第四十三話
魔者の襲撃にあった夜が明けた。
この日は誰もが疲れ果て、深い眠りに就いていた。それは直接戦ったかどうかは関係なく、夜中に起こされ襲撃を恐れながら夜の森を歩いたのだ。避難していた人達にも当然疲れはあったのである。
特別に起こったことと言えば、騎士団の本隊が到着して瓦礫の撤去作業や、身元を確認する為に遺体を並べるのが早く進んだことだった。
今回の戦いで出た戦死者は、現在のところ騎士団が十八名、狩猟隊が七名。勇敢に戦った彼らを追悼し、身元確認された人達から丁寧に本国へ送られたり、土葬されていった。
少なからず出てしまった戦死者だが、負傷者の数はもっと多く、戦いに参加していない人達も加わる。
また、その中には擦り傷だけで済んだ軽傷の者も居れば、生死の境に居る重傷者もいるのだ。
「イダダダダダダダダ」
そんな中でも特殊なのは、割当てられた一人部屋のベッドから、ほとんど動くことが出来ずにいるエルザ。
戦いでは負傷らしい負傷をしておらず、今も大げさに包帯を巻くようなことは無い。
「大量の気を無理やり与えられたので、今は肉体が悲鳴を上げてる状態ですが、次の機会があれば少しは楽になりますよ」
「なるほど、筋肉痛のようなものですか」
これがさらに次の日の昼過ぎに、エルザを見舞いに訪れたアイナの意見である。
「ですから、薬など使わず自然治癒に任せた方がいいでしょう」
「ぅ~、アイナの方が元気そう」
エルザはやや涙目で側に座るアイナを見上げた。
そのアイナはと言うと、左手を吊るし足を固定させて杖を使って移動しているが、顔色も悪くなければそれ以外の傷もほぼ治っている。
「私は立場上あまり休めませんので、少しばかり高価な回復薬を使いました。そのせいで昨日はきつかったんですよ」
「あれほどの怪我なら、そうでしょうね」
熱やら苦痛やらで酷かったと、アイナはため息雑じりに頭を振った。
そして、気持ちを切り替える為に話題も変える。
「それで報奨金の話になりますが」
戦闘中にエルザの喜んだ話題で、国からすれば少しばかり頭の痛い話題。
戦死者の遺族へ支払うお金のこともあり、値切るという言葉は悪いが、少しでも抑えなければならないのだ。
しかし、その話をどうするかは二人の間で既に決まっていた。
「あぁ、それだったら別に良いよ」
「この村以外にも魔物の被害はあるそうですし、そちらにも回してもらえれば」
特に気にした様子もなく、呆気なく報奨金を辞退した。つまり無償で良いとのこと。
幸いなことにレオとエルザに損失は出ておらず、困るといえば金欠のレオぐらいなもの。これは元から入る予定の無かったお金を、そのまま募金した気分だった。
この有り難い申し出に、アイナは多少驚いて本当に良いのかを確認する。
慈善話を一度口に出した以上、そうそう取り消すということは無いだろうが、確認を取るのは当然のことである。
「ありがとうございます」
そして二人の変わらぬ決意に感謝を伝え、予想していたよりも早く仕事の話は終わった。後は私的な話が出来る時間。
「そう言えば、ピアから手紙を預かっているとか」
「あっ、そっかレオ手紙は?」
最初に出した話題は、アイナ自身が気になっていたピアの手紙。アイナがエルザに訊ね、エルザは現在手紙を持っているレオへと回す。
そのレオは当初この事を聞いて、わざわざ配達することにした理由を忘れていたらしい、エルザの頭を叩こうかとも考えた。
しかし、そこはさすがに今回の功労者。痛みでベッドから動けないエルザを叩くのは止め、横で何度かため息を零すだけで終わらせたのだった。
「こちらが預かった手紙です」
曲がらないように挟んでいた本から取り出し、手紙をアイナに手渡す。
楽しみにしてた物を丁寧に扱ってもらい、アイナは気分良く手紙を受け取ると、二人に断ってこの場で読み始めた。
二人に関して書かれていたのは、レオとエルザの簡単な紹介と、何か有ったら助けて上げて欲しいとの願い。それと城の派閥争いには、巻き込まれないようにして欲しいといった内容だった。
後は家族を心配する内容や旅立った後の出来事など、話せる内容だけが書かれている。
「あの子も楽しそうで何よりです」
ただ、ダルマツィオの後継者の話は、まだレオが引き受けてない上に内容が内容で書かれてはいない。
しかし、何かあったらレオに聞いてみるよう手紙には書かれていて、ダルマツィオのお墨付きとまで書かれてあるレオが、カカイの家を訪ねなかった理由もおぼろげに理解した。
「それでは所用もありますので、そろそろ失礼します。余り無理をしないよう、身体を大事にして下さいね」
なので用事が終われば、失礼がない程度に早めに退室することにした。
エルザとしてももう少し話をしていたかったが、その気遣いを何となく察したので、レオと一緒に見舞いに来てくれたことに礼を言って見送るのだった。
◇
次にエルザの部屋を訪れたのは、集まった分隊と狩猟隊を纏めて戦い抜いたクルト。
アイナが来てからも指示を出す役割を担い、前線で戦わなかったクルトは傷を負っていないが、足下はふらつき先ほどのアイナよりも顔色が悪い。
「よー、無事か」
「なんとか……ってクルトさんの方が大丈夫なの」
「おー、騎士団の中じゃ俺らが一番早く参戦してたからな。報告書やら後始末やらで」
レオに勧められた椅子に腰掛けると、クルトは手で隠しながら大きな欠伸、そのまま手を持ち上げてこめかみをグッと押さえ込む。そして両手で一度頬を叩いて目を覚ます。
「ちょっとばっかし、時間が取れたんで見舞いな」
「それなら少しでも眠れば良いのに」
そんな状況でも律儀に見舞いに来た事に、エルザは呆れ半分感謝半分の眼差しを向けた。
「次寝たら、数日は起きない自信がある」
ただ、自信満々なその言葉を聞いて、呆れの度合いが少しばかり増えたが。
「だから今のうちでも、お前らには礼を言っておこうと思ってな」
「……俺にもですか?」
クルトはエルザとレオに視線を送り、これには二人の会話を邪魔をしないよう、壁際で椅子に腰掛けていたレオが驚いた。
それというのも、戦いで活躍したエルザに礼を言うのは分かる。現に村を代表して、村長とムライヨが礼を言いに来たほどだ。
ただ、レオ自身それほど貢献したつもりは無く、ましてクルトともエルザほど話しをしていないからである。
「当然だろ、支点に使った標魔石の指摘や、狼煙を上げてたのも重要なことだからな。まあ、最後の方は別の奴に狼煙を任せて、戦闘に参加してたらしいがよ」
「すみませんでした」
勝手に持ち場を離れ、任された仕事すら他人に任せたのだ。レオは言い訳をすることなく誤った。
元々一般人であるレオを護る為に任せた仕事だったので、クルトも少しばかり気分は良くないが、それでもため息一つで水に流す。
「まあ、彼女が戦ってる以上、彼氏としては……ってお前の気持ちも分からなくは無い」
染み染みと語るクルトだが、別に二人は恋人同士ではないので勘違いをしている。
しかし、レオもエルザも言葉どおりに受け取り、戦った理由は女が戦っているからではないと思いながらも、あえてそれを口にすることはなかった。
なので結局、誤解は誤解のままである。
「ま、二人ともお疲れさんのありがとさんってことだ」
「こちらこそ、ありがとうございました。クルトさんの指揮だったからこそ、魔物の群れも凌げたのだと思います」
「そうそう、最後の方は一軍の将って感じだったし」
レオとエルザに感謝を伝え、二人もクルトの指揮が素晴らしかった事を褒める。そして、エルザは一つの話題を思い出し、嫌らしく笑みを浮かべた。
「それにアイナから聞いたんだけど、出世の話があるんだって?」
この話は先ほど見舞いに来たアイナから、早々に聞いていたのである。
しかし、その話自体に二人はそれほど驚くことは無かった。あれだけの指揮能力を見せながら、分隊長止まりということが逆に疑問だったくらいだ。
ただ、そんなめでたい話にも関わらず、クルトの表情はどこか浮かない。
「どうかしたんですか?」
「んー、まあ何となく分かっちゃいたんだが、出世するって事は同時に色んな責任を負うことが分かってな。部下の人数が増えれば、それだけ多くの命を預かることになって、それを無謀と分かっても捨てさせなきゃならん時もある」
恐らく最後の突撃のことを言っているのだろう。
実際、今回の戦死者のほとんどはあの突撃が原因である。ただ、あの突撃が無ければエルザに気を渡せず、アイナも治療が出来ずに死んでいたかもしれないのだ。
それを理解した上でクルトは悩んでいる。
エルザとしても悩みを解決してあげたかったが、それだけの話を出来るとは思っていなかった。それは同じ立場になったことが無いから。
「まぁ、私は部下を率いるって事が無いから分からないけど、ま――じゃなくて参謀とか学園とかで学生を率いてない参謀のレオは、ど、どう思う? ……いだだ」
思わず魔王と口走りそうになり、慌てて変な言葉を矢継ぎ早に並べて、最後はわざとらしく痛がって見せる。
そんな相変わらずな事態に、レオも呆れながらも話に乗ることにした。
「身体が痛いんなら無理して喋るな。クルトさん若輩者の意見でしょうが、全てを理解した上で命令に従う、そう思ってくれるような上司になれば良いんじゃないですか」
「うーん、でもそれって悩みの解決にはなってなくない?」
「そうか? 命令を受けた以上実行するのは明確。被害を抑える為にあれこれ考えるのは当然。なら、その事で悩んでも仕方ないだろ。後は死地に向かう部下が嫌々なのか、義務感なのか、やる気に満ちてるかの方が重要じゃないか」
慕った上司の為に死ぬのか、嫌な上司の為に死ぬのか、である。アイナはそこが凄いとレオは例を挙げてみせた。
その事にはエルザも同意であり、クルトも兵士の死顔から何か感じ取るものがあったのか、目を瞑り静かに深く頷いた。
「……いや、そうだな。何か分かったわ。ってか、学生相手に愚痴を零して、悩みを聞いてもらう俺って」
「かっこわるーい?」
「うっせ、眠くて頭が働かないんだよっ。じゃあな、眠れない俺の分まで眠って身体治せよっ」
クルトは気恥ずかしさからか、少し頬を赤らめて椅子から立ち上がると、少々物音荒く部屋から出て行く。
部屋に残った二人は顔を見合わせると、去り際の嫌味を付けた気遣う言葉を受けて、軽く笑い合った。
◇
最後に訪れたのは武器防具などを提供し、避難民の誘導などでも活躍をしてみせたジャンニ。
いろいろと起こった中で、気の弱い性格も少しだけ図太くなり、昨日はぐっすりと眠れたらしい。顔色も足取りもクルト達に比べてだいぶ良かった。
ただ、ならばいつも通りかというと、出迎えた二人は揃って首を横に振るだろう。
「今回ので結構な赤字だと思うけど、お店は大丈夫なの?」
「まあ、多少は国が補填してくれることになってね。それに、アイナ様に名前を覚えて頂けたし」
年甲斐も無く頬を赤らめているジャンニは、締まりのな表情で丸っこい身体を左右に揺らしていた。見舞いに訪れた時からこの調子である。
「贔屓にしてくれそうだから……って訳じゃ無さそうだな」
「まあ、良いんじゃないの。幸せそうだし」
そんなジャンニを生暖かく見守っていた二人だが、いつまでたっても元に戻りそうに無いので、エルザが話を進めることにした。
「そうそう、借りてたロングソードを折っちゃってゴメン。ちゃんと弁償するから」
「ん、別に気にしなくて良いよ。さっきも言ったけど、国がちょっとお金を出してくれるからね。むしろ、あの剣であれだけ戦えたことの方が驚きだよ」
一声掛ければ正気に戻り、ジャンニはエルザの力量を褒める。
質の良い武器を扱ってるとは言え、そこはロングソード。使われている素材から、ラザシールと何度も斬りあえるような武器ではなかったのだ。
「あぁ、代わりという訳じゃないけど、良かったらリィズニーベルを見せてもらえないかな」
思い出したかのように手を叩き、レオに向かってそう願い出る。
特に断る理由も無いレオは、壁に立てかけておいた剣をジャンニへと渡した。
「うん、思ってた通り良い鍛え方だ。少し刃こぼれしてるから、研いでもらった方が良いだろうけど、これはどこで買ったんだい?」
ラザシールが来る前に、抜き身の状態を目敏く見ていたジャンニは、思ったとおりの出来のよさに頷きながら刃の部分を指で撫でている。
聞かれたレオは店名を思い出すように天井を見上げ、出てきた名前が間違ってないかエルザに確認を取った。
「アゼラウィルの王都にある、スピリートって名前の武器屋だったよな」
「そうそう、店主は……ぁ、元冒険者らしい身体つきで皆を出迎えてくれるハイモさん。王都に店を開ける伝はかなり広く、武器の質も揃いも上々。アゼラウィルに来たら一度は寄りたいスピリート、絶賛開業中だよっ」
身体が動かせればいろいろと動き回ったであろう、エルザは満面の笑みでそう宣伝した。
これは事情を知ってるレオは当然として、何も知らないジャンニでも何らかの取引が有ったというのが分かる。
「何か有ったのかい?」
「店を宣伝するという名目で、剣を安くしてもらったからな。そんな訳で、ジャンニも一度行ってみると良い」
本来は学友に宣伝を頼まれただけなのだが、別に今宣伝をしない理由にはならない。
二人の宣伝を受けて、ジャンニは思わず笑みが零れる。
「武器屋ってだけなら僕と商品全部は被らないだろうし、もしかしたら仕入れ先を紹介してもらえるかもしれない、か。分かった、二人がそこまで勧めるのなら、一度行ってみるよ」
「ほんどッどどどぉぉ~」
思わず身体を起こそうとしたエルザだったが、少し浮かせただけで全身に痛みが走って固まり、涙目になりながら再び力無く横たわる。
「うぅ~~店に行ったら、私からの紹介だって言ってみて。多分ハイモさん驚くから」
「話の種にはなるだろうな」
元から店に行けば伝えるつもりだったジャンニは頷き、リィズニーベルをレオへと返しながら、お見舞いで伝えるべき本題を切り出した。
「そうだ、僕は明日隣国のクォムルクに出発するから」
元々、ラザシールが現れたことで旅立ちを早めた客に、商品を渡すためクォムルクへ向かっている最中だったジャンニ。
多少日程に余裕を持って行動してるとはいえ、出来れば早く向かいたいのだ。
その事を聞いたレオは、横たわったエルザに視線を向けた。
「そうか……どうする?」
「うん、私達も一緒に行くよ」
返ってきたのはレオにとって予想通り、ジャンニにとっては予想外の言葉。
それもそのはず、エルザは昨日今日と全くベッドから動けないのだ。無理して明日出発する理由が無いのである。
「まあ、馬車に乗せてって欲しいってのが理由なんだけどね。ほら、じっとしてるだけなら、船に乗れば動くこと何てないんだし」
「本音は英雄扱いが面倒らしい」
「ややっ、別に面倒じゃないよ。ただ、世話してくれる人を付けてくれたり、すっごい良くしてくれ過ぎてね~」
慌てながらも、小さく首を左右に振るだけでレオの言葉を否定するが、気恥ずかしさなどよりもレオの言ったとおり、余り騒がれたくないと思っているのも事実。
ジャンニとしても特に断る理由はないが、一つ気になったが言い出しにくい事があり、しかし聞かなければならないことを口にした。
「僕は別に構わないけど、その、トイレとかはどうするんだい?」
動けないのならレオ君が、と聞いてみると、即座にエルザは身体を起こして否定しようとし、即効沈んだ。
「ちががががぁぁああぁぁーーー――」
「急に動くからだろ……。こいつは今、回復に専念してるから動けないし、意図せず動くと今みたいに痛みで悶えてるが、歩く程度になら回復してる。まあ、トイレや食事ぐらいなら自分で出来るだろ」
レオの言葉に涙目で何度も頷くエルザを見ても、痛みで悶えてる姿からは今一信じることが出来ない。
ただ、本人達がそう言った以上はダメでもレオが何とかするだろう、とジャンニは了承することにした。
「分かった。なら、明日出発だから、村長さん達にもそう伝えておくよ」
「うん、おでがい」
「それなら、俺らはもう退散するか」
最後の訪問予定者だったジャンニの用事も終わり、レオはエルザの世話を任せられた女性を呼ぶ。気兼ねなく話を出来るようにとの気遣いで、少し離れた部屋で待っていたのだ。
そして、現れた中年の女性にエルザの世話を頼み、二人は村長に出立の事を伝えに行く。
明日という急な出発、ましてエルザは動けていないのだ。村長は驚き引き止めようとしたが、旅には目的があること、エルザ本人が望んでることを伝えて説得。
代わりに今晩はジャンニにお酒に付き合うことにさせ、レオは早々に自室へと戻った。明日旅立つ三人の中で、唯一ゆっくりと眠れそうなのはレオだけである。
◇◇◇
翌日、三人の旅立ちには村中から見送りが来ていた。とは言え、その場の全員が馬車の近くに居るわけではなく、代表としてアイナと村長、ムライヨが直接別れの言葉を交わすのだ。
当然クルトも来ていると思いきや、昨日言っていた通り眠っているのか、仕事が片付いていないのかこの場には居ない。アイナに聞いてみれば、仕事の後で倒れるように眠り込んだらしい。
そんな訳でクルト抜きで始まった別れの挨拶。ジャンニとレオには村長とムライヨが、エルザは弱ってる姿をあまり異性に見られたくないとの立前で、アイナが話しかける事になっている。
そのエルザは既に空きの出来た荷台で横になっていた。ただ、普通なら落下した時を考えて外に足を向けるのだが、景色が見れないからという理由で、エルザは外に頭を向けて寝ている。
なのでアイナは荷台の外から少し覗き込むだけで、エルザと顔を見合わせて話をすることが出来た。
「それじゃあね、アイナ……何か戦闘中だったから、敬語とか使わなくて今もこんな感じだけど、気に障ってたらゴメン」
「いいえ、むしろ新鮮で楽しかったです。エルザさんとは仲良くやれそうな気がしましたし」
ずっと思っていた事を、別れ際に恐る恐る誤るエルザだったが、アイナはその様子も面白いのか口に手を当てて静かに微笑む。
仲良くやれそうと思ったのは本心からで、それが何故なのかを考えてみる。そして、昨日読んだピアからの手紙を思い出し、自分とピアが直ぐに打ち解けられた理由が見当たった。
「きっと貴方にピアが懐いたのも、雰囲気が妹に似ているからなのでしょうね」
「妹って次女さん?」
「はい。ちょっと意地っ張りで強がりで、でも心配性で優しい妹なんですよ。私の剣やピアの魔銃も、あの娘から貰った物ですし」
贈り物である武器を二人とも実戦で扱っているのは、姉妹仲がそこまで良いのか次女の選んだ武器が素晴らしいのか。
当然興味を持ったエルザは、その次女が今何をしているのかを訊ねる。
「今はカカイの王都で勉学に勤しんでいますので、エルザさん達の旅先で出会うことは無いと思います」
「そっかー、残念」
学生である次女が、他国に行くような仕事をギルドで請ける事は無いだろうとのこと。
そこで会話も切りが良く、アイナは男性陣の様子を確認した。すると既に挨拶は終わっていて、ジャンニが再び来る時に持ってきて欲しい商品やら、次村に来る日程など事務的な話になっている。
「ではエルザさん、この数日楽しかったです。今度はもう一人の妹も紹介して、四人でお話をしてみたいですね」
「うん、楽しみにしてる」
最後にそう伝えアイナは荷台から離れる。
それを見たジャンニ達も、最後に握手を交わして御者台に腰掛けた。先ほどの事務的な会話も、昨日話していたことの確認だったのだ。
「それでは、皆さん。次は日常品を多くお持ちしますので」
「有り難うございます。御三方の旅路が平穏でありますように」
村長や村人に感謝の言葉を送られ、アイナや騎士団に見送られて三人は旅立つ。
ジャンニは慣れていない状況に、やや照れながらもレオと一緒に手を振り、見えていないがエルザも手を上げ下げして声援に応えている。
こうしてレオ達はメチッカ村を後に、一路クォムルクへと向かう。
さまざまな出会いと戦いを経て、心機一転とも呼べる今回の旅立ちは、二人だけで旅を始めた時とは違い、多くの人に見送られての旅立ちとなった。