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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第九章 『新たな歴史』
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第百五話




 立ち寄った街で行われたスタンプラリー。これに参加してレオとパーラ、ヘルヴィの三人を仲良くさせようと、密かに画策していたエルザだったが、それは呆気なく見抜かれてしまう。

 ただ、結局参加して行われた勝負は、レオ達三人がエルザとリリーよりも多く見つけて勝ちを収めたのだった。


 そんな彼らの旅の道中は、レオとリカルドが二人で旅をしていた頃と似ていた。と言うよりも、鍛えながら旅をする経験のあるレオが居るのだから、あの時と同じような流れになったと言った方が正しいだろう。


「みんな、お疲れー」


 襲い掛かってきた魔物の群れを退け、エルザは拍手をするように両手を叩きながら、全員に声を掛けていく。彼女は汗を掻いているどころか、服が乱れた様子すらない。

 それも当然で、この中で一番強い彼女はほとんど戦っておらず、実戦で他の面子の実力を付けていこうという考えなのだ。


「ごめんなさい、私が一番足を引っ張ってるわね」


 スコップ片手に魔物の死体を片付けながら、ヘルヴィが重苦しいため息を吐き出す。やはり五人の中で一番弱いことを気にしているようだ。これが普通の学生で、これから成長していくのなら問題ないだろうが、今は悠長にじっくりと鍛えることは出来なかった。


 ただ、彼女が今回の魔物との戦いで役に立たなかった訳ではない。むしろ一番弱いヘルヴィを鍛えようと、優先的に敵を回している以上、他の人のサポートはあったが一番戦果を上げていたのである。


「でもヘルヴィさん、筋は良いですよ」

「それに体格も恵まれていますわ」


 前世から前衛として戦ってきたエルザとパーラにお墨付きを貰い、ヘルヴィは気が楽になったようで静かに微笑む。

 そして、魔物を埋め終えた頃には日は暮れ始め、先に進んでも良いがそれ程歩けそうもない。ヘルヴィは周りを見回して、少し開けた場所を見つけて指差す。


「ちょっと早いけど、今日はもう野宿の準備を始めましょうか」

「はーい、じゃあ私は周りに獣がいないか見てくるね」

「気をつけて」


 エルザはリリーに手を振って、見回りの為に森の中へと入っていった。

 今日野宿する場所のように、近くに魔物や獣がいそうな場合、エルザが見回りをして追い払うか狩って食材にするのだ。食材にする場合は獣の中に毒を持つものもいるので、知識があって戦えるエルザの重要な役目である。


 その間、レオ達は薪を集めたり寝所を作る。寝所と言っても、地面を整地して水分があるようなら乾かす程度。雨が降っているなら土で屋根や壁を作るが、今の季節ならマントに包んでいれば特に問題はなかった。


「まだ視力だけに頼っていますわね。相手の動きを見て反応しますと、フェイントに引っかかる恐れもあります。相手の空気といいますか、気や魔力の流れを読むのですわ」

「はぁはぁ、やっぱり難しいわね」


 そして、支度が済めばエルザが食材を調達してくるまで各々の自由で、身体を鍛える事もあれば食材集めを手伝うこともある。今回ヘルヴィはパーラに訓練をつけてもらっていた。

 巨体のヘルヴィは小さな身体のパーラに翻弄され、膝を曲げて身体を屈めると、長剣を地面に着けて肩で息をしている。そして、そのままお尻から地面に倒れこんだ。


「そういったのはエルザも得意そうだが、あいつから何かコツみたいなのを聞かないのか?」


 二人の戦いを横で見ていたレオがふと疑問に思って問いかけると、一同からは何とも言えない、生暖かな視線が返ってきた。


「あの子は教え方が下手と言いますか、大師聖母(ししょう)の影響もあって身体に覚え込ませるタイプですの」

「私と一緒で、根幹はいろいろと考えながら戦うような子じゃないものね」

「……感覚派?」


 リリーがフォローを入れるが、三人ともエルザに教えるのが無理だと判断。レオもそう思っていたので特に驚きもしない。

 この中で一番エルザに近い感覚で戦っているのはヘルヴィである。ただ、剣士として戦っている今は勝手が違い、その感覚を掴めていないのだ。このまま掴めなければ平凡、掴めばより上へと成長できるだろう。


「それなら魔法の方はどうなったんだ。確か下級魔法を覚えるとか言っていただろ」

「……そうね。良かったら、今回も皆に見てもらおうと思うんだけど」


 ヘルヴィが少し困ったように他の面子を見回せば、準備も終わっているので特に問題はないと頷いた。少し離れた広場で戦っていた二人が寝所まで戻ると、ヘルヴィは薪を数本取って土で作られた釜戸に置いていく。これから魔法で火を点けようというのだ。


 レオ達三人はヘルヴィの背後からその様子を見守る。


「【赤く輝く炎よ、眼前のモノを焼き尽くせ】」


 右手を薪に翳して詠唱を終えた瞬間、ヘルヴィの身体から大量の魔力が溢れ出す。それは今から下級魔法を放とうとするには、余りにも大量の魔力。


「ファイアーボール」


 手の平に赤い球体が現れる……その瞬間までは成功と言えるだろう。だが、次の瞬間には炎が球の形を崩壊させ、ヘルヴィの前面は炎の海が広がるように猛々しく大地や空を赤々と染め上げていく。

 即座に背後の三人は待機していた魔法を発動。パーラが衝撃波で炎の進行を食い止め、レオが放つ風の動きで一箇所にまとめ、リリーが隆起させた地面で炎を覆い隠す。その一連の動きは慣れたもので、魔法の失敗に驚いた様子は見られなかった。


「相変わらずですわね」

「ごめんなさいねー」


 パーラがチラリと視線をヘルヴィに送るが、失敗した当の本人は力無くぐったりと地面に横になっている。


「魔力、込め過ぎだよ」


 下級魔法でしかないファイアーボールが燃え盛ったのも、今ヘルヴィが地面に横たわっているのも、全ては魔力を込め過ぎているからである。下級を使用したにも係わらず、レオよりも多いはずの魔力がもう残っていない状態なのだ。

 ヘルヴィはゆっくりと上半身を起こし一息を吐く。緊急事態でもない限り回復薬を飲む必要はないので、自然に回復するまではこのままだった。


「あまりやったことがないけど、自分でも抑えようとは思っているのよ」

「確かに以前のヘルヴィさんでしたら、より魔力を込めて威力や範囲を増した方が脅威でしたけれど」

「今は一発使おうとするだけでこれだからな」


 二人は少し悩ましげにヘルヴィを見てため息をこぼす。


 そうこうしている間に、見回りに行っていたエルザが帰ってきた。途中で何か仕留めたのか、両手には二百キロはありそうな巨大な肉の塊を持っている。血の臭いで惹かれる魔物や獣もいるので、血抜きや解体は少し離れた場所でしてきたのだ。


 そして、夕食で上る話題は当然ヘルヴィの魔法のこと。


「んー、魔力の抑え方とか……レオかリリーが得意っぽいけど」

「一応コツというか考え方は伝えてあるんだが」


 レオの言葉に同意するようリリーも頷く。


「教えてもらった通り、少なく小さく抑えようとはしているのよ」


 エルザとの模擬戦の後、「下級魔法ぐらいは使えるように」とヘルヴィから頼まれ、全員が彼女の現状を把握していた。全員魔法を使えることから、それぞれが考えた方法を試してみたのだが、未だ成功してはいない。


「まぁ、コップ一杯の水を用意するのに、以前は浴槽一つ分で今は湯桶一つ分。本人からすれば、抑えていることに違い有りませんわね」

「ヘルヴィは大雑把すぎ」


 パーラは呆れたと首を左右に振り、リリーは表情を変えないまま核心を突く。二人の言葉にヘルヴィは巨体を縮めて胸を押さえて俯いた。


「いっそ、魔力を込めないでやってみるか?」

「自然と流れ出てる分だけを回すって感じかな」

「あとは詠唱を変えてみる?」

「焼き尽くせなどは、本当に火の海にしてしまいそうな勢いでしたものね」


 先ほどの光景を思い出したパーラは、思わず声を出さずに笑ってしまう。

 今となっては被害を出さずに笑い話で済んでいるが、一番最初に見た時は大量の水で消火していたのだ。辺りはぐちょぐちょになり、服は濡れて二次被害の方が大きくなっていたのである。


「魔力を込めないのは多分大丈夫だと思うけど、新しい詠唱は何か良いのがあるかしら?」


 ヘルヴィはメモを取り出し、四人の意見も参考にしながらファイアーボールを成功させる為の詠唱を考えていく。


 そして、食事の後片付けも終わり、ある程度魔力が回復したヘルヴィは先ほど全員で考えた詠唱を試してみようと試みる。まだ全ての魔力が回復したわけではないが、もし失敗しても後は眠るだけなので、一回だけでもやってみようというのだ。


 ヘルヴィは静かに呼吸を繰り返し、息を整える。

 レオの提案通り魔力を高めてはいないが、ヘルヴィなら魔法を使うと意識しただけで自然と魔力の量が増す。それは自身の経験から身に付いたもので、それだけ魔法の有効活用方法が、範囲や威力を増すことだと無意識に認識しているからだった。


 そして、右手をかざして詠唱に入った。


「【風前によりそよぐ灯火よ、我が掌中にて輝きを護らん】ファイアーボール」


 ヘルヴィのイメージとしては、『自分の背中側から強い風が吹き抜け、その風に煽られ消えそうな炎に手で風除けを作る』というもの。威力などよりも一先ず炎を手の近くに発生させようというのだ。


 その結果、かざした右手の前にマナと魔力が結合。赤々と輝きだすが、ここまでは先ほど失敗していた時も出来たこと、問題はこれからである。

 だが、今回も作られた炎は球体の形を留めることが出来なかった。


「……あ」


 失敗、と言えば失敗なのだろう。しかし、今回は成功と言えば成功だった。

 ヘルヴィのかざした右手から対象に向かって、炎が吹き出したのである。風によって煽られているとのイメージから、炎がそちらに向かったのだろう。球体を形成してこそのファイアーボールとはならなかったが、魔力を使い切らない下級魔法の発動には成功したのだった。


「やった、出来たわっ」


 ヘルヴィは巨体を跳ねさせて喜びを表す。

 前世では最上級どころか禁術まで使いこなしていたヘルヴィが、下級魔法を使えたことに喜ぶという光景に、誰もが曖昧な笑みで賞賛するしかない。ただ、エルザはそれ以外にも気になることがある。


「……なんか、もう別の魔法ですよね」


 そんな突っ込みも気にすることなく、今日のヘルヴィは気分良く眠りに就くことが出来たのであった。




 ヘルヴィに関して魔法も大事だが、それよりも剣で自分の身を護ることも重要である。魔物を回されること以外にも、キャンプの準備が終わればエルザかパーラから訓練を受けているのだ。

 しかしそれは彼女だけでなく、レオやリリー、そしてパーラも格上のエルザと戦うことで鍛えられていた。


「わたくし達が強くなるのは当然ですが、やはりエルザさんももっと強くなって頂かないといけませんわよね」


 言葉自体はエルザを挑発しているようにも聞こえるが、その表情は心配そうに眉を顰めている。エルザが自分たちの訓練を手伝ってばかりで、彼女が鍛えられていないことを危惧しているのだ。

 全員を平均的に戦えるようにするよりも、強者を伸ばした方が強敵相手に生き延びられる可能性は高い。これはエルザを心配してというよりも、戦力を冷静に分析した結果の言葉だった。


「まぁ、私も私で鍛えてるよ。アロイスさん直伝の技も成功させたいし」


 問題ないと笑うエルザだが、一緒に旅をしている以上、隠れてこっそりと訓練をする時間などないことは分かっている。そしてエルザ自身も、パーラの懸念が正しいことを理解していた。


「敵は強い。今、俺達を鍛えたところで、呆気なく倒されてしまう可能性もある」


 当然、レオもその事は分かっている。だからこそ、一つの案を提示するのだ。


「そしてエルザも強い。なら、俺達全員で挑めばこっちは集団の連携を、エルザは多少なりとも手ごたえのある相手と戦えるんじゃないか」


 一瞬の沈黙、全員が自然と表情の固まったエルザに視線を送り、エルザも視線の先一人一人に眼差しを巡らせる。


 これが単に多数の相手と戦えというのであれば、エルザは特に気にすることなく行えるだろう。だが、何よりも問題なのは相手の面子。レオは相手の動きを制限させるのが得意で、リリーは味方を活かすのが得意、パーラとヘルヴィだけでは抑えきれないエルザとも戦えるだろう。

 しかも、前衛と後衛に指揮官がいる。二人も指示役がいれば混乱する可能性もあるが、レオは味方の動きに合わせて隙間を埋めるのも得意なのだ。狡いとも言う。


「えっと、それはつまり……」


 強くて面倒な数の暴力を受けるということだ。エルザは頬を引きつらせながら四人を見詰める。


「それは素晴らしい提案ですわ」

「私達の連携を高めることも大事よね」


 ただパーラもヘルヴィも乗り気で、リリーもエルザの為に持てる力を出して戦うことを決意する。もちろん提案者であるレオが断るはずもなく、今から戦いが始まるような流れになっていく。


「あぁ~も~、分かった。全員掛かってこいっ」


 もはや自分が有利な状況は作れないと悟ったエルザは、自棄になったように声を上げて飛び退き構える。これからはエルザも、模擬戦で神経をすり減らしながら戦うことになるだろう。




 ◇◇◇




 その頃、大海の巫女メーリ・メティー・ハララ達一行は修院からの依頼で、とある海域で暴れる魔獣ゴンモンネックと戦っていた。獣と呼ばれているが、ゴンモンネックは巨大な水中生物である。

 姿は茶色で平べったく、身体前方の左右には六個の目が並び、一番尾っぽ側にある両目だけは上に飛び出ている。背中には上向きに棘が並び、尾には透明で傘のようなモノが形を変えながら舵を取り、その中には一本一本が微妙に異なる毒を持つ触手が無数に伸びていた。


「うぅ~、気持ち悪いよ~」


 メーリは見た目が生理的に受け付けないようである。

 彼女たちは水中で何度も戦う経験があったので、今も風の膜に包まれて呼吸しながら戦うなど準備を整えていた。この膜は攻撃されて穴が開いても破裂することなく、空気が抜けて萎んでいくので、即座に窒息する恐れはない。


『我慢なさい、ほらもう直ぐ来るわよ』


 ただ、味方間での連絡を取り合う魔道具は必須である。


 既に戦いは佳境に入っていた。メーリの身体には無数の切り傷を負い、血が滲んでいる。そんな彼女の視線の遥か先にはテルヒの姿があり、二人で向かい合いながらその時を待っていたのだ。

 そして、二人の間に向かって何かが直進する。


『ちゃんと釣ってきましたよっ』


 それは水中に突き出した穂先から渦を作り、後方の水を押し出すことで推進力を得て高速に進むセスト。彼の後ろからはゴンモンネックが大きな口を開けて、鋭い歯を見せながら一飲みにしようと追いかけている。


『いくわよ、メーリ』

「いくよ、テルヒちゃん」


 セストを追いかけ、二人の間をゴンモンネックが通過しようとした瞬間、二人同時に待機させていた魔法を発動させた。

 二人の間の空間に強い圧を掛け合い、かなりの速度で泳いでいたゴンモンネックの動きすら止める。そして、そのまま圧力を水面の方向へと向けると、挟み込まれた巨体は水面まで押し出されていく。


 そして、水面近くで待機していたアロイスは、ゴンモンネックの背中に乗って一緒に空中へと放り出された。螺旋を描きながら上昇していく中、背中の棘に掴まっていたアロイスは、ある程度の高さにまで上ると手を離して気を高める。


「いくら再生能力のあるアナタでも、これを喰らって平気なのかしら」


 その言葉が聞こえたのかは分からないが、生物の本能から死を直感したゴンモンネックは身体を硬直させた。

 アロイスが繰り出したのはエルザに教えた技。あの時は拳による一撃だったが今回は右足を振り抜き、勢いの落ちてきたゴンモンネックをより上空へと蹴り上げる。


 反動を利用して水中へと戻ると、計ったように爆発。直径一キロほどの巨大な爆発は、衝撃の大きさを水中にまで伝えるのだった。




 しばらくしてメーリ達が海から拠点としていた無人島に上がってくる。

 何度か経験があるとは言え、慣れない水中の戦闘で疲労は溜まり、特に四人分の空気の膜を作っていたメーリの疲労はかなりのものらしく、岸に這い出るように上ったまま地面に寝転んだ。


「疲れたよ~」

「お疲れさま」


 先に陸へと上がっていたアロイスが、メーリを抱きかかえて焚き火の近くに寝かせた。水中で戦っていた彼女たちは、全身びっしょりというほどではないものの、服や髪は濡れて水気を帯びていた。


 このまま乾かしても海水は臭うので、綺麗な水を使って髪と身体を拭き新しい服に着替える。そして、事前に用意していた食材を焼いて簡単な打ち上げを行う。


「でも凄い魔法よね、大抵の生き物ならあれだけで潰されるんでしょ」

「たしか最後の魔法はミーナ様が創作されたそうですね」

「えぇ、エアーショットの大規模版ってところね。攻撃にも防御にも使える便利な魔法よ」


 そう言って笑うテルヒはお酒が入っているからなのか、上機嫌のようにも見える。そして、そんな彼女を見てメーリも笑うのだった。


「テルヒちゃんもミーナ様のこと大好きなんだよねー」

「だから同じ髪型にしているのね。とても似合ってるわよ」

「ありがとうございます。確かメーリと仲良くなった切っ掛けも、ミーナ様の話だったのよね」


 腰まである髪を梳かし、慣れた手つきで一本に編んだテルヒは、アロイスの言葉を受けて嬉しそうに礼を告げる。ただ、少しばかり気恥ずかしいのか、直ぐメーリに話しを振った。


「そうだったね。私はいろんな魔法を使えたのが凄いなーって思ってるんだけど、テルヒちゃんはどんなところだったっけ?」


 恥ずかしがるのは褒められたことよりも、ミーナと同じ髪型にしているという自分に係わる部分だとメーリには分かっており、はぐらかされないよう話題を振りなおした。

 逃げ切れないことを悟ったテルヒは、諦めたようにため息をこぼす。


「私は普段おおらかでも締める時は締めて、そのメリハリとか周りを注意して聞き入れさせられることとかね。メーリも注意を素直に聞いてくれるか、ミーナ様みたいになってくれると嬉しいんだけど?」

「テルヒちゃんもね~」


 テルヒは『締める』という意味でメーリを諌めるが、メーリは『おおらか』な部分を言い返す。仲が好いからこそ出来る、軽いダメだしである。とは言え、これまで何度もやってきたことなので、特に話を広げることなく次へと移す。


「でもさぁ、やっぱりミーナ様なら魔法だよ。もしかしたらあの魔獣を、この海域ごと上からペシャンコにしたかも」

「いや、さすがにそれは無理でしょ。というか、他の生き物も巻き込まれちゃうでしょ」


 押し潰すを表現するように、高く掲げた両手を振り下ろしたメーリに対し、子供っぽい仕草でありながら過激な内容にセストは突っ込む。しかし、テルヒは顎に手を当てて真剣な眼差しで俯き、先ほどまで戦っていた海の水面を見詰めた。


「……確かにミーナ様ならやりかねないわね」

「どっちの意味でっ。いや確かにどっちでもやれそうだけど」


 どちらの意味も肯定しているセストも、何気に酷いことを言っている。

 大海の巫女一行は今日も仲良く旅を続けているのだった。






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