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番外 建国秘話

 番外 建国秘話


 エルフとドワーフが争っていた頃。

 盆地に、悪魔人間の集団が避難してから少し経った頃。

 まだ帝国は無く、建国の兆しすら無い頃の話だ。

 

  ●


「問おう」

 

 寒風が吹き込む小屋の中。 

 暖炉の前でオーディンは3人の少年に問いかける。


 自身の契約者と、その友人達。

 寒さを凌ぐべく、毛布に包まり一塊になっている彼らにオーディンは問う。


「国王が誰にでも判るような失態を犯した。その所為で卿らの家族は死んだ」

  

 問いかけの不穏さに、3人が不安そうに首を傾げる。

 

「卿らは如何様にする?」 

 

 3人は顔を見合わせる。

 所詮、お遊びのような質問にも真面目に取り組む様に可愛らしさを感じる。

 おずおずと少年が口を開いた。

 

「……何も」 

「何も?」 

「罰を下すのは神様の仕事なので……」

 

 そこまで言って少年が契約者の背後、毛布の中に隠れた。

 別に怒っていないのだが、どうにも遠慮がちな所があるようで、あまり自分を主張しない。

 

 成程、4文字の教えを守るならば、それも1つの考えだろう。

 そう、納得しながら次は蜥蜴の少年に問う。

 

「卿は?」

「……許さないよ。絶対、許さないよ」

「そうか」

 

 生まれながらに悪魔への敗北を決められている身ながら見事だ。

 故郷から焼け出された経験故だろうか。

 

 復讐は戦士の義務だ。

 良き戦士になりそうだ、とオーディンは微笑む。

 

「……最後は卿だ。我が契約者」

 

 なにせ、これは卿の体験談なのだから。

 言外に、そう匂わせる視線を送ると契約者は迷いもなく答えた。

 

「皇帝になる」

「そう……、なんて?」 

「皇帝になる」 

「何で?」

 

 予想を遥かに外した答えに思わず真顔になって聞き返す。

 

「王だと国王様と被るし……」

「違うそうじゃない」 

  

 オーディンは何故その様な結論に至ったのかを聞く。

 契約者は、あわあわと慌てた様子を見せた後、こちらを真っ直ぐ見ながら言った。

 

「どうするかって言われてもどうしようもないじゃん」

「ふむ?」

「農民が王様に意見できないでしょ? 王国は王様のものだし」

「まぁ、そうだな」 

「偉い人も王様には意見できないんでしょ? また同じ事になるでしょ?」

「……そうなるな」

「じゃあ、自分で作るしかなくない?」


 なくない? じゃないが。

 そう言いたいのをぐっと堪える。 

 

 塊がもぞもぞと動き、契約者の背後に隠れていた少年が顔を出した。

 蜥蜴の少年も契約者に引っ付く。

 

「皇帝になったらお話できないの?」

「! 出来るよぉ。友達だもん」

「……」

 

 そのまま3人が、取り留めもなく話し、話し疲れて眠る。

 

 オーディンは暖炉の火を眺めながら思考を巡らせる。

 少なくともあの2種族は人間の統治下に入ることを良しとしないだろう。

 

 これから先、否応無しに少年達は戦いに身を投じる事になる。

 契約者も良き戦士に育つだろう、否、育てる。

 

 好きにやらせてみよう、と思った。

 たとえ建国が上手くいかなくとも、契約者には良い経験になるだろう。

 

 この戦場で契約者が友として、オーディンと並び立つ戦士となった時。

 そして、その魂をヴァルハラへと連れて行った時。

 

 復権し、力を取り戻したオーディンは再び集めた戦士と共に4文字を滅ぼしに行く。

 強き戦士の誕生、復讐と戦乱は我が悦びだ。

   

 だが、もし――。

 

 ●

 

――そして少年達が青年になる頃、その時は来た。

 

「オーディン、オーディン、できちゃった」

「何処の馬の骨?」

「うっはは、アナタの子よ! 認知してーっ!」 

 

 現実逃避も兼ねて質問すると契約者は笑い声を上げながら返す。

 宮殿の廊下を契約者が走り回る。

 隙間風など吹き込まない宮殿に小さな旋風が巻き起こる。

  

「そうか、出来たかー、……出来てしまったか」

「おう、帝国統一出来たから認知して」

「その言い回しはやめろ心臓に悪い」 

 

 頬を摘んで引っ張ると、奇声を上げながら腕をジタバタさせる。

 ついでのように頭をぐしゃぐしゃ、と撫でると暫くされるがままにされていた。

 契約者が微笑みながらオーディンの手を取る。

 

「まぁ、まだ本調子じゃねぇって事で」

「……」

  

 近々、建国と即位の祭典を催すらしい。

 祭典の準備をする人間達の声が聞こえた。

 和気藹々とはいかぬとも、かつてのような怒号は聞こえない。

 

「そう見えるか」  

「ん」 

「そうか……」 

 

 オーディンは契約者の好きにさせた。

 戦乱を煽らなかったし、加護も与えなかった。

 

「友の忠言だ。聞こう」

 

 そう言ってオーディンは皇帝と並んで歩き始めた。

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