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いじめの神様

作者: 沖州 彩人

いじめの神様


学校で僕はいつも一人だ。

教室の中で出来上がっているグループの中でも、僕は孤立したある種の不適合者の寄せ集めグループに属している。

オタクのグループ、ブスのグループ、男女でガヤガヤやってるグループ、無難なグループ、僕らのグループ……。

学校なんて、こんなもんだろう。

不適合者は、ストレス解消の的。

休み時間に、暇潰しとして殴られたり蹴られたり。

変な質問責めされたり、ゴミを投げられたり、机を蹴られたり、何か行動をすれば勝手な想像をされて笑われたり。

それぞれのグループが、それぞれのことをする。

どのグループも共通して、僕らを疎外するのだ。

そういう意味では、僕ら以外が大きな一括りのグループであるかもしれない。

周りのクラスにも、その影響を受けて嫌な噂が流れる。

僕のようにクラスメイトに散々な目に合わされた人が、隣のクラスに先月までいた。

彼はノイローゼを起こしたそうだ。

自殺してもおかしくない世の中、生きてるだけ良いだろう。

ただし、彼の親や祖父母ぐらいしかそう思わないだろうが。

僕からしても、僕以外の人間からしても、不適合者が消えて特別不都合になることはない。

存在していても、空間に不愉快さを与えるだけだ。

学校から消えるのなら、病気でも不登校でも自殺でも構わないのだ。

ストレス解消の的だって、また新たに作ればよい。

そうなりたくなければ、自分の個人的な感情を押し潰してでも周辺の人間と無難にやり過ごすしかない。

個性を尊重したいと言うのなら、周りとの人間関係はどうでもいいと受け止められても仕方ない。

勿論、その個性が周りに受け入れられれば疎外されることもないだろう。

受け入れられなければ、どのグループからも疎外され、孤立していく。

僕もその疎外され、孤立した人間であるのだ。

だから僕が学校から消えても不都合なことはない。

孤立していない人間でも、消えて損する人間なんてほとんどいないだろうが。

それが、学校、教室、人間関係。

そしてその渦中にいる子供の親は、そういう関係を嫌がる。

自分の子供を辛い目に遭わせたくない、そうした勝手な都合を持ち出す。

親自身の経験と比較し、ああすればいい、何でこうなんだ。そう嘆く。

元はと言えば、無難に過ごすことの出来ない子供に育て上げた親に責任がある。

そうでなければ、孤立したり一方的な暴行を受けることはないだろう。

だが僕は、無難な過ごし方をしてきたはずだ。

そうだ、いつだって僕は……。

しかし本当に僕がそうやって過ごしてきたのなら、周りがおかしいのではないか。

必ずしも僕が正しいとは限らない。だが、現実とはそこまで理不尽なものだろうか。

もし、誰か一人が僕を疎外することを生徒たちに促したのだとしたら。

誰か一人の、満足のために。

なら僕も、僕自身の満足のためにしたいことがある。

決して復讐ではない。ただの創造だ。

そうさ。

僕らのグループで、造り上げるんだ。

絶対的な存在を。


「なあ君達、"いじめの神様"って知ってる?」

彼等は僕の言葉に目を向けるも、口を開かない。

無理もないだろう。だが僕は言葉を続ける。

「名のとおり、神様なんだ。そしてその神は、クラスの中から一人だけいじめてもよい人を選ぶんだ」

「そ、そんな神がいてたまるか」

「そうだ……!今よりももっと理不尽じゃないか……!」

彼等はようやく口を開いた。

聞いていて、愉快な言葉だった。

「神が君達の中から選んだ……とは、誰も言ってないよ」

ありもしない神を語り、人を惹き付けようとする。

これほど下らないことはないだろう。

しかし、神、ということに意味があるわけではない。

彼等の心で創造されるモノ、それが何であるか。

「神は……"アイツ"を選んだんだよ」

僕にとっては、ただの自己満足でしかない。

この先に何があっても、責任をとるつもりもない。

「いるわけがないよ、か、神なんて……!」

「……僕も、それは分かってる。でも、もしいたら、少なくとも僕らは理不尽な立場になることもないだろう?」

もしいたら。彼等の同意、賛同を得るためだとはいえ、虫酸が走る言葉だ。

神はいない、現実にifはない。

一つの流れしか、現実には存在しないのだ。

結果が決められていたとしても、そうでないにしても。

結果を知らない人間は、一つしかない流れに自分の理想的で好都合な結果を求める。

いつも現実は、賭けをさせる。

「神が……"アイツ"を選んだのだから」

「お、俺達がそんなのを信じると思ったか……!?もういい歳だ、そんな子供騙しなんかにっ!」

「でもアイツにやり返すための口実としては……」

「俺はアイツに復讐したいとか、口実とかそういうのを求めてたわけではない!」

まだ強情をはる。この立場であることが、不満なくせに。

僕はヒトというものを、もっとしっかり見たい。

ヒトはみんな、繋がりなんてない。

それぞれの意思をもって、そしてぶつかり合う。

そのぶつかり合いは、必ずしも口論と呼べるものであるとは限らない。

口もせず、その考えを否定しているのかもしれないから。

「……その神を信仰する気はない。だがアイツを好き放題殴れるなら、それでいい……!クキヒヒ……ッ!」

行動する勇気が欲しかった者。

「神が、選んだんだ……神が……神が……」

ありもしない、神という偶像にも満たない存在を崇拝する者。

神の名のもとに、復讐しようとする者。

認めずとも協力する者。

僕は"アイツ"のしてきたことが楽しいことなのか。

それが知りたいだけだった。

だが知るためには、その器がなくてはならない。

確かに、僕らは集団社会不適合者と呼ぶに相応しいだろう。

しかしあの不適合者たちは、敵に回すには勿体なかった。

きっと彼等も"アイツ"を追い込むことに協力してくれる。

だから僕は、自分のプライドを踏みにじって絶対的な存在を謳った。

神が選んだのだから、いじめる。

一方的に暴行を加え、行動一つ起こせば笑ってやる。

神が人間を創ったのだとすれば、集団からの疎外や中傷を受ける人間が出来上がることも分かっていたかもしれない。

そうさ、神はそれを分かっていたんだ。

だから人を導いているんだ。

必ず生まれるモノ、誰がその役目を担うのかを決めて。

僕らは"アイツ"を自殺まで追い込むつもりでいる。

あくまでも自殺、僕らが殺したわけではないんだ。

秩序なんてあるから、罪という意識が生まれる。

その秩序の中で人を殺めると、罪だと言われる。

こんな傲慢で狂った考え方は嫌いだ。間違っている。

だが秩序に抵抗出来るほどの力もない。

警察なんてものにさえ捕まらなければ、それでいい。

捕まらないようにして、アイツを殺す。

恨むなら、神とやらを恨め。


「なんだオメェ、俺に物言う権利あんのかぁっ!?」

また、アイツが僕をひとけのない場所へ連れ出し、僕に手を出してくる。

だが今日は、彼等が見ている。もうすぐ変わるんだ。

「汚い手で僕に触るな」

「な、なにいぃっ!?てめぇ殺すぞ!」

そうさ。神は君を選んだんだ。

「稚拙な言葉遣いをするな……っ!」

「い、いてっ!」

それは、力のあるA君の殴打から始まった。

A君以外は大して力はない。だが予め武器は用意していた。

思うがままに、アイツを殴る。

アイツは嗚咽混じりに何かを言っていた。

「ご、ごめ、な、さ……」

だがここで大きく傷をつけて入院なんてされれば、学校生活の中で苦しみを与えることが出来なくなる。

僕らに抵抗するとどうなるのか、最初にそれを教えた。

決して僕自身に力があるわけではない。

団結力なんて下らないものは嫌いだが、今の僕らにあるのはそういったものだろう。

僕らの団結力なるものを、アイツに誇示したのだ。

僕らは黙ってその場を後にした。


次の日、アイツは学校に来なかった。

僕らがアイツを殴ったことは、アイツとつるんでいる連中に伝わったらしい。

だがあの連中は、宗教団体に絡むのを恐れるように僕らから距離を置いた。

アイツがいないと何も出来ない、卑怯者の集まりだ。

今日はつまらない。そう感じた。

アイツは僕らがいないと、つまらないと感じていたのか。

つまらないと感じれば、代替品を作る。

それはアイツのような人間の考え方だ。僕らは違う。

アイツだけを、徹底的にいたぶる。

僕らから逃げようとしているアイツに、逃げ場を与えない。

アイツとつるんでいる連中に声をかけた。

学校に来るように促せばいいじゃないか、見舞いにでも行けばいいじゃないか、と。

連中は僕らを恐れ、ひきつった顔で了解し、足早にその場を去っていった。

これで、アイツに味方はいなくなった。

連中は無難に生活することが第一なんだ。卑怯な人間だ。

僕らだって勿論、卑怯者の集まりさ。

他人の力を借りないと何も出来ない僕、一人の行動に頼り便乗する彼等。

やはりどの人間も卑怯だ。

だが彼等には、僕への服従心が少しでもあるにちがいない。

ただ一人の自己満足に服従する人間が自分のそばにいたことは、幸運と言えるだろう。


次の日に、アイツは学校へ来た。

今まで僕らがされてきたことを、アイツにしてやった。

なかなか楽しいものだ。愉快である。

全て我々の一方的なのだから。

アイツの昼食をアイツ自身にかけてやったり、ノートを水浸しにしたり。

教員も面倒事に巻き込まれるのを嫌がり、何も見ていないフリをしている。

僕らはそれなりの限度というものを知っている。

だから教員に止める手間は与えていない。

それでもアイツはまた学校に来る。

何日も何週間も。

そしてそれが2ヶ月以上続いた頃、ついにアイツは自殺した。

春が近付いてきた頃だった。そう、また新しいクラスが生まれるのだ。

神の必要性もまた生まれる。

ちょうど良いタイミングでアイツは死んでくれた。

一方的に人をいたぶることは、確かに楽しい。

だがアイツの代替品を求めるつもりもない。

僕らはこれ以上、何もしないことにした。

この事はニュースでも取り上げられた。

校長をはじめ教員が、いじめはなかったと主張し続けたおかげで、僕らはアイツの親の泣き顔を安心して見ながら笑った。

その後、学校内で「いじめの神様」という存在は知れ渡り、インターネットを通して全国的に知れ渡った。

進級してからは、僕らでない人間が代わりに手を下していった。僕らの中で選ばれたのは、B君ぐらいだった。

進学や就職をしていき、その間に「いじめの神様」なんてものを耳にする機会はなくなっていった。

僕が創造したものであっても、何も縁のないものとなった。

「いじめの神様」というのもまた、傲慢なものではあった。

だが僕は、自己満足を優先した。

そもそも人間の考えなんて、全て傲慢だ。

考えや言葉だけが並んでばかりじゃ収集がつかない。だからこそ力というものが必要となる。

程度はどうあれ犠牲はつきもの。

力のためでも、決着のためでも。

共存という概念は、狂気という言葉よりも狂気じみている。

その考え方は、僕の中だけにある。

集団の中で異端と判断されるとどうなるのか、既に知っているから。

無難に過ごしてきて、結婚もしたし子供も出来た。

子供には正義や悪という概念は教えていない。

ああいったものこそが、廃れた子供を作るのだ。

異端な子供を作らないようにはする。

もう僕は、かつてのままで在るわけにはいかないんだ。



彼の子どもは成長し、小学校へ入学する歳になった。

それは、入学してから数週間後のことだった。

彼の子どもは友人に問う。

「あの子、なんでいじめられてるの?」

そして友人は答える。

「いじめの神様、って知ってる?」




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[一言] 人間の残酷さを痛感しました。
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