最後の魔王、智の勇者(異世界転移? 小ネタ)
最後の魔王、智の勇者
かつて2柱の神が居た。
世界を作った神は仲違いをし、闘いを始める。
光の神は勇者と呼ばれる者を選び、
闇の勇者は魔王と呼ばれる者を選んだ。
自分が作った生き物の優秀さを見せつける為に何度も争った。
自らの正しさの証明の為に幾度も争った。
勇者が勝つ事もあれば、魔王が勝つ事もあった。
そんな戦いが長く続いて、互いに疲弊し、
最後の決着を付けようという事になった。
今回が最後、その筈だった。
それはいきなり現れた。
空の裂け目から地上に降りてきた。
光でも闇でもない何か。
生き物の体を成していない崩れた者達。
突如現れたそれに不意を突かれた形で大勢居た魔王と勇者は1人を除いて殺された。
神々すら殺され世界は真綿で首を絞められるかのように滅びを待つだけである。
生き残った魔王は記録を漁り、書物を読み、知る。
この世界とは別の世界が多く有り、
それぞれの次元が干渉せずに成り立っている事、
本来なら越え得ぬその世界の境界を超えた者は大きな力を手に入れる事を知る。
●
「……という世界にこれからお前を連れて行くわけだ」
「お前魔王じゃなくて邪神か何かじゃないの」
「光栄だな」
目の前の男が肩を竦めた。
皮肉、と言う言葉が服を着て歩いているような仕草であった。
魔王と名乗った男は椅子も無いのに宙に座っていた。
姿こそ人の形をしているが相対するだけで背筋が凍る。
決して相容れない、おぞましい何かを否応無しに感じさせられる。
成程、魔王と言うだけの事はある。
男は妙な所で感心した。
妙と言えばこの場所も妙である。
無機質な空間であった。
夜のように暗いのに互いの姿がハッキリ見えている。
地面も無く、空も無く、線と空間で作られたような場所であった。
その中で一際、目を引く白い光が遠くにあった。
「それで、どうする?」
すっ、と魔王が手を差し出してきた。
「樹海で寂しく死ぬよりはマシな最期をくれてやれるぞ?」
魔王の目が男を捉える。
おぞましい何かを感じさせる目である。
決して相容れない生き物である。
それでも縋るような何かを無視する事は出来なかった。
鎧なのか、そうでないのかよく判らない、
鋭く尖った異形の指先に恐る恐る触れ手を取る。
鉄のように固い手であった。
魔王が驚いたような表情をした後、
不機嫌そうな表情で目を逸らす。
「こっちだ、ついて来い」
男の手を取ったまま、魔王は白い光の方へ進む。
目視できていた程の光が目を細める程度に強くなり、
そして目が開けていられない程にまでなる。
光の中を魔王の手に捕まりながら進んでいき、
暫くすると足元が固く不安定になった。
風が吹く。
「着いたぞ」
透き通る水の中に都市があった。
大地はどこまでも広がっていて、
そこに街や村があった。
空に島が浮いていた。
そして大きな禍々しい色をした裂け目が空に幾つもあった。
男は全てが見える崖の上に立っている。