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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第五章 『別れ』
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第五十九話



 今回の事件を引き起こしたミレイユの共犯者として姿を現したのは、族長の孫でありイデアの兄、ナザリオ・カルリだった。

 エルザからすれば一度紹介を受けた程度で、後は不審者の捜索やら見回りなど、ほとんど会話もしたことのない相手である。


 微かな紹介を思い出せば彼の年齢は十五歳。地域によってさまざまだが、ここカルリ一族では大人として認められる頃で、狩りや見回りなどの仕事も徐々に任されるようになっていた。

 新緑の艶やかな色をした髪の前髪を、後ろに向けてなげ上げている。そして、茶色の瞳には理性の輝きが見て取れ、操られているわけではないことが分かった。


「メーリ様が来られて、こうして話すのは初めてですね」


 声も足取りもしっかりとしていて、メーリ達に近付いてくる。敵に挟まれる形になったメーリ達はじりじりとその場から離れるが、ナザリオは特に何をするでもなくミレイユと合流した。

 そして何事かをミレイユに伝えると、彼女の口元がほころぶ。


「ナザリオくん、君が彼女の手助けをしていたの?」


 エルザとは違い、何度かこの森を訪れたことのあるメーリは、ナザリオと話したこともあった。それ故に、何故こんなことを仕出かしたのか余計に不思議に思ったのだ。


「それをお話しするには、先ず舞台を整えましょう」

「舞台?」

「ええ、こういうことですわ」


 ミレイユは後ろ腰に手を回すと木の棒を取り出した。長さは彼女の腕の長さと同じほどで、上部には爪のように五本の鋭く尖り、持ち手から下部にかけて捻じれている。黒く禍々しいそれは、魔術師が使うロッド。


 攻撃してくるか、と警戒するエルザ達を余所に、ミレイユはその場にしゃがみ込むと、ロッドで軽く地面を叩いた。だがそれだけにも関わらず、ロッドは地面へと深く突き刺さる。地表に出ているのは、爪の部分のみ。


「『――――」


 そして、聞こえてくる限り、人語ではない何かを口にする。これが何を意味するのかは分からないが、詠唱を邪魔するためにアロイスとセストが駆け出す。エルザは他にも仲間が居る可能性を考慮し、術者である二人を守るために動かない。


 詠唱を続けるミレイユの前に立ち塞がるのはナザリオ。幼い頃から鍛えられ、狩りにも参加しているとは言え、未だ少年の身体つき。鍛え抜かれた二人の突進を止められる術もなければ、簡単に吹き飛ばされたことだろう。


「ハアァァァッ」


 二度振りぬいた拳によって発生した風圧が、アロイス達に襲い掛かる。身体を押し返すほどの圧力に驚き、二人は一旦その場から離れて様子を伺う。


 気と魔力を練り上げる魔闘士、ナザリオがそれだったことは知っていた。何度かアロイスが教えたこともある。だが、二人が驚いたのは魔闘士だったことでも、単純に威力が強いからでもない。


 鍛え抜かれていない身体と型から、信じられないほどの威力を出したからである。


「これは普通じゃないね」

「原因はそれかしら」


 アロイスが指差したのは、ナザリオの両手両足に着けられた武具。夕暮れの大地よりも赤く深い色で、籠手には口を大きく開いた魔者の顔があり、二本の角が手より先に突き出ていた。

 先ほどのロッド同様禍々しく、呪われた武具と言われても納得するだろう。


「――』」


 ミレイユの口が止まると、ロッドを中心に四方八方へと光が走る。そして、一つ一つと離れた場所から天へと光が昇り、透明な半球体が空を覆う。

 これは簡易結界の発動。いつの間に全ての支点を、と思うよりも早く身体の変調が現れた。


「身体の力が……」


 アロイスは手を握っては開く。地面から吸い取られているかのように感じるのだ。


「確か呪術って言うんだっけ?」

「その通りですわ。私、呪術師ですの」


 メーリの問いに、少々誇らしげに微笑む。邪教によって生み出され、邪教徒のみが自称するジョブ。それが呪術師である。


 最初の支点に使われた呪。これは妨害魔法を得意に出来るものであれば、誰にでも作れる程度のもので、薬品としても売られていて、エルザ達も特に気にはしていなかった。もちろん、許可を取らずにそんなことをすれば、犯罪行為になってしまうが。

 つまり、妨害魔法と呪術はそれほど違いがないものなのだ。中には妨害魔法がそのまま呪術として使われたりもしている。ただ、より悪質で対象者の命すら危ないものも、呪術の中にはあるという。


「見張りはどうしたのかしら? さすがに全員倒すなんてことは無理だと思うのだけれど」


 支点の場所は監視していた、それらを気付かれずに潜り抜けて、全ての支点を置くことは難しいだろう。例えナザリオが居たとしても、手引きした人間がいると考えられているのだ。


「私、白滝の森を献上しようと考えておりましたが、巫女様がこられたらそちらをとも考えておりました」


 気だるそうにしているメーリ達とは対照的に、全く動じる事無くローブの中から手の平に収まる大きさの石を取り出し、彼女たちに向かって軽く放った。

 石は地面を転がり、アロイスの足下にやってくる。それを見れば、支点になるには十分過ぎる魔力を持った魔石であることが分かった。


「なるほどね、腐食は囮だったってわけ」

「それは正しくありません。巫女様が来られなければ、そのまま発動させていたのですから。ただ、メーリ様が来られたので、少々こちらの意図を分かりやすくお伝えしただけのことですわ」


 つまり繋がる支点を連続で続けたのは、魔法陣だと気付かせることで、それ以外の場所の監視を緩めさせることにあったのだ。それにエルザは見事に引っかかったわけである。

 ただ、誰も魔法陣に気付かなければ、そのまま続けていた可能性もあった。


「そしてナザリオ君に手伝ってもらい、新たな支点を置いたのです。ただ、支点の何点かは元の場所とも近く監視の範囲で、変に怪しまれては全ての位置に置けなくなる可能性もありました。ですので、私が姿を現し注意を引き付けることで、怪しまれないよう行動できたのですわ」

「うわ、まるで誰かさんみたい」


 誰かと言われてもミレイユには分からず、不思議そうに小首を傾げた後、褒められたのだと思い頬を染めてはにかみながら笑う。


「私は直接戦うことは不得手ですので、このようなことしか出来ません。ですので、戦うことは彼に任せることに致しました」

「その子一人で、俺らを抑えられるとでも?」


 いくら力を吸われているとは言え、巫女一行にエルザが加われば、そうそう勝てるものでもないだろう。セストの言葉にミレイユは素直に首を横に振った。


「それは不可能というものでしょう。その為に勝てる準備も致しましたが、想定外の方がおられますわ」


 ミレイユの視線の先にはエルザの姿。ただ、巫女と一戦行おうと準備をしていたのなら、エルザの実力ではそこまで想定外とは言えない。


「とは言え、やらないことには――」


 再び懐に手を入れるが、そうはさせじとアロイスとセストが襲い掛かり、メーリとテルヒは詠唱に入る。そして、エルザは何が起こるのか分からない以上、再びメーリの側で待機する。


「残念、それほど時間は掛かりませんの」


 イタズラが成功したように笑い、握り拳ほどの大きさの紫色の水晶をロッドの先端にはめ込む。カチッという音が響くと、効果は目に見えて分かった。

 先ずロッドから放たれていた光の色が紫色に変わり、途端に襲い掛かったアロイス達も詠唱を唱えていたメーリ達も苦しそうに片膝を付く。


「ぐっ、重い」

「地面に、引き寄せられてるみたい、ね」

「……何をしたの?」


 そんな中、平然としているのはミレイユとナザリオ、そしてエルザの三人である。

 エルザはメーリを庇うように前に出て、ナザリオは戦う準備なのか腕を回している。そして、ミレイユは水晶をはめ込んだまま地面に座り、両手で包むように水晶に手をかざしていた。


「想像は付きますでしょう。新たに加えた呪いは、私や闘気を練った者に反応しないよう出来てます。これで有利に戦えるはずだったのですけど、まさかメーリ様が誰かとご一緒なされるとは、思いませんでしたわ」

「ここに魔闘士は俺以外居ないし、俺の血で除外すると爺様や叔父さんが来た時に不味いからな」


 計算外だ、と毒づくナザリオだが、毒づきたいのはエルザの方だった。何せ五対二が一対二になってしまったのだから。

 チラリとメーリ達に視線を送れば、未だに蹲ったままで戦う事は容易ではないだろう。セストは身体を起こそうとするが、途中で腰を落とし、メーリの声は微かに聞こえる程度でしかなかった。


 しかし、一般的に簡易術印や結界でこれほど大きな威力を発揮することは出来ない。その証拠に先ほどまでは、力が抜ける感覚はあっても普通に動けていたのだ。


「つまり、私で二人を相手にすればいいのね」


 ミレイユとナザリオを交互に見ながら、視界の隅で捕らえるのは紫色の水晶。あれが原因だろうということは、エルザも理解していた。


「それなら楽だったのですが……私はここから動けませんので、先ほども言ったように戦うことはナザリオ君に任せますわ」

「まあ、俺も動けないメーリ様方を殴るよりは気が楽ってもんだ」


 ミレイユの側に居たナザリオが前に出る。その表情は別段楽しそうでもなく、戦闘狂というわけでもなさそうだ。


「ふーん、ボウヤが相手か」

「誰がボウヤだ、ババア」


 軽い挑発が倍になって返ってきた。そう来るだろうとは思っていても、いざ実際に言われるとエルザの笑顔が引きつる。女性に年齢のことが禁止事項でもあり、ましてやエルザは前世の記憶もあってそ、の辺りは非常に気になっているところなのだ。


「わ、私がお婆ちゃんなら、メーリさんとかミレイユさんはどうなのかなー」

「俺をボウヤって言うのは、お前がババアだからだろ。年上面してんじゃねぇぞババア」


 唾を吐き捨てるように言い放つ。

 そして、エルザは動けないメーリ達を巻き込まないよう、顔を俯きながら少しばかり移動した。


「……分かった、とりあえず殴る」

「はっ、口で敵わなきゃ暴力か。分かりやしーなっ」


 両者が構え、ピンと張り詰めた空気が漂い始める。エルザも今まで引きつらせていた笑みを引き締めると、じっとナザリオを見つめて隙を窺う。

 だが、実のところエルザは、どう攻めるべきか迷っていた。アロイス達と同じように、ナザリオの動きと繰り出される一撃の違いに戸惑っているからだ。


「ハアァッッ」


 先手を取ったのはナザリオ。あれこれと考えているエルザとの距離を一気に詰め、右拳を振りぬいた。しかし、エルザはそれを左手で簡単に受け流し、背後を取るようにして距離を取る。


「それは寒い時に便利そうだね」


 だが、そこから攻撃に移ることなく、受け流した左手をじっと見る。火傷を負うほどではないが、繰り出された拳にまとう風は熱波だった。とは言え、どれほど温度が上がるのかは分からない。武具


「じゃあ、今度はこっちから行くよ」


 エルザは距離を詰めると、左腰のショートソードを右手で抜いて切り上げる。

 ナザリオは右足を下げ上体を反らして避けると、隙だらけになった右脇腹を狙って左足を振りぬいた。


「残念っ」


 だが、それは左手で抜いたもう一振りのショートソードによって防ぎ、振り上げた右手を返して振り下ろす。対してナザリオも下から突き上げた右拳で刃を止める。

 刃が止まったのは拳から突き出た二本の角の間、ナザリオは受け止めて即座に拳を捻る。武器破壊を狙っているのだ。


 しかし、エルザは慌てることなくショートソードを手放し、隙だらけの鳩尾に前蹴りを放つ。当たる直前に後方に跳んだことで、深いダメージにはならなかった。


「ぐっ……中々やるじゃねぇか」

「ふふん、まだまだ小手調べってところだけど。このまま力押しでいけそうかな」


 得意気に笑って武器を拾うエルザとは対照的に、ナザリオは地面に唾を吐き捨てる。エルザの言葉が事実だからだ。

 ナザリオ本人もミレイユから貰った武具で、強化されただけだというのは分かっていた。しかし、不愉快なことには変わりなく、忌々しげに舌打ちをする。


 そして、チラリと視線を向けるのは未だ動かないメーリ達。未だに蹲ったままの姿を見てナザリオは決断する。


「ババア、付いてきなっ」

「んな、まだ言うかっ」


 挑発をして駆け出すナザリオをエルザは追っていった。この場に残るのは蹲るメーリ達と、結界の維持を行うミレイユだけである。



 ◇



 地面に座り魔力を捧げて結界を維持しているミレイユは、エルザとナザリオの戦いを見つめていた。想定外な戦いな上に互角の戦いを見るその表情は、当初と変わらず驚きも焦りもない。

 そして、この場から離れていく二人から目を離すことなくポツリと呟く。


「さすが、ですわね」


 目蓋を閉じてため息を零す。それは感嘆から出たものだった。

 だが、それは直前まで向けられていた戦う二人に対してではない。視線を向けるのは、未だ地面にしゃがみ込んだままのメーリとテルヒ。


「もう動けますの?」

「こういう罠は常に警戒しているわ」

「簡単にやられちゃったら、術師系の巫女として恥ずかしいもんね」


 二人がやったことは単純、自分達の周りに新たに結界を張っただけである。とは言え、自由に動けない身体で小さな魔法陣や支点を置くのは非常に困難で、しかも発動しても直ぐには覚らせないようにしていたのだ。


「他に仲間は居ないのかしら」


 護衛であるナザリオは側に居ない。更には敵が動けるのを理解しているにも関わらず、ミレイユからは動揺や焦っている様子が見られない。それを不審に思うのは当然のことだった。


「想定外って感じでもなさそうだね」

「えぇ、簡易で巫女様を長々と制限出来るとは思っておりませんわ。ですから、その前に決めたかったのですけれど……」


 メーリ達が直ぐに動けることは想定していた。ただ、想定外なのはエルザという魔闘士が森に入り、メーリと一緒に行動していたこと。


 先ほど、エルザに言った『ここから動けない』というのは事実であり、


「このまま談笑でもなさいますか?」

「そだね、でもとりあえずロッドと水晶は壊させてもらおうかな」



 ◇



 エルザとナザリオの戦闘は、切り開かれた畑の側から森の中へと移っていた。

 周囲への視界が遮られる森は、幼少の頃から慣れ親しんだナザリオの庭。彼は自分の得意な場所で戦おうとしたのである。


 だが、得意な場所という意味ではエルザも同じこと。しかも、ナザリオの挑発に怒ったように見せかけ、実際は小声でメーリに言われた通り、敵の二人を引き離す事に成功していたのだ。


「さてと、どこに行ったのかな」


 さすがに姿を隠したカルリ一族を、即座に見つけることはエルザでも無理である。木の影や草むら、木の上から土の中まで隠れられる場所は多い。

 その上、あの場所にメーリをおびき寄せたということは、その周囲には隠れる場所や罠が用意されている可能性も高いのだ。


 エルザは罠の設置箇所を考えながら、周囲を見回す振りをして姿を隠せそうな場所に背中を向けていく。


「見失っちゃったみたいだし、メーリさん達のところに戻ろうか――ッ」


 そして、一直線に空気を切り裂いて襲い掛かってきた。当然、わざと隙を見せていたエルザは難なく打ち落とす。


「……矢か」


 これはナザリオが放ったものか、罠を発動させたのか判断のつき難い武器である。とりあえず矢が向かってきた先に移動してみるが、射線上には何も見当たらなかった。


「さてっと、どうしよう」


 魔闘士にとっての一番の武器は己の身体能力。それによって使用される武器は、如何なる物でも効果を高める。


「また矢――ッ」


 高い位置から再び襲い掛かる矢をエルザは打ち落とす。しかし、その後ろから凄まじい速度で別の矢が迫ってきた。完全に前のを打ち落とすと確信した上で、体勢を少しでも崩した後の攻撃。

 しかも、今までとは段違いの速度で、風と空気を切り裂きながら向かってきていた。


「くぅっ」


 盾の無いエルザが受け止めることは不可能と判断。何とかかわそうと身を捩るが、完全に避けることなくエルザの左腕を切り裂き、矢羽の後を追うように血が舞う。

 だが苦痛に顔を歪めながらも、エルザは矢の向かってきた方向へ駆け出す。その直後、矢が大地に突き刺さり轟音と共に地面を削る。


 今までの矢と違い明確な意思を持った一撃は、その先にナザリオが居ることを示していた。

 エルザは爆風を利用して高く飛び上がると、白い木の幹を次々と蹴って上に登りながら距離も進む。あれだけの一撃を加えた以上、足場はしっかりとしていて両手が使えそうな場所。


「見つけた」


 太い枝の上、自分の身長よりも大きな白い弓を持つナザリオの姿。弓を引き絞り、いつでも射れるようにエルザを鋭く睨む。蹴った直後の速度、角度、全てを計算するように鏃はエルザに向けられ、進む先を狙っている。


 そして二人の距離が縮まり視線が交錯。


「……ッ」

「貰ったぜッ」


 エルザが深く膝を曲げてナザリオに飛び掛ろうと幹を蹴った瞬間、彼の手から矢は放たれた。

 今までと違い、エルザは変化を付けてわざと弱く幹を蹴った。だが、それすらもナザリオは対処して完璧な場所を狙い撃ったのである。


「んなっ」


 しかし、その一撃は外れた。

 狙いは完璧だった。弱く蹴ったことにも見事に対処して、進む先を計算した上での一撃は確実にエルザを仕留めることが出来たはずだった。


 エルザが宙に飛んでいれば、の話だが。


「私の方が上だったみたいだねっ」


 エルザは膝を曲げて屈んだ時に、右手に持ったショートソードを幹の横に突き刺していたのだ。ナザリオに狙いを付けられてから毎回。そして、幹を蹴る直前に放たないと思ったら、幹から抜いて蹴るというのを繰り返していたのである。

 だからこそ、蹴った時に飛び出す事がなかった。だが、その代償でショートソードは折れてしまう。


「ハアァァッ」

「グゥァッ」


 エルザが殴ったのは左脇腹。吹き飛んだ拍子に逃げられないよう、足場にしている木に当たるよう殴ったのだ。そして、狙い通り木の幹にぶつかり、血を吐きながら倒れ込む。

 また、左腕からは木にぶつかった時に血が流れ、持っていた弓は手から離れて地面に向かって落下する。


「ぐっ、あ、まだ負けてねぇ」

「……根性はあるみたいだね」


 力の入らない身体に喝を入れるように、両足を叩きながら立ち上がる。

 その時、何かにヒビが入る音がしたかと思うと、紫色の空が壊れ始めた。結界の崩壊、それは媒介にしたロッドか水晶、魔石が壊れた証。


 ナザリオは驚愕の表情で空を見上げる。


「ミレイユさんッ」

「あっ、待てっ」


 そして何の躊躇も無く背を向けると、枝から飛び降りてミレイユの元へと向かう。その迷いの無い行動に、一瞬呆気に取られたエルザもその後を追うのだった。






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