第七話
模擬戦を行った場所で待ち合わせようとしたレオを押し留め、数百人という大人数の観衆に見送られながら、オークリィルを旅立った巫女一行。
注目を集めたくなかったレオだが、それ以外のエルザたちは仲間になった以上、最初の旅立ちを一緒にやりたかったのである。
そして、今その模擬戦のあった岩場までやってきた。
「おぉ? 何だ、誰か戦ったのか?」
グラフィットによって破壊された岩場を見て、グウィードが顔をしかめた。
「全く、戦ったら元に戻しとけってんだ」
ここは誰もが知っている練習場と宿屋の人に聞いていたのだ。ここで訓練することで、森の魔物がそれ以上オークリィルに近づかせない為の場所。
その為、練習した後は元に戻すのが礼儀だと考えたのだが、一人表面上は全く気にしてなさそうなレオを見て、エルザがにまにまと嫌らしい笑みを浮かべた。
「レオが訓練中に壊したんじゃないの~?」
「俺がこんなに壊せるわけないだろ」
確かに岩場を掘り返したような後があり、それによって出来た穴は昨日のエルザの一撃よりも大きい。
そして、二種類の爪あとが見つかっている事から魔物同士が戦ったのだろうとなり、マリア達は修復を終えると森の中へと進んでいった。
「気をつけろよ。さっきまでの道と違って、こういう所には魔物が生息してるからな」
殿を務めるグウィードが言うとおり、街や村を繋ぐ道にやって来る魔物の数より森の中で出会う方が多いだろう。道などは人間の領域だが、この森などは魔物の領域。
何時もは凶暴ではなく、危険視されていない魔物でも、自分の陣地を侵す者には容赦がないのだ。
「しかし、ここまで進んで一匹も遭遇しないのは……」
先頭を進むイーリスが少し不可解そうに呟く。
そう、イーリスが言う通り、森をだいぶ進んで魔物の領域に踏み込んだにも関わらず、今まで魔物の一匹とも接触が無いのだ。それも鳥の囀りや動物の遠吠えなど気配が在るので、魔法による罠ではないと予想は出来る。
ただ、自分の経験から今の状況は明らかにおかしいとしか思えないのだ。
「ほ~んとですよね~。まるでわざと私達を避けてるみたいな……はっ、まさか誰かの体臭がくさびっ」
鼻を摘まもうとしたエルザに、レオが背後から無言で後頭部に手とうをかます。
その威力は半分気絶しろとでも言いたげであり、さらには手で鼻を摘まもうと近付けていたので、殴られた事によって押された頭が前に動いて鼻を強打してしまった。
「い、いや、嬉しいんだけどね。ほら、手加減とかさ」
エルザは痛みに目を潤ませて殴られた場所と鼻を摩りながら、文句とまでは行かずにお願いする。
それ以外にも「後ろから」や「後頭部は」とブツブツ言っていたが、レオはそれを綺麗に無視した。
◇◇◇
結局、あれから一度も魔物と接触すること無く、目的地であるミファウル山の坑道へと辿り着いた。
何故かこの近くに着てから急に遠吠えが止んだのだが、その真相に気づけたのはレオだけである。
「巫女様、お待ちしておりました」
「ホレイシオ様、この度は態々坑道を使わせて下さり有難うございます」
坑道の入り口で待っていた男はこの坑道の持ち主で、態々オーナー自らのお出ましの理由はただ巫女と話したかっただけだろう。
「いえいえ、巫女様のお役に立てるというだけで私としてはもう……」
着こなしている高級素材の服装に見え隠れする高価な貴金属。彼は四聖会に多大な寄付をしている一人であり、その関係でこの坑道を使うことになったのだ。
その為、余り邪険に扱うことも出来ないのマリア達は、しばらく色々な情報や世間話をしてからイーリスが口を開いた。
「では、ホレイシオ様。我々は急ぎますので、マリア様そろそろ」
「確かにそうですね、イーリス。では、皆様本当にありがとうございます。皆様にワイズ様のご加護がありますよう」
ホレイシオにやんわりと断りを入れてからマリアを坑道へと促した。
急いでいるのは本当だが、おそらく作業員らしき人たちも集まり、少し離れた場所にいるレオ達に好奇の視線を向けているのが、二人に悪いと思ったのだろう。
マリアもイーリスと同じ気持ちなのか、ホレイシオと作業員にお礼と祝願を言うと早々に坑道へと入ってく。
ある意味外よりも明るい坑道を進むマリア達。
それは坑道内に置かれた発光する魔道具もあるだろうが、人を気にせずに済むというマリア達の精神的な物もあるだろう。
「どれくらいで外に出られるんですか?」
「おそらく一日かけてでしょうね」
一日ということは坑道内で眠るということだが、それはこの広さの坑道だ、本職の人達も分かっている。簡単な作りの休憩所が点々と存在し、今日はその中の一つで休む予定なのだそうだ。
「でも、この足下の線路ってトロッコか何かのでしょ? 何でそれを使わないの?」
エルザが不思議そうに足下にあるレールを踏みつけながら聞き、グウィードは先ほど聞かされた内容を思い出したのか、顔を顰めるとため息を零しながら答えた。
「何でも、どっかから飛んできた木が山にぶち当たって、その後起こった地震で線路の安全が確保されてねぇらしい」
レオが咽た。手で顔の前を掃いているのは、坑道が誇りっぽいからか。
「それって、ここ崩れたりしない?」
線路の安全が確保できないということは、レールが歪んだが地盤に何かしらの変化があった可能性があるということだ。
エルザは慌しく天井や壁をキョロキョロと見回し、手や足で叩いてみる。
「必ず、とは言えませんが、大丈夫だと思いますよ。崩れないように補強されてますし。案外、先ほどの地震で壊れたのはレールではなく、僕らを乗せる予定だったトロッコの方かもしれませんしね」
巫女を乗せるのに、土や鉱石を運ぶトロッコに乗せるわけにもいかず、そこは豪勢な物を用意していたのだろう。
結局は今更心配しても無駄ということで落ち着き、女性三人、男性三人で固まって世間話をしながら進んでいった。
「あ~、もう飽きたっ」
一番最初に癇癪を起こしたのは、やはりというかエルザだった。それも疲れたのではなく、厭きたと言うのだからそれらしい。
まあ、風景といっても周りは岩の壁と天井だけなので、楽しみもなく全く進んでいない気にもなる。
「アホ、ぐだぐだ言ってないで歩け」
手の届く範囲にいないのでレオは口だけで突っ込むが、それでは止まらないエルザはまだ「ぶーぶー」と文句を垂れる。
「何か面白いことないかなぁ~」
肩をガックリと落とし、彷徨う亡霊のようにゆらゆらとマリアの後を付いて進む。
はっきり言って怖いものがあるのだが、敢てそこには触れず、触れた所で何も聞きはしないだろう。
マリアも微妙に嫌そうにしながら自然に身体を横にずらすが、エルザもそれについて動く。レオは退屈しのぎに付き合わさせられるマリアに、哀れみの視線を送った、その時……。
「きゃぁっ」
突然、地面が揺れたかとおもうと、どこからか大きな地響きの音が聞こえてきた。
「な、何でしょう?」
そう言うタウノだが、全員一様に嫌な予感が走る。
そして、エルザは先頭を進むマリアの背後に天井か落ちる砂を見つけて飛び出す。
エルザがマリアを抱えて跳んだ瞬間、崩落が始まりエルザ、マリアの二人とレオにグウィード、タウノとイーリスの四人が崩れた土砂で離れてしまった。
もし、エルザが助けなければマリアは圧迫死してしまたかもしれない。
「マリア、大丈夫かっ?!」
崩れた土砂の向こうへと声をかけたイーリスは、何とかあちら側へ行けないか周囲を見渡すものの、そこには完全に埋もれてしまった元通路でしかない。
「あっ、うん大丈夫だよ」
「私も無事だよーー」
向こう側からマリアとエルザの無事を知らせる声が聞こえてきて、一同は一先ず安堵する。
「こりゃ、この道はダメだな」
土砂を調べていたグウィードがそう呟く。
いくら地中移動が出来るグウィードとはいえ、もし今ここらを辺りを変に触れば、これ以上の被害が起こる可能性があるからだ。そして、魔法もそれと同じ理由で却下。
「マリアさん達はそのまま予定通りの休憩所で待っていて下さい。そのまま進んで、二つの分かれ道は左、三つ目は真ん中を進めば着く筈です」
坑道に入る前に貰った地図を持っているのは、マッピング等の細かい仕事は全て任されているタウノ。
「私達は別のルートからそちらに急ぐ。エルザ、マリアを頼んだぞ」
「任されたぁー」
「あっ、ちょっとエルザさん手を引っ張らないで……」
マリアの焦るような声を最後に、向こう側からは何も聞こえなくなった。どうやら移動を開始したようだ。
「さて、僕達も行きましょうか」
「そうだな。ま、イーリスはそう怖い顔するな、マリアは無事だったんだしよ」
咎めると言うよりも安心させるような口調だ。
グウィードはイーリスがマリアを心配して、ここまでの雰囲気を出してると思ったのだろう。もちろん、その事も当てはまるが、それ以上にあの時動けなかった自分自身に腹を立てているのだ。
もしもあの時、エルザが動いてなかったらどうなっていたか。イーリスは近衛師団の団長に就いていながら、マリアを守ることが出来なかった自分を責めていた。
◇
順調にタウノに支持されたルートを進んでいたエルザとマリアだったが、二つ目の分かれ道を進んだ所で問題が起きた。
「う~ん、これは困った」
「はい、道が塞がってますね」
恐らく最初の崩壊がここだったのだろう。先ほどの通路同様、道は完全に塞がれて人っ子一人通れる隙間も無い。
エルザは「ボロイ坑道だなぁ」とぼやきながら崩れた土の出っ張った所に腰を落とす。これからどうするのかを決めなければならない。
普通ならこの場を動かないべきなのだが、集合場所はこの先の休憩所。もし、互いに居場所が分からなくなれば、もう片一方が探しに出て二重遭難になりかねない。
「向こうに誰か私達を見つけられる人っていた? タウノさんの魔法とか魔道具とか」
「確かタウノさんが探知系の魔法を使えたと思いますよ」
それを聞いてエルザは頷きながら頭を働かせた。
(じゃあ、動いても動かなくてもどっちでも問題ないかな)
もし、ここを動いて無事目的地に辿り着けば良いが、見つからなかったとなるとここに留まるよりも探索に時間がかかる。
逆にここを動かなかった場合は、エルザ達が目的地に着いてレオ達が居ない事に気付いて道を逆走。この道が塞がってるのを見て、回り道してから合流となる。
「マリアはどうしたい? ここで待ってるか、移動して休憩所を目指すか」
エルザは既にここで待機することを決めているが、先ずはマリアに意見を求めた。
「確かに動いて無事目的地に辿り着けば良いですけど、こちらには地図も無いですから。ここは素直にこの場を動かない方が良いんじゃないですか」
どうやらマリアも同意見のようで、今後の話し合いは直ぐに終了となった。
後はレオ達がこの場所にやってくるまで待っていればいい、二人は腰を落としてそれぞれの昔話を聞いていく。
◇
エルザが学園でレオと行った話をしはじめたころ、別の道から休憩所を目指すレオ達の中で地図を片手に進むタウノは、小首を傾げながら地図や周囲を見回していた。
「どうした。まさか、道にでも迷ったのか?」
「いえ、そうじゃ無いんですけど、何故かマリアさん達が移動してないようでして……」
もしイーリスに「迷った」と答えたらどうなっていた事か。
恐ろしい考えがタウノの脳裏を過ぎったが、今回は嬉しい事にそうではなかった。別れた時から感知していたマリア達が移動している気配が無いのだ。
「なら休憩所に着いたんじゃないですか?」
レオの答えも「ここからだと方角が違う」と直ぐに否定した。
タウノの探知魔法はそれほど細かい位置まで知る事は出来なく、おおよその距離と方角程度だ。それでも、タウノ達が居る場所からの休憩所の方角と、今マリア達が居るであろう方角では一致しない。
「まさか、アイツ等に何かあったのか」
深刻そうに呟いたグウィードの声にいち早く反応したのはイーリスだった。何を考えてか、いやマリアの事だけを考えて、何の情報も無しに走り出そうとしたのだ。
そんなイーリスを止めたのはレオだった。走り出そうとしたイーリスの腕を掴んで力一杯に引っ張る。
出だしを止められたイーリスは殺気を込めないまでも鋭い視線でレオを貫いたのだが、当のレオはどこ吹く風。止めた理由を分かっているだろうということでタウノに任せ、イーリスの視線から逃れることに成功した。
「え、えっとですね。確かに個々に行動した方がマリアさん達の発見は早いかもしれませんが、その後全員が揃うのに余計時間を掛けてしまいます。ですから、ここは全員で行動した方が良いのではないかと……」
どことなくイーリスのご機嫌を伺うような言い方だ。
それを聞いてイーリスは深く息を吐き、気持ちを落ち着かせた。冷静になればそれが最善な事だと分かる。少し自分の思考の浅さに、今度は別の意味でため息を吐きたい気分になった。
「それで、マリア達が今居る場所は大体分かるんだな?」
「ええ、方角と距離からして大体……ここら辺りですね」
何時ものイーリスに戻った事で多少はホッとしたタウノだったが、それを表情に出すことなく地図を広げてマリア達が居るであろう場所を円で囲む。
縮尺を直すと円の広さは直径二百メートル位はあるだろうか、その中には入り組んで数多くの道が見える。
皆の呆れた視線を受けて、タウノは身体を縮こませ顔を俯かせてしまう。
「うぅ、済みません」
「まあ、こちらの場所を知らせる方法が無いわけじゃないんですが」
「何っ、どうやるんだ?!」
坑道内に響くイーリスの声にレオ達は驚いて耳を塞ぐ。
「ですが、これをエルザの奴もやったら意味が無いんですよね」
その魔法はもともと場所を知らせる為に扱うものではない。
その為、エルザが『考え付いて使うか使わないか、それとも考え付かないか』、使う確立は三分の一である。この数字を高いと見るのか、低いと見るかのか。
しかし、そう言ったレオに悩んでいる様子の見えなかった。
◇
「エルザさん、一体何をしてるんですか?」
そこは冷えるから、とエルザに言われ土砂際に移動したマリアは、自分達がやってきた方向に右手を掲げているエルザにそう訊ねた。
「こっちの居場所をレオ達に知らせてるの。マリアの話じゃ、タウノさんの探索はそんなに細かく絞り込めそうもないしね。これと同じ事をレオがやってたら面倒になっちゃうんだけど、まあアイツはしないっしょ」
エルザの視線の先では小石がエルザ達から離れる様にコロコロと転がっていく。そう、エルザは風を吹かせているのだ。
こういう隙間の無い坑道では風を吹かせると出入り口から出るしか無い為、その途中にいるであろうレオ達は風上へと向かえばエルザ達と出会えるという寸法である。
この魔法、元はエアーショットと言って、風を短期で強く吹かせることで目標を吹き飛ばす魔法で、レオ、エルザ対グウィードの戦いでレオがエルザを吹き飛ばしたものである。それをずっと風を吹かせた状態で保っているのが今の状態だ。
もちろん、地面に座るエルザの足元には魔法を発動し続ける術印が、下手くそながら描かれている。
「どうしてレオさんが使わないって思うんですか?」
「ん~、ほらアイツって結構飽きっぽいし、面倒くさがりだし。まあ、そんな事は置いといて、マリアこの間のフォールスサイクロンはどうだった?」
「……凄かったです、オブスタクルウインドにあんな使い方があったなんて。タウノさんも関心してました」
マリアはどこか悔しそうに答える。何故なら、今までそのような事を思い付きもしなかったからだ。
エルザが転生し魔法を習って初めて違和感を覚えたのはこれだった。
今の時代では、魔法の変化と言えば小手先の変化程度で、オブスタクルウインドを偽サイクロンにするなどという考え方は無く、学園でその事を先生に話したら「練習してサイクロン覚えればいいでしょう」と言われたのだ。
もちろん、その方が変な回り道をせずに早く目標を達成でき、効率的な練習も出来るだろう。その考え方が悪いとは言えないが、考え方や発想が乏しくなってしまうとエルザは危惧していた。
「でしょー、魔法って結構面白くてね、どんな効果になるかっていうイメージさえ持てば、結構融通が利くのよ。これもフォールスサイクロンも元は別の使い方だけど、イメージ次第で結果も変わって、使える魔法の数は同じでもそれだけ戦いの幅が広がるの」
いつもより少しだけ真面目なエルザの言葉をマリアは胸に刻み込む、まるでこれから自分が進むべき道はそれなのだと確信したかのように。
エルザが妙に気合の入ったマリアに魔法の心構えなどを質問されていると、手を向ける先から物凄い速さで駆け寄ってくる複数の足音。その正体は予想通りイーリス達であった。
「マリア、無事かっ」
息も切らさずに先頭を走ってきたイーリスは、マリアの無事な姿を見ると安心したように胸を撫で下ろした。
坑道が崩れてからマリアの姿を見ていなかったので、自分で確かめるまでは安心できなかったのだろう。
続いてグウィードにレオ、最後に息を切らせながらタウノが到着。全員が到着したことで、エルザはようやく魔法を解くことができ、大きく伸びをしながら横になる。
「疲れたぁー、これもレオが悪い」
「何がだ。それより、マリアに魔法のこと」
「もっち教えたよ。真面目な生徒って凄くいいね、教えがいがあるもん。何でか胸がシクシク痛んでたけど」
そもそもレオが魔法を使わなかったのは、エルザ今回の事を利用してマリアに魔法講座を開くと思ったからで、その考えは間違っていなかった。
ただ、魔法を維持するのが面倒なので、レオに魔法を使わせてその時に解説するのでは、とも少しは考えていたが。
二人が小声で話をしていると、マリアの無事を確認していたイーリスがやってきた。
「エルザ、マリアを助けてくれて有難う。本来なら私がしなければ成らないことだった」
そう言って横になったままのエルザに深々と頭を下げ、感謝されたエルザは慌てて姿勢を正す。
「いやいやいや、身体が勝手に動いただけで、別にそんな……」
「あっ、私もちゃんとお礼を言ってませんでしたね。有難うございましたエルザさん、貴方は私の命の恩人です」
「本当にエルザさんのおかげですね、有難うございます」
「俺も礼を言っとかなきゃな。あんがとよ、助かったぜ」
次々と礼を言われ、顔を真っ赤にしながらあたふたと取り乱すエルザ。
これは別にお礼を言われ慣れてないとかではなく、イーリスがあそこまで頭を下げるとは思っておらず驚き、それをマリア達が追撃してきたのでちょっとパニックになっただけである。
「俺も礼を言ってやろうか?」
「うっさいっ」
そしてからかうレオには蹴りを返す。
◇◇◇
その後、無事に休憩所に着いたレオ達だったが、その名前とは裏腹に休憩所には宿屋程度の装飾や家具が置かれた。今回の為にわざわざ用意したのだろう、と準備してくれた人に感謝しながら夜遅くまで話をしていた。
それでも朝になるとエルザ以外は直ぐに起きて、エルザも文字通りレオに叩き起こされて移動を開始。
そして、今までのアクシデントが嘘かのように、休憩所からはすんなりと外に出る事が出来たのだった。
外からの光が見えていの一番に走り出したエルザは、外に出ると太陽の光を全身で浴びるかのように大きな伸びをする。
「いや~、久方振りの太陽だ~」
「やっぱ、太陽の下ってのは安心するな」
「はい、気持ち良いですよね」
マリア達も同じ意見らしく、程度は違えどそれぞれが気持ちよさそうに身体を伸ばした。
「さあ、ダザンまでもう少しだ。お昼までには着くようにしよう」
イーリスに促され皆は歩き出す。そして人目も無く、更には太陽の下という事も有ってか、会話は坑道の中よりも明るく弾んだものになった。
「しかし、別に坑道を使わなくても良かったのでは?」
「それは言わないで下さい。お金を出してもらってるこちらとしては、強く言い返すことが出来ないのですから」
いくら急いでるとはいえ、わざわざ数日を短縮するために危険な坑道を使う必要はない。レオの鋭い一言を受けて、タウノは見えない涙をそっと拭った。
元々、この坑道も『使わせてもらった』のではなく『使うことになった』のだ。そこから察するに、これからも細々とした無駄な行動が必要になるのだろう。
レオは雲一つ無い澄んだ青空を見てため息を吐き、前方では陽気に笑うエルザの声が憎らしいほど耳に響いた。