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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第二章 『種族という壁』
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第八話


 予定外の会話の弾みで、予定よりもだいぶ遅れた夕方頃に目的地であるダザンに到着したマリア一行。

 しかし、オークリィルなら我先にと野次馬が押しかけて来たが、ダザンでは誰も来ない。いや、それ所か誰一人として外を歩いてはいなかった。


「成る程な。魔獣が居るってのも嘘じゃなかったみてぇだな」


 そう言うグウィードの視線の先には崩壊した民家の家々が有った。

 ある家は燃やされ消し炭になり、ある家は横から衝撃を受けたのか家の壁が数十メートル先まで吹き飛び、ある家は屋根から地面を含めて両断されている。

 だが、そればかりを見ている訳にもいかず、レオがこれからの行動をタウノに訊ねた。


「これからどうするんですか?」

「宿泊は依頼主であるヨーセフさんの別荘に泊めて下さるそうです。あと、魔獣の情報もそこに居る人から聞いてくれ、と」


 何を置いても相手の情報は必要だろう。それによって敵の正体が分かれば、戦い方も弱点も分かるかもしれないからだ。

 だが、タウノの言い方だと、どうやら依頼主であるヨーセフは別荘に居ないらしい。まあ、誰も好きこんで魔獣の居る場所に居ようとは思わないだろう。



  ◇



 小高い場所にあるこの町一番大きな屋敷、住所と共にそう説明された依頼主の別荘へとレオ達はやってきた。

 他の金持ちも別荘を持っているダザンで一番大きく煌びやかで、また手入れの行き届いた中庭を見れば、転移装置を持てるだけの財力を持っている事が分かる。


 大きな扉に備え付けられた、金で彩られた獅子のノッカーを志願したエルザが叩いて音を響かせると、直ぐに返事が返ってきて扉は開かれた。

 中から姿を見せたのは、空のような青色のショートヘアーに同色の瞳を持つ、メイドの格好をした若い女性。


「どちら様でしょうか」

「大地の巫女であらせられるマリア様だ。用件はヨーセフ殿から伝わってると思うが」


 イーリスの答えは予想していた通りの答えだったのだろう。メイドは直ぐに「受け賜っております」と答えマリア達を中に入れると、自分に付いてくるように言って歩き出した。


「あのメイド、只者じゃありませんね」

「まあ、ただのメイドじゃないな」


 隙の無い立ち振る舞いを見れば、この場にいる全員が同じ事を思い、少しだけ警戒心を上げる。すると、そんな空気を敏感に察したのか、メイドは謝る必要が無いにも関わらず頭を下げた。


「申し訳ございません。私がここに居りますのは、他のメイド達が恐がっている為で、皆様をどうこうしようというような他意はございません」


 確かに魔獣が居て何時襲われるかというような状況で、ごく普通のメイドが日常生活を過ごし、仕事も出来るかと言われると、よっぽど肝が据わった人以外には無理だろう。

 それに、頭を上げて見える澄み切った青空のような瞳は、マリア達から見ても汚れが無く嘘を言ってるようには見えなかったので、多少警戒を解くとメイドの後に付いていくことを決めた。




 案内されたのは応接間だった。天井には宝石が鏤められたシャンデリアが七色以上の輝きを放ち、ソファーや棚、装飾品に置物はその全てが一流の物だと一目で分かる。

 メイドはお茶の用意をする為、応接間に入ってきたドアとは反対方向から出て行き、それを機に各自が応接間に置かれた物を見て回る。


「それにしても、悪趣味な部屋だね~」


 エルザの言うとおり、この応接間は色彩や置物の系統などを全く考えず、ただ高い物をこれ見よがしにおいてあるだけの部屋だった。

 誰もその意見に突っ込まないと言う事は、少なからずそう思っているのだろう。天井に飾られているシャンデリアでは、宝石の輝きで落ち着けるはずもない。


「さっきのメイドは確りしてそうだったがな」

「ヨーセフさんがよっぽど我侭か我が強いんでしょうかね」


 それからメイドが戻ってくるまで、エルザが何か分からない物に手を伸ばそうとして、タウノからその値段を聞いて慌てて引っ込めたり、マリアとエルザが可愛らしい人形で、レオとイーリスが壁に掛けられてある剣について話し合ったり、グウィードがふかふかのソファーにその身を沈めたりしながらメイドの到着を待った。


 しばらくして、先ほどのメイドがワゴンを押しながら戻ってくる。


「エンディーニ地方の紅茶になります」


 そして、これまた高そうなカップに注がれた紅茶とクッキーをマリアたちに差し出して、マリアたちに進められてから自身もソファーに身を沈めた。


 エンディーニ地方とは紅茶などの茶葉が有名な地方で、エンディーニのお茶は王家でも使われているほど良質であり、これまた言うまでも無く高級なものである。


「私のことはウィズとお呼び下さい」


 メイド、ウィズが名乗ると全員が彼女に注目する。

 これから魔獣のことを話すのだと分かり、それぞれが今まで人里を襲った魔獣を頭の中で上げていく。


「先ず蒼月湖に居る魔獣ですが……おそらくエンザーグドラゴンでしょう」


 予想外とでも言うべき魔獣の名前を聞いて、さすがのマリア達も一瞬ショックの余りに言葉を発せなくなり、ピクリとも動けなくなってしまった。


 エンザーグドラゴンとは人間界の最強種とまで呼ばれる種族。

 今まで確認された全長は最小でも三十メートルはあり、口からは吐き出す炎や剣などの武器はもとより、魔法に対しても防御力のある強固な鱗、そしてその鱗に覆われた全長の半分を占める長い尻尾はエンザーグドラゴンの特徴でもある。

 また、その力と凶暴性は過去にいくつもの国を滅ぼした程。


「エンザーグは蒼月湖の畔で寝起きをしており、私達に食料の調達を要求し、見せしめとして民家を数件破壊しました」


 この村に入ってグウィードが見つけた家がそうらしく、あの破壊力を見てマリア達はまた顔を歪めた。

 ウィズはここで「何か質問が無いか」と訊ねる。


「さっきエンザーグの名前を出したとき、『おそらく』って言ってたのは不確定要素でもあるのか?」


 グウィードがカップを持ち紅茶を飲みながら聞いた。

 カップの取っ手は小さく、指が入らないので手持ちになるのは仕方の無いことである。


「はい。調達した食料は私が運んでいますが、その時に見たエンザーグの鱗の色が普通のとは違い赤黒かったのです」


 普通のエンザーグドラゴンの鱗は漆黒と言っていいほど真っ黒で、その中に深い光沢や奥深さがあり、武器や防具は基より美術的価値も高いほどだ。

 しかし、生物学上珍しい事ではあるが普通の色素とは違う生き物も発見されていて、それだけでは断定できない。


「それに全長も十五メートル程で、これは子供ということかもしれませんが、手が過去のものより少々大きく、凶暴なはずのエンザーグが村を攻撃せず、ただ食事を要求するだけと言うのも可笑しな話です」


 ウィズの意見を聞いてマリア達も考え込む。

 エンザーグドラゴンとの違いが一つだけならまだしも、それが三つ四つとなれば疑ってみるのが当然である。


「見間違い、若しくは種族が違うということは?」

「それは有り得ません」


 タウノのもっともな意見もウィズが即座に否定して見せた。

 記憶力に自信があれば、見間違いでも否定出来るだろうが、種族の場合はドラゴンに詳しくなければ否定しにくいだろう。特徴とも言える物が違っているのだから。


 だからこそマリア達も疑問に思ったが、それを尋ねるには躊躇してしまいそうな雰囲気。

 ウィズは少し物悲しげに顔を上げると、何処か遠くを見つめる様に遠い目をしながらポツリと呟いた。


「……皆様はアゼラウィルの東北に在った、テーゼと言う村をご存知ですか?」

「テーゼの滅跡か」


 直ぐに答えの出たグウィードが苦々しく口にする。

 テーゼの滅跡とは幼き日に誰もが習う過去の災いの一つで、十七年前に何の変哲も無いテーゼの村をエンザーグドラゴンが襲い、約百六十年振りに歴史に名を刻んだ災厄だ。

 家々は破壊されて燃え上がり、人々は恐怖に逃げ惑うしかなかったとされている。しかも、テーゼの在った場所に草木が生えるのは数百年後とまで言われ、エンザーグドラゴンの恐ろしさをまざまざと見せ付けた災厄であった。


「私はその生き残りなのです。あの襲ってきたエンザーグドラゴンも、ヨーセフ様の御付の方々にやられ、今回ヨーセフ様が魔獣で困っていると聞いて……私事で申し訳ありませんでした。ですから、私がエンザーグドラゴンを見間違えるはずは有りません」


 ウィズの絶対の自信は幼き日に見た恐怖の象徴であり、そこまで言われるとマリア達としても信じるしかない。

 だが、それでは何故、エンザーグドラゴンと蒼月湖に居る魔獣とではそこまで違いがあるのか、マリア達は頭を捻るが答えは出ない。


 そんな終わらない思考を止めさせたのは、今まで会話に関わらずに出された紅茶とクッキーに舌鼓を打っていた二人。


「そんな事どうだって良いじゃん。食料を要求したってことはエンちゃんが人語を喋れるって事でしょ? そんなに気になるなら直接聞けばいいんだし」

「それに今考える事は、どうやってそのエンザーグドラゴンを倒すのかでしょう」


 もちろんレオとエルザの二人で、マリア達もその言い分に納得したらしく、タウノは頭を働かせるためクッキーを一口齧る。

 その間に、イーリスが念を押すように確認した。


「人語を喋ったというのは間違いないな」


 その問いにウィズは迷うことなく頷き、一斉にため息が零れる。

 各々、言いたいことはあったが、一先ず紅茶で言葉を飲み込むと、ウィズに他に言うことがないか聞いた。

 すると、ウィズは真剣な様子で「私事ですが」と続ける。


「恥ずかしながら、私はヨーセフ様に雇っていただけるまで、傭兵をしておりました。ですが、あれだけの強さを持った人も魔者も見たことがありません。もしかしたらテーゼを破壊したエンザーグより」


 ウィズは見たところ二十代である、十七年前のエンザーグ襲来は子供の頃。その時の恐怖は、もしかしたら実際の力以上にエンザーグを力強くさせてしまうかもしれない。

 だが、それがあった上で当時のエンザーグより強いと言ったのだ。


 もちろん、子供に相手の強さなど分かるはずない、と笑い飛ばすことも出来るが、そんなことをする人間はここには居なかった。


「一ついいですか。何故依頼をしたときに魔獣の詳細が教えられて伝えられてなかったのでしょうか?」

「それは、ヨーセフ様のお考えなので何とも言えません。ただ、エンザーグドラゴンだと判別したのは、依頼を出されてから雇われた私ですし、それが曖昧である事もお伝えました。ですので、不確定なことはお伝えしなかったのでは、と考えております」


 伝えることが一段落したのを見計らって、レオが質問しそれにウィズが答える。

 そして、他に質問が無いかとウィズが周囲を見回すが、全員が首を横に振ったことでそれぞれの泊まる部屋へと案内することになった。






 案内といっても同じ直ぐに終わり、マリア達はエンザーグドラゴン討伐の作戦を立てるべく、グウィードの部屋に集合していた。

 ただ、レオはこの広い屋敷を見て回りたいらしく、エルザに至ってはクッキーの食べすぎで眠くなったそうで作戦会議には参加していない。もっとも、マリア達からすれば二人とも戦わせるつもりはないので問題はないのだが。


「しかし、まさかエンザーグドラゴンとはな」

「しかも人語を喋るんだよね」


 ベッドとソファーに座り込んだグウィードとマリアの呟きには、恐れや焦りが見え隠れし、それを茶化すエルザが居ない為に余計重苦しい雰囲気が部屋を包み込む。

 だがそれも仕方の無い事で、伝承では『エンザーグドラゴンの一掻きで家は壊れ、一飲みで街は消え、一振りで山は砕け、一息で世界は燃える』とまで言われているのだ。


 しかも人語を喋る。

 実際には、魔力を操作することでエンザーグの台詞が人語と理解してるだけだが、レオが魔力を操作して魔物と会話するようなことを、普通の人間は思いもしないし出来ない。


 なので、エンザーグが一方的に行っているのだが、共同ではない作業には相手側の魔力波長に変化させる高度な技術と、無駄に消費し更には相手に伝える膨大な魔力を必要とする。

 だからこそ、人間界では『人語を喋る魔獣は強い』と考えられていて、そしてそれは正しいのだ。


 ちなみに、何故人語を喋って強いのが魔獣に限定されているかというと、魔物は魔獣ほど魔力か技術が足りずに一方的に話しかけることができず、魔族は人の形をしているので不思議には思わないらしい。


「タウノ、エンザーグドラゴンの特徴は?」


 マリアと同じソファーに腰掛けたイーリスは、椅子に座るタウノに訊ねた。聞かれたタウノは、自分の知識の中からエンザーグドラゴンに関連する事を引き出そうと、頭を揉み解す。


「エンザーグドラゴンは全身を覆う鱗が非常に硬く、剣も魔法も余り効果がありません。ただ、鱗の無い懐の肉は多少硬いでしょうが、グウィードさんとイーリスさんになら斬れるでしょう」


 視線を向けられた二人は黙って頷く。


「そしてもっとも効率がいいとされる倒し方は、胸を貫いて心臓を破壊すること。そこ以外は傷をつけることすら難しいですからね」

「でも、それじゃあ」

「マリア、危険は承知の上だ」


 心配し、隣に座るイーリスを覗き込むマリアを、イーリスは安心さえるように力強く頷いてみせた。

 胸を貫くということは、接近しなければならないということ。そして、それは最強の矛と無敵の盾を兼ね備える、エンザーグの尻尾の範囲に踏み込まなくてはならないからだ。


「そういや、タウノはフェアルレイ使えたか?」

「いえ、僕は攻撃魔法がほとんどですので」


 風属性の中級魔法、フェアルレイ。俊敏性を高め、移動や動作が速くなる補助魔法である。

 だが、タウノは自身が言ったとおり補助を余り覚えておらず、バイアも魔法はほとんど扱えない。そして、マリアとイーリスはそもそも反対属性の魔法を覚えないように育てられていた。


 大地の巫女であるマリアは分かる。ではイーリスはというと、彼女は大地の巫女候補の一人だったのだ。

 今現在では複数の候補生を集めて共同生活、皆が鍛えられていく中で最終的に一人の巫女を選び、選ばれなかった候補生は現巫女との相性も考えられながら、四聖会の重要な地位に就くのである。

 そして、大抵の近衛師団団長は元巫女候補生であり、巫女の引退と一緒に団長も引退するのが習わしであった。


「確か二人がフェアルレイを使えたな。戦いにゃ連れて行けねえが、事前にかけてもらえばこっちも楽になるだろ」


 レオ達が使える魔法は坑道の中で聞いていて、同じ属性という事もあってか二人の使える魔法はだいたい同じだったが、エルザよりも魔法が得意といったレオの方が使える魔法は多い。


「私たちの目的は魔王を倒すこと……だから、明日は危険だと思ったら直ぐに退いて、余り無理はしないように頑張ろうね」


 最後にマリアがそう纏めた。

 無駄に時間を掛ける必要ばない、明日にでもエンザーグドラゴンの元に行く予定である。

 グウィード達は自然と頬を引き締め目線を鋭くして、伝承や本でしか知らぬ敵との戦法を頭に巡らせた。



  ◇



 ヨーセフの別荘を散策していたレオは、ウィズを探して家の中を探し回ったのだがその姿は見つからず、今は外に出てとある一角に狙いを絞って移動中。

 そして、その狙い通り敷地の隅、木々の影となって見づらい場所にウィズはひっそりと立っている。


「そんな所で何をしてるんですか?」


 魔力を高めることなく発動させたフェアルレイで、気づかれないよう一気に距離を縮めウィズに声を掛けた。

 当然、いきなり話しかけられたウィズは驚き、手に持っていた水晶から急いで顔を上げる。


「いえ、主にマリア様の到着をお知らせていたところですが、何か御用でしょうか?」


 確かに、今ウィズが仕舞い込んでいる水晶は連絡用の物だ。

 ただ、連絡をするのに野外で隠れるようにする必要はないのだが、その当然な疑問にレオは触れることなく、何かを探すように周囲を見回す。


「一言ご挨拶がしたくてヨーセフさんを探しているのですが、この家には居られないのでしょうか?」

「はい、ヨーセフ様は仕事も有りますので、アゼラウィルのご自宅に居られます。マリア様方を直接お出迎えすることが出来ないのは残念だ、と非常に悔しがっておられました」


 隅から移動して日向に出てきたウィズの表情は、既に落ち着いている。


「そう言えば、ウィズさんは今回ヨーセフさんに雇われるまで、傭兵をなさっていたんですよね。こういってはあれですが、その割に礼節を弁えておられるようですね」

「それは、些か傭兵に偏見をお持ちではないでしょうか。礼節を必要とされる仕事も任されておりますので」


 ウィズは特に気分を害した様子もなく、レオに家に戻るかと訊ねたが、レオはそれを断りウィズに背を向けて歩き出した。


「あぁ、そうだ」


 だが、途中に何か思ったのか足を止めるとウィズの方に振り返る。


「水晶の連絡先を尋ねた時は『主』で、ヨーセフさんの居場所を尋ねた時は『ヨーセフ様』。わざわざ二つの呼び方を使ってるんですか?」

「そう、でしたか? よく覚えてませんが、時と場合によるのではないでしょうか。では、私は仕事も有りますので失礼致します」


 何事も無いかのように深々と静かに礼をすると、ウィズは仕事のため屋敷に戻って行ったが、その瞳がほんの一瞬鋭くレオを貫いたのを見逃さなかった。

 レオは目を瞑り何事か考える様子を見せた後、近くにある大きな木の下まで行くと、頭の後ろで手を組んで木に背中を預け地面に腰を下ろす。


「逃がした魚は大きいんじゃない?」


 木の上から声が聞こえてきたかと思うと、何かが落ちてきた。エルザだ。

 しかし、レオは特に驚いた様子を見せず欠伸を一つ。


「まだ餌を垂らしただけだ、後はそれに食い付くのを待つさ。ところで、お前は腹いっぱいで眠くなったら木の上に登る習性でもあるのか?」

「そりゃ確かに木の上で眠ることも有るけどさ、今回は違うわよ。ってか、分かってる癖に。私も気になったのよ、私と同じ魔闘士のウィズさんにね」


 レオとエルザが先ず引っかかったのは、ウィズの実力だった。特にエルザは洗練された魔力からウィズが魔闘士だと見抜いていたのだ。

 立ち振る舞いからグウィード達も警戒していたが、魔闘士となればそれ以上に警戒が必要なのだ。意図的に弱く見せられるのは、エルザ自身もよく分かってるのだから。


「それで、ウィズさんが誰と何を話してたか分かるか?」

「無理無理、あそこには結界が張ってあるし」


 傍に立っているエルザの顔を見上げながらレオは訊ねるが、聞かれた本人は肩を竦めて否定した。


 ウィズが居た場所に結界が張ってある事はレオにも分かっていた。と、言うよりもウィズの気配が分からなかったので、結界の張ってある場所に来た、と言った方が正い。

 ただ、あの結界を張った術者がよっぽど優秀なのか、そこに結界があるということに気づくことでさえ難しい。


 あの結界の効果が何なのかはレオにも分からないが、防音と気配消失、それと人除け辺りだろうと考えていた。

 その為、レオに声を掛けられた時にウィズが驚き、その後の会話において動揺が現れたのも、結界の効果を信頼していたからだろう。


「それに、私はレオほど器用じゃないし~」


 両手を挙げて首を横に振ってるエルザは、どちらかと言えば魔法が苦手である。

 元々、大空の巫女の伝統的な戦い方が前衛であり、エルザ自身そのような戦い方を仕込まれた上に、そういった戦い方が好きなので魔法はある程度しか使えない。

 まあ、それでも並の魔闘士と比べれば、ある標準以上に扱えるが。


 なので、玄人の様に『結界の魔力と波長を合わせてその内部に入る』といった事は出来ないのである。

 結界を壊せばウィズの会話は聞こえたかもしれないが、それ以前にウィズにバレては意味が無いのだ。


「まぁ、色々と憶測は立てられるが、何の情報も無い内に立てる方が危険だ。やはり、ここは相手の出方待ちだろう」


 そう言って静かに目を閉じると、これからの事について頭を働かせる。

 そんなレオを見てエルザも何か書けるものを探す。メモを取るのではない、レオの顔に落書きがしたいのだ。

 しかし、その何かを見つける前にレオに察知され、坑道でのお返しとばかりに蹴りを入れられた、そんないつもの夕暮れ時である。






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