第十五話
クラニヴァース、風属性最上級魔法であり、無数の風の刃を周囲に放つ魔法。
エンザーグによって放たれた魔法は、マリア達だけでなく上空や地面にも無差別に向かい、これらを無傷で避けきるということは、ほぼ不可能と言ってもいいだろう。
ただ、魔法による迎撃が無理であっても、ここにはグウィードを始め優秀な戦士が揃っている。
弱まりつつある風に上手く乗ると、全員がマリアの下へ集まり襲ってくる風刃を打ち落としていく。
「オオォォォラアアァッッ」
「【氷柱よ貫け】」
「セイッ」
「ハアアッ」
「【ヴァイジエアエッジ】」
グウィードの衝撃波とイーリスのAAで多くの風刃を落とし、ウィズの鞭のようにしならせた両腕とヴィアラの剣が止まる事無く確実に、最後にタウノが無詠唱術印で魔法を放つことで、マリアに風刃が届くことは無かった。
しかも、このウインドクラッシャーはその破壊力よりも、全方位攻撃可能という点で評価されている魔法。本来であれば周囲を多くの敵に囲まれた状態や、敵の中央に突入して放つことこそ正しい使い方なのである。
なので、マリア達のように六人と少数や、今のように一箇所に集まってしまえば、そこ以外に向かう風刃は木々を切り倒すなど、無駄な破壊を続けるだけ。
魔力や身体能力などは凄まじいが、選ぶ魔法など戦闘経験ではまだ浅いところが見える。
しかし、自分に向かってくる風刃よりも厄介なのは、意外にも地面に向かう風刃であった。
当たる風刃は優先的に落とすが、当たらないのなら無視する。だが、その風刃が地面を傷つけると土煙を巻き上げ、衝突で小石が弾き飛ばされ身体を傷つけるからだ。
全員には露出した肌に多くの切り傷、女性陣もマリア以外は顔にも小石で傷を負ってしまう。ただ、ヴィアラは包帯を巻いていた為、その一枚が切れた程度でイーリスのように血が浮かび流れることはない。
マリア達が一箇所に集まって風刃を打ち落としていては、エンザーグが当初予定していた『致命傷を与えるか個別に足止めをする』という狙いは失敗だった。
しかし、エンザーグからすれば一箇所に集まった、こちらの方が予定以上の結果である。
「ググウウゥゥゥ」
エンザーグドラゴンの一番強い攻撃は何か。
それは代名詞とも呼べる自慢の尻尾でも、鋭い牙でも硬い爪でもなく、ましてや人間が使う魔法ですらない。答えはいつも使っている火炎こそ、エンザーグドラゴンの最強の攻撃。
魔力を込めればそれだけで威力は上がり、詠唱も発動する時間もほとんど無い。
人間からすれば「ふざけるな」と言いたくなる使い勝手の良さ、魔者からすればその種の特色。
魔力の高まりを感じたマリアとタウノは、エンザーグの邪魔をするために詠唱を始めるが、内心ではこの詠唱に意味が無いことに気付いている。
それは、詠唱が完成する前に火炎弾を放ってしまえば、それまでだからだ。
「いざとなりゃ、分かってるな」
だからグウィード達は、いざとなれば風刃で傷つくことがあっても、この場から逃げることを優先した。
確実に高まっていく魔力は、大気を歪ますように揺らめいているが、今向かってくる無数の風刃でそれどころではない。
グウィードはせめてもの一撃で、エンザーグに向かうよう衝撃波を放つが、気を溜めていない一直線に向かう衝撃波は簡単に避けられてしまう。
「グアアァーーー」
しかし、衝撃波を避けたはずのエンザーグが、突然片目を瞑って空を仰いで苦痛に震える声を上げた。そして、地面を睨みつける視線の先には人の親指ほどの小石。
咄嗟に瞼を閉じたので眼球に直撃ではないが、それでも目に当たった衝撃を無視することは出来なかったのである。
「小石如きにッ」
エンザーグは先ほどの衝撃波で巻き上げられた小石だと考え、その余りの幸運と偶然に怒りを隠せない様子。
だが、冷静になっていれば気付いたかもしれない。小石が当たった角度が上からだった事、そして微かではあるが小石に魔力の残り香があった事に……。
マリア達からすれば、何が起こったのか分からないが、それでもエンザーグが傷を負って火炎が放たれなかったという幸運が、風刃を凌ぎきったという事実と共に舞い込んできた。
その中でグウィードは最大のチャンスと確信し、エンザーグに向かって全力で駆け出す。
フェアルレイにより強化され、片目に見えないことで未だ反応出来ていないエンザーグに迫り、あと二歩踏み込めば攻撃範囲……という所で異変は起こった。
「ぐぅぁっ」
急に足や腕など全身がまるで鉛を着けたように重く感じ、その動きが鈍ってしまう。
既にエンザーグとの戦いが始まって数時間……レオの掛けたフェアルレイが、一番動き回ったグウィードから解けてしまったのだ。
これから他の仲間も次々と切れることは予想でき、マリア達からすれば最悪の、エンザーグからすれば先ほどの小石の不運を帳消しにする幸運である。
一番厄介であった人物が目の前で苦しそうに顔を歪めているのを見て、エンザーグは火炎を放つ準備をしつつ直ぐに攻撃の出来る尻尾を振り抜いた。
「【ヴァイジエアエッジ】」
タウノとイーリスの無詠唱術印魔法が、グウィードを襲う尻尾に向かい衝突するも呆気なく破壊されてしまう。
だが、フェアルレイの効果が切れた反動で身体が重く感じていようと、そこは近衛師団一の実力者。尻尾とヴァイジエアエッジの衝突で出来た衝撃波に身体を乗せ、一旦エンザーグから距離を取り更に離れる。
しかし、好機を逃さずにエンザーグから火炎弾を放たれた。
魔力の上がりきってない炎は、マリアの放ったファイアートルネードを返した時の息吹よりは強い。つまり、魔力の振動に何かが加われば防げるということ。
グウィードは大剣にまで魔力を纏わせ振動させると、大きく振り上げた愛剣で火炎弾を真っ二つにした。
そして、一つ肩で大きく息をしたグウィードは、周囲を軽く見回し頭を巡らせると大声で叫ぶ。
「時間がねぇ、ジャックで突っ込む、サポートしろっ」
「えっ」
これ以上戦闘時間が延びると拙いと考えたのか、グウィードは突撃することをマリア達に告げ、それを聞いたタウノは驚きの声を上げた。
何故ならジャックとは、昨日話し合った作戦の名前だからである。その内容は『前衛一人が突っ込み、それ以外はサポートする』という、正にグウィードが声に出した通りの内容なのだ。
それにも関わらずあえて突っ込む事を宣言した、まるでエンザーグに聞かせるように。
「ウィズとヴィアラは付いて来いッ」
急に名前を呼ばれて驚いた二人だが、グウィードの纏う気配から何か考えがあるのだと感じ、右側にウィズが左側にヴィアラがそれぞれ後方に付く。
「行くぜーーーッ」
愚直にエンザーグへと一直線に進むグウィードは、反撃を恐れる様子も迷いも見られない。それは、グウィードを抜かないように走る、後ろの二人も同じこと。
フェアルレイの切れたグウィードに先ほどの速さはなく、少し離れた距離を一直線に走っているが、エンザーグにしてみれば、それは格好の的であり迷う事無く火炎弾を放つ。
「横に跳べっ」
「【アースシールド】」
「【ウォーターシールド】」
しかし、それはグウィード自身も横に跳んで避け、更には元居た場所にはマリアによって土の壁ができ、それを覆うようにタウノの水の壁が出現することで火炎弾を防いだ。
二つとも下級の補助魔法ではあるが、込める魔力を上級ほどにして二つで受けるようにすれば、ある程度の攻撃なら受け止められるだろうと考え、昨日の作戦会議でジャック時のサポート役割を決めていたのである。
火炎はタウノのウォーターシールド、尻尾はグウィードの衝撃波かイーリスのAAか魔法、そしてその両方にマリアが対応するといった具合。なのでイーリスもAAを使う場合を考えて、グウィードの真後ろではなく横手から距離を詰めていく。
「その調子だっ」
マリア達の手際を褒めると再び駆け出し、再び放たれる火炎弾。だが、今回もグウィードは横に跳んで避け、マリアとタウノの壁によって防がれる。
「へっ、当たらねぇな」
三度駆け出すグウィードは相変わらずの鈍足で、未だエンザーグの尻尾の射程にも入っていない。
エンザーグはそれを見て、先ほどより長めに魔力を溜め息を大きく吸うと火炎を放つ。ただし、今度のは弾型ではなく放射型。
「【アースシールド】」
「【ウォーターシールド】」
横に跳んでいれば追撃され焼かれただろうが、今回はその場に留まって二つの盾の後ろに姿を隠す。そして、ここまでは想定通りに進んだことに安堵の笑みを浮かべると、付いてきた二人に振り返った。
「どっちかフェアルレイ使えるか?」
炎を吐き続けるエンザーグだったが、壁の向こうに動きがないとみると魔力を高め始める。すると、炎の温度は上昇しタウノのウォーターシールドは、徐々に水分補充が間に合わなくなり範囲が小さくなっていく。
しかも、エンザーグの火炎の温度はまだまだ上がる。先ほどの黒炎になるまでもう少し、といったところで壁の後ろから誰かが跳び出した。
もちろん、それを逃すエンザーグではなく、壁にも注意を払いながら火炎で出てきた女性、ヴィアラを攻撃する。
そのヴィアラは徐々に距離を縮めながら横手に回ろうと動き、そうはさせじとエンザーグは進行方向を潰すようにその先を狙う。
背後から迫る火炎をヴィアラは跳んでかわすと、折り返し襲い掛かってきた火炎を今までと逆に、元居た場所に向かって逃げ、この時を好機と感じたイーリスが火炎とは逆に進んで横手に回り込む。
そして、壁の後ろから再び人が飛び出す。
だが、視野に入っていたその動きに直ぐ気付くと、エンザーグは火炎でその人物ウィズを狙うが、直ぐに壁の後ろへ隠れて再び様子を窺う。途中にいたヴィアラは再び空中へ……いや、先ほどよりも大きく跳びあがり、今度はエンザーグとの距離を一気に詰めた。
その距離は既に尻尾の間合い。火炎を戻すよりも早く確実だと考えたエンザーグは空中に尻尾を振るった。
しかし、ふとエンザーグの脳裏に過る……何か似たようなことがあったはずだ、と。
「今ッ」
「ウオオオォォォーーーッ」
文字通り地の底から響く声と共に現れたのは、ヴィアラによって再びフェアルレイで強化されたグウィード。盾の後ろから地中移動し、エンザーグの魔力を感知しながら近くまで移動していたのである。
その位置は尻尾の左で火炎があれば右。そう、火炎はもう吐かれてはいなかった。嫌な予感がしたエンザーグが、火炎を止めてまで後ろに下がったからだ。
「ハアアァァァーーー」
強化された脚力で地面から跳び出し、強化された腕で素早く剣を突く。
その速さには然しものエンザーグも即座に反応できず、大剣は心臓を庇った左指を何本か切断し、右腕を貫通し、胸に突き刺さり……止まった。
エンザーグが後ろに下がった事で、グウィードの刃は心臓を貫けなかったのだ。
そこで二人の瞳が交わる。
グウィードは殺せなかったことを苦々しく思い顔を歪めるが、その表情はエンザーグとて同じこと。もし、後退するのが遅ければ、確実に心臓を貫かれていたのだから。
それが分かっているからこそ、最大の敵がグウィードであると理解し尻尾を振るう。途中、高さを落とした時に何かにぶつかったが、そんな事は意識もしていない。
グウィードも大剣を盾にするべく、魔力を振動させ腕を切断して手元に引き寄せ構えるが、手から離れた事でエンザーグは身体ごと回転し尻尾のスピードを更に上げた。
戦闘が始まって直ぐの尻尾による一撃は、同じように構えた大剣で防ぐことが出来たが、今回はあの時よりも殺気も速さも比べ物にならない。
そう、グウィードには『速い』と分かっているが、何故か『遅い』とも感じてしまう。
そして脳裏に過るのは、グウィード自身の幼い頃の記憶やマリア達との始めての出会い、そして何よりライズともう一人の娘、愛しい妻との家族の思い出。
家族で遠乗りした時、せがまれて剣術を教えた時、何気ない食事……色彩豊かではないが、幸せそうな笑顔はしっかりと思い出せ、そのような風景が浮かんでは消え――――
グシャッ
「父上ーーーーーッッ」
盾にした大剣や鎧は呆気なく砕かれ、グウィードはその巨体を軽々と吹っ飛ばされ、地面を弾むように転がりながら漸く止まった。
しかし、地面に横たわるグウィードが動く気配はなく、両手は通常ではありえない方向に何度か折れ、赤い血溜りが徐々に広がっている。
この戦闘で初めて血を浴びた尻尾は、まるで栄養を隅々まで行き渡らせるかのように、鱗の隙間を縫って進み地面に向けられた先端へと進む。
「ァア゛ア゛ァァア゛アアァァーーーー、キサマァァーーーーッッッ」
「――――」
イーリス自身ですら気付かぬ内に涙が頬を伝い、鋭い目付きでエンザーグを睨みつけると剣を構えて一直線に突進した。
その耳にタウノの制止する声は届いていない。
獲物を一番狩りやすいのは、恐怖で逃げている時か怒りで逆上した時。今のイーリスは典型的な後者だ。
エンザーグは魔力を抑えて傷の回復に回しながら、駆けて来るイーリスに身体を向ける。
一番厄介だったグウィードを仕留め、何の策も無く突っ込むイーリスは焼き殺すだけ。そんな簡単な作業にエンザーグの思考は戦闘中でありながら緩んでしまう。
だからこそ気付かない。エンザーグに傷を付けた人物を、グウィードと一緒に行動していた人物を、飛び出すタイミングを指示した人物を、そして何よりエンザーグを怨み憎んでいた人物……ウィズを。
「ハァッッ」
グウィードの地中移動で出来た穴から跳び出したウィズは、穴の淵を蹴ってエンザーグの胸を、グウィードが付けた胸の傷を狙って貫手を放つ。
そして、ウィズの出現に驚くエンザーグを尻目に、その貫手は邪魔されること無く胸を貫いた。
「グギャアアアァァァーーーー」
天地を揺るがす悲鳴を上げたエンザーグだが、最も重要な心臓はまだ貫けていない。ウィズは急いで左手も傷口に突っ込むと、体内を探り心臓を捜す。確実に仕留めるために。
「小娘がーーッ」
エンザーグも怒りの瞳でウィズを睨み、その無防備な身体を噛み千切ろうと頭を動かそうとする。
だが、動かない。蒼月湖から水の鎖が伸び、首を確りと繋ぎとめているからだ。そして頭を引き起こされ顔は上空を見る。
ならば尻尾。それも動かない。土が尻尾の先端から胴体、下半身へと固めていた。
いくら破壊力のある尻尾とはいえ、全体を緻密に押さえられては直ぐには動かせない。
どちらも回復の為に魔力を下げたのが大きな原因。しかも、そのせいで瞬時に高めて魔法を吹き飛ばす事も出来ない。
エンザーグは指の切断した左手を振るうが、これも氷柱が突き刺さり、腕から切断された右はヴィアラが抑える。
残された攻撃方法はあと一つ。エンザーグはイーリスに放つ予定だった火炎弾を上空に放った。
これが落ちてくればウィズだけに傷を与えることが出来る。
ただ、それだけではない。溜めていた魔力を放出し、暴れることを止め完全に動きを止めて回復に専念する。
「ぐぅっ、あっ」
苦痛の声を上げるのはウィズ。
エンザーグの傷が回復することで、傷口に入れてる両腕が圧迫されているのだ。
これは攻撃ではない。ウィズにダメージを与えて進行を邪魔でき、回復までするという迎撃なのである。
だが、ウィズとて負けていない。
体内にて身体能力を上げる役割の闘気を外へ広げると、エンザーグを押し返しながら傷口に肩を入れて更に手を伸ばす。
「グゥゥッ」
そして、上空に打ち上げられた火炎弾が折り返し落下……するところで爆発した。
「なっ」
これには回復に専念していたエンザーグも驚き、目を見開いて火炎弾を見るが、空には四方に飛び散る火の粉が美しく舞っているだけ。何が起こったのか分からずに頭の回転が止まる。
その一瞬の空白状態は回復を遅らせ、それはウィズからすれば妨害が緩くなった瞬間。
今まで邪魔された分一気に腕を伸ばし、その指先が鼓動を繰り返す何かに触れると、一瞬の内に様々な感情や思いが交錯しながら、貫いた。
「グハアァッ、馬鹿な我がっ」
さらに、ウィズの使える唯一の遠距離攻撃法、闘気を放出する。
今の圧迫された状態で全力で放つと、腕が粉々に潰されてしまうので少ししか放てないが、心臓を貫いているならば確実に傷を与えられた。
そして、腕を引き抜くと両手を傷口に当て、今度は全力で放出すると、やや赤みがかった闘気がエンザーグを飲み込む。
闘気とは、魔力と気からなっている。つまりそれを全力で放出するということは、倦怠感や集中力、体力などが一気に無くなり、ウィズは意識が朦朧としながら倒れてしまう。
しかし、そんなウィズをヴィアラがそっと抱き抱え急いでその場から離れると、エンザーグは自らの意思に反してその巨体を大地に沈めた。
◇
勝った、倒した。そのことが分かりながらも、全員に喜びの表情は浮かんでいない。
「グウィードさんッ」
一番近くにいたマリアが急いで駆け寄り回復魔法をかけるが、既に意識は無くおびただしいまでの血が流れていた。
「ダメっ、止まらない」
懸命に治療を続けるが一向に血が止まる様子はない。マリアのかける回復魔法が追いついていないのである。
今この場で回復魔法が使えるのは、実はマリアだけだった。
タウノは攻撃魔法に特化し他は初級の補助か妨害、イーリスも魔法は攻撃のみしか使えない。エルザは闘気によって自然治癒が上がる為覚えておらず、レオも前世が魔者だったからなのか、回復魔法とは相性が悪く使えないのだ。
そして、ウィズは魔法自体が使えずにヴィアラも……。
それでもやれることはある。イーリスはヨーセフから貰った回復薬も合わせて、全て傷口に直接掛けると止血を行い、その間タウノは薬草をすり潰す。
「フ、フハハ……何を、したところで、既に、手遅れ、だ」
そんなマリア達を色の薄くなった瞳で見ながら嘲笑するエンザーグは、自分と同じくグウィードが助からない事を確信していた。
グウィードを吹き飛ばした一撃は、村人達が即死した一撃とは比べ物にならず、今だ生きていること自体が驚くべきことだが、結果は変わらない。そうエンザーグは思っていたのである。
「それは、どうかしらね」
誰もがエンザーグの言葉に反応しない中、言葉を返したのはウィズを助けたヴィアラだった。
グウィードとマリア達を見回し、ため息を零すと懐に手を入れる。
「グウィードさんにこれを飲ませて」
そう言って取り出したのは、数色に輝く液体の入ったガラスの小瓶だった。