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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第九章 『新たな歴史』
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第百十三話




 レオ達は彼らが知る限りダナト達が行ってきたことを、魔王であるクラウ達に話して聞かせた。その反応はニライと同じく、やはり人間に対して非道を行うことに義憤を覚えているようだ。

 しかし、彼女たちはそれだけで、直ぐに話しを信じることはなかったのである。


「でも何でニライさんはこの話を信じたの? そのダナトってのがこの人達を襲っていたから?」

「……まぁ、この人達のご先祖にはお世話になってね」


 妹分に嘘を吐くことに躊躇いがあるのか、ニライは歯切れが悪く答えた。前世だとか信じてもらう以前に、余り吹聴するような事ではないと分かっているからだ。レオは目で礼を告げる。


 ニライの言葉を聞いたクラウは、彼女が前回こちらの世界に来た時に世話になった人のことだと理解した。ただ、魔族である彼女を世話するような人種は一つしか知らない。


「あぁ、邪教徒とか言われてるんだよね。貴方たちもソレなんでしょ、魔王の実態知って幻滅しちゃった?」

「えっ、いや、その……まぁ、大丈夫ですよ?」


 エルザの脳裏に『邪教徒ではない、実はちょっぴり』など過ぎったせいか言葉尻は怪しかったが、クラウはエルザの言葉に一応納得したらしい。先ほどまでの真面目な様子から、最初に出会った時ほどではないにしろ、少し間の抜けた雰囲気に戻る。


「まぁ、それはともかく、ダナトの件はニライさんが信じるんなら私も信じるけど、皆はどう思った?」

「もちろん私も信じるわ、決まってるじゃない」


 表面上はキリリと引き締まった表情でクラウを見て答えるネイルリだが、その関心がニライに向けられていることは、彼女に親しい者なら誰にでも分かっている。当のニライを除いて。

 ただ、彼女にとって普段通りの思考な上に、客人のレオ達も気付いていないので、彼らは特に何を言う事無く話しを続けた。


「俺はまだダナトって奴を見てないから、何とも言えない」

「同じ意見かな。今判断するには情報が足りないよ」


 仲間の意見を頷きながら聞いたクラウは少しばかり考え込む。

 今、魔界から任命されている中で一番地位が高いのはニライだが、彼女はクラウが余程間違ったことを言わない限り任せるつもりでいた。


「……分かった、じゃあこうしようか。私達は巫女よりもダナトとの接触を優先、話を聞いた上で危険だと判断したら捕縛して魔界に送還ってことで。もし本当にやばそうだったら、ニライさんお願いできます?」

「あぁ、もちろんだ。危険な集団なら放ってはおけないからね」


 クラウが出した対応策は納得がいくような物だったが、レオには少しばかり気になる点があった。それは対応がいい加減だからという事ではなく、彼女たちのこれからの方針についてである。


「巫女とは協力せず、魔王であることを続けるのか?」


 レオの問いかけにクラウは迷う事無く頷いた。


「そうよ。貴方たちから聞いた話だと、魔王とダナトは無関係っぽいって伝えただけらしいじゃない。それならわざわざ伝える必要はないでしょ」

「確かに魔界からの許可も無く、僕らが巫女本人に伝えて良い問題でもないからね」


 ニライのお墨付きも出た事で、クラウは胸を張って得意げに笑う。

 ただ、ダナト一派を魔王軍が抑えたとして、彼らと巫女が戦うことにならなかった場合、魔王を倒した後でかなりの疑惑を残す結果になるだろう。レオがその事を尋ねてみると、クラウは少しばかり考えた後で口を開く。


「言うことを聞かなかったから処断した。って言うのはダメ?」

「その理由で四人も殺したとなると、どれだけ威厳の無い魔王なのか、という問題が出てくると思いますけれど」

「ぐぬぬ、それは嫌だっ。でも、真実を巫女に伝えたとして、それが全世界に広まって暴動発生、大戦争勃発、人間界崩壊なんてなったら、本当に世界を滅ぼした魔王だって魔界でも広まっちゃうじゃないっ」


 涙目で必死に首を左右に振っている様子から察するに、そんな汚名を着せられるのが本気で嫌なようだ。国家規模の話で済まない以上、そう思うのも仕方ない事だろう。

 ただ、ダナトと巫女をどうするのかの方針はハッキリと決めて置かなければならない。


「クラウの心配も分かるけど、何かしらの手は打たないと」

「ユオンゼが変装するとかはどうだ? 身体は自由に変形出来るだろ」

「ある程度なら変えられるけど、ダナトって魔族がどんな姿をしてるのか知らないよ」


 似つかない変装をして、不自然だと気付かれれば同じこと。ユオンゼは余り気乗りせずに肩を竦め、クラウは期待の眼差しでレオ達を見つめる。


「じぃぃーー」

「いや、私達もダナトとヘイム以外、見たことないし」


 だが、エルザが呆気なく斬り捨てた。誰も会ってないシアンならまだしも、ルヲーグは大陽の巫女バネッサ達が出会った事を知っている。下手な変装をして怪しまれるのなら、無茶苦茶な理由ででも退場させた方が安全である。


 クラウは腕組みをしながら身体を左右に揺らして暫く考え込む。そして大きく目を見開くと、両手を合わせてポンと音を響かせた。


「じゃあこうしよう。私達がダナトをぼこった後で、首に縄つけて巫女と戦わせてから私達と一緒に魔界に帰る。うん、これで決定っ」


 終わった終わった、と笑顔で身体を伸ばすクラウだが、他の面子は余り納得した様子ではない。


「そんなに上手く行くかな~?」

「いいの指針は大事、後は臨機応変に対処すれば万全よっ」


 握り拳を作って力説しているが、とどのつまり考えるのが面倒になったとも言う。

 ただ、それなりには考えていたようで、自分の配下であるユオンゼ達にこれからの指示を出していく。


「それじゃあ、悪いけど皆はダナトの行方を探って来て。ただ、巫女が魔城に来る前に私達も全員揃ってないとダメだから、ネイルリは巫女の位置を把握して連絡を入れること」

「ネイルリさんって巫女の位置分かるんですか?」

「えぇ、占いみたいなものだけど」


 彼女はその事に自信があるのか少しばかり誇らしげに笑い、それを聞いたレオは隣に座るニライに眼差しを向ける。


「そうだニライ、図書室を借りてもいいか?」

「クラウが許可を出せば問題ないだろうけど、何かするつもりかい?」

「あぁ、魔法陣の改良に使えそうな物が無いか調べたいんだ。それと巫女達を出迎えたいから、どの辺りにまで来ているのか教えてくれないか?」


 問われたクラウはチラリとニライに視線を送った。どうするか迷って決断を任せたというよりも、レオが本当に信頼出来る人間かどうかの確認といったところで、ニライは微笑みながら静かに頷いた。


「ふ~ん、まぁ良いけど、本は魔界の文字で書かれてあるけど分かるの?」

「……まぁ、多少は」


 魔王の許可も出た事で、レオ達は巫女が転移装置跡地の近くに来るまで魔城に滞在する初めての人間となったのだった。もちろん活動は制限され、魔王直々に監視という名の雑談をさせられたが、風呂に入れたりベッドで休む事が出来たのである。




 ◇◇◇




 レオから各巫女や修院に「ダナトと魔王が無関係かもしれない」と伝わり、彼女たちの旅は少しばかり変わった。既に立ち寄る事が決まっていた場所に変更は無いが、それから新たに追加されることが無くなったのだ。

 しかも一番大きな違いは、緊急事態ということで転移装置、魔法の使用が可能になったという点。これによってかなりの時間を短縮出来たのである。


 そして――


「お久し振りです、皆さん」

「マリア久し振り。父さんも元気そうで良かったっ」

「私達や団長だけならまだしも、副団長まで揃うのは珍しいもんね……一人いないけど」

「アタシんとこの副は内務任せで、戦闘はからっきしダメだからな」


 大地の巫女マリア、大陽の巫女バネッサ、大海の巫女メーリ、大空の巫女イヴの一行が転移装置跡地に集結したのだ。これに魔城からこの場に移動していたレオ達五人が加わり、総勢二十一人の大所帯である。


「これから宜しくお願いします」

「私も皆さんと一緒に戦えて嬉しい……ってお姉ちゃん、何でここにっ」

「エルザの仲間かしら? ピアのお姉さんならとても心強いわね」

「イヴ様方の危険が減るのなら喜ばしいことです」


 近衛師団の団長たちが集まり言葉を交わす。巫女と行動を共にする彼女たちは良く話しをしていて、全員が巫女を護るという固い信念を持っているからこそ、より信頼感が芽生えているのだった。


「ダル爺さん、相変わらずお元気そうですね」

「そういうお主こそ、意識不明だったと聞いていたが元気そうだの」

「むしろ以前よりも充実しているように見えますわ」

「さすがですね。俺が貴方を倒すまでは元気でいて下さいよ」


 そして、副団長やグウィードを尊敬しているモイセス。普段のパーティー内では最年長な面子も、これだけ人が集まれば目上の人が居て、普段では聞くことの出来ない口調で話していた。


「道中、何か面白いことはありましたか?」

「いやぁ、特に何もねぇわ」

「あはは、面白いというよりも身内に振り回される事の方が……」

「何この人達、華が無さ過ぎ」


 最後にパーティーの穴を埋めるべく選ばれた面々。彼らはそこまで他の近衛と交流が無く、タウノとセスト以外は初対面である。


 そして、各自の軽い挨拶や姉妹の再会も終わり、魔城に居たレオ達が何の用意もしていなかったので、倒れた柱に腰掛けたり背中を預けたりと、各巫女のパーティーで固まって話しを聞く体勢を取る。


「今回は共闘の件を受けて下さり、本当にありがとうございました」


 先ず、この共闘の発案者であるマリアが全員に向かって頭を下げた。もちろん巫女に伝えて説得してくれたレオとエルザ、二人と一緒にここまで来てくれたヘルヴィ達にもである。


「ただ、当初の目的はダナトという強敵がいる魔王軍の討伐でしたが、どうやら事情が変わったみたいです」

「レオから聞いた話によると、魔王とダナトは無関係かもしれないって事だったねぇ」


 巫女の中で唯一魔王の真実を知っているイヴは、ニヤリと笑いながらレオに視線を送る。

 そんな彼女が変な事を言い出さないかと不安になるエルザだったが、他に言い広めないという約束は護るらしく、特に何かを言うこともなくバネッサが言葉を続けた。


「でも、私達のすることに代わりはないよね」

「魔城に向かって魔王達と、出てくればダナト達を倒す。残っちゃったら後でって感じかな」


 このシンプルな結論は裏事情を知らないからだけではなく、クラウ達も巫女に情報を隠そうとしなければ出せたものだろうが、その場合は別の不都合が出てきただろう。


 それからも様々な情報の交換や、敵と遭遇した場合の対処などを話し合っていく。イヴが協力を決めた時の約束通り、魔城までは一緒に向かうが中では別行動、魔王を倒すのは早い者勝ちということなどが決まっていく。


「問題は魔城を探す方法よねぇ」


 ふぅ、と悩ましげなため息をアロイスが零す。


「あぁ、それならアタシに三つばかし考えがあるよ」

「ほぉ、さすがは空姫(そらひめ)殿。私は歴代の巫女様も用いられた、地表を計測するのが良いかと思いましたが」


 城が建っている以上、他の地面と温度や湿気が違ってくる。それを計測して位置を特定するという方法である。

 因みにエルザ達はヘルヴィが霧の外から魔法の風で霧を払い、払われた場所では魔法が使えるようになるので、そのまま魔城を探して回るという力技だった。


「それも一つさ。もう一つは占いで探して、最後の一つは――」


 占いとはサラサの精霊に頼んで探してもらう方法である。そして、イヴが最後の方法を告げる前に視線をレオ達に向けてニヤリと笑い、その楽しそうな表情を見てレオは舌打ちをする。


 レオ達は巫女が集合場所近くに来てから魔城を発ったのだが、イヴはそれよりも早く跡地を監視していたのだ。サラサの精霊を使って。

 集合場所に危険や罠が無いか情報を集めるのは当然のことである。その中でレオ達が跡地に居ない、数日後に霧の中からやって来た、事前にレオが魔王の生まれ変わりだと聞いていた事などから、一つの答えを導き出したのである。


 しかし、彼らに案内させるという方法が、イヴの口から発せられる事は無かった。


「それなら魔城の位置を知ってる奴らが居るぜ」


 イヴの声を遮るように、この場の人間ではない男の声が辺りに響き、咄嗟に大空以外の仲間たちは護るべき巫女を中央にして四方を警戒する。この声に聞き覚えがあるのはレオ達とマリア達だけ。しかも、レオ達はつい最近聞いた声である。


 全員の張り詰めた緊張した空気が漂う中、周囲の影が集まって地面に深い闇の沼が出来上がり、そこから男が姿を現した。


「なるほど、お前らが巫女とその一行か」


 この場に揃った面々を腕組みをしながら見回し、不敵な笑みを浮かべているのが誰なのか、それを周囲に伝えるべくマリアはその魔族の名前を叫ぶ。


「ダナト・グランセットっ」

「へぇ、こいつがそうかい」

「それより先の台詞の意味を説明してもらおうか」

「魔城の位置を知ってる人が居るって言ってたよね」


 敵の一人と目していた魔族の登場に、全員が武器を構えながら周囲に視線を走らせる。他の仲間が現れないか隠れていないかを見たのだが、今のところその姿を確認することは出来なかった。

 ただ、今の彼のように影から現れるのなら、常に警戒しておく必要があるだろう。


「あぁ、知ってるはずさ。何せ数日前まで魔城に居たんだからなぁ。最初は黙って見てようかとも思ったんだが、さすがに()()()の思惑通りにばかり事が進むのは癪だからな」


 含みを持たせた言い方にエルザが不愉快そうに眉を顰める。ダナトの視線の先にいるのはレオ達五人だが、彼らの背後に居る魔王軍も見ていると気付いたからだ。

 既に闘気は練り上げて戦う準備は整っているが、威嚇するように出力を強める。


「何をするつもり?」

「なに、直ぐに分かる……やれ」


 ダナトの合図と共に闇が辺りを包もうと広がり始める。だが、即座にマリア達はその場から飛び退き、魔法や衝撃波など遠距離による攻撃をダナトに向けて放った。

 しかし、ダナトは大きく空へと跳躍して回避すると、全員が逃げられないよう黒い炎を放射して外周を燃やし徐々に範囲を狭めていく。


「ほぅ」


 だが、マリア達の胸元のタリスマンが輝き、黒炎を完全に消し去ることは無理でも勢いを弱め、外へと抜け出すことは可能となった。そしてそれは、彼女たちから聞いてダナトの炎対策をしていた別の巫女たちも同じである。


「対策してるか、まぁそれ位考える頭はあるってことか。火力を強めても良いが、それで燃やし尽くしちゃ意味が無いしな」


 そう言って再び腕を振るう。すると黒炎と同じく詠唱や魔法陣の必要もなく、彼らが移動できる範囲よりも遠い場所で地面が隆起し、易々とこの辺り一帯を包み込んでしまう。

 規模の大きさや余りにも早く生成されていく事から、ある事実が脳裏に浮かんだタウノは思わず詠唱を止めて目を見開いた。


「なっ、まさかっ」


 その間、詠唱続けていた他の魔術師の中で、一番早く唱え終えたメーリが最上級魔法を放つも、無詠唱で創られたとは思えないほど土壁は堅く、一人の力だけでは壊れそうにも無い。

 そして、他の面子も壁を壊す為、メーリと同じ場所に追随して魔法を放つ……が、それが失敗だった。


「うわっ、中々凄いねぇ」


 壁の闇から右手を翳して現れたルヲーグが、魔力を全て吸収してしまったのだ。

 そして、光りの届かない世界では闇が深くなり、全員がそのまま闇へと飲み込まれてしまうのだった。



 ◇



 闇から一転、光りの世界に思わず目を瞑った彼らが感じたのは、ふわりとした柔らかな足裏の感触。薄目の中で足下を見てみれば、幅広い真紅の絨毯が大きな扉から階段の上まで続き、壁には絵画や彫像、天井からは空間を照らすシャンデリアが飾られている。

 どこか建物の内部だということは分かるが、土に被われての戦闘中から音の無い静かな空間、まるで別世界に来たような錯覚に陥っていた。


「……ここは」

「お前達が来たがっていた魔城だ」


 わざわざダナトが教えてくれるが、それを信じるような人物は、この場に見覚えのあるレオ達だけだろう。ただ、誰かが口を開くよりも早く、階段の上に一つの影が現れる。


「ふっ、よく来たわね巫女とその一行。私こそが魔王クラウ・ブラウゼン、私を倒したければ……ってあれ?」


 それは魔王クラウ。しかし、肝心の巫女が見たこともない魔族を警戒し身構えている事から、彼女たち本人の意思で魔城に攻め込んできたのではないと気付く。

 また、出番を待っていたユオンゼ達も、クラウを護るべく姿を現す。そこには必要が無ければ姿を現さない予定のニライが、油断なく鋭い視線をダナトに向けていた。彼女は感じたのだろう、ダナトの実力を。


「挟み撃ちにしてアタシ達を倒そうってことかしら?」

「それにしては魔王側の様子が変ではないかの」


 前後に敵だと理解した瞬間、各巫女の中央にいたレオ達を中心に集まり、大地と大空がダナトを大海と大陽が魔王を警戒する布陣を取った。しかし、ダナトはそんな巫女を無視して階段の上に視線を送る。


「よう、魔王サマ」

「むっ、何か嫌な言い回しね」


 様付けだろうと敬意が含まれていないと感じ取ったクラウは、不機嫌そうにダナトを睨み付けた。しかも相手がやってきた事をレオ達から聞いているので、そこに敵意が僅かばかり混じるが、ダナトは気にすることなく笑った。


「あぁ悪い。ただどうしても茶番にしか見えなくてなぁ、負け犬の王ってのがよ」

「……負け犬?」


 マリアは不可思議そうに眉を顰めた。魔族の王だからこそ魔王、ダナトが反旗を翻していたとしても、負け犬という言葉は似つかわしいと思えなかったのだ。

 しかし、ダナトは今まで浮かべていた笑みを引っ込めて、真剣な眼差しで頷いた。


「そうさ、巫女と本気で戦う気骨も世界をぶち壊す気概も無い。お前たちに教えてやるよ、魔王と女神の真実って奴をな」


 そしてダナトは魔王の真実を語り始め、魔王軍はそれを止めようと動く。ネイルリの魔法、スノの射った弓矢がダナト目掛けて襲い掛かったのだ。


「久し振りに魔族の魔力を食べたよ」

「こちらにも喰らえるような生物を嗾けてくれれば良いものを」


 だが、それはダナトの前に現れたルヲーグの右手と、シアンの闇によって簡単に防がれてしまう。これでレオ達と巫女一行、魔王軍にダナト一派が一堂に会する。

 さすがにレオ達だけでなく魔王軍やニライも、実力を測りきれていない三人を相手に突撃することなど出来ない。


 ほぼ無意味な遠距離からの一方的な攻防が繰り広げられる中、ダナトは簡潔ながら魔王本来の役割や女神が善、魔族が悪ではないことを伝え終えるのだった。


「……そんなの、誰か信じるとでも思っているの」


 そう口にしたメーリだが、いつもより硬い表情は内心の動揺を隠そうとしているようにも見える。彼女もイヴ同様、多少の疑惑は持っていたのだ。ただ、余り深くは考えないようにしていただけで、その時の疑問が解けていくのを感じていた。


 巫女や女神に係わっている以上、誰もがダナトの言葉に多かれ少なかれ感情を揺らす。それは疑惑や困惑だけでなく、女神をバカにされたという憤怒もあるだろう。

 しかし、『何故そんな事を話したのか』とレオ達や魔王軍も焦り困惑する中、表面を取り繕っているのではなく、本当に何とも思っていないのは大空の巫女イヴ達。


「ほう、驚いていないようだな」

「いんや、もちろん驚いているよ、たまげたさ……で? だから? その話とアンタらをぶちのめすのに何の関係があるんだい? 大人しく魔界に逃げ帰るってんなら、見逃してやらんこともないよ」


 事前にレオから聞いていたというのもあるかもしれないが、イヴはダナトの話を容赦なく斬り捨て、マリア達も気持ちを落ち着けることが出来た。魔王や女神がどうであろうと、ダナト達が行った行為に変わりは無いのだ。

 立ち直った巫女達を見てダナトは笑う。


「くはっ、確かにそうだ。関係ないな、あぁ実に関係ない。まぁ、単に俺が勝つ確立を高めるためってだけさ」

「そ、そんな嘘並べられたって、私は動揺なんてしないんだからねっ。でもアンタはぶっ倒す、巫女より先にぶっ倒すッ」


 一番立ち直れていないのは魔王だった。


「いいぜ、魔王サマに巫女、俺らがまとめて相手してやるよ。シアンっ」

「うむ、任せるがよい」


 ダナトの合図でシアンが闇を纏って姿を消した。誰もが奇襲を警戒する中、それほど間を置かずに再びダナトの背後へと姿を現す。ただ、彼が消えてから何かが変わったという事はなく、それが逆に警戒心を抱かせることになる。


「何をしたの?」

「そいつは直ぐに分かるさ。とりあえず……」


 ニヤリと笑みを浮かべたダナトは右手を掲げ、天井目掛けて巨大な竜巻を放った。強風で彫像を倒す竜巻はシャンデリアを巻き込み、二階の床や天井を破壊してポッカリと大きな穴を開けた。


「全員外に出るこったな」

「いやあぁぁぁ~~、私のお城がああぁぁぁ~~~」

「貴方の物じゃないでしょ。それより逃げるわよっ」


 ダナトの後を追ってルヲーグとシアンが天井に出来た穴から、レオ達は降り注ぐ瓦礫に巻き込まれないよう注意して目の前にある大きな扉から、霧の漂う外へと飛び出していくのだった。






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