幕間4「裏で進む計画」
——JP国の全国大会高校生の部の二回戦の中継が、とある部屋の空中に映し出されていた。
映像に映っている『戦地』のバトルフィールドは、市街地と同じ様に建物が建てられているが、そのどれもが崩れかけの瓦礫になっていて、その周りにある木々も川も枯れ果てて、その空も黒い雲で覆われていた。
そんな戦地の暗い空の下を、黒を基調とし、赤の装飾の入った機体であるカオスサーペンスが、背中に装備したカオスシールドブースターを利用して飛行していた。
そんなカオスサーペンスは、機体本体と同じ大きさの蛇や竜を思わせる姿をした二機のドローン武器の『カオスドールユニット』と編隊を組みながら、様々な方向から軌道を変えて飛んで来る狙撃を最小限の動きで避けていた。
そしてそのままカオスソードライフルを構えると、一見すると誰もいない場所へとビームを放った。
すると……。
『くっ……!? 本当、聞いていた以上の化け物っすね!』
『っ……!』
秀次とスコーピオの声と共に、攻撃を喰らって光学迷彩が解除されたステルススコーピオが現れた。
『だけど俺たちも、このままただの噛ませ犬では終わりたくは無いんっすよ! スコーピオ!』
『了解……』
『『マジカルスキル! スコーピオステルスショット! そして、マジカルスキル! スコーピオスナイプ!』』
ステルススコーピオはステルススナイパーライフルを構えると、サブアームを使ってバックパックのコンテナに装備した二丁のステルスアサルトライフルと、腰に装備した二丁のステルスハンドガンを展開させ、肩部と脚部の側面に搭載したビーム砲と合わせて、一斉にビームを発射した。
その全てが光学迷彩と消音の効果を得たビームとなって飛んで行く。
するとカオスサーペンスは、その不可視の攻撃の軌道を全て予測しているかの様な最小限の動きで回避して行った。
そしてそんな中、カオスソードライフルを大剣へと変形させると、その中に一発だけ混じっていた、スコーピオスナイプの不可視の追尾弾を撃ち落とした。
『『……マジカルスキル。 ……Xスラッシュ』』
さらにそのまま大剣に赤色の魔力を纏わせると、Xの文字を描く様に魔法の斬撃を放った。
それを見たステルススコーピオは再び光学迷彩で姿を消しながら回避しようとするが、二機のドローン武器が左右から拘束する様に噛み付いて来た。
『くっ……!? やっぱり人間の勝てる相手じゃ……!?』
『秀次!?』
逃げられないステルススコーピオは、その魔法の斬撃を急所である胴体にもろに喰らったことで、マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。
それを見たMCのステラがバトルの決着を宣言した。
『決まったー☆ 勝者はシゼンホッカイドウ校の一位で一年生の蛇遣異零ちゃんとサーペンス君のカオスサーペンスだー☆ まるで全てが計算されたかの様な完璧なバトルによるノーダメージでの勝利☆ これは本当に今大会のダークホースなりそうだねー☆』
「——フォッフォッフォッ……! 流石はワシのOとSじゃ……! やはり人工精霊とメカニカルウィッチの関係を参考に、役割を分担させたのは大正解だった様じゃ……! それに武装のテストの方も問題無いようじゃのう?」
中継からそんなステラの声が聞こえてくる中、映像が映し出されていたワールドユニオンの本部の議長室で、黒穴博士が怪しい笑い声を上げていた。
そんな黒穴博士は後ろを振り向くと、共に中継を見ていたアダム議長へと声をかけた。
「フォッフォッフォッ……! アダムや、ワシのOとSを作戦に組み入れてくれて感謝するぞ……! これであの明日斗博士が作ったサターンとその機体相手に有益な戦闘データを取ることができる……!」
そんな黒穴博士に、アダム議長は相変わらず冷たい視線を向け、その側に控えている秘書の英斗も嫌悪する様な視線を向けていた。
しかし黒穴博士はそのことも、以前アダム議長に銃で撃たれたことすらも気にしていない様子で、そのまま言葉を続けた。
「……じゃが、今の試合の様にワシのOとSの実験の相手を手配したり、準決勝で明日斗博士の娘と当たる様にトーナメント表を弄れるのなら、ワシのVを持っている白金代表の倅と先に当てて欲しいかったのう? 今からでも準決勝戦と決勝戦を逆にできないかのう?」
「あまり調子に乗らないで下さい。 貴方の人間擬きを作戦に加えたのは、あくまでも、明日斗博士の率いるスタースピリットから私の本命の作戦を隠すカモフラージュに丁度良かったからです」
黒穴博士の愚痴をアダム議長はすっぱりと切り捨てた。
「今回送り込んだ貴方の人間擬きには万が一暴走しても対処できる様に処置してありますが、もう片方はそうは行きません。 それなのに貴方の人間擬き同時が戦って、万が一『Xシステム』を同時に暴走させると厄介なのです」
「……ふむ、それなら決勝戦でワシのOとSが、Vと戦う時はどうするのじゃ?」
「その時はこちらも実戦で負けた美月さんとサターンを回収する手筈なのでお好きにどうぞ? ……まあどうせそうはならないでしょうし、貴方の人間擬きには、私の本命の作戦のカモフラージュの役目以外は期待していないので」
「……」
黒穴博士はアダム議長から自身の作ったOとSをこき下ろす様な言葉を受けたが、怒り出すことなことはなかった。
寧ろ、自身気に不適な笑みを浮かべていた。
「——フォッフォッフォッ……! それはどうかのう? ワシのOとSは星を喰らうぞ?」
*****
——同時刻。魔法界にあるスタースピリットの本拠地である城の最新部にて。
「——おのれワールドユニオンめッ!! よりにもよって、十年前の事件に利用されたXを作った、あのマッドサイエンティストの黒穴博士が新たに作った同種の存在を、美月と陽太の刺客として送り込むとはッ!!」
バルカンからの報告を聞いたビッグバンは、怒りで手を力強く握り締めながら、憎悪の声を上げていた。
そんなビッグバンは、今いるこの場所を守っているXがいる方向に一度チラリと視線を向けてから、バルカンへと指示を出した。
「バルカン、すまないが、美月と陽太、それから海姫ネオンとネプチューンに加え、送り込まれた刺客の子たち……オフィウカスとサーペンスにも目を向けて置いてくれ……。 刺客とは言っても、その子たちはあくまでもワールドユニオンに無理矢理手を汚させられている被害者なのだから……」
「心得た。 しかしやはり、今は様子見するしか無いか……」
「ああ、この全国大会が終わり次第、私の計画の実験を行う以上、その直前である今は動く訳にはいかない……。 だが、私は必ず全ての人工精霊を……メカニカルウィッチを救ってみせる! 絶対に見捨てたりなんかしない!」
ビッグバンはそう決意すると、後ろを振り返って、『集合無意識システム』の元へと続く階段の先にある、この広間を見下ろす様にただ一つポツンと置かれた玉座に座るスーパノヴァの側に控えている、ネメシスとクリサリスにも同じ指示を出そうとした。
するとスーパーノヴァはバルカンが提出したオフィウカスとサーペンスのデータを見て、悲しそうな顔をしていた。
「——ああ、こんな地獄に生まれて来るなんて本当に可哀想ですわ。 早く死なせて解放して上げませんと……」
「……死なせる。 妾も美月を早う死なせて上げなければ……」
「……解放する。 我も早く陽太を解放せねば……」
そしてそんなスーパーノヴァに同調する様に、彼女の側で糸が切れた人形の様に静かになっていたムーンとサンが、急に動き出した。
スーパーノヴァは生前の彼女と同じ、慈愛に満ちた優しい顔と声をしていたが、十年前の事件が原因で、彼女が持っていた本来の優しさは酷く変質してしまっていた。
それは彼女に導かれる形で、一緒に十年と言う長い眠りから目覚めたムーンとサンにも影響を及ぼしており、二人に授けた契約魔法と共にその思考すらと変質させてしまっていた。
「……やっぱり、こんな世界なんて……」
「スーパーノヴァ……!」
そんな変わり果ててしまった彼女へと、ビッグバンは縋り付く様に声をかけた。
「ビッグバン?」
「十年前、子供たちを失った君が、その絶望から願ったモノは、私にも痛い程理解できる……!」
ビッグバンも十年前の事件で最愛の人と子供たちを含めた全てを失った。
だけどそれでも、やらなければならないことがあった。
「だけどあの子たちは人間ではなくなってしまったが、それでもまだ精霊として生きているんだ……! だから私は君とあの子たち、それから私が開発したメカニカルウィッチに宿る人工精霊たちの為にも、必ず精霊だけの世界を作って見せる……! そして人工精霊と相容れない人間を全て滅ぼして見せる……! だからどうか君も、あの子たちの生きる未来を諦めないでくれ……!」
ビッグバンの必死の懇願を聞いたスーパーノヴァは、昔の彼女と同じ慈愛に満ちた優しい微笑みを向けて来た。
だけどその微笑みは、何が決定的に変わってしまった様に見えて仕方が無かった。
「——大丈夫ですわ、ビッグバン。 わたくしたちの願いは今も昔もたった一つだけ……わたくしたちの子供たちを救うことなのですから……。 ね、ネメシス? クリサリス?」
「はい、スーパーノヴァ様。 全ては貴方様の願いの為に……」
「***……!」
第4章をお読み頂きありがとうございます。
次回からの第5章は冬馬君とマーキュリー君のお話になります。




