異世界転移小説【異世界でブサメンになった。】
俺はイケている顔。いわゆるイケメンだ。
駅前を歩けば視線が集まる。
「キャー! カッコいい!」
「ねぇ見て、あの人モデルじゃない?」
「イケメンすぎるー!」
女子たちの黄色い声。
俺は慣れた手つきで軽く手を振る。
「はいはい」
「きゃああああ!!」
さらに歓声が上がる。
やれやれ。
イケメンも大変だぜ。
人生は楽勝だった。
バイトの面接も受かる。 合コンでは無双。 失敗しても「顔がいいから許す」で終わる。
顔が良い。 それだけで世界は優しかった。
俺はスマホを見ながら歩く。
今日のSNS投稿も反応が凄い。
『尊い』 『結婚して』 『国宝級イケメン』
まあ当然だ。
そう思った瞬間だった。
ドン。
足元が消えた。
「え?」
マンホールのフタがない丸い穴。
しかも工事中。
気づいた時にはもう遅い。
「うわああああああ!!」
俺は真っ逆さまに落ちた。
目を覚ますと、草の匂いがした。
「いてぇ……」
起き上がる。
そこは妙な村だった。
丸い家。 小さな畑。 煙突から煙。
ファンタジー映画みたいな風景。
そして小柄な住人たち。
異世界のホビット族だった。
だが。
全員、顔が濃い。
鼻がデカい。
眉毛が太い。
顔も丸い。
「……なんだこの村」
すると、近くにいた女ホビットが俺を見た。
数秒固まる。
そして
「キャアアアアア!!」
悲鳴
「ブサイク!!」
「こっち見んな!!」
「気持ち悪い顔!!」
「子供に悪影響よ!!」
俺は固まった。
「……は?」
水桶を覗く。
映っているのはいつもの俺。
高い鼻筋。 シャープな輪郭。 細い眉。
完璧なイケメン。
なのに
村人たちは震えていた。
老人ホビットが杖を向ける。
「なんという醜さじゃ……」
「鼻が小さい……」
「眉毛が貧弱すぎる……」
「顔が細長い……呪われておる……」
俺は理解した。
この世界では
顔が丸くて大きく、 眉毛が太く、 鼻がデカい。
それが美形らしい。
つまり正反対の俺は
超絶ブサメンだった。
「嘘だろ!?」
子供たちが石を投げてくる。
「ブサイク人間だー!」
「うつるぞー!」
ゴッ。
「痛っ!」
「ぎゃははは!」
最悪だった。
宿屋に行けば追い払われる。
店に入れば悲鳴。
道を歩けば避けられる。
若い女ホビットには露骨に嫌な顔をされる。
「ねぇ見てあの顔ブサメン」
「無理無理無理」
「夜道で会ったら泣く」
元の世界ではモテていた俺が、 ここでは化け物扱い。
最初の一ヶ月は毎日キレていた。
「おかしいだろ!!」
「お前らの美的感覚が変なんだよ!!」
だが誰も理解しない。
逆に言われる。
「現実を受け入れろブサイク」
きつかった。
本当にきつかった。
顔だけで世界がここまで変わるのか。
俺は初めて知った。
だが
一年も住むと、 少しずつ慣れてきた。
畑仕事を手伝う。
薪を割る。
子供を助ける。
最初は嫌われていたが、 少しずつ変わった。
「顔はアレだけど、まあ悪いやつじゃない」
「力仕事はできるな」
「ブサイクのくせに優しい」
褒めてるのか?
いや褒めてないな。
それでも
少しだけ居場所ができた。
特にガルドという男には世話になった。
鼻と眉毛が太く顔のデカい
この異世界ではイケメンホビットだ。
最初は散々言われた。
「お前の顔すげぇな」
「夜中見たら失神する」
「芸術点ゼロ」
だが酒を飲み交わすうち、 普通に友達になった。
ある夜。
焚き火の前でガルドが言った。
「なあ玲司」
「なんだよ」
「最初は嫌いだった」
「知ってる」
「でも今は割と好きだぜ」
俺は少し笑った。
「顔以外はな」
「うるせぇ」
気づけば、 俺はここで生きていた。
それから一年後。
村に魔法使いがやって来た。
白いローブの老人。
そいつは俺を見るなり言った。
「異界人か」
「……帰れるのか?」
老人はうなずいた。
「世界の裂け目が開く」
「今夜だけな」
胸が高鳴った。
やっと帰れる。
元の世界へ。
イケメンとして。
あの輝かしい人生へ。
夜。
巨大な渦巻きが空に現れた。
ゴオオオオオ……
ホビット村人たちが見送る。
ガルドが腕を組んで言った。
「帰るのか、ブサイク」
「その呼び方やめろ」
「ははは!」
ガルドは笑う。
そして真面目な顔になった。
「元気でな」
俺は少し黙った。
不思議だった。
嫌だったはずの世界。
でも
離れると思うと、 少し寂しい。
「……お前もな」
俺は渦へ飛び込んだ。
次に目を開けると
そこは元の世界だった。
見慣れた駅前
車。
ビル。
人混み。
「戻ってきた……!」
俺は笑った。
やっとだ。
やっとイケメンに戻れる。
すると
女子たちの悲鳴。
「キャー!!」
俺はニヤリとする。
やっぱりな。
これだよこれ。
俺は手を振った。
「はいはい」
だが。
「うわっ!!」
「何あの顔!?」
「とんでもないブサイク!!」
俺の笑顔が凍る。
「……え?」
周囲の人間が避ける。
子供が泣く。
カップルが距離を取る。
巨大モニターには人気俳優。
そこに映っていたのは
目が左右にズレ、 鼻が潰れ、 顔が歪んだ男。
周囲の女性たちが叫ぶ。
「素敵ー!!」
「抱いてー!!」
俺は震えた。
「……は?」
巨大なテレビ広告を見る。
雑誌。
アイドル。
全部。
俺の価値観では、 とんでもないブサイクだった。
俺は理解した。
帰ってきたんじゃない。
俺は別の平行世界に来たんだ。
美醜の価値観が、 完全に逆転した世界へ。
異世界小説【異世界でブサメンになった。】
完結




