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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第二章 『種族という壁』
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第十二話



 模擬戦の後ということもあってか、昼食には肉類多めなボリュームのある料理が用意された。

 ウィズがレオ達よりも後で風呂から上がった事もあり、出来上がるまで時間は多少掛かったが、その前に出された果物は風呂上りの身体を冷やすいい繋ぎであった。


 そのウィズの昼食だが、朝食同様に後で食べる予定なのか用意されていない。


「えぇ~、さっきお風呂でウィズさんも一緒に食べるって言ったでしょ~」


 それに文句をつけるエルザは不機嫌そうに頬を膨らませ、当のウィズは今まで見せなかった慌てふためいた様子を見せる。

 どうやらエルザの狙い通り、汚れ落とし以外にも意味のある入浴だったようだ。


「あ、あれは夕食のことで……今から所要があるので、私は後から頂こうかと」


 そんなエルザの機嫌を良くしようと、気持ち大きめな料理を置く。

 それに心揺さぶられながらも、何とか「その用事は何なのか」と目で訴えることができた。


「昨日言いましたよね、エンザーグドラゴンが食料を要求している、と。その為に活動し始める夕方に間に合うよう、昼時に蒼月湖の近くに置いておくんです」


 ウィズの話では、食料は移転装置を使って常にヨーセフが送ってきてくれるそうで、今日も牛が数十頭到着したらしい。


「……それは、僕たちが引き受けても問題有りませんか?」


 今まで会話を聞いていたタウノはそう尋ね、ウィズも特に問題は無いと答える。


「敵の偵察及び地形の把握か。ならば、前衛を受ける私たちが近くまで行った方が良いな、もしもの時も私たちなら逃げやすいだろう。マリア達は少し離れた処から見ておくといい」


 イーリスが戦うメンバーのマリア達に視線をやれば全員が納得して頷く。

 静かな昼食時間にも徐々に緊張感が漂い始める。


「もぉ~、ここでピリピリするよりも今はご飯でしょっ」


 そんな空気を切り裂くのは当然、エルザの仕事である。

 自分だけ先に料理に手を付けてない事は、いつものエルザから考えれば誉められた行為だ。


 エルザの一言でマリア達は再び顔を見合わせ、息を抜く様に軽く笑う。


「そうだよね。さ、ウィズさんが用意してくれたお昼を食べましょ」


 ウィズも自分の分を用意し全員揃っての昼食。

 もしもの時の為に、と昼食を減らしたイーリス達の分をエルザが食べたり、先程の風呂場でのタウノの反応をグウィードが話したりなど、いつもと同じような昼食となったのだった。




 ◇◇◇




 昼食後、マリア達はウィズの案内の元、牛数頭を引き連れて蒼月湖へと向かっていた。

 レオとエルザは危険な為に置いて行かれることになったが、そう聞いて素直に黙って従う二人ではない。今もマリア達を遠目に追跡中である。


「でもさ、本当ここって良い所だよね。静かすぎるから退屈しちゃうのが問題だけど、今度はマリア達と一緒にピクニックでもしてさ」


 道の両脇には木々が植えられ、蒼月湖からのひんやりとした風が吹いている。これが、さらに暑い時期だと避暑地として人気なのが分かるが、今の時期では少し肌寒い。


「まあ、住むよりは気分転換に来る所だな」


 そんな無駄話をしながらしばらく進むと、レオ達の視線の先でグウィードとイーリスの前衛組みが牛を連れ、その後ろから付いていくマリアとタウノ、ウィズの後衛組みに分かれた。


 そろそろエンザーグドラゴンの住処に近いのだろう。


 もちろん、レオとエルザはもとより、マリア達もエンザーグドラゴンの大凡の居場所は検討が付いている。

 何故なら遠く離れた場所からでも分かるほど、強大な魔力が放出されているからだ。


「私、エンザーグと会ったことなかったけど……これくらいなの?」


 ただ、エンザーグドラゴンの魔力に当てられたのか、身体を硬くするマリア達とは対照的に、エルザは小首を傾げながらレオにそう訊ねる。

 しかし、例え今のエルザが本気を出した所で勝てる相手ではないし、それが四人に増えようが無理な戦力差だ。


「もしかしてお前、昔の俺と比べてないだろうな。ここまで魔力を放出する意味は分からないが、あいつはエンザーグドラゴンの中でも強い部類だと思うぞ」


 エルザとマリア達との決定的な違いは、エンザーグドラゴン以上の強さを持つ前世のレオと戦った事にある。

 まあ、そのせいで『これくらい』と口走るお頭になってしまったのだが。


「いや、さすがにレオとは比べてないよ。ほら、レオの周りに居た人達」


 昔を思い出すように空を見上げ、指を伸ばし数える。伸ばされた指の数は三本。


「でも、やっぱり魔王よりも弱いんだねぇ。何かこっちだとエンザーグドラゴンは人間界の最強種とも言われてるし、もしかしたら魔王よりも恐れられてるんじゃないの」


 遠くの山火事より近くの小火、人間にとってみれば魔王はその程度の脅威ということだろう。

 尤も、エンザーグドラゴンが小火程度で済む強さでないことは確実である。





 マリア達と別れ、先を進んでいたグウィードとイーリスは、牛を丈夫な木に括り付けている所だった。

 いつもの訓練からすれば特に重労働ではないのだが、その額からは汗が流れ落ちる。


「父上、こちらは終わりました」

「ああ俺も、終わった」


 二人のその声から緊張の色が窺えた。


 エンザーグドラゴンとの距離はまだだいぶあるというのに、先ほどから自然と吹き荒れている魔力の渦は、人間という種族を超越した存在であり、弥が上にも恐怖心を駆り立てさせられる。


 色々な魔者の討伐に当たってきたグウィードも含め、マリア達はこれほどの魔力の持ち主と出会った事はない。


「あれが、エンザーグドラゴンか」


 グウィードの視線の先には、蒼月湖の畔で身体を丸めて眠っているエンザーグドラゴンの姿が見える。

 その身体は確かに小さく、尻尾も身体も丸めてる今なら六、七メートルほどで、それを伸ばしたとしてもウィズの言ったとおり十五メートル程度。色も光沢のある黒ではなく、血が塗りたくられたように赤黒い。


 二人は周囲を見回し地形を確認すると、気持ち速めにマリア達の元へと戻ってきた。


「正直に言って、怖い」

「そりゃあ正常な証拠だな。アイツを見て何とも思わない奴は、ただの馬鹿かよっぽどのアホ。それか……魔王ぐらいだろうな」


 マリアの吐露した感情を聞いて、グウィードは怒る事も発破をかける事もなく、ただ同意する。


 しかし、最後に付け加えた『魔王』という言葉には、魔王の力がエンザーグドラゴン以下な訳はない、という意味も含まれている。

 そして、それに気付いている他の三人は真剣な眼差しで頷くと、眠りが覚める前にこの場を離れた。


 余談ではあるが、この時レオが一回、エルザが二回クシャミをしていたらしい。




 ◇◇◇




 その後、帰ってきたマリア達はそのまま部屋に閉じこもり、明日の戦いの作戦を考えながら、夕食時を向かえた。

 夕食は約束通りウィズも一緒に食事をして、エルザ達女性陣だけでなくレオ達男性陣とも少しは打ち解けたようだ。


 また、この時マリア達は明日の戦いの為か、少し緊張した空気であったが、それをエルザが吹き飛ばす……などという事はなかった。

 それは、当日よりも前日は少し緊張していた方がいいと判断したからだが、それで睡眠が浅くなるのは別な話である。

 エルザは早い時間からマリア、イーリスと一緒に部屋に引っ込み、グウィードとタウノも身体を休めておく為に部屋へと戻った。


 ダイニングに残ったのはレオとウィズの二人だけ、食後に出された紅茶はまだ少し余っている。


「やっぱり」

 カップを両手で持ち、底を貫くかのように見つめていたウィズがポツリと呟いた。

「マリア様や近衛団の皆さんは凄いですね」


 昼に行った模擬戦のことだろう。

 その声色がどこか切望しているようにも聞こえ、レオは相槌を打つか黙っているか、考えた末に黙っていることにした。

 それはウィズがレオに同意を求めるというより、ただ気持ちを吐露しているだけに感じたから。


「私も、昔は巫女に成りたかったんですよ」


 巫女に成ることを夢見ていたのは、エンザーグドラゴンが襲ってくる前なのか後なのかは分からない。だが、顔を上げたウィズには色々な感情の混ざった複雑な笑みに隠されているが、穏やかな表情が見えた。


「まあ、昔の話しですから忘れていいんですけどね。結果は書類選考で落ちましたし、この話しを友人にしても『似合わない、それより次からは護衛団に入るって言った方が面白いよ』って言われるんです。」


 巫女に成る事を夢見る女の子は多いが、それは男の子が護衛団に入る事や英雄に憧れたりするのと似ている。

 だから、今の冷静沈着なウィズを見れば似合わないと言いたくなり、それなら冗談として男の子の夢を言った方が面白いと言ってるのだろう。


 因みに、巫女に成るには色々な審査が行われており、今現在では先ず書類で血筋を見られる。これは、出身地や貴族などの血筋ではなく、身内に強い人がいるか、遺伝的な病気はないかなどである。

 そして次が面接。本人のやる気や潜在能力などが見られ、それを受かった者達で実技、筆記テストを行い、数十人の巫女候補生に絞られる。


 ここに残ったのがイーリスであり、巫女になったマリアなのだ。


「俺も昔、夢を忘れようとした時にある人に言われた。『別に昔信じていた夢を忘れる必要は無い。昔それを夢見て頑張っていたのなら、それは今の自分を形作った一部だろう。それを否定したら、今の自分も否定することになるぞ』ってな」


 どこか遠くを見つめるレオは、その人物を思い出しているのだろう。


「それに、似合わないって言われても、ウィズが本当に成りたかったのなら何の問題も無いだろ」


 レオはその人物に言われたことを自分で言うのが恥ずかしかいのか、最後の方はぶっきらぼうな言い回しではあったが、それでもウィズは心にくるものがあったのか目を見開かせた。


 友人に言われ、自分でもどこか納得していた部分を、真剣に受け止め否定する必要がないと言ってくれたのは、師とも呼べる人に続いて二人目だった。


「そうだった、私これで二度目です。同じ事を言って同じように諭されたのは。本当、昔から何も成長してませんね」


 苦笑でも愛想笑いでもない、楽しそうに笑う。


「それで、そう言って下さった人は今?」

「だいぶ長いこと会ってないからな。最後に会った時から考えれば、今はかなりの歳になるだろう……まあ、元気で居てくれると嬉しいがな」


 よほど信頼を寄せる人物なのだろう、その人を語るレオの表情は優しい笑顔を浮かべており、それをみたウィズは密かに驚き、その事に気がついたレオは咳払いを一つして話しを変えた。


「だが、やっぱりマリア達は凄いな。ウィズはあれだけの模擬戦を見たことがあるか?」


 そんなレオに親近感を持ったウィズは、微笑を浮かべてレオの話しに乗る。


「そうですね、周囲を気にして規模を押さえているのに、それでもあれだけの事が出来るほどの力量の人はさすがに居ません。私よりも強い人ならいますが、あそこまで器用に戦えるのは無理でしょうね」

「審判は危なげなく務めていた雰囲気だったな」

「とんでもない、結構危なかったんですよ。タウノさんがサイクロンを発動させた時なんて、急いでその場を離れましたからね」


 どうやら余裕かと思っていたウィズの審判は、本人からすれば必死に行っていたらしい。

 最後のサイクロンなどは誰でも逃げるだろうが、審判を任されたウィズはそれが悔しかったようだ。


「審判ならなるべく近くで見ておくべきでしょうけど、判断を下せなくなっては本末転倒。あの場から離れたのは一重に私の実力不足」


 残り少なくなった紅茶を呷って一気に飲み干す。


「私にもっと力があれば……」


 空になったカップの底を鋭く見つめていたウィズだが、カップを受け皿に下ろすとその表情を押さえ込み、レオにお代わりがいるかどうかを訊ねる。


「いや、そろそろ休むとするか」


 カップをウィズに渡すと席から立ち上がると軽く一伸びをし、ウィズがワゴンを押して部屋を去っていくのを見届けると、部屋に置かれた紙と鉛筆を取り再び椅子に腰を下ろした。


(今の話しを鵜呑みにすれば、ウィズの周りにマリア達ほどの実力者はいない、か。それと組織に属していたとして、そこそこの地位にいるか、戦闘では実力者か)


 先ほどの会話で「私よりも強い人ならいます」と言っておきながら、「器用に戦えるのは無理」と断言したのだ。

 自分より強い相手の地位が高くウィズがかなり低い場合、または相手の実力を理解出来なければそんな言い方も出来ない、とレオは考えたのだ。


 そして何より、ウィズがマリア達の敵に回る可能性が低いということが分かった。

 分かったと言っても、それはレオの勝手な憶測でしかない。

 ただ、今まではヨーセフのメイドという演技をしているように見え、それがウィズを怪しいと調べ始めた切っ掛けだった。もちろん、傭兵だったというウィズが、必死にメイドをこなそうとしている可能性もあったが、調べてそちらが事実ならそれで良かったのである。


 だが、それもエルザ達と一緒に風呂に入り、同じ食卓で昼食と夕食を食べることで、ウィズの地の部分が見え始めていた。

 今までは演技だった人物が地を出すのは、心を許してきたか演技が巧いかのどちらか。


 レオは紙に何事か書いてテーブルの上に置くと、部屋から姿を消した。




 食器を洗い終わり台拭きを片手に戻ってきたウィズは、テーブルに置かれた紙を見つける。

「何かしら?」

 そして、不思議そうに小首を傾げながら紙を手に取った。

 言葉遣いといい、仕種といい一人になると今までのウィズとは少し違う。


『仕事、お疲れ様  レオ』


 書かれていたのはその一文のみ。しかし、その一文が彼女の心を揺れ動かす。


「レオ、さま。ごめんなさい、貴方達とは……っ、全部終われば、また話してあやま、っ」


 崩れるようにテーブルに両手を付き握り締める。

 顔を歪め声は泣いているようではあったが、涙は流さない……流せない。当の昔に枯れ果てたから。


 しばらくそうしていた彼女はゆっくりと立ち上がると、メイドとしての仕事を終わらせ、重い足取りで部屋を出て行った。

 そして、誰も居なくなった部屋で動く何者かの影。


「これで、決定的か」


 もちろんレオである。あの一文を書いた後、マリア達にも気付かれなかった魔者の結界を使い隠れていたのである。

 あの書置きにはウィズが『仕事』で何らかの隠し事があると踏んで書いたのだった。また、予想が外れたとしても、内容的にはメイドの仕事と考えられ、その考えが当たれば彼女の心を揺るがすには最適な言葉。


 そして、それは見事に当たり、予想だにしない彼女の泣き顔をみてしまったのである。


「全部終われば、か。マリア達と関係の無いことで、ここに居る理由があるなら……」


 今のところレオが思い当たるのは二つ。

 だが、それ以上考えるようなことはしない。どちらにせよ、全てが終われば話をしたいと言っていたのだ。なら、これ以上詮索せずに待っていればいいだけのこと。


「しかし、エルザで遊んだのは悪かったな」


 素直で純粋な彼女を騙したことで、少しの罪悪感と後味の悪さを感じたレオは、以前マリアを騙した時にエルザをからかった事を少し後悔しているのだ。

 レオはここに居ないウィズとエルザに一言誤ると、身体と心を休める為に今度こそ部屋へと戻っていった。




 ◇◇◇




 翌日、前日の事を引きずることなく、いつものように準備されたウィズの朝食を数時間前に食べ終わり、全ての準備を終わらせたマリア達は玄関前に集まっていた。


「さぁ~て、今日の予定はエンザーグドラゴンを倒して、美味しい美味しいウィズさんのご馳走、エンザーグの丸焼きを食べようっ」


 マリア達の緊張を解そうとしたのか、エルザがいつも通りにボケをかます。

 だが、これに自然と笑う余裕があるのは、戦闘メンバーではグウィードとタウノの二人。マリアとイーリスは愛想笑いを浮かべるので精一杯である。


 昨日の模擬戦の勝敗が分かれる理由は、バイア達とマリア達との間にある決定的な差、それは経験。

 今まで自分より強い人や魔者と戦ってきたバイアやタウノとは違い、マリアとイーリスは巫女候補として育てられた上、代替わりして間もなく実戦経験が少ない。ましてや魔獣と戦うこと自体が初めての二人では、緊張の度合いが違って当たり前である。


「エルザの期待を裏切らないようにしなければな」


 しかし、いつまでも緊張したままでいるわけではない。いくら実戦経験が少ないとは言え、そこは巫女とその近衛団団長。イーリスが口を開いた時には、緊張の色は見受けられなかった。


 エルザは自分が思っていた以上に緊張してない二人を嬉しく思うと同時に、緊張を解くために考えていたボケを披露できない事を悔しく思うのだった。


「ごめんね、二人とも」

「でも、私達が居ないとフェアルレイが切れた時キツイよ」


 付いて行きたがっていたエルザを置いていく事を誤るが、これはマリアに非は無い。

 しかし、それでもエルザは食い下がった。少々ふざけているようにも見えるが、その目は比較的真面目である。


 フェアルレイの効果時間は術者の力量と、動けば動くほど短くなると言われており、レオ達ならば一、二時間が限度だろう。

 通常の戦闘なら問題ないだろうが、今回の相手はエンザーグドラゴン。戦闘に掛かる時間は全く計算できない。

 もし、戦闘中に魔法が切れれば、エルザの言うとおりフェラルレイを使って身体が軽くなった反動で、身体が重く鈍く感じることだろう。


 しかし、ここで問答するような時間はない。


「それなら、今まで通り補助アイテムを使いますよ。それよりもエンザーグドラゴンの攻撃範囲が分かりませんから、二人が近くに居ると戦闘に集中できない、と言うのが本音です」


 タウノが会話を早く終わらせる為、簡潔に本音を言い放つ。

 そこまで言われればエルザとて強くは出れず、渋々引き下がるしかなかった。


「それじゃあフェアルレイを掛けてくれ」


 グウィードに言われタウノが地面に威力増加の術印を描き、その中に先ずレオが立って男性陣に魔法を掛ける。


 永続効果の術印が使えれば良いのだが、その場合は発動中の魔法が見える位置で術印の中に立ってないと駄目で、しかも掛ける相手がいる魔法、つまり補助や妨害の魔法は永続の効果を得られないのだ。

 これには他人に永遠に影響を与えるのは無理だから、という推論が出されている。


「マリア、無理はしないでね」

「うん分かってる」

「【永久に吹き抜けし流動なる風、そなたの意のままに舞い、踊れ】フェアルレイ」


 そして女性陣にはエルザ、最後にマリアの両手を握り魔法を掛ける。


「それじゃあ行ってきます」


 やがて手は解け、マリアは力強く頷くと蒼月湖へと向かっていく。

 そこに悲壮感は漂っていない。エルザ達とまた旅を続ける、その為に戻ってくると考えているから。

 エルザも同じ気持ちなのか、いつもように明るい表情で、その背中が見えなくなるまで大きく手を振っていた。




 マリア達を見送ったレオは、その姿が見えなくなってウィズに話しかける。


「なあ、ウィズ。マリア達とエンザーグドラゴンの戦い、見届けなくていいのか?」

「……いえ、私には、仕事も、ありますし」

「仕事ったって、私たちの面倒見るくらいでしょ?」


 俯きどこか自分を納得させるような言い方をするウィズに、背後に回りこんだエルザが背中を軽く押すと、つんのめる形で二、三歩前に出た。

 驚いて振り返ればレオとエルザが先ほどのマリア達を見送るように手を振っている。

 そして、レオが深く頷いたのを見て決心したのか、二人に深く頭を下げてマリア達を追っていく。


「さて、それじゃあ私たちも行こっか」

「エルザ、俺は後で向かう。お前は先に行け」

「ん? 分かった。でも、何すんのか知んないけど、あんまし遅いと全部終わっちゃうかもよ」


 そう言って駆け出したエルザは、レオが何をするつもりなのか聞かなかった。

 興味が無いわけではないが、それよりもマリア達の方が気になるのだ。レオの事を信頼してる証でもある。

 そして、そのレオは一人別荘へと戻っていく。ウィズのもう一つの仕事であろう物を確認するために。





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