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Elsaleo ~世界を巡る風~  作者: 馬鷹
第八章 『再会と旅立ち』
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第百二話




 レオ達はそれぞれが眠れぬ夜を会話しながら過ごしていた。タウノとグウィードはキルルキを偲び、レオとイーリスは魔族の女性のことを、エルザとマリアは和解し再び友情を確かめ合うのだった。


 そして、次の日から彼らの精神も落ち着いて眠れるようになり、ようやく身体を休められるようになる。ただ、その間も修院との連絡を取るなどの細かい業務は行われていた。

 マリア達にレオとエルザを加えた六人は、市庁の一室で巨大な水晶に向かって座っている。これは個人向けの通信用魔道具ではなく、会議などで使われる多数の人を投影できるものだった。


 水晶に映るのは、痩せていたり太っていたり顎髭を生やしていたりなど様々だが、一様に年を召した老人達である。この五人が大地の聖大神殿に勤める修員なのだ。


「それではグウィードさんがこのまま加わる、ということでよろしいですね」

『はい。元々、副団長の調子が戻れば復帰させるつもりでおりましたので』


 修院は魔王の真実を知っている。だからこそ今回が異例だと分かれば、実力者であるグウィードを戻す考えはあった。今回のエリクサーもどきを運ぶ仕事は、旅や転移の負荷に耐えられるかなどを見る為のものでもあったのだ。


「衣類や魔道具もよろしくお願いします」

『分かりました。適任者に選ばせ、後ほどお届け致します』


 話しをしていた修員が水晶から視線を外して何やら合図を出す。水晶に映らない所に居る人に指示を出しているのだろう。その間、別の修員が話を進める。


『それと以前に仰られた耐火用の魔道具ですが、何とか目処が立ちましたので、衣類等と一緒に御送り致します』


 ダナトがエンザーグを焼き殺した後、マリア達は対抗手段として修院に魔道具を用意するよう命じていたのだ。それがどこまで通用するのか分からないが、無いよりはマシとの考えである。


「ありがとうございます。これでダナトの炎に対抗出来るといいんですが……」

「ルヲーグの魔力吸収、シアンの不死状態への対策はどうなっていますか?」


 一先ずほっとするマリアの横から尋ねたのは、修院に対して丁寧な言葉遣いのイーリスである。

 四聖会での地位としてはイーリスの方が上なのだが、修員の方が年上で余り親しくしたくないとの思いから敬語を使っているのだ。


『率直に申し上げますと、どちらも難しい問題です』

『魔法である以上魔力を使い、生物である以上魔力を所持しています。それらを無理やり吸い取るのだとしたら、完全に外へ出さないようにしなければなりませんが、そうなると体内に溜め込み正常な精神状態ではいられません』

『また不死者シアンなる者の件ですが、今分かっている情報だけですと、今までに無い種族の可能性もあります』


 修院は机に置かれてある書類に目を通しながらマリアに報告をしていく。内容はあまり良くないが、マリア達からすれば話を通しやすい状況でもある。


「その事なんですが、シアンはこちらの方々から協力の申し出を受けています」


 タウノに紹介されて、テーブルの端に座っていたレオとエルザが、椅子から立ち上がって頭を下げる。

 ヘルヴィ達は修院と話す理由もないので、この場には居ない。特にリリーはララインサル家に一泊した後、泊まっていた宿屋へと戻っていった。学友の無事や荷物など、確認しなければならないことが多いのだ。


「お初にお目にかかります。クロノセイド学園に在籍しております、レオ・テスティと申します」

「同じく、エルザ・アニエッリです」

『……貴様らか』


 水晶に映る老人は目を細めて二人を見る。感情の色は見て取ることは出来ないが、レオは意に介することなく、マリアの許可を得てから椅子に座って話を続ける。


「実は旅の道中で知り合った方の手を借りれば、シアンの不死を破れる可能性があります」


 レオの言葉にさらに修員が眼差しを鋭くする。本当かどうか、真意はなにかを確かめようとしているのだろう。少し興味を持ったのか続きを促す。


『ほぅ、それはどのように?』

「申し訳ありませんが、術者によると秘伝の技とのことで、私も詳しいことは聞いておりません。ただ、私が見た限りでは可能であると――」

『ふん、ただの妄言か。そのような不確定なものを信じるはずがなかろう』


 だが、レオの答えは期待に副うものではなかったようだ。話しをしていた修員は鼻で笑った後、失望した感情を隠さず冷めた眼差しでレオを見下す。

 しかし、リリーが夢練印を隠したがる以上、レオとしては話す訳にはいかなかった。これはマリア達にも口止めをお願いしている。


「はい、ですから対策はそちらも引き続きお考え下さい。ただ、その様な手が私共には有るということを理解して頂き、どうかマリア様方に随伴することをお許し願いたいのです」


 マリア達が最初から願っていたのは、修院も同意の上で一緒に旅をするというもの。それとシアン対策に関しても、手が一つだけで良いということはなく、数が多ければそれだけで有利に戦えるのだ。

 何せレオ達の手は、肝心要のリリーが魔法陣を発動出来ない状態になってしまえば、それで全てが終わりなのだから。


『何を馬鹿な。倒す手段は教えぬが、貴様らが付いて行くのを認めろと?』

「おこがましいお願いをしていることは重々承知です」


 レオの身勝手な言い分に、修員の一人が机を叩いて不満と苛立ちを隠さない。ただ、それも当然と言えるだろう。


『ふんっ、それに随伴を許さずとも、黙って付いていくのではないのか』


 勝手に他の巫女の協力を仰いだことを言っているのだ。

 確かに修院に黙って二組で旅を続けることは出来ただろう。しかし、それを嫌がったマリアは、修院を説得するために口を開く。


「確かに修院に黙って協力を仰いだのは早計でした。申し訳ありません。ですから、これからはそのような事がないよう、きちんと相互の理解を深めていこうと決めたのです。今回の会談はその為のもの。駄目だと言うのでしたら、その理由を聞かせて下さい」

『……なるほど、それは素晴らしいお考えですな』


 リーダー格の修員は瞳をかすかに揺らして驚いていた。定時連絡はキルルキの役割で、久し振りに会話したマリアは最後に見た時よりも、堂々としていることに驚いたのである。

 それはマリアが成長したからではない。大師聖母と彼ら修院が見出した以上、彼女が大器であることは理解していたが、その成長速度に驚いているのだ。数々の実戦や出会い、そして別れがマリアを巫女として、人間として成長させていたのである。


『では、我々の考えを述べさせて頂きます』


 リーダー格の修員が他の面子と視線を交わし、無言で意思疎通を行った後で居住まいを正す。水晶越しに張り詰めた空気が伝わったように、レオ達も姿勢を正した。


『魔王討伐に、例え一度だけだとしても一般市民を参加させてしまえば、今後同じように名を売りたい者達が勝手に行動しかねません。市民を守ることは四聖会の役割の一つでもあり、実力の伴わない者達が暴走した場合、制御することが困難になります。それに魔王討伐は巫女本来の職務、そこを崩させる訳にはいきません』


 彼らの結論は『否』だった。しかも言っている事は真っ当なものばかりで、レオ達はその事を否定することは出来ない。

 眉を顰めるレオだが、納得するように頷いた。


「前例となってしまうことを危惧しておられるのですね」

『然様、それに制御出来ぬ一般人が我先にと動けば、魔王に警戒され守りを固められる恐れもあるのじゃ』


 しかし、一方的なやり取りで終わっては、言葉を交わす意味がない。マリアが願うのは互いが意見を交わして理解し、そして双方が納得できるよう模索すること。それを受けたのは、この中で一番口と頭が回るレオだった。

 レオはグラスの水を一口飲んで喉を潤すと、修員を説得する為に口を開く。


「確かに。しかし、以前の魔王討伐では世界中の国々が軍を動かし、囮となって巫女様方を援護しておりました。私共五人で同等の働きが出来るとは思えませんが、露払い位は務まるかもしれません」


 過去の例を取り出してみるのだが、修院の反応はそれほど芳しくない。むしろ鼻で笑われてすらいて、その理由は明白だった。


『以前素性を調べたが、特筆すべき力も持ち合わせていないようじゃ』

『ふんっ、貴様ら如きに払われる露などおるわけがなかろう』

『学生という身分。使いの旅ならばまだしも、戦場ともなれば実戦不足ではないのかね』


 学生と国の軍隊を比べれば、力の差や数など出来る事が違いすぎて比べ物にもならないからである。以前キルルキに報告されていた情報は彼らも知っているのだ。


「その調査が学園の頃だとしたら、確かにその通りでしょう。ですが、人は学び成長し伸びて行くものです。今回の旅で私はコーフニスタの貴族であり、S+の実力者でもあるリカルド様に、エルザはアロイス様に指導を受けました」


 アロイスの強さや教え魔であることは修員も理解している。ただ、リカルドの名前や存在は知らないが、ランクや貴族との情報から調べれば直ぐに事実かどうか確認できるだろう。

 レオは修院の言い分を認めた上で、そこから自分たちが成長していると告げ、さらに言葉を続ける。


「実戦に関しましても、グウィード副団長も把握していますが、エンザーグ戦で加わったエルヴィラという女性は、このエルザのことなのです。それだけでなく、カカイ王国で暴れまわったラザシール討伐。傷つき倒れ力にはなれませんでしたが、イヴ様が魔獣アグワラスを退治た場面でも経験を積ませて頂きました」


 実際はアグワラスが来る前に行った模擬戦でレオは戦えなく、エルザは参戦する間も無かったのだが、見て学んだという経験は積んだのである。

 だからこそ修員がイヴに確認したとしても、彼女は「その通りだ」と笑って認めるだろう。貸し一つと考えるかもしれないが。


「またヘイムとの戦いに於いても、途中からではありますが参戦致しました。これでもまだ経験が足りないと仰られますか」


 レオの言い分が終わり、修院はグウィードにエルザの件で確認の眼差しを送れば、同一人物だと把握している以上肯定の頷きが返ってくる。


 修員の一人が小さく舌打ちをする。魔獣二体と魔獣ではないとは言え、魔物の中で巨体なラザシールに魔族が一体。これだけの敵と戦ったと聞いて、経験が不足していると言えるはずもなかった。

 そもそも、どれほど戦ったのかまでは調べられていないが、レオ達がヘイム戦に参加していたことは修院も知っていた。知った上で否定したのである。


『その件については聞いている。だが、まさか避難の手伝いや回復薬を集めた事が、参戦と言うのではあるまいな』

「それだけでは有りません。エルザさんやレオさん達も、ヘイムと直接対峙して最後の一撃に力を貸してくれました。彼らが居なければ私達は勝てなかったと、ワイズ様に誓います」


 マリアが庇う。エルザ達の誰か一人でも欠ければ負けていたと、マリアだけでなくグウィード達も分かっていたので異論は挟まない。そして、修員も女神の名の下に誓われては、それを疑い否定することも出来なかった。


 修員は互いに身体を寄せて何事か言葉を交わす。小声で水晶には届いていないので、内容が何であるのかは分からないが、見えている表情から完全に好転したとは言い難かった。

 だからこそレオは次の手を打つ。


「では私達は存在しないものとして扱う、というのは如何でしょう」


 言葉の意味するところに気付き、修員の一人が眉をピクリと反応させる。


『ほぅ、魔王討伐に参加したという名誉も報酬も要らぬと?』


 レオ達が前例になるのを危惧しているのなら、そのような人達は居なかったとしてしまえば良いのだ。頷いて見せるレオだが、その様な条件を修院側が素直に信じられるはずもなかった。


『その様な事を信じられるものかっ。我こそがと後から自慢し、報奨金をせびるに決まっておるわっ』

「修院と私達、聞いた人々がどちらの話を信じるかは考えるまでも無いことです。それに、他の巫女様や修院の方々にも同様のお約束を致しますから、もし破った場合はイヴ様がお許しになりませんので、あの方を敵に回すほどの価値があるとは思えません」


 だがレオは冷静に言葉を返す。

 ここでイヴの名を出したのは、彼女が自分本位でありながら約束事は信頼関係を築く上で大事にしているからだ。そして、それを裏切った場合、巫女としての立場や権力を利用して貶めにかかるだろう。


『旅費や連絡用の水晶など、随分と懇意にしてもらっているようだが?』


 ただ、イヴの厄介さや本質などは、付き合いの長い修院の方が知っている。どうやら今日会談すると分かってから、レオ達のことを調べていたようだ。


「それとて、あの方の気性は皆様の方がお詳しいかと。その程度を融通したからと言って、約束を破った人まで庇い立ては為さらないでしょう」


 修員が唸って黙る。イヴ本来の気性を知れば、レオの言い分は最もだからである。


 イヴは別に全ての謎を解き明かそうとは考えていない。だからこそ、自分の知りえない情報を持っていたとしても、レオを簡単に切り捨てることが出来るのだ。他にも知らないことが多いのだから、レオ一人居なくなったところで何の問題もないのである。


『では貴様らは富や名誉を願わず、何故に魔王討伐という危険に身を晒す。貴様らが死んで悲しむ者が居ないと思っているのか?』


 彼らもレオ達の気持ちが理解出来ない訳ではない。彼らの中にはイヴに使えないと判断された人もいるが、修院に入れたこと自体、優秀な人物であると証明されているのだ。

 だからこそ、この問いはレオ達の心構えを聞いていると言ってもいいのだろう。


 それに力強く答えたのはエルザだった。


「だからこそですっ、私達は死ぬつもりはありません。もちろん、そこに絶対が無いのは承知しています。そしてそれが、ダムスミリィのように何の変哲もない街に降りかかることも。私達の死を悲しんでくれる人は居ます。だからこそ魔王を討伐しないといけないんです」

『……』


 幾らレオが上手く言葉を並べたところで、海千山千な彼らを騙しきるのは至難のわざだろう。その点エルザの嘘偽りも打算も無い言葉は、素直にそのまま届くのだ。

 まだ二人に対して何かを言いかける修員を、リーダー格が抑えて何事か相談し始める。そして結論が出たのか、一同が頷いてレオとエルザに眼差しを送った。


『よかろう。その方らが表舞台に立たず、露払いに徹するというのであれば戦列に加わることを認めよう』


 こうして修院公認で一緒に戦えることが決まったのだが、レオ達一同は即座に喜ぶようなことはしなかった。愉快そうに笑みを浮かべている、憎らしい修員も居るからだ。


『だが、同行することは許さぬ。マリア様はこれからも各地を慰撫なされる職務がある。それに同行せず、貴様らだけで先に向かうのだ』

『他の巫女様方に付くことも許さぬぞ。あの方々もマリア様と同じく職務があるのでな』


 出された条件はマリアや巫女たちと一緒に旅をしないというもの。道中に他の人達から見られた時に都合が悪いから、という考え方も出来るだろう。

 何も悪くない条件だと思えるかもしれないが、何よりも問題なのは巫女が他の用事を進めていく中、レオ達だけで魔王城近くにまで向かわなければならないということだ。


『貴様らの場合他の巫女様方のように、連絡を繋いで無事を伝えるだけではなく、細かな報告が必要となるぞ。そして、それが三日途絶えれば他の方々同様、安否の確認なく先へと進むことになる』


 今回の魔王襲来が異例だと気付いている修院だが、いやだからこそレオ達を尖兵隊として使おうというのだ。先ほどレオが言った軍隊のように、それが囮になっても問題無いという考えである。


『マリア様もそれで宜しいですね』


 その事は直ぐに全員の頭を過ぎるが、誰も異論を挟むことはない。少しばかり不安になるマリアだが、エルザに視線を送って力強く頷かれたこともあり、その提案を受け入れたのである。

 そして、修院の面々もうなずき返し、マリア達の荷物と一緒に約定書を用意するとのことで、レオ達が同行する許可を得られたのだった。


 これで大体の修院との意見交換は終わり、通信も終わるかという雰囲気になった頃、少しばかり顔を俯かせたマリアが話を切り出す。


「あの、キルルキさんのことですが……」

『彼は魔族との戦いで負傷し、グウィードと代わって療養中としましょう。マリア様が魔王を倒し、お戻りになられるまでに無事が確認出来なかった場合、葬儀を執り行うということで』


 キルルキは彼らがグウィードの補充要員として送り出したのだ。少なくともマリア達以上に親しい関係なのだろうが、修員は悲しむ様子を見せずに淡々と流れを説明するだけ。

 ただ、自分たちもキルルキを無視して市庁に向かった。それぞれの立場もあると認識したマリアは、これまでのように不快に感じたり、意見をすることはなかったのである。

 しかし、それでも疑問に思うことはあり、タウノはそのことについて尋ねてみた。


「もっと大々的に公表して、キルルキの情報を集めないのでしょうか?」

『……残念だが、これから先何人の犠牲が出るか分からない状況で、その都度世間に公表しては民衆の士気を削ぐことになりかねん。全てが終わってからの方が良いだろう』


 自分たちが死ぬ可能性を言われて思わず喉を鳴らすが、覚悟を決めているのはレオとエルザだけではない。今回の戦いでマリア達も自分や仲間の死、そして民衆の死を近くに感じることになったのだ。

 マリアは目蓋を閉じて胸元を握り締めると、今の街の状態に思いを馳せて口を開く。


「私は今回のような悲劇を引き起こした魔王を絶対に倒したい。その為には皆さんの力が必要です、力を貸してくれますか?」


 水晶の向こう側にいる修員一人一人に強い眼差しを送れば、何人かはチラリと他の面子を確認する修員もいたが、リーダー格の修員は表情を引き締める。


『……我々は大地の巫女を、マリア様を補助するのが役目です。魔王討伐、それこそ我らの本懐。取るに足らぬ我々の力ですが、マリア様の助けとなれるのでしたら光栄の極みでございます』


 そして、椅子から立ち上がり深々と頭を下げると、他の面々もそれに追随する。

 彼らの本意が分かるほどマリアは長く生きてはいないが、彼らを信じようと決めた。信じなければ何も始まらないからである。


 マリア達も椅子から立ち上がると、修員と同じように深く頭を下げるのだった。




 ◇◇◇




 後日、レオ達五人はダムスミリィを旅立とうとしていた。

 マリア達は不満を持った民衆がいるので、慰撫と復興を少しだけでも手伝ってから、数日後に旅立つ予定である。もちろんそれも大事なことなのだろうが、これを提案した修院の本意は、二組がきちんと別れて旅をするようにといったところだろう。


 見送りはさすがに街の入り口だと目立つので、ララインサル家の玄関前である。

 この時、レオとエルザ以外の面々はこの場に居ない。パーラは使用人たちと、リリーは友達と別れを交わし、ヘルヴィは気を利かせて既に集合場所である街の入り口近くで待っているのだ。


「じゃあ、マリア」

「うん、これで二回目だね」


 今から最前線に向かうレオとエルザだが、彼らにも見送るマリア達にも悲壮感は漂っていない。もちろん内心ではどうか分からないが、それを面に出すようなことはなかった。

 エルザの隣にレオが、マリアの隣にイーリスとグウィード、タウノが並び立つ。


「先に行って待ってるから」

「早く来いよ」

「それは保障できないな」

「急に立ち寄る場所が増えるかもしれないしな」

「僕達が休めるよう小屋を建てていても良いんですよ」


 タウノの無茶な冗談も入りながら最後の言葉を交わす。そしてマリアが二人の顔を交互に見詰め、ニッコリと暖かな笑顔を浮かべる。


「それじゃあ二人とも、またね」

「うんっ、またね」

「またな」


 手を振り合いながら、レオとエルザはマリア達と別れて街の入り口へと向かう。

 二度目の別れは前の時よりも少しばかり明るかった。







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