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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第三章 『二つのアゼラウィルと二人の巫女』
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第二十話




 ヨーセフの家に着いたマリア達は、出迎えてくれたウィズに城で聞いた話を伝えると、神聖樹まで案内して欲しいと頼んだ。


「はい、承知しました」

「えっ、いいの? お仕事とかあるんじゃないの?」


 仕事の関係都合などもあり、ヨーセフの説得は自らやろうと思っていたマリアだったが、ウィズが二つ返事で依頼を受けたことに驚いてしまう。


「マリア様方がご滞在中は専属となるよう命じられております」


 そのことを嬉しく感じながらも、ヨーセフの家に戻ってからウィズの口調が戻ったのは少し残念なマリアである。

 まあ、そうしないとウィズに問題があると思われるので、マリア達からは何も言えないのだが。

 そして、各自が出発の準備を始めようとした時、何か考えていたレオが口を開く。


「悪いが、俺は残ってもいいか?」


 特に難しくもないお使いなので、レオが居る必要はない。

 ただ、先ほどの城での様子からグウィードのことを心配していたレオが、何故治療のための素材を採りに行かないのか、マリア達は疑問に思う。


「グウィードに投与した薬が別にあれば、多分何かの役には立つだろ。ヨーセフさんに聞いて、有れば取りに行こうかと思ってな」

「それでしたら、私どもに命じてくだされば……」


 レオの考えにマリア達は納得したが、ウィズからすれば余計に疑問に思うことだ。何故なら、雑用などをこなす為にメイドは存在しているのだから。


「いや、俺がやりたいことだから。それに、旅立つまでに買っておきたい物もあるし……」


 他にも用事があるというレオに、そう言われればウィズも納得するしかない。


 ちなみにレオが買っておきたい物とは、もちろんエルザが折ってしまった剣の代わりである。

 今、レオが腰から下げてる鞘には、長さが半分もない剣だということはレオとエルザしか知らないのだ。

 そして、レオはその当事者であるエルザを軽く睨みつける。


「エルザも一緒に来てくれると嬉しいが?」

「うぅ~~、じゃあ私も残ろうかなぁ」


 不満そうに肩を落とすエルザだが、その様子とは裏腹に一度もごねて見せないのは、レオが言い出した時から残るつもりだったのだろうか。

 ここでグウィードが居れば一緒に残る二人をからかいそうだ、とこの場に居る全員が思い、グウィードが居ないという事実を改めて認識してしまう。

 そこに悲しみを感じるのと同時に、早く神聖樹を採ってきて、また一緒に旅を続けたいと思うのである。


 その後、お城から馬車がやってきた時刻は、午後三時の少し手前。日没までにはまだ時間があるが、野宿をする回数を減らすために、明日の朝出発するという手もある。

 しかし、少しでも早くグウィードを助けたいというマリア達は、レオ達に見送られながら出発したのだった。




 ◇◇◇




 マリア達を見送ったレオとエルザは、事前にウィズから聞いていた武器屋にやってきた。

 とりあえず剣の代金は、エルザが払うという話になっている。


「ねえレオ、これなんてどう? ほらこの薄さ、レオみたいに動き回るならこれ位だと良いんじゃない?」

「そんな薄っぺらいのが何の役に立つんだ」


 店に入って何度目かにエルザが選んだ剣は、平べったく何処まで薄く伸ばせるかという技術的には凄いが、脆そうでそれは既に剣ではない。


「じゃあじゃあ、こっちは? ほら大きくて重量感のある――」

「それは剣というより金棒だ。……エルザ、俺としては最低でも前より良い物が欲しいんだが?」


 疲れたようにため息を零すレオは、実は既にエルザの側には居らず、別の場所で自分に合いそうな剣を選んでいた。

 それでいて、エルザの選んだ剣を全く見る事無く言い当てられているのは、周囲から見れば一芸ものだろう。


「そんなっ、私がそんなにお金を持ってるとでも思ってるの」

「何なら腰から下げてるショートソードでも売るか?」

「くっ、こんな事ならエンザーグの鱗の一つでも取ってればよかった」


 悔しそうに肩を震わせるエルザだが、ここら辺りの言い合いはいつも通りの冗談であり、レオも本気でエルザに剣の代金を払わせるつもりはない。

 いかに接近戦のスペシャリストであるエルザとはいえ、人間界最強種のエンザーグドラゴンと戦ったのだ。

 ロングソードで立ち向かって折れたのは、当たり前の結果だろう。


 だからこそ、この店に入る前に銀行に寄り、貯金全てを小切手に換えてもらったのだ。


「で、エルザこれは?」

「うん? ああ、それは刃の片一方を重くして、振り下ろすことに特化した剣。でも使いにくいし、結局は斧とかの方が便利でボツ」


 レオが一振りの剣をエルザに見せると、それを一目見ただけで答えた。

 これが代金を払わせるつもりが無いにも拘らず、エルザを連れてきた理由である。


 レオは武器に関してそれほど知識は無いが、エルザは前に自分で「接近戦のスペシャリストは近接武器を選ばない」と言っていたように、数多くの種類の武器を扱ってきた。

 その為、武器に関しての知識はもちろん、目利きもかなりのものなのだ。


 もう冗談は終わりにしたらしく、エルザはレオを引き連れて少し離れた場所へ移動する。


「ほいほい、お金の無いお客さんにもお勧めなのは、癪だけどこれっ、じゃぁーーん」


 そう言って取り出したのは、ロングソードよりは短い一般的な剣。重さも特に変わりなく、刃にも特徴は見られない。

 ただ普通の剣とは違い、柄の部分に小さな球体、魔玉がはめ込まれている。


「当店お勧めのこの一振り、一見すると何の変哲もないごく普通の剣にしか見えません」


 レオの目の前に押し出された剣を、今度は胸の前に抱き寄せると、右手人差し指を口の前で左右に振る。


「しかしこの剣、名を『リィズニーベル』と申しまして、AAから派生したリィズアジャストアームズでございます」


 AAはイーリスも持っている剣の種類であり、数多く創られて値段は幅広いが、安くても家一軒するほどの値段。

 そしてエルザが薦めるのは、このAAを安く普及させようと考えられた武器である。


 AAと同じく決められたワードで魔法が発動するのは同じだが、武器の形状から術印などが刻まれ一つの魔法に特化してあるのがAA。

 それに対して、RAAは柄の部分にある魔玉を取り替えることで、その玉に刻まれた魔法が使えるというもの。

 もちろん欠点は存在し、魔力消費が多いのは当然、魔法の威力が格段に落ち、初級レベルの魔法しか扱えず、複数の魔玉を用意するとかさ張るなどがある。


 それに、いくら安くなったとは言え、学生であるレオがギルドなどで稼いだ全財産を合わせても、値引きしてもらわなければ手が出せない金額。


「まあ、言いたいことは置いといて、一先ず試し斬りでもさせてもらおうよ」


 どうするかと悩むレオを無視し、エルザはカウンターに立っている店主に話しかけた。


「おじさん、試し斬りって出来る?」

「ああ、こっちの部屋に丸太やらが置いてある。ただし、商品を壊した場合は買取だぜ」


 店主がカウンターの横にある部屋を指差すと、エルザはそこにレオを引っ張り込む。

 部屋は窓の無い縦長な部屋で、入って直ぐに丸太や、藁を束ねたもの、奥の壁には的などが用意されていた。


「さあ、好きに暴れるといいわ。そうね、先ずはこいつでも斬り刻んでみる?」


 何かの役になりきったエルザが指差すのは、人の大きさ程度に藁を束ねられたもの。

 レオとしてはまだ買うと決めたわけではないが、試し斬りだけならタダ、と頭を切り替えて剣を鞘から抜くと、巻藁の前に立つと息を吸い剣を構えた。


 そして、息を吐き出すと共に振り下ろされた剣は、藁の中の木ごと斜めに切り落とし、続けて片手を離して横に斬る。

 結果を見終えたエルザは、どうだと言わんばかりに笑顔を浮かべた。


「どうよ?」

「……いい剣だな」


 その答えはエルザの思った通りだったが、レオは未だ買うか決めかねていた。

 剣に対して問題は無いのだが、問題なのはやはりお金。


「でしょ~、じゃあ次はお会計ね」

「おい、まだ買うとは」


 エルザにお金を出させることも考えたが、お金を下ろしてないエルザはお金を持っていない。

 それに学生だからと言って割引が利くはずもなく、あとは値引きしかないのだが、どれだけ引いてくれるのかは分からないのだ。


「ふふん、そこはこのエルザちゃんに任せなさい」


 しかし、エルザはレオのそんな考えなどお構いなしに剣をひったくると、片一方の手を差し出し小切手を渡すよう伝える。

 最初から武器のことはエルザに任せようと決めていたレオは、ため息一つ零しながら全財産分の小切手をエルザに渡す。

 そして、文句を言わずにエルザの後に続いてカウンターへと向かった。


「この剣下さ~い」

「あいよ、金貨二百四十だ」


 店主はカウンターに置かれた剣を確認した後、品書き通りの値段を示すが、このままの値段では手持ちが足りない。

 だからこそこれからがエルザの戦いである。


「ねね、おじさん。ここはちょっと負けてくれないかな~」

「ほー、で幾らにだ?」


 エルザの愛嬌笑いに、店主も楽しそうに笑って答えた。

 客との値引き合戦はある意味商売者の楽しみでもあり、大抵の店では話だけでも聞いてくれるが、中にはいろいろな事情で値引きの出来ない店もある。


 ただ、今回の場合エルザに不安は無い。


「ここは男らしくどーんと半額の百二十……は無理だろうから百五十でどうよっ」

「おいおい、幾らなんでもそりゃ無理だ。嬢ちゃん達は見たところ学生ぐらいだろ、買えないんなら無理しないこった」


 店主は笑いながらカウンターに置かれた剣を引こうとするが、それはエルザがしっかりと掴んでそうはさせない。


「おぅ、よく私たちが学生だって分かったね。さすが見る目ある。そうよ、私たちはここから遠く離れたクロノセイドの学生。とある事情でここまで旅してるの」

「ほう、そいつはかなり遠くじゃねぇか。だいぶ時間もかかったろ」


 驚き剣から手を離すと、腕組みしながらクロノセイドからの移動距離を考える店主。

 実際にはヨーセフの転移装置を使ったので、それほど時間はかかっていないが、そんな移動だけで金貨を必要とするものを学生が使えると思えるはずも無い。


「まあね。でさ、その途中でヤバイ奴と会っちゃって……」


 エルザはレオを手招きして呼ぶと、腰から下げていたロングソードを鞘ごと外し、カウンターに置いて剣を抜く。

 そこには途中から折れたロングソードと砕かれた欠片が幾つかあるのみ。


「こいつの持ってた剣がこんなになっちゃって、新しいのを探してたの」

「ほぅ、普及品の武器にしちゃ、なかなか手入れされて良い具合だな」


 笑顔を浮かべたまま目は真剣になり、柄を持つと目の前に持っていき確認する。


「こいつぁ岩でも、こんなならねぇな。ダザン辺りのエンザーグドラゴンとやりあった……何てな」

「え、エンザーグドラゴンッ。そ、そんなの斬ろうとるわきないじゃん。もう、おじさん冗談ばかね~」


 店主としてはこの世界で一番硬いとされ、同じ国に出現し倒されたエンザーグの名を冗談で出しただけだが、思わぬ正解にエルザは動揺してしまう。

 まあ、それが当たったから焦ってると気付けるはずもないので、あっさりと流れるのだが。


「で、え~と何の話だっけ……あ、そうそう何を斬ったか何だけど、実はハガモグと出会っちゃって」

「あぁー、そいつは幸運で不幸だったな」


 ハガモグは硬い皮膚を持ち地中に住まう魔物で、その硬さはエンザーグの鱗とまでは言わないが、名立たる剣士ですら倒すのに苦労すると言われるほど。

 ただ出会うのは非常に稀で、そういう意味では店主の言う通り、幸運であり不幸でもあるのだ。


「でしょー。だからさ、そんな私たちにこのリィズニーベルを百四十でっ」

「さっきより安くなってるぞ。せめて二百三十だな」


 そして始まる値引き交渉。


「さっき幸運って言ったでしょ、だから百七十」

「残念、不幸分で二百二十」

「こっちも本気でキツイのよ、百八十」

「それはそっちの都合だろ。じゃあ二百十五でどうだ」


 ここにきて刻み始めたことで、エルザはここらが限界と分かり、最後の切り札を出すことにした。


「もう一声。ほら、私たちって旅してるし、ねっ」


 旅先でこの店を紹介するという発言に店主は考え込む。

 エルザが本当に旅先でこの店を紹介したとして、それが利益に繋がるのか……浮かんだ答えは「否」である。

 何故ならこの首都近くの村からですら、わざわざ武器を買いにアゼラウィルにやってくるのはごく稀だからだ。


「……そうだな、クロノセイドに戻った時に友達にでも話してくれるってんなら、二百十で手を打とう」


 ただ、それがこれから巣立つ学生ともなれば話は別。

 もしかしたら、エルザの様に旅をする人、ギルドの仕事でアゼラウィルに来る人、そして出世する人が出るかもしれない。

 店の名前を聞いてれば、利用してくれる可能性も高まるのだ。


「やった、もちろん言い広めるよ。え~と、店の名前何だっけ? あ、一応おじさんの名前も」

「店の名はスピリート、俺は店主のハイモ。俺の名前はどうでもいいが、店の名前は覚えておいてくれよ」


 ハイモはリィズニーベルを手に取ると、カウンターから出てレオのもとへ向かう。剣を腰から下げた時の位置を調整するためである。

 ただ、その歩みを止めたのはエルザ。


「あ、そうだ。私たちが欲しいのは剣だけで、リィズはいらないから、その分引いておいてね」

「……おい」


 その言葉を聞いてハイモは呆れたようにエルザを見るが、次第に肩を震わせた。


 リィズとはリィズニーベルにはめ込まれている魔玉の通称で、『R』AAというように、武器にも必ず『リィズ』という名が付いている。

 つまり、レオが買おうとしている剣だけの名前は「ニーベル」なのだ。

 このような事をするのは、名前だけでRAAと分かりやすくし、AAと間違われないようにするためらしい。


「くくく、やるな嬢ちゃん。嬢ちゃんには商売の才能があるぜ、何ならうちで働いてみるか?」


 リィズの分を引くと分かっていれば、ハイモもそこまで値引きはしなかっただろう。それが分かっているから、エルザは最初に値引き交渉をしてリィズを外すように言ったのだ。

 今回、エルザが余り値段を気にしてなかったのも、リィズを外して買うつもりだったから。


 実は今回のようにリィズを外して買うことは、RAAを以前に購入した人ならやっている行為。

 今まで持っていたRAAのも使えるのだから、別にいらないリィズなら買う必要はないだろう。ただ、レオのようにロングソードからRAAに買い換える時に、リィズを抜くという行為は少ない。


 そこにエルザの付け入る隙があっただけのこと。


「いやいや、私が店員だったらお客さんが値引きできなくなっちゃうよ」


 その返しに笑いながら納得すると、カウンターに置いてある小物入れから、鉄で出来た先の尖った細い棒を取り出す。

 そして、ニーベルの柄にある小さな穴に刺し込み、リィズを外すと蓋をはめて終わりなのだが、その作業中にハイモは何か思い出したのか苦笑いを浮かべる。


「しかし、これで今月二度目か。客に完敗するってのは」


 一応、値引きしても儲けは出るのだが、値引き勝負で予定よりも低く売るのは、負けた気持ちになるのだろう。


 エルザも自分並みに交渉できる人はいると思ってるし、それほど気にせず流していたのだが、次のハイモの発言に思わず持っていた小切手を落としてしまう。


「そういや、嬢ちゃんと交渉した女性が似てるな。一緒に居た男性も、嬢ちゃんと同じ赤いポニーだったし」

「ぐがぁっ。も、もしかしてその交渉した女性って、優しそうとか包容力とかがあるように見せかけて、見下してる人?」

「見下されてはいないが、確かに優しそうで包容力のありそうな人だったな」


 既に確信を持ったのか、エルザは頭を抱えるとしゃがみ込んでしまい、小切手を拾うレオの耳には「騙されてるよ~」というか細い声が聞こえてくる。

 隠し蓋を取り付けたハイモに、剣の位置調整をされているレオは、正解をほぼ確信しながらエルザに知り合いか訊ねた。


「ん、多分うちの両親」


 返ってきた答えは予想通り、エルザを全寮制のクロノセイドに通わせ、世界中を旅しているという両親。


「親なのか、にしちゃえらく若く見えたな」

「あはは、若作り若作り」


 姉か従姉かと思っていたハイモは、親という事実に驚くも、エルザからすればそれはいつもの反応。

 そして、剣の位置を何度か微調整した後、レオが違和感無く動ける位置に決まった。


「ここで良いな。じゃあ代金はリィズを抜かして、金貨百九十だ」


 レオから受け取った小切手を魔道具で確認し、お釣りの金貨三七枚を払った。

 最初の値段から金貨五十枚も安くなったが、RAA本来の能力は失われている。ただ、今のところレオは剣が欲しいのであり、リィズは後で買えば問題ない。


「全く……じゃあ、店のこと頼んだぜ」

「もっち、気前のいいハイモさんがやってる、値引きしてくれる店『スピリート』だよね」

「それは止めてくれ。値引き前提に来られたら困る」


 ハイモは本当に困るようで、苦笑いを浮かべた表情で首を振ると、エルザも冗談と笑いながらレオを引き連れて店を出て行った。

 店に残ったのは、嵐が過ぎ去った後のように疲れた様子のハイモ。しかし、疲れだけでなく、楽しそうな笑顔も浮かんでいる。


「はは、あの少年も結婚したら、嬢ちゃんの親父さんみたいに尻に敷かれるんだろうな。まあ、今でも主導権は嬢ちゃんにありそうだが」


 かなり勘違いが入ってるが、しばらく脱力していたハイモは客が居なくなったこともあり、店内の掃除を始めた。

 次も個性的な楽しい客が入ってくるのを望みながら。




 ◇◇◇




 知らず知らずのうちにハイモを勘違いさせた二人はというと、エルザの交渉で浮いた分のお金でケーキを食べていた。もちろん全てレオの奢りである。

 会話は先ほど上がったエルザの両親……が話されることはなく、買ったニーベルのこと。


「レオが文句言わなかったから、リィズ外しちゃったけど問題無かったよね」

「ああ、今は剣があればそれで。お金が浮くならそれに越したことはない」

「だと思った。AAとかRAAは魔法を使うから伝導とか良いし、ニーベルは剣としても良いしで、買いでしょ」


 エルザの目利きを信頼してるとはいえ、そういう説明は買う前にしてほしいと思う。すると、何かが引っかかった。


「そう言えば、お前ニーベルを薦めた時に『癪だけど』って言ってたよな。何でだ?」


 あの時はそのまま流してしまったが、ニーベルに不都合な点でもあるのか、とレオは考えてしまう。

 しかし、エルザは自分で言ったことを忘れていたのか、一瞬空を仰いで思い出したのか頷く。


「別にニーベルには何も無いよ。ただね、知ってるでしょ。私が大陽の巫女を嫌いだってこと」


 不機嫌そうにそっぽを向くエルザが言うのは、現代の巫女バネッサではない。

 授業などで話題になる度に、エルザが不機嫌そうにレオに勝負を挑んできたので、レオも否応なく知ってること。


 ただ、レオはエルザが本気で大陽の巫女を嫌ってるとは思っていない。

 本気で嫌っていたら背中を任せて戦うことなど出来ないだろうし、その人物が考えた魔法を使うこともない。

 だから『ただのケンカ友達』というのがレオの見解である。


 もちろん、それをエルザに言うことはしないが。


「RAAってアイツが使ってた武器の劣化版なの」


 エルザは劣化版と言ったが、RAAの目指す『安くてAAの流れを組む』という方針からすれば必然的な流れ。

 何せ現代のAAよりも高品質で、剣と魔玉を細工して複数の魔法を使えたのだから。


「ん、一つ良いか? リィズって名前が使われてるが、確かお前の時代の大陽の巫女は……」

「リィズはアイツが使ってた武器の名前。巫女には様付けが当然だから、武器につけるのは失礼だと思ったんじゃないの」


 そんなものか、とレオが納得したことで会話が一度止まる。

 そして二人が思うのはマリア達のこと。

 二人は落ち着いた雰囲気の中、マリア達に思いを馳せながら、時は静かに流れていくのだった。






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