがかった意識で〝気剣〟を発動。震える左手でソレを握る。


 既に、総護の意識は風前の灯だ。


 だから、気が付かない。


 ――左手が確かな質量と実体を持った、鈍く銀色に光る刀の様な物(・・・・・)が手と共に震えている事に。






 「実に惜しいですが、あなたの魂はいりません」


 男は両足に力を込めると、一瞬にして総護の眼前へと踏み込み――


 「フッ!!」


 ――光り輝く剛拳を、総護へと解き放つ。


 今宵、また一つの命が消え去った。




  **********




 「――はぁはぁはぁ」


 明るい月明かりの下、山の麓の道路をヨロヨロと歩く影がある。


 「はぁはぁ――っぐぁ」


 不意にズキリ、と全身が痛み近くの電柱にもたれ掛かる。


 (……まったく、三度も(・・・)死ぬとは(・・・・))


 顔を顰めながら男は腰を下ろした。


 (いくら不死身(・・・)とはいえ、慣れるものではありませんねぇ)


 「……まだまだ、弱いですねぇ。もっと魂を集めなければ」


 男にとって、今夜は予想外としか言えなかった


 ようやく少女達の素晴らしい魂を喰えると思っていたのに、邪魔が入った。

 邪魔をした少年には三回も殺された上に、その倒れた体に宿る魂を喰う気にさえならなかった。


 崩れ落ちる様に倒れた少年だったが、その左手は銀色に光る剣の様な物を手放す事は無く、今にも立ち上がり斬りかかって来そうな気迫があったからだ。


 (……最後、少年の動きはまったく見えませんでしたねぇ)


 仕留めたはずだった。


 男の右拳が少年を跡形もなく吹き飛ばす、はずだった。


 その拳を少年は最小限の動きで腕の内側へと避けたのだろう。

 そして男の勢いを逆手に取り、いつの間にか握っていた物を心臓へと自身の倒れる力も利用しながら突き込んだのだ。


 (ふ〜、明日は他の街へ行きましょう。遠く離れた街へ)


 ――そうすればきっと、今度こそ誰の邪魔も入らないはずだ。


 決意も新たに、男は痛む体を動かし立ち上がると一歩踏み出し、動きが止まる。


 「――何処に行こうってんだ? 」


 突然、背後から声がしたからだ。しかし、男は声ではなく別の事に驚いていた。


 (気配を感じ無いっ!?)


 背後から、まったく存在感の無い老爺が近寄って来る。


 白い半袖の上着に、焦げ茶色のスボンの老人とは対照的に、今の男の格好は常識的に考えて異常だ。


 全身血塗れで、上半身にいたっては裸。いくら夜でも目立つ姿だろう。


 「……家に帰る途中なんですよ。ホラ、全身ペンキ塗れになってしまいまし――」

 「――んな血腥ぇペンキがあってたまるかよ」


 にこやかに振り返りながら、咄嗟に嘘をつく。しかしあっさりと見破られてしまう。


 ――何故、今嘘をついた?


 男は自分の行動が分からなかった。いくら消耗していようが、老人一人を殴り殺す事など簡単なはずだ。


 ――適わない(・・・・)と思った、のか?


 そう、思い至った時。男は老人へと殴りかかった。


 「――いつまでそっち見てんだぁ?」

 「っな!?」


 しかし、拳を振り抜いた時、反対から声が聞こえた。


 慌てて距離をとる男。相変わらず、老人から何も気配を感じ無い。


 「まぁ落ち着けやぁ若ぇの。儂ぁお前さんに、ちぃっとばかし用があるだけだ」

 「……あなたは、何者ですか? 私とは初対面だと思うのですがねぇ」

 「クカカカ、『何者か』だと? 儂ぁただの親切なジジイだなぁ」

 「初対面ではない、と?」

 「いんやぁ、お前さんとは(・・・・・・)、コレが初めましてだなぁ」


 ――この老人、一体何を企んでいる? というか何者なのか?


 気配が無い時点で、ごく普通の人間では無いだろう。


 「儂の事はどぅだっていいんだよぉ。それともアレか? まさか儂に一目惚れでもしたのかぁ? やめろや気色悪ぃ、好かれるのは嫁だけで十分だぜ」

 「……私に何の用でしょうか?」


 老人の冗談など無視し、男は問う。


 「ツッコミぐれぇ入れてくれやぁ、虚しくなんだろぉが」とブツブツ口ごもる老人。しかし、次に口を開く時には、真面目なトーンとなる。


 「お前さんその力ぁ、誰に貰った(・・・・・)?」

 「………」

 「喋る気は無ぇってか? まぁ、何となく想像はついてんだがよぉ」


 ――ブラフだ、分かる訳が無い。いや、信じる人間がいる訳が無い。


 (神から与えられた(・・・・・・・・)など、私自身ですら信じられなかったというのに。まぁ、同じ様な力を持った少年と遭遇したわけですが――)









 「当ててやろぅか? ソイツぁ(・・・)、『私は神様です』って名乗ったんじゃねぇか?」




 (――何故知っている!?)



 ――何故会った事が(・・・・・)ある様な(・・・・)口振りなのだ(・・・・・・)!?



 「若ぇの、顔に出てるぜぇ。『何で知ってんだ?』ってよぉ」


 驚愕としか言えなかった。だから、つい先程と同じ質問が出てしまう。


 「……本当に、あなたは、何者なんですか?」


 笑いながら、老人は答える。


 「カカカ、言ったろぅが。『儂ぁただの親切なジジイだ』ってよぉ」


 ここで初めて、老人が歩み始める。


 「だがまぁ、お前さんにとっちゃあ『ブッ殺してぇぐれぇに憎いクソジジイ』になるかもしれねぇがな」


 いつの間にか老人は一本の棒を右手に握っていた。闇夜に紛れる様な、黒い棒を。


 ――ゾクリと、悪寒がした。


 「コレが何だか分かるか?」


 分からない。何かは、分からない。

 だが、分かる。理解出来てしまう。


 ――絶対にアレは、己にとって良からぬモノだ。


 この日、男は二度目の逃走を選んだ。それを恥と思う事さえ無く、男は力を振り絞り走り出す。敵に背を向ける事さえ厭わずに。


 「塵芥(ゴミ)風情がぁ、儂が逃がすと思うか?」


 前方から極低温の鋼を思わせる声が響く。


 ――同時に、男の身体の九ヶ所にナニカが突き刺さる。







 「っがぁ!? ギィアアアアアアアアッ!?」


 ――自身の声とは思えない絶叫が飛び出していく。


 (痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ)







 両肘の関節に、両肩の関節に、両股関節に、両足首の関節に、心臓に、ナニカが刺さった痛み。尋常ではない程の、耐えられない程の激痛が発生する。


 刺さったモノを引き抜こうとしたが、すり抜けて(・・・・・)触れない(・・・・)


 「最上十刀流玖ノ剣・呪式――獄転苦界」


 老人が何か言っているが、痛みのあまり聞き取れない。


 「その痛みはなぁ、てめぇに魂を喰われた大勢の人間の憎悪、怨み、苦しみ、怒りなんかが引き出してんだ」


 (痛い痛い痛い痛い)


 「要するに、てめぇに対する負の感情だわなぁ。いやぁ大変だったんだぜぇ、集めるのがよぉ。何せ全国の至る所で魂を喰ってやがったからなぁ。殺られた場所に行かなきゃ集められねぇから、全国旅行になっちまったぜぇ」


 (痛イ痛イ痛イ痛イ)


 「その鍔も柄も無ぇ黒い刀身は、もう誰にも触れねぇ。死ぬまで刺さったままだ」

 「ッグ、ハァハァハァハァ」


 男の痛みが、突然消え去る。


 「痛みは一定間隔で来るらしいぜぇ、死ぬまで(・・・・)一生なぁ(・・・)

 「なん……だ…と……?」

 「痛すぎて頭が回ってねぇのか? まぁいい、あともう何個か教えてやらぁ」


 老人は笑いながら告げる。


 「てめぇはもう他人を直接だろぅが間接だろぅが、絶対ぇに傷付けられねぇ。あと、てめぇは天寿を全うするまで生きる、たとえどんな目に合おうが、な。狂う事も赦されず、そんで死んだら地獄行きだ」


 清々しいまでの笑みを浮かべながら、告げる。


 「そういう呪なんかを、てめぇに九つ突き刺した。ようこそ、生き地獄(・・・・・)へ。死んだ後も後悔しやがれ、自業自得ってヤツだなぁ」


 悪魔の宣告を言い残し、老人の姿は消えてしまった。



 そして、男も逃げる様に歩き出す。ノロノロと暗闇の中へと。






 ――それから何年も、何十年も男は生き続ける。


 ――『生き地獄』から『地獄』へと、その身は転げ落ちて行く。


 ――苦しみと痛みに塗れながら、ゴロゴロと。生き(転げ)続けながら泥梨へと、落ちて行く。

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