第四話
エルザに泣きついていたマリアだったが、暫くするといつも通りのマリアに戻り、慌ててエルザから離れた。
ただ、さすがに泣き出したのが恥ずかしいのか、目と同じく頬まで赤く染めている。
「す、済みませんでした」
「ぬふふ、気にしなくて良いよ、マリアの可愛い顔も堪能できたし。んで、これからどうすんの?」
「元々ここには出立の儀を行った後、顔見せを兼ねて寄ってるんです」
タウノは敢て顔見せと言ったが、分かりやすく言えばパレードである。
聖大神殿からオークリィルまでの道すがら人々は並んで見物し、マリアは馬車からにこやかに笑顔を浮かべて手を振っていた。
なので用事という用事がここには無く、直ぐにでも出発してよかったのだ。
「だが、お前等が入った事だし、近場で実力を見ておいた方が良いな」
グウィードの意見は尤もで、全員がそれに同意した。
レオたちがどれ程の実力なのか、どれだけの敵なら任せられ、また逃がした方がいいのか。先ずはそれらを知ることが最優先である。
「じゃあ、私たちも買いたい物があるし、ここに三十分後に集合ってことで」
言うだけ言ってエルザはさっさと歩き出してしまい、レオもそれを追うように歩き出す。そして、魔法陣を描いた場所に来ると、水のようなものをかけて歩みを速める。
◇
マリアたちと一時別れ、薄暗い路地裏に入ったエルザは、後を追ってきたレオに遊ばれていた。
「鬼、悪魔、人でなし」
「うぅぅ~、仕方ないじゃない。まさかマリアがあそこまで純粋だったなんてぇ」
そう、エルザのESSは見事上手くいった。
作戦の内容はこうだ。大抵の巫女は民衆に少しでも不満を持っている、これはエルザもそうだったし当時の他の巫女たちも同意見である。また、巫女という閉鎖的な生活で友達も少ない中、自分と似たような考えを持つ人が来れば自然と仲良くなるだろう。
そして、仲良くなった所で自分たちの目的を話す。基本的にお人好しの巫女ならどうするか……最終的にはマリアから誘ってきたが、その兆しが見えなければ自分からそれとなく切り出すつもりであった。
だが、巫女とは言えそこは人間。色々な性格の巫女が居る。
エルザも当時『絶対に反りが合わない』と公言していた巫女も居たのだ。もしマリアと反りが合わなかったり、仲良くなれなかった場合、素直にクロセウムに帰りはしないだろうが、他の巫女を探すために歩き回っただろう。
「でも良いの。マリアと友達になったのは本当の事だし」
その点はエルザの言うとおり、演技でもなんでもなく本当の事。
「嘘吐き、詐欺師」
だが、レオの心を抉る一言で座り込むと、地面を指先で弄りながらいじけてしまう。
「うぅぅ~、どうして大地の巫女は代々あんなに純粋なのよ~。まるで私が穢れてるみたいじゃない」
代々とは言ってもエルザが知ってるのは、自分たちの世代とマリアしかいない。それでも前世の大地の巫女はマリアと同等かそれ以上に純粋で、エルザは妹の様に可愛がっていたのだった。
「まあ、エルザで遊ぶのはこれ位にするとして……あの結界には気付かなかったな」
いじけるエルザから視線を外し、先ほどまでマリア達といた方角に身体を向けて、誰に言うでもなく呟く。
レオが地面に描いた魔法陣は人除けの結界。
あれだけの時間話していながら、街の人が一人もやってこなかったのは結界があってこそだった。
実はあれは人間が使う結界ではなく魔者が使う結界で、魔法陣の文字も人間には理解できないもの。しかも、レオが簡単には気付けないように魔力を薄く造ったが、魔王関係者が同じ手法でこないとも限らない。
「大丈夫なんじゃない。マリアたちもこれから成長出来るだろうし」
頬を軽く叩いて気合を入れ直すと、グッと背伸びをして立ち上がる。
「それに、マリアは私が守るわ。……友達だもんね」
最後に満面の笑顔を浮かべると、二人は当初の予定通りまだ見ぬ道具屋を探しに歩き出す。
◇◇◇
予定時刻よりも早く用事が済み、マリアたちに連れられてオークリィルからダザンへ向かう歩道から外れた何も無い岩場にやって来た。
少し向こうには森が見えるものの、今居る場所には緑というものが全くと言っていいほど見当たらず、少し物寂しい感じもする。
そんな場所でグウィードとレオ、エルザの三人が少し距離を取って向かい合い、マリアとイーリス、タウノは少し離れた場所でその様子を見ている。
「さて確認するが、二人とも風属性でランクはレオがC+、エルザがB-だな」
レオたちは無言で頷き肯定する。
「丁度良かったですね。僕たちに風の属性の人は居ませんから」
見学組みのタウノが同じく見学しているマリア、イーリスへと視線を向ける。
大地の巫女であるマリア一行に風属性の人はいない。
それは風と土、火と水の相反する属性魔法を同じ場所で使うと、制御が難しくなったり、下手な方の魔法がかき消されてしまう場合も存在するからだ。
それ故に大地の聖大神殿には風属性の人はおらず、他の聖大神殿でも反対属性の人は置いていない。これは最悪の場合を想定して、というよりも、それぞれの聖大神殿の特色を出すためだとも言われている。
「じゃあ準備は良いか?」
そう言ってグウィードは背中に背負っている大剣を鞘ごと構える。確かに抜き身の大剣で手加減をするのも難しそうだ。
エルザは軽く舌で唇を舐めると腰を落として構えを取る。が、それをレオが止めてエルザへと近づく。
「ん、作戦会議か?」
「はい、そんな所です」
水を差された格好となり少し不満そうなエルザを引きつれ、レオはマリア達から少し離れた場所に音声を遮断させる結界を張った。
今回はマリア達に隠す必要はないので、人間界の結界を普通に魔力を込めて張る。
「エルザ、楽しくなったからって本気は出すなよ」
「分かってるわよ~、それ位」
二人は口の動きでばれないようにグウィードたちに背中を向けて話し合う。
グウィードがレオ達の作戦会議を覗き見る事はないだろうが、一応読唇術対策の為である。
「んで、どうする?」
レオがグウィードの方を見ればマリアと何事か話していた。恐らく「手加減して」とでも言われているのだろう。
「う~ん、いつも通りで良いんじゃない」
「分かった。じゃあ俺はサポートに回る」
エルザの魔闘術は体内にある魔法を使うエネルギーである魔力と、身体能力の上昇や自己回復などに使うエネルギーの気を併せて全く別のエネルギーとして使う。
その為、利点は身体能力の急激な上昇や自己回復が早くなるのだが、厄介なのは魔力を別のエネルギーに変えてるので魔法が使えないということだ。
エルザも魔闘術で戦わなければ魔法は使える。ただ、元からそういった戦闘の仕方を叩き込まれており、エルザ自身もそういった戦い方が性に合ってるらしく、大抵はレオが魔法で援護に回ることが多い。
それが二人にとっていつも通りの戦い方である。
「聖女マリアよ、今お助け致しますぞっ」
エルザの脳内シチュエーションとしては、悪人グウィードに誘拐された聖女マリアを助ける、とでもなっているのだろう。
いつもよりやる気を出して肩をグルグルと回すエルザを見つつ、レオは敢て何も言わずに結界を解き放つ。
それを感じ取ったグウィードはマリアたちから離れると、大剣を肩に乗せたままレオたちと向かい合う。
「話は終わったのか?」
「ええ、もっちです。色々考えたんですけど、いつも通りで良いじゃんって事で、先手は貰うよッ」
戦闘開始の合図も無しにエルザはグウィードへ突進し、グウィードは驚き目を見開いたいた。
それは、学生でありながら開始の合図も無しに飛び掛ってきたエルザの心構え……ではなく、飛び掛ってきたエルザの速さ。
エルザを甘く見ていたつもりはないが、いくら才能を必要とし魔闘士の数が少ないとはいえ、何人も知っているグウィードからすると、B-のランクとしては有り得ないほどの速さ。
「手っ取り早く魔闘士を育てたいなら、魔力と気の練り上げを上手く身につけさせること。それだけで強くなれるから才能が物を言うんだよな」
魔闘士の知り合いが弟子を育ててる時に聞いた話が頭を過ぎる。
「ハアアァァッ」
そして渾身の一撃。
グウィードは自慢の大剣を盾にしようと考えたが、突っ込んでくるエルザの速さでは間に合わないと即座に却下。
幸いと言うべきか、エルザの一撃はグウィードの顔面を狙っているので、冷静に拳の軌道を見ながら上体を後に反らしてかわす。
そして、魔闘士相手にこの超短距離では分が悪いと感じたのか、地面を蹴りつけ後方へ飛び退く。
「【風の刃よ敵を切り払え】ウインドカッター」
だが、空中にいるグウィードを狙い、レオの放った風の刃が襲い掛かる。
グウィードは肩に置いたままの大剣を鞘ごと地面に突き刺し、スピードを殺すと左足で地面を蹴ってその場から右へと移動。その直後、元いた場所を風の刃が通過した。
「中々やるな、思ったより楽しめそうだ」
ニヤリと不敵に笑いエルザを正面に大剣を構え直す。その後方ではレオが地面に何かを書きながら、次の呪文を唱え始めていた。
「【不動なる大地よその怒りを解き放ち、剣山の如く全てに等しき死の安らぎを与えよ】スピアーズヒル」
レオの放った魔法によって、グウィードはもちろんエルザも巻き込んで地面から岩石の槍が襲い掛かる。
しかし、エルザはそれに驚きも見せずに慣れた様子で交わしていき、グウィードも簡単に避けていく。スピアーズヒルにより何も無い平地だったこの場所は、岩石で出来た槍が生える剣山に姿を変え始めた。
これまたレオのランクではありえない規模ではあるが、こちらは才能ではなく呪文を唱えながら地面に書いていた術印による効果。
魔法陣とは違い文字を必要としない術印は、それだけで魔法の威力を上げたり範囲を広くさせるなどの効果があり、形さえ合っていれば大きさは関係ないので、大抵は相手に向ける手の甲に書きながら詠唱したりする。
ちなみに、魔法陣や術印を用いた魔法のことを魔術と呼ぶのだ。
「おいおい滅茶苦茶だな。エルザまで巻き込んで」
「私はいつものパターンだからね、慣れっこだよ」
いつもの『事』ではなく『パターン』。それはこれがただの始まりでしか無い事を示していた。
「グウィードさん、頑張って避けてね」
そうエルザに忠告され、グウィードは不思議そうに眉を顰める。
だが、そんなグウィードを無視する様に、エルザは近くに生えた岩石の槍を壊し始めた。もちろん、ただ壊すのではない。グウィード目掛けて思いっきり岩石の槍を殴り、握り拳くらいの大きさになった岩石を飛ばすのだ。
エルザによって弾き飛ばされたそれは通常の投擲よりも速い。
「はっ、そういう事かよッ」
グウィードも周囲に生えた岩石の槍の意味に気付くと、それを上手く盾として飛んでくる岩石を避けながら、自身も大剣で岩石の槍を壊し始める。
この作戦は先ずレオの魔法で攻撃し、避けられてもエルザによる投擲ならぬ殴擲で追撃。先ほどから止まないレオの魔法は、おそらく術印が威力強化のみならず、魔力を吸い上げ魔法を持続させる二つを使用。
足元からのスピアーズヒルはそれだけで脅威だが、それを放っておけば移動場所が減る上に、エルザが殴打して岩石を飛ばしてくる。
(中々に考えられた戦法だ)
グウィードはまた横から飛んできた石を避けながらそう考えた。
「頭が隙だらけだよッ」
だが、それだけでは無い。
その声につられて頭上を見上げれば、いつの間にかエルザが飛び掛ってきていた。
声の前に向かってきた石を避けたにもかかわらずいつの間にエルザは接近してきたのか、一瞬そんな疑問が頭を過ぎるが、そんな事より避けるのが先決。エルザの側面を取るように転がりながら移動し、空中から落ちてくるエルザ目掛けて大剣を振りかぶる。
だが、そんなグウィードを邪魔するようにまた石が飛んできた。グウィードは驚き剣を振るうことを止めて石を難なく避けると、石が飛んできた方向へ視線を送る。
「ッ、レオだと」
そう、今までエルザの殴擲だと思っていた物は、途中からレオの投擲も加わっていたのだ。恐らく魔法で身体強化をしているのだろう、レオの投擲の威力とスピードはエルザの殴擲とほぼ同等である。
唯一違いを上げるとするなら、投擲は手に持てる範囲なので飛んでくる岩が小さくなって石になった程度か。
そこでグウィードは気付いた。この剣山には前に上げた作戦以外にも、周囲を見難くさせてエルザを接近させるのが目的であったのだ、と。
「もういっちょっ」
グウィードに気付かれたレオを身体で隠すようにエルザが回り込み、再び空から飛んで襲いかかる。
わざわざ空中から襲うのは、地面が岩石の槍によって素早く移動できないからだろうが、身動きの取れない空中へ簡単に飛び上がるのは下策。
「空中じゃ身動きが取れねぇから、そう簡単に飛ぶもんじゃないぜっ」
急に飛んできた石の謎は解けた。それはグウィードを警戒しながら場所を移動しているレオ。さきほどは驚いて攻撃を止めたが、既に謎は解けていて、再び投擲で邪魔された所で石の一発や二発なら問題ない。
グウィードは自分に向かってくるエルザ目掛けて大剣を振り抜く。
「【エアーショット】。考えが有るから飛ぶんですよ」
レオが再び術印による威力強化された魔法を今度は詠唱なしで、しかも本来なら敵に向けて放つエアーショットをエルザ目掛けて放つ。
これによりエルザは風圧に押されて空中で方向転換、飛ばされた先の岩槍を蹴りつけ別方角からグウィードを襲う。
「貰ったぁぁーー」
「チィッ」
空を切った大剣で地面を叩き後方へ飛び去ると、一瞬の後その場にエルザ渾身の一撃が突き刺さる。硬い地面は貫かれエルザの細腕は肘程まで埋まり、周囲にひび割れを起こす威力を見せた。
だが、その威力も当たらなければ意味が無い。
避けられて動揺することなく、エルザは壊れていない岩槍に飛び乗ると再び空高く飛び上がる。
今回はグウィードに向かってではなく、頭上を飛び越えると空中で器用に体制を整え、腰から下げている二振りのショートソードを抜きグウィード目掛けて投げ付けた。
「甘いぜっ」
「……うっそぉ」
だが、エルザの力を込めた投擲もグウィードの振り向きざまの一閃で落とされる。叩き落とされたのではない、剣を振った風圧だけで落とされたのだ。
これにはさすがのエルザも驚き目を見開くが、すぐさま不敵な笑みを浮かべると、グウィードの反対側にいるレオに合図を送った。
「でも、タネはいっぱい撒いたし……レオ、やるよッ」
エルザがグウィードを飛び越えレオが移動した事で、グウィードは二人に挟まれた状態。大剣を正眼に構え、エルザに視線を送りレオに注意を払う。
次は何がくるのか、グウィードはプレゼント箱を開ける前の子供のように興奮していた。
「「【流動なる風の流れに乗りて敵の侵入を防げ】オブスタクルウインド」」
レオとエルザが同時に同じ魔法を放ち、グウィードを囲む様に風の魔法が発動する。
オブスタクルウインドとは一方方向に強風を吹かせて敵の妨害に使う魔法で、今使うべき魔法ではない。グウィードを含めマリア達も不思議そうに頭を傾げる。
「ちょっと待って下さい、何かおかしいですよ」
マリア達の中で一番魔法に詳しいタウノが、何かに気付いたのか声を上げた。
レオとエルザが放ったオブスタクルウインドはグウィードを包む様に同じ方向に風を送っていたが、その境界線が徐々に曖昧になり無くなっていく。
「覚えておいてね、風は自由と変化の象徴。フォールスサイクロン」
二つのオブスタクルウインドは遂に一つの竜巻に姿を変えた。
風属性上級魔法である『サイクロン』より威力は落ちるだろうが、その姿は正しく『フォールス』偽りである。
しかもそれだけでは無く、巻き起こる竜巻によって周囲に落ちていた岩石や、エルザの放ったショートソードも風に乗って吹き荒れる。レオのスピアーズヒルからの一連のパターンは、遂に最終形態を見せた。
フォールスサイクロンの中心に居るグウィードには、暴風と風に乗った岩石とショートソードが襲い掛かる。そして遂に力尽きたのか、薄っすらと見えるその巨体を屈めてしまった。
「グウィードさん、どうする? 今ならこれで」
砂煙が舞いだし、目元を押さえながらも自信満々に降伏を勧めるエルザの言葉は、全てを言い終わる前に途絶えた。
するとフォールスサイクロンの片側は消え、風に乗って舞っていた岩石も次々と落ち始める。
今、エルザが魔法を止める必要がなく、これはグウィードが無理矢理壊したか、術者の意識が消えたかの二つに一つ。
「エルザ、どうし……ぐっ」
故にエルザの無事を確認しようとしたレオだったが、急に襲ってきた首への衝撃から意識が遠のいてしまう。
レオが消えていく視界の中で最後に見たのは、少し済まなそうな笑いを浮かべるグウィードの姿であった。
◇◇◇
レオ達が戦った跡は凄まじく、地面から生えている岩槍やあちこちに転がる岩石、エルザの一撃によるひび割れなどがある。しかし、それ以上に酷いのは三つの大きな穴。大きさはどれも人一人は通れそうで、それが地面深くへと続いていた。
グウィードは気を失ったレオとエルザを抱えてマリア達の元に戻ってきた。
迎える見学組みの表情は一様に不満そうで、特にマリアは文句を言いたそうに口を尖らせている。
「父上、地中を移動なさったのですね?」
「いや、まあ、あれだ。珍しい物を見せてもらったお返しみたいなもんだ」
「でもエルザさん達いんは見えてないよ。急に襲われて気絶したんだから」
特にマリアとイーリスが不機嫌そう。二人の実力を見るのに奇襲を仕掛けるのはまだ理解できるが、グウィードの地中移動は魔法ではないので、本気で奇襲を仕掛ければイーリスですら察知することは難しいのだ。
ジト目で見つめる二人に出てこられれば、さしものグウィードも分が悪い。イーリスが最近義母に似てきたと感じながら、二人から逃れるようタウノに救いを求めた。
「そ、そういやタウノ、さっきの魔法は何だったんだ?」
「フォールスサイクロンと言う奴ですね。通常ならオブスタクルウインドは三百六十度、つまり円を描く事は不可能です。そこでレオさんとエルザさんの二人で半分の百八十度を担い、あれの見た目は普通の竜巻のようですが、実際は二つのオブスタクルウインドがリレーの様に物を運んでいたのだと思います」
何度か頷きながら喋り、最後に「実に面白い使い方です」と呟く。
魔法研究が趣味のタウノにしてみれば、今のは新たな考え方なのだろう。今も一人でブツブツと呟きながら、何やら考え込んでしまった。
しかし、話題を変えたのは正解だったようで、マリアとイーリスも二人して先ほどの戦闘を思い返していた。
「でも、二人とも強かったよね」
「そうだな。父上もはっきり言えば何も出来なかったのだし」
娘の何気ない一言で胸を押さえるグウィード。
実際、自分でも思っていたことで、模擬戦においてグウィードが行ったのは、岩石の槍を壊した事と地中移動による奇襲で二人を気絶させただけで、剣を振ったのは避けられた一回のみ。
「しかし、どっちが考えたかは知らねぇが。何手か先まで考えられた作戦だな」
苦手なタイプだ、とグウィードは唸った。
グウィードも近衛師団の副団長であり、知謀をめぐらす事はそれなりに出来るが、余り得意な分野では無い。
手帳を開き何事か呟きながら手を動かしているタウノと比べれば、質も思いつく数も落ち、そういった相手と戦うのも余り得意ではないのだ。
「恐らく作戦を考えたのはレオだろうな」
「そうだね。エルザさんがああいったのを考え付くとは思えないし」
グウィードの疑問にイーリスが答え、マリアもどこか悪いと思いながらも笑い、その意見に同意した。知り合って間もないながら、レオ達の性格や分担作業を良く理解している二人である。
「さてと、そろそろ二人を休ませねぇとな」
「じゃあ、私と姉さんでエルザさんを運ぶから、グウィードさんはレオさんと……タウノさんをお願い」
マリアとイーリスはそう言うだけ言うと、エルザを背負ってさっさとオークリィルへ戻っていく。
一人取り残されたグウィードはレオを背負うと、一つ深いため息を零すとタウノに視線を送る。そこには腕を組んで地面に座り込み、自分の世界に入ってるタウノの姿。
こうなってしまうと、こっちの世界に簡単に戻ってこないことは重々承知。だからこそマリア達は厄介事を押し付けたのだろうが、魔法の話題を振ったのはグウィードなので自業自得とも言える。
「おい、タウノ。街に帰るぞ」
そう声を掛けるが、やはり返事は無い。
ブツブツという呟きに耳を貸しても、それはグウィードの知識では分からない事ばかり。徐々に離れていく女性陣との距離を、少し物哀しげに見つめるグウィードであった。