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後編

「な、だ、誰だお前!! どこから入って来た!?」


「んん~~~~……? ふぁあああ」

 俺の声が大きかったためか、その男を起こしてしまった。

 

 いや別にそこは気遣わなくていいだろう。いつの間にか知らない男が侵入していたんだ。もし今の声で起きていなかったらきっと叩き起こしていただろう。


「いつの間に俺の部屋に…………って、お前はっ!!」

 この顔! こいつ確か昨日の、


「おお。佐倉井凉太だな。一昨日振りか?」

「お前、昨日俺ん家に来た男だな!? 確かあん時は追い返したはずだぞ!」

 そう。昨日俺が玄関先で追い払ったイケメン野郎が俺の目の前にいる。なぜだ?


「てめえ! なんで俺ん家にいる? どうやって侵入した?」

「いやいや侵入も何も、お前がオレを招いてくれたんだろう? だからオレが今ここにいるんじゃないか」

「訳のわからねーこと言ってんじゃねえよ! っていうかあの少女どうした? どこに隠した!?」

「少女? ああ、あいつのことか。あれなら今はいないぞ」

「な、なんでだよ?」

「なぜならあいつもオレも同じ座敷童だからだ。そいつに会いたけりゃ、また明日だな」

「はあ!? どういうことだよそれ」


「実はオレらは同一人物なんよ」


「はい?」

 い、意味が分からん……。


「奇数日は男のオレ。偶数日は女の姿で。――つまりお前の言う少女のことだな。体は一つだけど、一日おきに男と女が入れ替わっているんだよ」

「な、な、何だよそれ!? 人間じゃねーだろ」

「だから座敷童だって言ってるだろ。妖怪だよオレ達は」

 

 マジですか。


「いや待て。仮にそれが本当だとしてもおかしいだろ。今日は二八日でまだ偶数日だ。男は奇数日のハズだろう?」

「おかしくはないぞ。時計を見てみろ」

 促されて壁に掛けてある電波時計を見る。すると俺は衝撃の事実を知った。


「あ、あ、あ…………」

「そう。今の時間は深夜〇時五分。日付は変わって今日は二九日だ。最初お前に会ったのは奇数日の二七日の夕方玄関先で。次に昨日の偶数日の二八日は少女の姿でおそらくお前が部屋に招き入れ、そしてついさっき日付が変わって男のオレの姿という訳だ。――これで納得できたか?」

 

 なんてこった。俺はバカだ。

 俺がもたもたしていた内にまさか日付が変わっていたとは。もっと早く手を出していれば今頃俺は……。

 

 さてはあの少女、これを狙っていたな。一番スキがでる寝込みを日付変更ギリギリでやることで、己の身を守っていたのだ。


「少女は消えたんじゃなく、お前に変わったと。つまり今から約二四時間後には、今度はお前が少女に変わるって事か?」

「そういうことだ」

 

 ならこいつの言っている事の真偽はあと一日待てばいい。それまでは放っといても…………いや、こいつの目的を知る必要がある! 流石に自分の事を『妖怪』とか言ってるやつを部屋に置いておくのはちょっと不安だ。


「お前……俺ん家に何の用だ? あの少女も結局何しに来たか分かんなかったぞ」

「あの女が何をしたかはオレは知らないぞ」

「何でだ? 同一人物なんだろう?」

「ん~~、言い方が悪かったか。オレ達は体は一つなんだが、体や心や記憶など何一つ共有していないんだよ」

「?」


「二重人格みたいなものさ。だが男から女に入れ替わる時、体自体も入れ替わってしまう。二人の妖怪が、交互に現れてくると思えばいい。共通していることは二人とも同じ座敷童という妖怪で、同じ目的を持ってお前に接してきたということだ」


「同じ目的?」

「お前を幸せにすること」


「……………………」


「何を驚いている? 座敷童を知らないのかお前は。座敷童はその家の主を幸せにする妖怪だぞ?」

「え、いや……そんなの知ってるて言うか……え? それ、マジで言ってるの? じゃあ、俺今日からお金持ち?」

 と少し欲を出して言ってみたが、布団の上であぐらをかく自称座敷童のイケメン野郎は、ウザったらしく指を左右に揺らした。


「お前の幸せは金ではない。オレ達座敷童にウソは通用しねえ! お前が望むもの。それは――――人間関係だ」

「人間関係? ああ、確かに彼女が欲しいねえ。恥ずかしいが大学生になった今でも、女の子を付き合ったことがない」

 ごく自然に俺の本心を出したつもりだが、座敷童は「ごまかすな」と一喝してきた。


「人間関係と言ったろう? 女も男も、お前が欲するのは他人とのかかわりそのものだ。お前は当然恋人もだが、同姓の友人すらいないだろ」

「お……ま、まあ……」


「友人はおろか、話し相手すらいない。いざ、他人と話す場面になると何を話していいか分からなくなり、無言の状態が息苦しくなる。ならばいっそ最初から一人の方が楽だ。だから友人もできず、いつも部屋の中にいて一人で遊べるものに夢中になる。マンガ、小説、ゲーム、アニメ……全部一人で楽しむものだろう。――だいたいこんなところか? 今のお前の現状は」

 

 ふふ。甘いな!

 普通、こんな引きこもり野郎はネットのオンラインゲームや、ツイッター、SNSなどにもハマりやすいが、俺はそれすらやらない正真正銘の一匹狼タイプ……ってこんなことなんの自慢にもなんねえよ。


「つ、つまりお前ら座敷童は、その人間関係を妖怪の不思議な力で作ってくれるってことか?」

「なにを甘えてる!? そんなものは自分で築きあげていくものだ! オレ達はサポート役だ」

「ええ――ッ!? だって今家主を幸せにしてくれるって言ったじゃん! まさかの裏切りだよ!」


「バカタレェ!! 手伝って貰えるだけありがたいと思え! 学校ではオレ達が影ながらお前のためにサポートし、家ではオレ達を相手に友達作りの練習をするのだ。即効性を求めるんじゃない! 順当に友人を作っていけばいずれ恋人もできる! オレ達を信じろ!! 必ずお前を幸せにしてやるから!!」


「って言ってもなぁ……。ん、まてよ」

 家では友達作りの練習をやるとか言ったな? そして一日置きにあのロリ美少女は現れる。

 

 ならば。あの少女が現れたときに〝初めて恋人と夜を迎えた〟体で練習をすれば、ロリ美少女にあんなことやこんなことも…………。

 

 よし! 一先ずこの話に乗ってやろうか。イケメンと同棲するのはハッキリ言って吐き気がするが、何も俺に損な話ではない。


「一つ確認したいんだが、お前ら妖怪が俺に憑いたことで何か俺に呪いが降りかかるとかあるか? と言うか昨日、少女の方に風呂を覗いたら呪い殺すって言われたんだが」


「安心しろ。オレ達座敷童に誰かを呪い殺すなんて能力はないし、できない。他にもそう言った力などは持ち合わせておらん。昨日言われたのはハッタリだろう」

「そ、そうか。安心した」

 じゃあ覗いていいんだな。


「だが、座敷童に悪戯をはたらいたり、嫌がることをやると簡単にその家から出て行ってしまう。そうなれば当然、幸せにしてやることができなくなるな。……それに何故か、一旦座敷童が住み着いた家は、座敷童がいなくなった途端不幸になるらしい。と言っても一時的なもんらしいが」

 うん。自重しよう。焦らずじっくり攻略していけばいい。

 

 とにかくあの処女……じゃない。少女に入れ替わるまでガマン――――んんッ!?


「ちょっと待て! かなり話を戻すが、お前らは一日置きに男と女が入れ替わるんだよな?」

「ああ」

「そんで奇数日は男のお前で、偶数日はあのロリ美少女ちゃん」

「ロリて……。そうだ。間違いない」


「じゃあ、月の変わり目は!? 今月は三一日まであるぞ。奇数日だから当然お前が出てくるんだよな。んで、翌日は月初めの一日……奇数日だ!! まさかその日もお前ってことじゃねえだろうな!?」


「おお! そうなるな。二日連続でオレの番だ」

 

うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! なんてこったぁああああああああああああああああ!!


「はははっ。月初は必ず一日からだから、一年で何回か二日連続オレの時があるな。逆に偶数日が連続になることはないから、割合的に女の日は少ないってことか。良かったじゃないか男のオレが多くて!」

「ふ、ふざけんなぁああああああああ!! しかもいきなり明後日から二日間お前かよ!」

「友情を深めようじゃないか凉太よ」

「呼び捨てにされたっ! できればあの少女に言って欲しいのに!!」

 いやむしろ『お兄ちゃん』でも構わないがな!!


「さてそろそろ寝るぞ凉太。早速、今日の昼から友達つくり開始だ。不健康な顔で挨拶しても友達はできんぞ!」

「はぁ~~……。ほんとに上手くいくのかよ。妖怪の力でも使わねー限り無理だと思うけどな」

「オレを信じろ凉太。それにもっと自分に自身を持て!! お前なら絶対出来る!!」

 

 なんでそう断言できるのかねこいつは。


「疑ってるな? なら、時計を見ろ凉太」

「なんでまた……。 〇時半だけどそれが何だよ?」

 

 時計の時刻を確認し、再びイケメンの座敷童の方に向き直ると、そこには今までで一番のイケメンスマイルが待っていた。――キモッ。


「時間にして約三〇分間! オレと楽しい会話を続けられたんだ! だから他の奴とも今みたいな感じで会話をしていけば絶対仲良くなれる! 自身を持て凉太!! 変に着飾らなくていい。ありのまま接していけばお前は誰とでも仲良くなれる」

「そ、そう……なのかな……?」

「そうだ!」

 

 確かにこんなに長く誰かと喋ったのって久しぶりかも。おかげでのどが乾いた。

 ……まあちょっとはこいつと一緒にいてもいいかな。悪い奴じゃなさそうだし。

 

 それに、

 

 それに……〝凉太〟って親以外で下の名前で呼んでくれた奴なんていつ以来だ? 小学校ですらいたかどうか覚えてないのに。

 凉太って下の名前で呼ばれて少し喜んでいる自分がいる…………なんか恥ずかしッ。


「そうか。分かった。これからよろしく頼むよ」

「おお! 任せろ!」

「そんじゃあまず始めに……」

「始めに?」



「俺の布団から出ていけェええええええええええええええええええええええええええ!!」

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