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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第八章 『再会と旅立ち』
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第九十話




 世界中から『三羽の鳥』という名目で巫女の情報を集めようとしたレオ達だったが、推測や元から自分たちの名前を覚えてもらおうとする、見当違いの情報も多く集まってしまった。

 しかし、その中の一つに元大海の巫女ミーナからと思われる情報があり、エルザはこれから再会出来るであろうかつての仲間を想い、嬉しそうに笑うのだった。


 そして、レオ達が降りる村の近くに砂船は泊まる。

 巫女の使いであるレオとエルザに対し、乗務員達の仰々しい見送りをすることも考えられていたが、二人がそれを断ったので船員は普段通りに仕事をしたままである。


「無理を言って乗船させて頂き、大変お世話になりました」

「ありがとうございました。料理とっても美味しかったです」


 荷物を持った二人は廊下を歩きながら、すれ違う船員達と別れの挨拶を交わし、タラップの前までやって来る。

 船員たちによる仰々しい見送りは無くなったが、せめて責任者だけでもということで船長が見送りに来ていた。


「まだ顔色が良くなっていませんが、大丈夫ですか?」

「はい、原因は分かっていますので、しばらくすれば大丈夫です」


 握手を交わしながら船長が心配の声をかけたのは、彼の言う通り顔色の優れないレオ。血色が良くなく、数日前から船酔いだと伝わっている。

 そして、船長が終わると次はタラップの前に居る、イヴとサラサ達の番となる。ただ、当然のようにリュリュとモイセスはこの場に居なかった。レオ達と仲良く、親しくなろうとも考えていない彼らなので、好き勝手に船内で行動しているのだろう。


「ま、精々頑張りな。そっちの経過は聞いといてやるぜ」

「こちらも他の巫女(かたがた)と連絡を取って話を進めていきますので」


 三人に見送られ、レオとエルザは船を降りた。

 そして、二人が少し離れてしばらくすると、自動でタラップは折り畳まれ、汽笛を鳴らしながら船は砂を切って走り出す。砂漠に取り残される二人だが、少し離れた場所には村の影が見えているので心配はない。


 エルザは砂船で食料や水を補充してもらい、再び重くなったソリを牽いて歩き出す。


「それじゃあサンスクレイに向かいますか」

「あぁ、そうだな」


 エルザがソリを牽いている以上、レオは自分の荷物だけを持って歩くのだが、その足取りはエルザよりも重かった。とは言え、普段と比べればという程度で、エルザも心配する様子はない。

 それに、レオが体調を崩してから数日は経っている。容体もだいぶ良くなり、先ほどまでも作業の手伝いをしてもらっているのだから、心配する必要がないことは分かっていた。


「ねぇ、あの宝石もう一回見せてよ」

「別に良いが、壊すんじゃないぞ」

「分かってるって」


 レオは今まで無かった首に掛けている紐に触れる。エルザの言う宝石だろうが、それは服の中に仕舞われていて、外からでは見ることが出来ない。盗難防止の為である。

 そして、服の中から姿を見せたのは、強く翠色に輝く宝石のような物だった。親指を横に二本くっ付けたほどの長さと太さで、風が巻き起こっているかのように、いくつかの線が乱雑に入り組み、見栄えはそれほど良くは無い。加工されていない原石かのようにも見えた。


「ふーん、やっぱり綺麗だけど特別な感じはしないね」


 宝石を受け取ったエルザは、手の平に置いたり光にかざして翠色に輝く物体を見る。これはレオが精霊との契約の時に出来た物で、便宜上『契約の石』と呼ぶことにしていた。


「それで精霊との契約ってどんなだった?」

「そうだな――」


 宝石をレオに返しながら尋ねるエルザも、精霊のことはほとんど知らないので興味があるのだろう。道中の暇つぶしには最適な話。レオはエルザの横を歩きながら、契約の時のことを話し始める。




 ◇◇◇




 砂船のとある一室にレオとサラサの姿があった。机や椅子も無い元空き部屋に椅子だけを持ち込んで、二人だけで向かい合って座っている。いつものように目蓋を閉じて余り表情の変わらないサラサだが、今回は自信なさ気なのが見え隠れしていた。


「仲介とは言っても、私もこのような事は始めてなので、上手く出来るかは分かりませんよ」

「もちろん構いません。俺もダメ元でのお願いでしたから」


 精霊と契約するという話自体、失敗して当然のようなものなので、契約の失敗以前に話し合いすら出来なくても、レオがサラサを責めることなどあるはずも無い。

 その言葉で気が楽になったのか、サラサは背筋を伸ばして表情を引き締め、目蓋を閉じたままレオに顔を向ける。


「それで具体的に私は何をすれば良いのですか」

「はい、今までは精霊の好意によるものだったので、手伝うのも止めるのも彼ら次第だった訳です。ですから、これからはこちらも返礼を用意するので、確実に手を貸して欲しいということを、精霊に伝えてもらいたいんです」

「見返りを用意するので、契約を結びたいというわけですね」


 サラサは少し考えをまとめるように俯いた後、眉を顰めてからゆっくりと目蓋を開く。するとあの独特な魔眼が見えるのだが、前回と少し色合いが違うことにレオは気付く。

 前見たときには瞳の中央が茶色で、その周りを囲うように緑、青、赤の輪が連なっていた。しかし今は中央が赤く、茶色が二番目となっている。


 声には出していなくても、レオの視線と表情で何を考えているのか伝わったのか、サラサはその疑問に答える。


「あぁ、これですか。直前に命じた精霊を示す色が中央に来るらしいです。私は直接見る機会が余り無いので、気にはなりませんが」


 ため息交じりに話した通りならば、サラサは直前に火の精霊を使役したということだ。そして思い出されるのは、リュリュが魔獣アグワラスに対して火属性の魔法を放った後、躊躇することなく斬りかかったことである。

 ただ、レオはそれが弱点に繋がることも理解した。


「あぁ、目蓋を閉じているのは敵に気取られる可能性もあるからですか」

「……まぁ、それもありますね。普段から目蓋を閉じて行動していれば、閉じてでも戦いやすいですから」


 そう言ってサラサは部屋の周囲に視線を走らせると、その瞳の光が心成しか強くなったようにレオは感じた。


「レオ君は風の精霊以外は扱えるんですか?」

「いえ、無理ですね。姿を知っていますし、一応何度か試してはみたんですが……」

「マナビトでもない普通の人が、精霊に願いを聞いてもらってるだけで凄いと思うんですけどね」


 そう言って呆れたようにふっと息を漏らす。床を眺める瞳には少しばかりの切望の色を感じられるが、頭を切り替えてレオに向き直る。ほんの一瞬であり、レオも特に触れることはなかった。


「まあ、相性のような物でしょう。それで、レオ君は彼らに力を借りる代わりに何を差し出すつもりですか」

「……何がいいですかね。彼らが好きそうな物とかもマナ位しか知らないので、サラサさんからの助言も欲しいんですが」


 前世で人には見えない精霊の姿を知っているとはいえ、交流したことのないレオには彼らの知識は少なく、人間界で調べようにも情報がほとんど無いのだから仕方ないのかもしれない。

 しかし、サラサもそれほど詳しい訳ではなかった。


「マナを用意出来れば、それが一番でしょうね。アレは彼らにとって食料であり、遊具であり水浴びでもありますから」

「マナは別名『精霊の息吹』とも呼ばれていますしね。ただ、俺がどうこう出来るようなものでは無いですから」


 マナと言えば、魔力を吸収してマナを吐き出す神聖樹が、真っ先に思い浮かぶだろう。ただレオの言った通り、それを個人でどうにか出来る代物でも無い。だからこそ、サラサに相談したのだ。

 第一にして最有力の候補が外され、サラサは今度は深く考えを巡らせる。


「……でしたらマナが微量に含まれる魔力でしょうか。ただ、それだけだと今のレオ君では足りないでしょう」

「なら血、とかはどうですか」

「確かに血液は身体と魂を繋いで廻り、その人の本質を解析出来る代物にもなると聞きます。彼らの好奇心を刺激する物にはなるかもしれません」


 サラサは血よりも艶やかな赤い瞳で、レオの足元から頭の先までを何度か視線を往復させる。


 古来より儀式や呪いで用いられてきた血液は、他人から多く輸血されれば人格が変わってしまうと噂されるほどだった。相手を知りたいと考えてもらえるのなら正解だろうし、血液から掛ける呪いも多くある以上、相手を信じているという事も伝えられる。

 ただ、問題はどれほどの量を必要とされるのか、である。


「血液を渡すというのは、使用する度に支払う感じですか?」

「……いえ、さすがに戦闘中不利になることは避けたいですので、出来れば契約時の一回で済ませて欲しいと考えてるんですが」


 それを聞いたサラサは眉をしかめてレオの提案を戒める。


「それは、危険ではありませんか」


 つまり精霊の欲しい分を一回で済ませてしまおうと、レオは言っているのだ。それがどれだけの量になるか分からず、もし大量に血を抜かれてしまえばレオが死ぬ危険性もあるのだ。

 しかも、サラサがより心配になる理由は、契約の相手が精霊だということである。彼女はレオの考えを変えさせようと説得を試みた。


「精霊は人ではありません、それどころか生物ですら無いかもしれない。彼らは己の愉悦を満たす為に、わざとレオ君を殺そうとするかもしれませんよ」

「俺が精霊に力を貸してもらおうと考えたのは、一人では出来ないことがあったからです。彼らはそれに応えてくれました。そう悪いことになるとは思いません」


 だが、レオに通じることはなかった。

 レオは前世とは違う自分の無力さを嘆き、精霊に助けられたと笑い、笑顔を浮かべたまま真剣な眼差しをサラサに向ける。


「それにその時はサラサさんが止めてくれると信じてますから」


 信じているというレオの言葉だが、それはサラサというよりもその背後にいるイヴに向けて放った言葉だった。

 確かにイヴにとってレオは、自分の知らない色々な情報を聞ける大事な存在だろう。そしてそれは、レオよりもサラサの方が良く知っていること。サラサとしても言われるまでもなく、危険になりそうだったら止めるつもりだったのだ。イヴの為に。


 ただ、レオの無遠慮な物言いは、先ほど考える振りをしながらイヴの会話が終わるのを待っていたことへの意趣返しか、と思いながらサラサは小さくため息をこぼす。


「ふぅ、分かりました。確かにレオ君に風の精霊が懐いているのは事実ですし。それで話を進めていきましょう」


 サラサは今決まったことを、レオのやや上の空間を眺めながら伝え、何度か一方的な会話をする。その語気は非常に淡々としていて、交渉を成功させる気が無いようにすら感じさせた。

 そして、しばらくサラサの独り言。レオには彼女が精霊に掛ける声は聞こえるので、内容は何となく把握しているが、微かな驚きと共に思わず声が漏れる。


「『なるほど、分かりました』レオ君、契約内容はこれで良いようです。どうやら遠い昔に人間と契約したことがあるらしく、その時の魔法陣を使用するらしいいので、少し部屋の隅に寄っていて下さい」


 マナビトではなく、普通の人間が精霊と契約を持ちかけそれが成功していたのだ。その事実にレオもサラサも驚き、精霊が伝えた通り部屋の片隅へと移動する。

 レオ達が座っていた椅子以外何も無い部屋は、二人が中央から移動するだけでかなり広く感じられた。おそらくはこの部屋に魔法陣を描くつもりなのだろうが、二人には少しばかり嫌な予感がしている。


「でも精霊がどうやって魔法陣を描くんでしょう」

「……まぁ、彼らのことですから」


 サラサが言い終わるのとほぼ同時に、窓も開けていない部屋に風が舞う。いや、風というのも生易しいほどの衝撃は、香り立つ高級な木材で作られた床を容赦なく切り裂いていった。


「香りが強くなりましたね」

「いい香りです。きっと他所の国でも高価な材木でしょうね」


 諦めと達観した二人の会話。精霊は人間ではないので、物の価値などわかるはずもなく、分かった所で遠慮するような性格でもないことを知っていたのだ。

 そして、ゴリゴリバリバリと音を立てて数分で出来上がった魔法陣は、人間界の物でも魔界の物でもない、見たことの無い文字が描かれてあった。しかし、その事に二人は疑問が浮かぶ。


「ん、サラサさんは精霊の文字を見たことはありますか?」

「いえ、私も言葉を交わすことはありますが、文字を見るのは初めてです。『この文字は普段使うのかしら?』」


 精霊に尋ねれば答えは直ぐに返ってきたようだ。サラサは何度か頷いては一人で驚き、彼らから聞いた事をレオに伝えた。


「どうやら大昔に契約した人間が使った魔法陣を、そのまま写して使っているそうです。古代に滅んだ国の文字でしょう」


 こういった物が好きなイヴに後で伝えようと考えながら、サラサは精霊から言われた通り、レオが魔法陣の中央に入るよう勧める。何も分からないレオは、それに従って中央に静かに立つ。


「それで、これからどうするんですか」

「足元に何も書いてない小さな円があると思いますが、そこに血を流した手を置いてください。小さい傷でもそこから血を吸い取るそうです」


 そう言われたレオが足元を見れば、三十センチほどの大きさの円が描かれてあった。

 そして、血を流すため指先に傷をつけようとするが、剣は自室においてある。なので、噛み切ろうかとも思ったのだが、それを見越してたサラサは懐から黒鞘の小刀を取り出し、レオに一声掛けて投げて渡す。


 縦に回転しながら向かってくる小刀を受け取ったレオは、見事な光沢の鞘に感心しながら、僅かに抜いた刃の上で親指を走らせて指先を軽く斬る。そして事が済むと、血で鞘が汚れないよう注意しながらサラサに投げ返した。


「後は精霊がなにかするらしいですが、危なくなりそうでしたら止めますので」

「その時はよろしくお願いします」


 そして、息を整えると静かに小さな円に手を置く。

 すると再び室内に風が巻きだし、レオの魔力を吸って木の板が削られた魔法陣が青白く輝き始め、その瞬間レオの身体がガクリと崩れる。完全に倒れた訳ではなく、思っていた以上に魔力を吸われたために、体勢を崩してしまったのだ。


「くっ」


 最初に魔力を失い、次にどんな手法か分からないが小さい傷口からどんどんと血液を失い、倦怠感が襲い身体に力が入らなくなっていく。

 そして、レオの体調が悪くなるのと反比例するように、青白く光っていた魔法陣が徐々に赤い光に変わっていく。


 最初は肩膝を付いていたレオだったが、それでは身体を支え続けるのが無理と判断したのか、どっかりと腰を下ろして背中を丸めると、床に置いた右手を眺める。


「大丈夫ですか?」

「……はい、まだ。ただ血を流すのには慣れていても、吸い取られることは」


 そう言いながらサラサを見るレオの顔は、少し血の気が引いて青白くなっている。このまま何も変化が起こらないなら止めるべきか、サラサがそう思い始めてからやっと次の工程へと進む。

 今まで部屋一杯に描かれていた魔法陣が、徐々に縮み始めたのである。これが魔力で描かれた陣ならまだしも、床を削って作った陣にも係わらずだ。


「少し……遅いな」


 レオがぼやく。工程が次に進んだとしても縮む速度が遅く、このままでは最後まで意識を保っていられるか、という問題があったからだ。もちろんそんな事になれば契約は結べず、気まぐれな精霊が再び契約を結んでくれないかもしれない。

 そんな心配があるからこそ、サラサの「止めますか?」という声も断ったのである。


 レオの血色が悪くなるほどに魔法陣は赤くなる。その光景はとても真っ当な契約には見えず、まるで魔者と取引をしているようだった。まあ、元魔族のレオからすれば、どちらも同じようなものでしかないが。


 そして、遂に魔法陣はレオの手が置いてあった円に収束し、完全にレオの手の下に姿を消す。


「……っ、終わった、か」


 契約完了を知らせるように、レオの手の下には今まで無かった手触りが生まれていた。

 身体を横たえながら手をどかすと、そこにあったのは翠色に輝く親指ほどの大きさの宝石。それを手に取って見ようとするレオだったが、身体を自由に動かせずサラサに奪われてしまう。


「手に取った感じでは普通の宝石ですね。あと中央に赤い結晶も見えます。『これはどんな役割があるの』」


 サラサは一通りの観察が終わると、精霊に尋ねながら横たわるレオの手の上に宝石をそっと置く。それを見れば確かにサラサの言う通り、翠色に輝く宝石の中央には、命の灯火とも思える血のように赤い結晶が輝いていた。

 レオは精霊との契約の証を軽く握り締める。……と、今までは感じなかった雰囲気を察知した。


「精霊、か」

「どうやらそのようです。ただ、感じられるのは契約を結んだ風の精霊だけと、姿を見ることまでは出来ないそうです。そして、その宝石はレオ君以外が持っても意味ないそうで、例え宝石を無くしたとしても契約が切れることはないとのことでした」


 契約によって出来た物と聞けば、普通は契約書のような物で失くせば契約が破棄されるものと思ったが、どうやらそんなことは無いようである。

 これは精霊からの贈り物なのだろうか、レオは重くなる目蓋を堪えながら彼らに感謝した。


「それは……ありがたい、ですね」

「まあ、彼らの意思というよりも、契約の魔法陣を創った人が優秀だったということでしょう」


 どうやらこの宝石は、名前も顔も知らない先人のおかげのようで、その人にも感謝しつつレオは宝石を握り締めると、繋ぎ止めていた意識を手放した。血液を大量に失ったのだから、そうなるのも致し方ないだろう。


 一人佇むサラサは部屋の現状を見た。レオは倒れて気絶し、部屋は魔法陣が刻まれた時以上にボロボロ。魔法陣が縮んだ時に、板を削り引っ張り剥がしたのだから当然とも言える。これでレオが血を流していたら惨劇の完成である。


「……船員を呼びましょう」


 レオを運ぶにも人手がいるのだ。サラサは静かに部屋を後にして、レオは一人取り残される。そんな彼にじゃれ付くように、風が吹いては彼の髪をなびかせていた。




 ◇◇◇




 レオの体調や砂漠の気候などもあり、契約の話を伝え終えるのにだいぶ時間が掛かった。既に近くにあった村には立ち寄っていたが、体力も持ち物もそれほど消耗していないので、軽く休んでから再び出発している。


 精霊と契約する話を聞いたエルザは、レオの周囲に視線を走らせるが、精霊が見えるはずも無い。


「そう言えばさ、精霊ってどんな姿してるの? やっぱりソフィアさんにあげたガラス細工みたいに可愛い?」


 今、世界中で目撃されている精霊の姿は、ガラス細工のように小柄で可愛らしい姿をしている。姿を見ることの出来ないエルザは当然気になるのだろう。

 レオも姿を見れないとは言え、それは人間になってからの話。前世では普通に見ることが出来たので、その姿をもちろん知っている。


 ただ、尋ねられたレオは進む足を止めると、答えるべきか眉をしかめて悩み、結局は何かを察したかのように明後日の方角を見ながら口を開いた。


「……それは知らない方が良いな」


 遠い目をするレオを見れば、余り好ましい姿をしていないであろう事は想像に難くない。エルザは驚きながら精霊の姿を想像してみるが、それよりも一つ思い当たることがあった。


「え、じゃあもしかしてサラサさんが目を閉じてるのって、魔眼を見せたくないからだけじゃなくてっ」


 真実を知るのはサラサだけだろうが、レオはその考えを否定しなかった。ということは、レオも余り見たくない見た目だということである。

 エルザは再び周囲を見回すが、そこにはいつもと変わりない殺風景な砂漠の景色。怖いもの見たさはあるのだが、その機会が訪れることは無いのだろうと、少しばかり残念な気持ちでソリを牽いて歩みを進める。


 そんな二人の後を追うように、一陣の風が吹くのだった。






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