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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第六章 『踏み込む勇気』
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第六十六話




 エルザと再会したレオは、その日エルザの泊まっているヌイスの家で夕飯をご馳走になった。その時は二人の仲を勘違いした一家により、馴れ初め話しを聞かれたのだが、何とか誤解を解くことに成功したのだった。

 また、夕飯時に聞いた話しによれば、軒夜亭は一階が食事施設、二階が宿泊施設という宿で、食堂は宿泊者以外も利用できるのだそうだ。


 そして、ヌイス宅を後にしたレオは、リカルド達が取っている予定の軒夜亭へと向かっていた。

 ヌイスの家から軒夜亭までは少し離れていて、時間も遅くなったことから「泊まっていけば」といってくれたが、リカルド達がレオの分の部屋を取っていれば悪いと断ったのである。


「あの調子なら、最初からお願いすれば全員泊めてくれたかもな……っと、着いたか」


 町の中央部、店などが比較的集まっている場所に軒夜亭はあった。宿屋としてはそこまで大きくはなく、フクロウが枝に止まった看板が軒先にぶら下がり、店の前には井戸がある。


 軒夜亭は食事も出しているそうなので、ここで汚れを落とせということなのだろう。レオは井戸の横に置いてある椅子に腰掛け、足や身体の汚れをタオルで拭いてから店の中に入る。


 外観から分かっていた通り、中はそれほど広くはない。入って直ぐ見える所に丸いテーブルが五つ置かれ、カウンターの奥では店員が皿洗いをしていた。視線を右へと持っていけば、二階へと続く階段があり、そちらが宿泊部屋なのだろう。


「レオ、遅かったな。迷子か?」

「そんな訳ないだろ」


 大声ではないが、リカルドの声は宿屋に入ったレオの耳に直ぐ届く。店内を見回した時に二人を見つけていたので、それで気付きやすかったのもあるが、それほど大きくない宿ということである。


 リカルドはテーブルでソフィアと向かい合うようにして座っていた。テーブルの上に食べ終わった皿などは無く、食後のお酒と幾つかの摘みが置かれているだけだ。

 レオは二人の許へ行く前に、店員にコーヒーを頼んでから席に着く。


「夕飯はもう食べましたか?」

「はい、エルザがお世話になっている家で頂いてきました」


 テーブルを囲む四つある椅子の一つに腰掛け、置かれてある摘みに手を伸ばす。なめらかで味の濃い、ニール特産のチーズである。


「久しぶりの再会はどうだった。話しは弾んだのか~」

「まあ、いろいろ話しはしたな」


 リカルドは酒が入ったことでいつもより陽気になっていて、普段通り静かにグラスを傾けるソフィアとは対比的だった。しかし、一緒に飲み続けているということは、ソフィアも嫌な気分という訳でもないのだろう。


「部屋は取っておいてくれたか?」

「あぁ、ここは全室二人部屋らしいから、レオは俺と同じ部屋。ソフィアさんは隣の部屋だ」


 レオは部屋の鍵を受け取り、教えられた部屋に向かう。荷物を下ろして服を着替え、その途中でもう一度身体を水拭きする。


 そして一階に下りてテーブルに戻ってくると、既にコーヒーが置かれてあった。チップはソフィアが立て替えてくれたとのこと。レオは礼を言ってお金を払おうとしたが、それ位なら良いと言ってくれたので、再び礼を言って好意に甘える事にした。


「そういや、レオと一緒に旅して二週間くらい経ったんだったなぁ」


 レオが席に座りエルザとの話し合いを少々ぼかしながら伝え終わると、二人が再会した時の言葉を思い出し、リカルドはポツリと呟く。二週間、それは当初依頼していた魔法を教える期限でもあった。


「それで依頼はどうする? 依頼書には後のことは相談って書いてあったな」

「えー、書いたっけー? んー、まあ楽しいし、このまま続けようぜ」


 一人グラスを掲げて乾杯をすると、酒を一気に飲み干す。


 リカルドがいくら酔ってるとはいえ、呂律が回らなくなるほど泥酔してるわけではない。この言葉は本心からで、明日になっても覚えているだろう。

 しかし、それに待ったをかけたのは、落ち着いて話を聞いていたソフィア。


「それはエルザさんと合流したレオ君が、これから何処へ向かうのかにもよるのではないですか?」

「あぁ、そうだ。俺もコーフニスタに行かなきゃダメ何だった」


 すっかり自分の目的すら忘れていたリカルドである。


「俺たちはハイデランドに向かいますので、コーフニスタには寄る予定です」

「なら、依頼はそこまでってことで延長な」


 特に異論のないレオは契約延長を受け入れ、リカルドの差し出したグラスにコーヒーの入ったカップを触れ合わせた。

 意気揚々と酒を飲む手を進めるリカルドだが、レオの目的地を思い出したのか、少し表情を顰めながら空になったグラスに酒を注ぐ。


「しかし、レオは何でハイデランドなんかに? あそこは『戦争が起こっても、何も無いから攻められない国』とか言われてたぞ」

「あぁ、知ってる人がそこに向かったとエルザに聞いてな。どうせなら挨拶をしていこうかと」


 わざわざ大空の巫女を追うと言う必要もなく、言ったところで理由やらを聞かれるだろうとレオははぐらかす。そして変に突っ込まれる前に、同じ事をリカルドに聞き返した。


「そういうリカルドは、急用でコーフニスタに向かうって言ってたが、その用事ってのは何なんだ」

「んー、あー……分からん」


 説明するのを躊躇うというよりも、困ったように腕組みをしながら頭を傾ける。リカルドの性格からして、今のが演技ということもなさそうで、本当にわざわざ自分が向っている用事に心当たりがないらしい。


 そんな不自然な行動を聞いて、二人は呆れたと物語る眼差しを送る。当然、リカルドにも言い分はあるのだろう。慌てた様子で手をバタつかせた。


「いや、本当だって。実はコーフニスタは俺の生まれ故郷でな、急用ってのは実家からの呼び出しなんだ」


 呼び出しにしても普通、内容は伝えそうなものである。その事を疑問に思ったのか、ソフィアは少しばかり心配気味に尋ねる。


「実家とは疎遠だったのですか?」

「いや、そんなことはありませんよ。まあ、しょっちゅう連絡を取ってるって訳でもないですが、仕送りもちゃんとしてますし……。ん~~」


 急に呼び出される理由が思い当たらず、リカルドは再び腕組みをして考え込む。

 それは構えだけでなく、思い至るにしても時間が掛かると思ったレオはソフィアに話題を振った。内容はリカルドと同じく、コーフニスタに向かう理由である。


「私はオークションを覗こうかと」

「オークションか。あそこのは大規模だからな」


 考えても仕方がないと思ったのか、いつの間にかリカルドは摘みの生野菜を齧りながら、少し遠くを眺めながら故郷を思い出しているようだ。


 ハイデランド国は何も無いと言われているが、隣に面するリカルドの祖国は栄えていた。しかも、広大な国土の中には、海あり山あり川あり砂漠ありと環境が違い、観光に名物にと事欠かない国である。

 当然、そのことを隣国のハイデランドが、忌まわしく思わないはずがない。


「実はさっきの『攻められない国』ってのには続きがあってな。それは『攻め込まれるならここだろう』っていうほど、ウチとの関係は悪いぜ」


 レオを見つめるリカルドの表情は真剣で、余りハイデランドに良い感情は持ってなさそうだ。ただ、治安の事に関して何も言わないのは、それほど危険な国ではないからだろう。


 しかし、リカルドが心配したところで、レオ達の目的地は大空の巫女次第。レオとしても楽して合える場所があるのなら、当然そちらの方が好ましいのである。

 レオは再会したエルザが叫んだ『何であんなところに――』という言葉を思い返しながら、少し苦めのコーヒーを飲むのだった。



 ◇◇◇



 翌朝、朝食を食べ終えたレオは、一人で出発する時間をエルザに伝えるため、ヌイスの家へと向かっていた。リカルドとソフィアの二人は、昨日降ろしておいた荷物を荷台に積み込む作業をしている。

 当然、レオも手伝おうとしたのだが、それほど荷物が多くないことを理由に、エルザへの伝言役を言い渡されたのだ。どうやらリカルドだけでなく、ソフィアも変に気を利かせているようである。


 そんな事とは露知らず、レオは昨日訪れた時と同じく馬が自由に歩き回る、ヌイスの家にやって来た。ただ昨日と違うのは、繋がれた一頭の馬をブラッシングしているエルザの姿。


 近付くレオに気付いたエルザが、ブラシをかける手を止めて挨拶をする。


「あっ、レオおはよー」

「あぁ、おはよう……で、何やってるんだ」


 柵に手をかけながら話しかけるレオは、理解出来ないというよりも、全て理解した上で諦めのため息を漏らしている。実はエルザの姿を見る前から、ある程度の予想は立てられていたからだ。


「ほら、私がヌイスさんに泊めてもらう条件って、午前中の馬の世話とかなのよ。それで旅立つにしても、その日まではやっておきたかったんだよね」


 朝食も食べたし、と笑うエルザの答えは、レオの予想した通りであった。妙に真面目というか義理堅いというべきか、どちらにせよ責められることではなく、むしろ誇れることだろう。


「まあ、出発の準備が終わってるなら何も言わないが」

「それは大丈夫だけど、今から出るの?」

「いや、午前中は買出しに行くみたいだから、昼食を食べた後だな」

「なら良かった。ソフィアさんに分かったって伝えておいて」


 午前の仕事をこなせることに、安堵の笑みをこぼすエルザと話し合い、待ち合わせの場所は軒夜亭ということに決まった。そして、レオは一旦エルザと別れて宿屋へと戻る。


 宿屋の隣にある荷台の側には、幾つかの木箱が残っているだけで、積み込み作業はほぼ終わっていた。まだ終わってないのは、午後からの出発予定ということもあり、それほど急いでいないからだろう。


「お、早かったな」

「もう少し話してきてもよかったんですよ?」


 予想よりも早くレオが帰って来たことに、邪推をしているのか面白そうに笑うリカルドと、気を利かせるソフィアの二人が出迎える。


「気にしないで下さい。アイツも馬の世話とかやってましたから」


 リカルドを完全に無視したレオはソフィアに申し出て、積み込みの作業を手伝うことにした。ただ、リカルドが頑張っていたおかげもあり、世間話をしながらでも直ぐに作業は終わる。

 そして、ソフィアが軒夜亭で貰ってきた麦茶を、感謝の言葉と共に二人に手渡した。


「お二人ともありがとうございました。早く終わりましたし、買出しを済ませましょうか。私が買ってきますので、お二人は休んでおいて下さい」


 積み込みを手伝った御礼、ということで、買出しにはソフィア一人で行くという。

 だが、一人で買いに行かせるなんてことを、リカルドがさせるはずもない。麦茶を一気に飲み干すと、腰掛けていた荷台から立ち上がる。


「俺も一緒に行きますよ。荷物持ちにでも使ってください」

「……リカルドが行くのなら、手入れ用の研磨石を買ってきてくれないか。俺の剣は知ってるだろうから、その刃に合った奴が有れば」

「おう、分かった」


 レオが品物を買うのを頼んだのはリカルドだが、予定金額を伝えたのはソフィアだった。金銭的なことでは、やはりソフィアの方が頼もしいと思ったのだろう。


 このデートと呼ぶほどの事ではない買出しは、レオもある程度気を利かせたつもりである。馬車での移動中は互いが御者をしていて、それほど話す機会が無いというのもあったからだ。

 もっとも、リカルドが一緒に行くと言ってソフィアが嫌そうにするのなら、こんな事を頼みはしなかっただろう。しかし、レオが見た限りでは嫌がっておらず、これはソフィアもリカルドのことを憎からず思っているのか、そんなつもりが全く無いのかである。


「それでは行ってきます」

「良い物を買ってきてやるから、楽しみにしとけよー」


 ただ、嬉しそうに出て行くリカルドと普段通りのソフィアを見れば、後者にしか見えなかった。そして、レオは買い物に出かける二人の背中を荷台に腰掛けながら見送る。二人が帰ってくるまではこのまま、荷物の番は必要なのだ。



 ◇



 買出しをするものは、保存食や傷薬などの予定であった。それにレオから頼まれた研磨石と、予定よりも早く積み込みが終わったことで、ソフィアが何か面白い物がないか見回りたいとのことだ。


 土地が広く家々が点在しているとは言え、お店などは利便性を考えて、町の中央部分に固まっている。先ずはソフィアの願い通り、手ぶらな状態でいろいろな店を見て回る事にした。


「やっぱり畜産関連が多いですね」

「はい、それと観光客が多いようなので、土産品も揃っているようです」


 店に並ぶ馬のぬいぐるみや、何かの大会のペナントなどを興味深そうに見ている。ソフィアとしては店で扱う品を見たかったようだが、これはこれで楽しんで眺めているようだ。


「何か欲しいものでもありましたか?」

「……いえ、特には」


 そうは言うものの、答えるまでの一瞬の間と少し抑えた声色で、リカルドは何かを察する。


「そうだ、エルザさんにぬいぐるみでも買って行きませんか」

「エルザさんに、ですか?」

「はい、これから一緒に旅するわけですし、何か贈り物でもと思いまして」


 急にエルザの話題になり、不思議そうに小首を傾げていたソフィアだったが、リカルドの言葉に納得したように頷く。確かに年頃の女の子と、三十歳のリカルドが一緒に旅をするというのなら、何かと気を利かせたほうが良いのだろう。


「ちなみにソフィアさんはどういったのがお好みで?」

「私ですか……。この歳でぬいぐるみを選ぶのも何ですが、んーー」


 やや垂れた目を鋭くして、棚に並べられたぬいぐるみを真剣に見つめているが、それを指摘するほどリカルドは野暮ではない。少々緩みそうになる口元に力を入れて、真一文字にしているようではあるが。


「これ、ですかね」


 悩み抜いた結果、指差したのは真っ白な子猫のぬいぐるみ。両手に乗るくらいの大きさで、座って鳴いているのか大きく口を開けている姿が、可愛らしくデフォルメされている。

 本当に可愛らしく愛くるしいぬいぐるみだが、それを実直そうなソフィアが選んだことに、表情には出さないがリカルドは驚く。


「いえ、エルザさんが喜びそうなのはっ、ですよ。そんな変な目で見ないで下さい」


 ただ、隠し切れずに表に出てしまったのか、それともソフィアの被害妄想なのか、頬を赤らめるとぬいぐるみを棚に戻して、リカルドから顔を反らすと、一人で店の外へと歩いていってしまう。


「次、行きますよ」


 リカルドはソフィアの選んだぬいぐるみと、レオの話から馬のぬいぐるみを手に取り、急いで会計を済ませる。この時店員に頼んで、外から見えないよう一つの袋に入れてもらうのだった。




 店の外で待っていたソフィアと次に向かったのは、レオから頼まれた研磨石探しである。一個単体の重さはあるが、食料などは沢山買うことで重くかさ張るので、最後に買うことにしたのだ。


 ニールには武器屋というものはなく、武器防具の手入れなどは農耕具屋が見るのだという。リカルド達がやって来た店にも、剣や鎧などは置かれておらず、鍬やピッチフォークなどが置かれてある。


「そう、手入れ用だから柔らかめで――」


 ここではソフィアよりもリカルドの知識が生きてくる。

 刃物にはそれぞれに見合った研磨石があり、面の荒さや硬さ、使う刃の状況や目的によっても変わるのだ。今回は手入れ用とのことで、本格的に砥ぐ必要はない。


「いろいろ有るんですね」


 店主は在庫を調べに行き、店に残ったのはリカルドとソフィアの二人だけ。

 先ほどのぬいぐるみの件は、移動中に気持ちが落ち着いたらしく、いつも通り落ち着いたソフィアが、物珍しそうに店内に置かれた商品を手に取って見ている。


「刃物なんかは専門の方に任せてますから、こういったのは新鮮です」

「へぇ、そうなんですか。まあ、戦闘なんかもそうですね。やれないことは仲間に任せて、自分のやれることを確りとやる。それが上手く戦えるコツですかね」


 自分の得意分野の話であり、少々得意気に話す。人によっては邪険に扱われそうだが、ソフィアは何か感じるものがあったのか、リカルドの顔を見て真剣な様子で頷いていた。


「足りない物を補える、結婚もそういったものだと良いですね」


 しかし、急に結婚という話題が出てきて、リカルドは思わず変な言葉が漏れてしまう。


「ぅえっ、ソフィアさんにはそのような相手が居るんですか」

「いえ、何度かそういったお話を頂いていまして……両親を早く安心させたいところではあるんですが」


 確かにソフィアの年齢は少しばかり婚期が遅れていると言えるだろう。しかし、それが働く女性となればそうでもない。ただ、ソフィアとしては結婚が嫌という訳でもなく、仕事や親などいろいろと考えているようだった。


 リカルドとしては何とも答えようのない話題であり、腕組みをしながら変な唸り声を出して頭を捻っていた。その様子を見ていたソフィアは可笑しそうに笑う。先ほどの件をやり返したつもりなのかもしれない。


「ふふふ、ちょっと言ってみただけです。リカルドさんがそこまで悩む必要はありませんよ」

「そ、そうですか。いやー、何か改めて考えたら自分にも言える事なんで、変に考え込んでしまいました」


 乾いた声を上げながらリカルドが笑っていると、店の奥から店主が麻袋を持って戻って来た。中身をカウンターに出せば、依頼通りの研磨石である。リカルドはこれ幸いと、店主と話し始める。


 ソフィアとしても何時までも話すほどのことではない。リカルドの横に立つと、質の良さや量などから値段の交渉へと移るのだった。



 ◇



 買出しからリカルドとソフィアが帰ってきて、早めの昼食を取ったレオ達三人。今度はソフィアが荷物番として一人で荷台に残り、レオとリカルドで預けていた馬を引き取りに向かう。

 この時、何故かリカルドが袋を持って移動している事をレオは尋ねたが、上機嫌で「ひ・み・つ」と言っていて、気持ち悪さから思わず頭を叩くということもあった。


 そんな中でもきちんと馬を連れて宿まで戻ってくると、既に荷物をまとめたエルザが到着していて、ソフィアと荷台に腰掛けて話している最中だった。


「あっ、リカルドさんおはようございます」

「おはようさん、ってもう昼だけどな」


 二人が戻ってきた事に気付いたエルザとリカルドが挨拶を交わす。

 まだ出会った翌日ということもあり、言葉遣いなどエルザとの距離は少々離れている。しかし、これも数日旅をすればいつも通りになるだろう。二人と話したレオからすれば、エルザとリカルドは似た性格だと感じているからだ。


「そうそう、エルザさんにお近付きの印ってわけじゃないけど……」


 大事に持っていた袋から馬のぬいぐるみを取り出す。足の太いこのぬいぐるみは、ニール産の馬をモデルにしているらしい。


「こいつをあげよう」

「えっ、良いんですか。ありがとうございますっ」


 荷物としてはかさ張るだろうが、エルザは素直に喜びを表す。そして、馬の胴体を掴んでレオに突撃させている。

 そんな二人を微笑ましく見つめながら、静かにソフィアの隣に移動したリカルドは、袋からもう一つ、ソフィアが選んだ白いぬいぐるみを取り出した。


「それとソフィアさんにもこれを」

「これは……私にも、ですか」

「はい、ソフィアさんも一緒に旅しますから、よろしくお願いします」


 ぬいぐるみを受け取るソフィアは、さすがに店内での話の流れや、袋を預けず馬を引き取りに行ったことから薄々と気付いていたのだろう。それでも半信半疑だったようで、袋から猫のぬいぐるみが出ると手で口を隠して驚いていた。


 ただ、心底驚かせたかったリカルドとしては、期待通りとはならずに残念そうに笑う。


「うーん、驚かせませんでしたか」

「いえ……凄く嬉しいです。ありがとうございます、リカルドさん」


 そう言ってぬいぐるみを抱え嬉しそうに笑う。

 これはレオが見た遣り甲斐のある仕事をして、自信をつけているソフィアの笑顔ではない。年齢からの気恥ずかしさと、女性の喜びから咲きほころんだ可愛らしい笑顔である。

 それを目の当たりにしたリカルドは、レオが危惧していた通り目を回してしまい、旅立ちは荷台で寝転がされてしまうのだった。






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