転校生Ⅱ
昼休み。
市川さんと俺は順番に授業で使いそうな教室から順番に回っていた。
「ここが理科室。で、階段を上って左手に行くと美術室なんだけど……」
などというやり取りが続いている内に、市川さんはいかにも退屈そうな顔を見せ始めていた。
「ちょっと疲れた?」
「ううん、そんな事無いよ?」
市川さんは笑顔で否定するが、顔がひきつっている。
仕方がない。
「そうか……。少し寄り道しよう」
「え?」
驚く彼女に俺は更に階段を上がる。
「とっておきの場所があるんだ。息抜きとかに使うと良いよ」
そう言って俺は屋上への扉を開けた。
少し雨の匂いがまだ残っているが、清々しい青空が眩しい。梅雨と常夏の間の微妙な時期だが、とても過ごしやすい季節だ。
風を胸いっぱいに感じながら、市川さんを屋上のベンチに腰掛けさせた。
「以外だね、この学校って屋上使えるんだ」
「ああ。ここは自由に立ち入ることが出来るんだ」
市川さんは驚いた顔のまま、俺に問いかける。
「よく来るの?」
「ああ。俺天文部だから、星を観察しに来るんだ」
「え?天文部があるの?」
「と言っても部員は俺と刈谷と幽霊部員二人の四人だけなんだけどね」
風が市川さんの長い髪を揺らした。
「私、天文部に入りたい」
「へ?」
暫く間を置いてから発せられた彼女の言葉に俺の情けない声が響いた。
「だから、私、天文部に入りたい」
「でも…まだ来たばっかなのにいいの?そりゃあ大歓迎だけども、もっと他の部を見学してからでも良いと思うけど?」
「私は天文部があったら入ろうって決めてたの」
何の思い入れがあるのか分からないが、どうやら頑として俺の意見を聞く気は無いらしい。
「わかったよ。じゃあ職員室から入部届を貰いに行こうか」
「うん、ありがとう」
ゆっくりと立ち上がり、俺と市川さんは屋上を後にした。