第百十一話
ニライから魔王軍とダナトは無関係との話を聞いたレオ達は、同時にレオが死んでから魔天界の動きも知ることが出来た。彼女によると魔天界は、人間界とシプラス除去を決めた時以来の接触をしていたというのだ。
魔王やダナトの話しは大体終わった。一同はそこまで長く話していなかったにも係わらず、硬直した身体を解すように身体を軽く動かす。
「それで、これからレオ達はどうするんだい」
「とりあえずは各巫女と修院に連絡だな。……ダナトに教われているところを魔王軍のニライに助けられた、ということにしておくか」
レオが魔王の転生で知り合いの魔族がいた、などと説明出来るはずもなく、魔王とダナトは別の組織ではないのか、という疑問を呈する程度に済ませることにしたのだ。
修員もイヴが優秀として手元に置いている人物なら、彼女に伝えるのを否定したりレオの意図に気付かない確立も下がるだろう。
「ところで僕はこれから魔城に帰って、ユオンゼ達にダナト達のことを伝えるつもりだけど、レオは一緒に来るかい?」
「そうだな……行ってみるのも悪くないか」
ニライの言葉が本当かどうか、そしてダナトと関係ないのなら魔王達の力を借りる為に、魔城へと向かうのも手だとレオは頷く。
しかし、もし嘘だった場合ここは敵地である。レオは友人であるニライを信頼しているが、過去に一度戦っただけでしかないパーラは未だに警戒していた。
「今度はわたくし達も一緒に行った方が宜しいのではなくて?」
この提案はレオの安全というよりも、近くに潜んでいると知られた以上、別の魔族が来て自分たちの身が危なくなるという考えからだ。それならレオと話しの通じているニライについて行き、何かあればレオに時間を稼いでもらおうという算段である。
当然、レオとニライもその意図に気付くが、敵地と思われる場所では至極当然な考え方であり、不快に思うようなことは無かった。むしろ二人の性格上、その慎重さを好意的にも感じている。
「それに余りバラバラにならない方が良いと思うわ」
「うん、心配」
ヘルヴィもリリーもその意見に賛同し、レオは最後にエルザに視線を送るが、当然彼女もパーラたちと同意見だった。
魔王軍とダナト一派が仲間だった場合を考えると、確かに彼女たちと一緒に居た方がレオもエルザ達も安全は増すだろう。レオは少しばかり考えてから頷く。
「……分かった。ニライ、俺達を魔城に案内してくれるか」
こうしてレオ達はニライに案内されて魔城へと向かう事が決まった。しかし、直ぐに向かうのではなく、レオが言っていた通りそれよりも前にやる事、修院と各巫女への連絡がある。
連絡用の水晶を取り出したレオが初めに選んだ相手は、イヴの所に所属する修員、定時連絡用の水晶ではなく、以前にイヴから預かったままの水晶で話していた。
「私達はネイルリという名の魔族に助けられ、魔王軍に所属する彼女はダナトという魔族は知らないと言っていました」
ニライの名前がネイルリとなっているのは、存在しないはずの魔族である以上、名前を隠せるのならそちらの方が良いと彼女が言ったからである。
『……君はその魔族と話をしたのか?』
「はい、少しですが」
『他には何か言っていたかね?』
感情を押し隠した無表情で質問を続ける修員に、レオは魔族との会話を思い出すように少しの間を置いた。
「……いいえ、これといって特には。ダナトの話しを聞くと、難しい顔で直ぐに飛び去ってしまいました」
そして、力なく首を左右に振りながら嘘を吐く。
それと言うのも魔王の真実を一般人が知っているというのは、修院にとっても都合が悪い話かもしれず、自分たちの身の安全をある程度確保してからでないと、危険が及ぶかもしれないと考えたからだ。
「これから巫女様方に同様の事を伝えようと思うのですが」
『…………その為にこちらに連絡したのだろう、好きにするが良い。他の修院にはこちらから伝える』
「ありがとうございます」
イヴが手元に置いているだけあって、何度かの通信でレオの性質を理解しているのだろう。最後に修員の顰めた表情を映しながら通信は切れた。
そして、他の巫女にも連絡し終えたレオ達は、ニライの案内で魔城へと向かう。ただ、彼ら全員で空を飛ぶことは出来ず、普段空を飛んで魔城へと帰るニライも、彼らと一緒に魔障の霧の中を歩いていた。
この辺り一帯を常に霧が蔽っているとは言え、レオ達が居た場所は霧の発生源である魔城からは遠いこともあり、まだ見通しが少し悪い程度でそこまで深い霧ではない。
ただ、霧の中であれば魔力とマナの結合が阻害され、この薄さでも魔法の威力は減ってしまうだろう。ただ、その性質上魔法の発動は出来なくとも、身体強化など事前に掛けておけば問題無いのである。
レオ達は全員に掛けて、早く霧を抜けられるよう少し足早に移動していた。
「それでニライ、ロフィリアのことだが」
レオとニライは前世の知り合いの大事な話しということで、他の四人から少し離れたところを歩きながら言葉を交わす。
「……ずっと一緒に居た君が亡くなったことで、ロフィリアは酷くショックを受けてね。余り食事も喉を通らなかったんだ」
ロフィリアの話しはニライも辛いのか視線を彷徨わせ、昔を思い出しながら先ほどまでよりも張りの無い声で話し始める。
レオとしても色々と聞きたいこともあるが、先ずはニライから話を聞くのが先決だと思い、今はその言葉を飲み込んだ。ただ、言葉にしていなくてもレオの言いたい事は伝わったようだ。ニライは安心させるように優しく微笑む。
「大丈夫、何も自暴自棄だった訳じゃないよ。親御さんや周りのサポートもあったし、妹も産まれた。それに何より彼女は強い女性だからね」
しかし、その微笑みが歪んでいく。
「ただ、その頃にやって来たんだ、飛怪鳥アングードロム」
「あのバカデカ鳥か」
何となく事情を察したレオが吐き捨てる。
アングードロムは魔界にいる生物で、街一つ押し潰せるほどの巨体を持ち、致命傷を負っても死ぬまでそれに気付かないほど愚鈍で、攻撃されてもよっぽどの事が無い限り逃げ出したりはしないのだ。
「巣作りか?」
「あぁ、かなりの家が持っていかれたり潰されたよ」
彼らは別に凶暴ということはない。ただ、魔族の家々は彼らにとって巣を彩る飾りに見えるようで、それらを銜えて持ち運ぶのだ。その時に舞い降りた風圧や足で、他の家々を押し潰していくのだ。
「体力が落ちて弱っていたからね……クロウが居た頃だったら逃げられたかもしれない。だからこそ僕がもっと確りしていれば」
ニライは胸元で強く右手を握り締めた。余程無念だったのだろう、下唇を噛み締め瞳は涙で潤んでいる。普段の彼女なら人前で弱っている姿を見せようとはしないのだが、レオが居て昔の話をした事で抑えられなくなったのだった。
彼女を昔から知るレオも、先ほどの懸念が当たった事に胸を痛める。
「……そうか」
ロフィリアの死がニライの責任だとは思えないが、クロウを死なせた事も合わせて深く傷ついているのだろう。そんな彼女を慰める事が出来るのかは分からないが、今度はレオが話す番だった。
「俺がロフィリアの死を知っていたのは、彼女の転生した人間を見かけたからだ」
「本当かいっ」
それはマリアと一緒に旅をしているイーリスのこと。
親友が転生していると知って、ニライの頬が喜びから少し緩む。もしかしたら、と思ったのかもしれない。だが、それを否定するようにレオは首を左右に振った。
「ただ、彼女は俺達と違って、ロフィリアだった頃の記憶は無い。今も普通に暮らして生活をしている」
そう、イーリスはレオ達とは違い、あの頃の記憶を持っていない。ヘイムとの戦いで記憶の混濁が起こり、他人の記録映像を見てしまった程度である。やはりイーリスはイーリスなのだ。
「……当然、と言えば当然か」
「そいつは真っ直ぐな良い奴だ。大丈夫、ロフィリアは自分の死をお前の責任だとは思っていない。当然、俺もだ。むしろそんなに責任を感じられると、こっちが困るぞ」
肩を落とすニライを勇気付けようとするレオの言葉に、ニライは力無く笑って頷いた。
「……分かっているよ、君たちは優しいからね。勝手な被害妄想、僕の悪い癖だよ」
「責任感の強い、お前の良いところでもあるさ」
そして、レオは彼女を力付けるように、前よりも大きくなった背中を少し強めに叩く。
二百年の間、鬱積していたものが直ぐに吹っ切れた訳ではないだろう。しかし、もともと伸びていた背筋だが、精神的に丸くなっていた物が伸ばされ、何よりも前へと進ませるような力強さを、彼女はレオの手の平から感じたのだった。
◇◇◇
レオ達が魔城へと向かっている頃、魔城ではユオンゼ達が術式の強化や新たな魔法を使って周囲の警戒を強めていた。だが、侵入者を知らせるけたたましい警報とは違い、春の訪れを知らせるようなゆっくりとした柔らかな鐘の音が城内に響く。
それを聞いた三人は、直ぐにとある一室の前に集まる。人間界に来てから最初の一度しか開かれていない扉の前である。
「魔王様が目を覚ましたみたいだけど」
「良かった、本当に目を覚ましたんだ」
あの鐘は魔王の目覚めを周囲に知らせる音だった。
人間界に来て数ヶ月、長い眠りから漸く覚めたと知り、一同にほっと安堵のため息がこぼれる。この部屋は眠り続ける魔王の体調や栄養などを管理出来るとはいえ、食事も取らずにずっと寝ていて姿も確認出来ないのだから、不安に思うのも当然だろう。
「私は魔王様の身嗜みを整えるの手伝ってくるから、二人は食事の準備でもしておいて。寝起き用の温めるだけの奴があったでしょ」
「それは良いけど、終わるのはどれ位? 冷めたら美味しくないでしょ」
「そうね、お風呂にも入りたいだろうし……三、四時間ってところかしら」
少しは時間が掛かるかと考えていたユオンゼだったが、想定以上の答えが返ってくる。これにはスノも思わずため息をこぼす。
「えらく長いな」
「今までずっと眠っていたんだもの、身体が清潔に保たれてると分かっていても、きちんと洗いたいでしょ。それから髪を乾かしたり服を選んだりね」
男性二人は互いに顔を見合わせて再びため息を吐き出し、納得したように頷いた。女性の身嗜みに時間が掛かると聞いてはいたが、実感すると面倒だという心境なのだろう。
そんな二人の内心も理解出来るのか、ネイルリは軽く笑って頷いた。
「分かったわよ、ちょっとは急ぐから。料理を温めるのは……そうね、身支度が終わりそうになったら知らせるから、それを待ってて」
二人から気の抜けたような返事を聞いてから、ネイルリはドアをノックして魔王の眠っていた部屋へと入っていった。
残された二人は再び顔を見合わせて肩を竦めると、言われた通り食事の準備のためにキッチンへと足を進めようと身体の向きを変える。しかし、そこで何かを思い出したユオンゼが、歩き出そうとする足を止めた。
「あぁ、そう言えば僕が魔界に帰るかどうか、魔王様に相談してきてくれるんだったっけ?」
ユオンゼが魔城に帰ってきた時の会話だが、その時はスノが彼に言った言葉である。そして今度はそれを逆に言い返したのだが、スノの答えはもちろん決まっていた。
「無理、寝起きの部屋に入るとか殺される、物理的に」
「社会的にもね」
結局、二人はあの時と同じ理由で部屋に入ることを拒み、足早にその場から立ち去るのだった。
そして、二人はネイルリの知らせが来るまでダイニングを掃除し、それが届いたらスノだけが食事を温める為にキッチンへと向かう。普段、魔城の掃除などをしてくれる小魔使いを魔界から連れて来ているのだが、そこは念の為と気持ちの問題である。
ただ、やはり綺麗に掃除されているようで、埃はほとんど見当たらない。しかも、掃除だけでなく純白のテーブルクロスの上には、真っ赤な花が花瓶に活けられ彩りを鮮やかにしていた。
何でも魔王が目覚めた時の恒例らしく、日光の届かない魔城付近で育つことのない花を採りに、わざわざ霧の外にまで出て行くのだという。
「相変わらず、何というか凄いな」
クラウが座る椅子の後ろから部屋全体を眺めるユオンゼは、部屋の広さや長いテーブル、輝くシャンデリアなどに圧倒されていた。所謂小市民な彼は、この部屋で食事をすると余り落ち着かず、魔城に居ても食事はほとんど自室で取っていたのだ。
「ほら、温まったぞ」
そして、お粥やスープなどを乗せた台車を押しながら入ってきたスノが、湯気の立ち上る温かな食事や、ナイフとフォークなどをテーブルに並べていく。位置は食べ難ければクラウが入れ替えるだろうという適当具合だ。
それから暫くすると、ダイニングに入る大きな両開きのドアが勢い良く二つとも開かれた。
「おっはよう、諸君」
腰まで届く白銀の輝く髪を靡かせながら入ってきたのは、浅黒い肌を持つ顔と黒い瞳を忙しなく動かし、部屋中をキョロキョロと興味深そうに見回している女性。人よりも尖って長い耳は、彼女の楽しそうな気分でも表すかのようにピクピクと動いていた。
「魔王様、おはようございます」
「おはようございます」
ユオンゼとスノは作業の手を止めると、その場で背筋を伸ばして恭しく頭を下げた。彼女こそ今回の魔王に選ばれた、クラウ・ブラウゼンである。
クラウはユオンゼ達の態度に満足したらしく、腕組みをしながら何度も頷く。
「うんうん、ちゃんとした態度と言葉遣いだ。ただ、ネイルリにも言ったけど、人間が居ない時は普段通りでいいよ」
「そう? ならそうするよ」
魔王からの許可が出たことで契約上の問題はなくなり、側仕えから友人としての言葉遣いに呆気なく戻した。
「それより、お腹空いたー。ごっはん~、ごっはん~っ」
鼻歌でも歌いそうな勢いで食事の並べられたテーブルへと向かうクラウは、長い眠りから目覚めたと言うほど筋力が低下した様子は見られない。ただ、そんな彼女を見て、スノがポツリと言葉を漏らす。
「冬眠明けの……」
「何か言ったっ」
「いいえ、滅相もありません」
わざとらしく敬語を遣うスノに、クラウはじとーとした冷たい眼差しを送るが、今はそれよりも食事が先決とテーブルに向かう歩みを再開させる。そして、そこに並べられた料理を見て嬉しそうに瞳を輝かせた。
「んー美味しそうっ、でもこれって普通の食事じゃダメなの? 私、胃が捩じ切れそうって程の空腹じゃないけど」
「最初は消化に良い物を食べるよう、マニュアルにも書いてあるからね」
「ならこれを食べれば普通にお肉も食べられるんだ。それじゃあ、いっただきま~す」
クラウは「やった」と喜びの声を上げて椅子に座り、少しばかり急いで食べ進めていく。お粥やミルクに浸されたパン、野菜スープなど消化に良さそうな品々である。
そして、小魔使いが普通の食事の準備も進め、どうせならとユオンゼ達も一緒に取ることにしたのだった。久し振りに顔を合わせての食事、話す内容は主にクラウが眠っている間に起こったことである。
ただ、彼らにはそれほど変わったことが起きておらず、ユオンゼが大海の巫女と戦ったり、世界各地を観光した時の事などが主な内容だった。
「……この反応はニライ様?」
そんな話しの途中、スノはニライの気配が魔城に近付いてくるのに気付く。
しかし、その気配が彼女だけでなく他にも幾つか生き物が一緒に居ることと、普段よりも速い移動速度に疑問を感じたスノは、それを解消する為にユオンゼへと眼差しを送った。
「悪いユオンゼ、ちょっと見てきてくれないか」
「分かった」
スノは防衛の要であり、何か有った場合直ぐに動くのはユオンゼの役目である。食事中だが不満一つ漏らすことなく、ユオンゼはニライを出迎える為に部屋から出て行く。ただ、彼らはニライを信頼しているので、何か変な事態になるとは考えてもいなかった。
だからこそ特に警戒することもなく食事を続けていたのだが、その静かな空間が壊される瞬間は近付いていた。
「クラウ目覚めたらしいね、良かったよ」
入室を求めるノックをした後、安堵の笑みを浮かべたニライが入って来た。クラウは食事に夢中だったので、入室の許可を出したのは普段よりも良い声なネイルリである。
「あっ、ニライさん、お帰りな……えっ」
ただ、ニライが妹だと思っているのと同じく、クラウにとっても姉や兄の様な存在のニライの登場。彼女も自分に話しかけられればそちらへと顔を向けるのだが、そこでニライ以外の人影を見かけて思わず言葉を詰まらせた。
その人影とはレオ達、人間のことである。
「なん、で、人間がっ」
混乱しているのは彼女だけでなくスノやネイルリも同じで、レオ達の後ろからドアを潜ったユオンゼに視線を送る。人間と魔族は敵対している事になっていて、しかも魔王の本拠地に連れて来るとは考えもしなかったのだ。
ただ、最後に部屋に入ったユオンゼもそこまで警戒していないので、直ぐクラウに危険があるような状況ではないことは頭のどこかで理解していた。
だが何よりも問題なのは、クラウが人間界に魔王として存在していること。
彼女は急いで椅子から立ち上がると、レオ達の真正面に立って威嚇するように両腕を大きく広げる。
「ふはははっ、良く来たな巫女とその一行よ」
「違う」
クラウの高笑いをリリーの静かな否定が切り裂いた。
部屋には痛々しく遣る瀬無い空気が流れ、ただただ無音がこの空間を支配する。そして、高笑いをした格好のまま固まったクラウを不憫に思ったのか、エルザが話題を変えることにした。
「そのナイフとフォークは武器か何かかな?」
「……貴様らを食べちゃうぞー」
それは彼女が食事中だった証。食べていたのが動物の肉だったので、ナイフに付着しているのが血といえば血なのだが、赤ワインをベースにしたソースの掛かった軟らかそうなお肉はフォークに刺さったままである。
エルザの一言が止めとなったようで、クラウは駆け出してテーブルの皿にその二つを置き捨てると、目の前に料理が置かれていない椅子に座って、テーブルに突っ伏した。
「うわああぁぁぁ~~ん、何よぉぉーーっ。何でニライさんが人間を連れてくるのよー。裏切りだ、反逆だっ」
魔王とはこうあるべき、とまでは思っていないが、それでも重要な役割である魔王になると決まり、クラウもそれなりに学んでいたのだ。
それを身内のニライが人間を引き入れるという思いもしない事が起こり、魔王らしさを表せないどころか、突っ込みどころ満載になってしまい気恥ずかしさやらショックやらで伏せってしまったのである。
「すまなかったね、ちょっと事情があって。でも、中々の魔王振りだったよ」
「嘘だっ、そのアホな子を見るような生暖かい眼差しは絶対に嘘だっ。子供の頃から成長してないなー、とか思ってる癖にーー」
「そんなことは無いけど、クラウらしくて良いじゃないか」
微笑ましいと笑われ、クラウはこのまま文句を言い続けても埒が明かないと、涙目のままレオ達を睨みつける。だが、今までのやり取りの後では凄みなど出るはずもなく、子供が拗ねているようにしか見えない。
「何よー、笑いたければ笑うと良いわ。でも私は魔王よ、強いわよ、怖いわよ」
「あっ、その辺の事情も知ってるから」
今度はエルザが無慈悲に切り捨てる。
魔王クラウ、撃沈。