第九話
夕食時となり大広間にはレオ達全員が椅子に腰掛け、ウィズが一人で用意した盛大な料理を口に運んだ。
巫女を出迎えるためにヨーセフが用意した食材は、世界中から高級品や珍味が集められ、予定になかったレオとエルザが加わっても、食材は十分に余りあった。
そして、食後のコーヒーや紅茶を飲んでいると、皿を洗い終わり戻ってきたウィズが、どこか申し訳なさそうに口を開く。
「レオ様、少々手伝っていただきたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。ウィズさんお一人では何かと大変でしょう」
警戒を上げた内心を表に出すことなく、レオはウィズを気遣う言葉を使って承諾する。
だが、表情を隠したレオとは反対に、思いっきり面白い物でも見つけたようにグウィードは笑う。
「レオ、お前女性に敬語で話せたんだな?」
グウィードに言われてマリアが思い返せば、確かに同じ学園で一緒に旅していたエルザは抜かしたとして、マリアとイーリスの二人とも初対面から敬語を使っていない。
それに対して、男性のグウィードとタウノには今でもずっと敬語のままだ。
マリアが今まで気付けなかったのは、レオ以上にエルザが親しく話しかけてきたからだろうが、そのエルザはウィズに対してもタメ口である。
ただ、笑われたのが心外なのか、レオは少し呆れたように喋った。
「それはそうですよ。グウィードさん達は年上ですし。イーリスは何となくですけど、嫌なら敬語で話しましょうか?」
「いや、今まで通りで構わない。私はそれほど気にする方ではないからな」
イーリスの答えはレオが思っていた通りなのか一つ頷いてみせると、その視線はマリアへと移った。
「それとマリアは年下だろ?」
本当はマリアが望んでないからだが、敢えてそう言うとイーリス達の間に漂う空気が凍った。
マリアが年下や幼く見られる事は、コンプレックスと言ってもいいほど気にしているからだ。
しかし、そんな空気の中でも笑える男がいた。もちろんグウィードである。
「ブハハハッッ、マリアはそれでも今年で十八だ。レオ達よりも年上のはずだぜ」
ウィズがいるにも拘らず、思わず様付けを忘れて大笑いするグウィード。その真実を聞いて、レオはもとよりエルザも驚いた。どう見ても十四、五にしか見えないのだ。
巫女を崇拝している人なら、年齢は常識として知っているだろうが、二人はマリアの名前と顔くらいしか知らない。
レオに気にしている事を言われ、挙句の果てにグウィードに笑われてしまったマリアは怒っているのだろう、やや瞳を潤ませて上目遣いでレオを睨んでいる。
しかし、その行為も可愛らしく見えて、実年齢よりも幼く見せている事に本人は気付いていない。
マリアがそこまで見た目を気にしているのは、そのまま幼く見られるのが嫌というのもあるが、それ以上に標準以上の容姿を持つイーリスが常に傍に居たからか。
「しっかし、それなら俺も敬語は抜きにしてくれ、これから長い間一緒何だからな」
結局の所、グウィードが言いたかったのはこれなのだ。
タウノのように地で敬語を喋る人物なら何度言っても無理だろうが、レオはエルザとの掛け合いを見ているので違う。
グウィードもイーリスと同じく口調はさほど気にしないし、寧ろ敬語を使われる方が苦手だった。
「それなら僕にも普通で良いですよ。僕達だけ敬語だと何処か線を引かれてる様に思えますし、地で喋った方がレオ君も精神的に楽でしょう。まあ、何時もこの口調の僕が言うのも何なんですけどね」
「ああ、分かった。俺もこれが一番楽だしな。だが、俺は地で喋ると口が悪いぞ」
レオも敬語に拘っている訳でもなく、やはり地での喋りの方が楽なのですんなりと受け入れた。
人悪く笑みを浮かべたレオは何処か肩の荷が降りたようだ。
「それはエルザとの掛け合いで分かってるさ。これから尊敬と敬いは喋り方じゃなく、態度と行動で示してもらおうか」
「それなら、先ず尊敬や感謝される行動をしてみせるんだな」
地を見せて直ぐに言い合う2人の表情はどこか楽しげで、まるで十年来の知り合いの様子である。
ただ、そんな光景を羨ましそうに見つめる一人の女性、マリアが居た。
実を言えばマリアもレオと同様エルザたちの前では猫を被るとまではいかないが、それでも余所行きの話し方であり、それを変えたいと思っていても、急に変えるのは変な気がして言い出すに言い出せなくなっていた。
「じゃあさ、マリアもだね」
「えっ」
「だってマリアもタウノさんみたく、それが地ってわけじゃないんでしょ?」
確信的に微笑むエルザを見て、エルザの観察眼に驚きながらも、自分の事を分かってくれた事実が非常に嬉しく、マリアは嬉しそうに満面の笑顔で頷いた。
「うん、分かった。でも、今は」
だが、最後は声を小さくしてウィズに視線を移す。
身内だけならまだしも、そこに他人が入り込めば、マリアは巫女としての威厳を保つ必要があるからだ。
そんな二人を微笑ましく見ていたタウノだったが、カップから口を離すと少し困った表情を浮かべる。
「レオ君には頼みたい事があったんですが、確かエルザさんもフェアルレイを使えましたよね?」
実は夕方の作戦会議で出たフェアルレイを実際に掛けて動こうと考えていたのだ。
いくらグウィードやイーリスとは言え、行き成り向上した身体能力で実戦を戦わせるわけにはいかない。
補助魔法は便利な反面、使いこなせないと使用者自身の力で自爆してしまう可能性のある魔法なのだ。
「もち使えるけど……なに、もしかして信頼感ない?」
半目でタウノを睨みつけるエルザだが、タウノとグウィードは素直に首を縦に振った。
何故なら模擬戦で魔法を主体に戦っていたレオと違い、エルザが使ったのは下級のオブスタクルウインドとエアーショットだけ。
魔法部隊総括長を務めるタウノは、魔法の有効性も危険性も理解しているのだ。
「な、なんとっ、ならば教えて進ぜよう。クロノセイド学園での伝説とまで言われた活躍の日々をっ」
仲間から信頼されてないこと知り、ショックで膝から崩れそうになるエルザだったが、何とか持ちこたえて全員が見渡せる場所に移動すると、身振り手振りを加えながら語り始めた。
「一つめ~。身体強化の補助魔法を使ったら、相手が筋肉ムキムキのマッチョになって、少しの間登校拒否してたー」
グウィードが「それは失敗だろ」と笑い、マリアとイーリスも控えめに笑っている。
「二つめ~。カップの水を凍らせる実験中、教室中を凍らせて風邪を引いたクラスメイトが続出ー」
ただそんな微笑ましい空間で、一人頬を引きつらせている人物が。
「三つめ~、夜中に魔法の実験をして『君の反応をもっと僕に見せて』とか言ってたら変質者に間違われて――」
「さ、さあ、そんな事より早く練習といきましょう」
何故かは分からないが、タウノがエルザの背中を押して急かすようにして部屋を出て行き、グウィード達も笑い声を上げながらその後に付いていった。
グウィードの浮かべていた嫌らしい笑みは、おそらくエルザを失敗の事でからかう予定だからだろう。
「俺達も行きますか?」
内心、本当にからかわれる人物の無事を祈りながら、カップを片付け始めたウィズに話しかける。
「済みませんが、先にカップを洗っておきたいので、もう暫らくこちらでお待ち下さい」
確かに『早めに洗わなければ汚れが落ちにくくなってしまう』と昔の知り合いが言っていたのを思い出したレオが、了解の返事を返そうとするよりも早く、ウィズはカップやワゴンと共に姿を消していた。
数分で戻ってきたウィズに連れられて、レオは目的の場所へと向かっている。戻ってきたウィズの手には小脇に抱える程度の木箱を持っていた。
「内容も聞かずに手伝うと言いましたけど、具体的には何を?」
「こちらが討伐を依頼をしたにも関わらず、道具の一つも差し上げなければオーストレーム家の名が泣く、とそうヨーセフ様が仰いまして」
廊下の角を曲がり屋敷の北側へと二人は向かっていく。
「差し上げる物は既に決まっているのですが、私はここに仕えて余り経っておらず、どこに何があるのか分からない状態でして。ですから、レオ様には精神力を回復出来るお薬を探してもらいたいのです」
「そういう事でしたら」
そういうのは主人から直接手渡されるのではないのか、と疑問に思ったレオだったが、敢てそこには触れずに話を終えた。
ただ、これから向かうのが荷物の置かれた部屋だと分かり、そこでウィズが何をしてくるのかという事に考えを巡らせる。
「こちらの部屋です」
ウィズに付いて入った部屋には、大きさがバラバラの木箱が所狭しと積み上げられた、正しく物置だった。
この部屋全体が暗く、不審に思ったレオが辺りを見渡すと、天井部分に空気を入れ替える風導管は見当たったが、光り入れなどの窓は存在していなかった。
「ここに置いてあるのは日の光に弱いものばかりですので……ただ今、火を灯します」
ウィズはレオが辺りを見回している事に気付き、その理由も予想して手元の箱から色の付いたロウソクを取り出し、壁際の燭台にはめると火を点けた。
今では明かり関連は魔導具が開発され、ロウソクは様々な匂いを混ぜて作り、明かりと共に香りも楽しむお香のように使われている。
その為、こういった締め切った部屋や匂いのキツイ所では、魔導具よりロウソクを好んで使う人も居るのだった。
「では先ず――」
ウィズは最後にドアを閉めると仕事の内容を話し始める。
◇
時間は少し戻り、エルザ達はレオ達と別れ、屋敷の大き過ぎる中庭へとやってきた。
「そう言えば、風属性の補助魔法を掛けられた事が無い人って居るの?」
いざ魔法を掛けようとしたエルザが疑問に思ったことを口にする。
マリア達が居た聖大神殿には風属性の人は居らず、身体能力を上げる魔法は風属性の得意分野なのだ。
学校に通っていたタウノや、他の神殿に移ることが出来るグウィードやイーリスならまだしも、幼い頃から大地の聖大神殿に居たマリアなら初めてでは、とエルザは予想していた。
「あ、私と姉さんが……」
だが、イーリスも巫女候補生として育ってないたので、風属性の補助魔法を受けたことがなく、今までは神殿から普及される補助系の魔道具か他属性の補助魔法のみである。
「それじゃあ掛けるね。【永久に吹き抜けし流動なる風、そなたの意のままに舞い、踊れ】フェアルレイ」
一度に四人に掛けるだけの実力が無いので一人ずつ掛けて行き、最後のマリアにも掛け終わった。
「あっ、マリアとタウノさんは私よりも詳しいだろうけど、一応説明しとくね。フェアルレイは風の中級魔法だから、土属性の最上級魔法を使うと消えるかもしれないから気をつけといて」
マリア達の中で最上級魔法が使えそうな人はマリアとタウノだけ。
その為、この二人に釘を刺すが、そこは近衛団の魔法部隊総括長のタウノと術師タイプの巫女マリア、どちらも承知済みだ。
「もちろん分かってるよ」
「しかし、これが風属性の補助魔法か……ッ、身体が軽いな」
身体を慣らすように動かしたイーリスは、かなりの驚きと確かな実感の元に頷き感心している。
やはり神殿から配給される魔導具とは性能が違うらしく、今もその場で飛び跳ねた高さに驚き、危うく空中でバランスを崩しそうになっていた。
「慣らしをやっておいて正解でしたね」
「そうだな、いきなりだと――」
「きゃっ」
「……マリアみたく壁にぶつかるかもしれねぇからな」
グウィードの言うとおり、屋敷の壁に身体をぶつけて倒れこむマリアの姿があった。
自分としてはちょっと踏み込んだつもりが実際には大きく移動し、驚いた拍子に横に飛んでしまい壁に激突してしまったのだ。
「マリアさん、明日蒼月湖に行くのは止めにして、身体を慣らす為に模擬戦でもしませんか」
戦闘中の咄嗟や瞬時の行動によって更なるピンチを招いては、例えその判断が正しくとも意味が無いのだ。それなら明日は補助魔法に頭と身体を慣れさせて、準備万端で戦いに赴いた方が勝率も上がるというものである。
「そ、そうだね」
タウノの意見に反対出来るはずもなく、マリアは恥ずかしそう俯いて頭を掻く。
それ以後も個別に練習したマリア達は、今日はこれ位という事でエルザに魔法の効果を消してもらうとい、それぞれの部屋へと帰っていった。
◇
道具を探していたレオは1つの箱から、ガラスの小瓶に入った光の加減によって色が何色にも見える不思議な液体を見つけた。
「ウィズさん、これは……」
「私もこの部屋の事は余り詳しくありませんので、申し訳ありませんが分かりかねます。それで、それが何か?」
あまり作業の手を止めるのも悪いと思ったのか、ウィズにそう聞かれたレオは「いや」と一言だけ呟き、小瓶を箱に戻した。
そんなレオを見ていたウィズは、一瞬部屋中に視線を走らせ時計を確認する。
作業を始めて既に十分。それを確認したウィズはそっと立ち上がると、持ってきていた小箱から金属の棒を取り出し、それで壁を何度か叩いて音を響かせた。
「レオ様、赤き月についてお聞きしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
名残惜しそうに小瓶を眺めるレオに少し強めの口調で訊ねてきた。
その大声に驚いたのか、レオはピクッと身体を動かした後で、了承の意味を込めて首を縦に振る。
「マリア様とどのように出会ったのか、お聞きしても宜しいでしょうか?」
元々は四人の巫女パーティーが来ると聞いていたのが、途中でレオとエルザが加わり六人。
ただの一般人が巫女の旅に同行出来るとは思えず、不思議でならないのだろう。
「……偶然オークリィルに居て挨拶を」
何処か焦点の合わない目線でただ前だけを見ながら答える。
思った通りの答えが返ってこなかったのか、ウィズは小首を傾げて次の質問をした。
「どのような事をしてマリア様に同行を許されたのか、お聞きしても?」
「ただマリアと仲良くなって、一緒にと誘われた」
淡々と答えるレオにウィズは間髪入れず「マリアと同行した理由」「魔王を倒す理由」「倒せると思うか」「死は怖くないか」と聞いた後、ふと思い出したかのように昼間のことを聞いてきた。
「昼間、どうやって私に気付かせずに近付けたのか、お聞きしても?」
あの時、ウィズはレオの接近を声をかけられるまで気付けず、それがウィズをあそこまで動揺させた理由の一つだった。
「フェアルレイを掛けて屋敷を見ていたので、近づくのが早く気づかなかったのではないかと」
その答えにウィズは納得した。確かに周囲は警戒していても、さすがに通信中は近くの範囲にしか気を配ってないからだ。
「私が居た場所には結界が張ってあったはずですが、なぜ私に気付けたのかお聞きしても良いですか?」
「結界というのはどうしてもその場が不自然になり、上手に隠そうとしている結界ほど周囲とのズレが余計に気にかかります。ただ、これは私の判断ですので、他の人とは違うかもしれません」
レオの答えを聞いたウィズは先ほどと違い、今度は眉を顰めてみせる。
実の所、ウィズは魔法が苦手なのである。
それこそ火を出せば煙、突風を起こそうと思えばそよ風という最低なレベルだった。そこまで行けば必然的に魔法関係、魔導具からも離れてしまい、最新式の魔導具を渡されても、ウィズにはどう扱っていいのか分からないだろう。
だからこそ、魔法には頼らず自分の技術でここまできたウィズには、レオの魔法解説を聞いても分からず、眉を顰めて小首を傾げる事しか出来ないのだ。
「……道具は全て見つかりました、手伝って戴きまことに有難うございます。とても助かりました。もう、青き太陽が昇り始めましたので、部屋に戻って眠りに付いてください」
レオは一つコクっと頷くと、ウィズに挨拶することなく部屋を出て行く。
その背中を見つめていたウィズは、点けたロウソクの火を消して外すと、別の黄色のロウソクを取り出してはめ込んだ。
「怪しい人物では無い、か?」
そう呟くウィズの目は鋭く、何かを探るような眼をしていた。
◇
「怪しい人物じゃ無いな」
その頃、廊下を歩いていたレオもウィズと同じようなことを呟いていた。
その眼は先ほどと違って、確りと光が灯っている。
「どうだった愛の告白は?」
中庭に繋がっている窓からエルザが顔を覗かせ、ニヤニヤと笑いながらレオに話しかけてきたが、レオはそんなエルザには目もくれず通り過ぎていく。
もちろん、そんな行動を予想していたエルザは、出入り用ではないにも拘らずその窓から室内に入ってくると、冗談だと笑いを浮かべてもう1度レオに尋ねた。
「結論から言えば、俺の推測は外れだったな。ウィズさんは魔王の関係者じゃない」
「何、そんな推測だったの? バッカでー、ウィズさんはどこからどう見ても人間じゃん」
レオの立てていた憶測は、ウィズが魔王の関係者で、巫女であるマリア達の情報を集めているというものだった。
呆れて首を振るエルザの言うとおり、ウィズが人間だと言う事はレオにも分かっている。
「お前こそ馬鹿だろ。魔王の関係者だからと言って、それが魔者だけとは限らないだろうが。実際、俺のときも色々と働いて貰ったからな。金の為になら魔王の手先になる奴らだっているってことさ」
エルザも巫女として人間の裏表を見てきたので、普通の人間だから魔王の関係者では無い、とは言い切れない。
「それに、人間になって知ったが、魔王を崇めてる宗教があるしな」
いわゆる邪教である。女神を崇めずに魔王が世界を救う存在であるとし、狂信的な信者が問題を起こしている話も聞く。
ただ、エルザから見たウィズは宗教に狂ってそうもなく、ましてお金の為に魔王の手先になるような人間には見えなかった。取りあえずはエルザの見立てが正しいということだろう。
「他には?」
「そうだな、あのとき催眠効果のある薬を混ぜたロウソクを使ってた、んだろうな。まあ、事前に何かやってくると予想していたから対処はしておいたけど、ウィズさんは予め解毒剤を飲んでいたのか、気化性の薬なら俺と同じように呼吸法を使って難を逃れたか、それともそう言った物が効かない様に訓練されているのか……ま、こんな物だな」
レオから怪しまれずに何かしらの情報を取ろうとすれば、
1:レオも気付かぬ内に話させる
2:本当の事を言って聞く
3:実力行使
4:自白剤
などがあるが、この中でレオがどんな人物か分かっていない状況で2は無いとレオは考え、3もマリアが居る今そんなことをするとは思えず、残る1と4にだけレオは注意を払っていた。
「んじゃ、次はこっちだね。まあ、そんなに言うことは無いけど、明日の蒼月湖にエンザーグドラゴンを倒しに行く予定はキャンセルになって、模擬戦をすることになったぐらいかな」
ウィズの事は取りあえず置いておくことにして、エルザは先ほどの中庭での経緯やこれからの予定をレオに話して聞かせた。
「模擬戦ね、面白そうだな」
「うんうん、やっぱこうこなくっちゃねぇ……で、私達はどうすん?」
どうする、とはレオとエルザが模擬戦に参加するかどうかと言うことだ。模擬戦の目的は補助魔法のフェアルレイにマリア達、主にマリアが身体を慣らす事にある。
レオ達が加わって男女戦になれば、両チームで近中遠距離で戦う人が揃ってバランスが良くなるだろうが、エンザーグドラゴン討伐の為の下準備なら邪魔するわけにもいかない。
「今回の模擬戦には参加しないでおこう」
色々と考えを巡らせたレオの答えは不参加だった。
しかし、エルザはその答えが不満なのだろう、文句を言おうと口を開こうとする。
「模擬戦には、な」
だが、レオの意味深な発言と人の悪そうな笑みに口を閉ざした。
エルザはレオの自分と同等以上の悪知恵と同等以下のエセ演技には信頼しているのだ。
そして、そんな頼もしい相棒を思い、どこぞの女王様の様な笑い声を上げる。もちろん、それを頼もしい相棒に沈められたのは言うまでもない。