前編
よくマンガや小説などで、自分の家に帰ったら見知らぬ美少女が勝手にあがってた…………なーんてことはもはや使い古されたネタでいかにも漫画家や小説家になることを夢見る中二病やニートが考えそうなロクでもない作品の話みたいだ。
勿論彼らも本気でそんなことを信じているわけではないはずだ。日常と非日常の区別くらいはできるだろう。ただ、あまりにも毎日がつまらなすぎるからこうであって欲しいという妄想ばかりがどうしても膨らんでしまうのだ。
そして俺もそんな妄想野郎の一人。
大学に進学して早二年が過ぎてしまった。あっという間すぎる。この二年間特筆できるようなイベントはなにもやってこなかった。
友達は一人もいない。
彼女もいない……いたことがない。
毎日一人ぼっちのアパートに帰ってやることと言えば、ゲームかネットサーフィンかアニメを見るとか……とにかく一人で楽しめる遊びしかやってなかったなぁ。何やってんだろ俺。
そして今日も学校から帰ってみても誰もいず。いやそんなのは当然なんだが、どうしてもこう期待してしまうと言うか…………病んでるな俺。病院行けば治るのかなぁ?
いつもと変わらずパソコンでアニメを見ていたらチャイムが鳴った。
「はいは~~~~い」
知人ではない。いないからな。どうせまた新聞だろう。
「どちら様で……」
ドアを開けるとそこには若い男が立っていた。さっぱりな短髪のイケメンで、自信顔に満ちていたそのあんちゃんは第一声から元気な声でこんなことを言ってきた。
「夜遅くにこんばんわ! オレは妖怪の座敷童。お前がこの部屋の主・佐倉井凉太だな? 安心しろ! オレが来たからにはお前は絶対に幸せになれる! 座敷童だけにな! だからオレを家にあがらせて――――」
バタン。
俺は静かにアパートのドアを閉め、施錠し、ついでにチェーンロックもかけた。
新手のセールスだろうか。季節的には春だから、少々頭がイッちゃってる輩も出てきているのかもしれない。
まったく。どうせ訪問してくるなら美少女じゃなきゃ話が進まないでしょうが。どこの世界にあんなハキハキしたイケメン野郎を家にあがらせる冴えない男主人公がいるんだよ。
求めるは非日常のロリ美処女……間違えたロリ美少女。
なーんて考えてたら、それが本当に現実のもになってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わたし座敷童。部屋にあがらせて」
「Welcome!」
思わず英語で答えてしまうほど、俺のテンションは異様な上がり具合を見せている。
美処女……じゃないっ、美少女だ!
イケメン野郎が現れた翌日には美少女が俺ん家を訪ねてきた。昨日と違い、美少女を拒む理由など特に持ち合わせてはないので、丁重にお招き入れをした次第だ。
一部屋しかない俺の生活空間へ招き入れ、一つしかない座椅子に彼女を座らせた。一人暮らしなため座る所はそこしかないのだが、そこは当然可愛い少女の特等席なのだ。俺なんかは布団の上でいい。
彼女は礼儀正しいのか座椅子の上で正座をしていらっしゃる。
「何か飲み物」
少女はボソリと小声で言ってきた。
「あ、はいただ今っ」
何故俺がかしこまっている? ここ俺ん家なのに。とにかく待たせては失礼と思い、急いでウーロン茶を用意する。
「う、ウーロン茶です」
処女は……また間違えた。少女は差し出されたウーロン茶を毛嫌うような目で睨みながら、
「日本なら緑茶だろ」
と痛烈にダメ出しをしてきた。
「ごめん……水にする?」
「いや。これでいい」
さっきまでのテンションはもうすでに地の底まで下がりきっている。いや~~な空気の中、少女の要求はまだ終わらなかった。
「食べ物」
「お、おおう。分かった。ちょっと待ってて」
なんか……なんか想像していたものとは違う気がする。俺の求めていたものはラブラブでエロエロな日常だったはず。こんな下男みたいな雑用生活ではないのだ。
とりあえず手抜きなどはせず、三〇分かけて今夜の晩ご飯を作った。
得意のジャーマンポテト(もどき)と大根の味噌汁、そして作り置きしていたキュウリの漬け物をテーブルに置いた。
「ごはんはどのくらいで?」
「大盛り」
「り、了解……」
お椀にごはんを山盛りに盛って少女に差し出した。
「ど、どうぞ」
「うむ」
…………。
「……お味の方は?」
「まあまあだ」
彼女は俺の方など向かずに味の感想を教えてくれた。とにかくマズイと言われなくて良かった。TVのバラエティ番組を見ながら彼女はガツガツと俺の作った飯を平らげていく。
この状況、俺も一緒に食べて良いのかな……?
まあ、処女……違う違う。少女もTV見ながらの食事だしそんなに気を遣わなくていいのかもな。
「(それにしても……)」
この娘、可愛い!!
見た目一二歳前後のロリ美少女! ツインテールなのもグッドだ。しかもその結んだ髪が肩まで届かないくらいの長さであり、そこがまた少女のロリ属性を強めている要因である。
しかも今まで触れなかったが、少女はメイド服を着ている!! 何故座敷童がメイド服を着ているのかは理解できないが、それは世界七不思議にでも入れておけばいいだろう。とにかくメイドはいい。無条件でそれは『いい事』となるのだ。気にするだけ損である。
更に…………胸っ!! そう、この少女の胸の膨らみ! 決して巨乳ではなく、されど貧乳でもない。言うなれば美乳。少し控えめに、だけどちゃんとその存在をアピールしている緩やかなカーブ(ここ重要!)。若干一二歳前後の女の子の、あの胸の膨らみはエロい!
これは期待していいかもしれない……。あのメイド服下で眠る秘境の山を。
見たい……。
あの膨らみの一糸まとわぬ姿そのままで。
その為には二人の距離をもっと近づけなければ。ベッドインまでまだまだ時間的な猶予もある。
男の見せ所だ佐倉井凉太。この闘い、絶対に勝ってみせるぞっ。