幕間3「次のステージへ」
——ワールドユニオンの本部がある宇宙エレベーター内にある議長室にて。
「——以上が、JP国のメカニカルウィッチ学園ミライトウキョウ校で起きた事件の概要になります」
「ご苦労様です、英斗」
「いえ、秘書として当然のことです」
『アダムチルドレン』の一人である英斗は、得意げな様子で自身のメガネをクイっとしていたが、直ぐに不機嫌そうな表情へと変わった。
「……ですが、アダム議長。 草刈の特殊部隊の面々の処分はいかがなさるおつもりですか? 奴らはワールドユニオンの作戦を勝手に変更した挙句、負傷したリーダーの治療の為に、JP国に自ら投降したのですよ? 養父さんから受けた恩を裏切った奴らなど、即刻消すべきです!」
「落ち着きなさい、英斗。 今はまだ、目を覚ました草刈さんたち共々、ワールドユニオンの情報を喋っていないことは、監視の目から報告済みです。 今はこれ以上、余計な尻尾を掴ませない為にも、様子見に徹するべきなのです」
不満を口にする英斗を宥めるアダム議長もまた、草刈たちのことを悩ましく思っていた。
元々の計画では、学園の生徒から死傷者を出すことで、邪魔な白金代表と魔導学園長をその責任で失脚させ、テロ対策の名目でワールドユニオン軍をJP国に派遣する予定だった。
しかし、草刈が生徒たちから死傷者が出ない様に動いた上に、例え自身が捕まることになっても、いざという時に二大チャンピオンバディの二人が間に合う様に細工していたせいで、死傷者ゼロと言う結果になってしまった。
さらに、草刈たちの身柄を白金代表に抑えられたせいで、ワールドユニオン軍のJP国への派遣も一部だけに留まってしまっていた。
それでも、成果が全く無かった訳ではない。
正体不明機の正体が、十年前の事件で手に入れ損ねた、地ノ星博士夫妻が開発した『特別な人工精霊』のバルカン、クリサリス、サン、ムーンで確定した。
それに、美月の監視を任せていたとある生徒の機体を調べたことで、サターンが特別な人工精霊たちと同じ、本来の精霊であることがほぼ確定した。
だから、差し引きを考慮してもお釣りが来る結果だった。
地ノ星博士夫妻が残したシステムを完全な状態にするには、人間擬きの力では役不足で、どうしても本来の精霊の力が必要だったのだ。
「……それにどの道、裏で動かせる特殊部隊では、メカニカルウィッチの開発者である明日斗博士を相手にするのには力不足過ぎました。 これからは本格的に軍の力に頼ることになるでしょう」
「——フォフォッフォッ……! それなら、ワシの出番のようじゃのう?」
すると議長室の本来の自動ドアからではなく、宇宙エレベーターの最下層の秘密のエリアに繋がる隠し扉から、怪しい笑い声を上げた老人が出て来た。
色が抜け落ちて白くなった髪に、ギョロリとした赤い義眼を嵌めた、杖をついた腰の曲がった老人へと、アダム議長は鋭い視線を向けた。
「……何を勝手に出歩いているのですか、黒穴博士。 貴方を司法取引で外に出したのは、明日斗博士の代わりに『機械仕掛けの神』を完成させる手伝いをして貰う為なのですよ?」
「何、未完成だったワシのVが『Xシステム』を起動したと耳にしてな? 丁度、ワシがXとVに続いて作り上げたOSが完成したから、宣伝に来たのじゃよ。 力が必要なのであろう?」
「貴方が作った人間擬きを信用しろと? 十年前、そのXが暴走したせいで、必要以上の犠牲が出たのをお忘れですか?」
「ワシのXを勝手に利用して起きながら、ワシに全ての責任を被せてワールドユニオンから追放したアダムがそれを言うのか?」
「当時、貴方が人間擬きの『Xシステム』を起動させたのは、紛れもない事実ですからね」
アダム議長と黒穴博士はお互いに牽制する様に睨み合った。
二人は共に、WWⅢが始まった年に生まれ、ワールドユニオンの前進となる組織にいたからこそ、お互いの腹の中を理解していた。
その為、黒穴博士はわざとらしく首を傾げながら、皮肉を口にした。
「……不思議じゃのう? アダムはワシ以上に人間を嫌っている筈なのに、どうしてそこまで人工精霊を目の敵にするのじゃ? 彼女を殺したのは人間だろうに?」
「……黙れ」
「その憎しみよりも彼女との約束の方が大事なのか? そんなにもイ……」
——その時だった。議長室に突如、銃声が鳴り響いた。
「ガハッ……!?」
左肩を撃ち抜かれた黒穴博士が膝を突くと、銃を手にしたアダム議長が、全ての感情が抜け落ちた能面の様な顔をしていた。
「——お前の様な狂人が彼女の名前を口にするな。 こうしてお前を生かしているのは、あくまでも明日斗博士の代理としてでしかないことを忘れるなよ? ……英斗、黒穴博士を連れて行きなさい」
「は、はい、父さん……! ほら、早く立て、この狂人め!」
「フォッフォッフォッ……!」
英斗に引きずられる形で黒穴博士が隠し扉の向こうへと消えていった。
それを確認したアダム議長は、一人になった議長室でポツリと彼女の名前を呟いた。
「——イヴ……」
*****
——宇宙のとある場所に隠された『方舟』にて。
「——覚醒した美月の力に対応できる機体を、急ぎ完成させなければ……。 美月とサターン、そして陽太の三人専用の機体を……」
方舟の中にあるラボで、明日斗博士は新たな機体の開発に没頭していた。
元々、人間よりも上位の存在である精霊の中でも、さらに上澄の存在である大精霊となった、最強にして最悪の魔女と同じ、『時間魔法』と言う規格外の力に、美月の人間の体が耐えきれないことは分かっていた。
だから、対価と引き換えに『願いを叶える魔法』と言う規格外の力を持っていた、魔女である乃亜の『魔封じのペンダント』を、母の形見として美月に持たせていた。
しかし、それもとうとう限界が来て、ついに美月の力が覚醒してしまった。
それに加え、美月のかつての相棒であるムーンと、家族であったサンとバルカンまでもが出て来たことで、戦いの舞台は次のステージへと移り変わることになった。
一応、アークサターンの強化パーツを送ったが、これから先の戦いにおいては、その場しのぎにしかならないだろう。
アークサターンは元々、四月に起きたメカニカルウィッチ研究所のテロ事件で、美月が戦わないことを選んでも大丈夫な様に、サターンと陽太のバトルスタイルである、剣を主体とした近距離戦闘に特化した仕様で作った機体だった。
でも、美月のバトルスタイルである、杖を主体とした遠距離戦闘にも特化する為にも、美月とサターン、そして陽太の三人専用の機体を完成させるのは急務だった。
「それに……美月の力の片割れである『空間魔法』を持つ海姫ネオンの力が、彼にも知られてしまった以上、急がなければ……」
十年前、懐を分かった彼よりも先に、ネオンの力の正体に気づいた明日斗博士は、彼の目に止まらない様に、いくつものカモフラージュをかけていた。
しかし、同じ魔女としてネオンの力を知っていた乃亜の相棒であるクリサリスと、その記憶を受け継いだネメシスがあちらにいる以上、焼け石に水だと思っていた。
でも、目覚めたばかりのムーンとサンは兎も角、十年近い時間があったのにも関わらず、ネメシスから知らされていなかったバルカンの様子を見て確信した。
「やはりネメシスとクリサリスは、彼の計画ではなく、主である彼女の願いの為に動いている……」
その願いは、アダム議長の恒久和平の世界の為の計画とも、彼の精霊だけの世界の為の計画とも相入れないものだった。
十年前、彼女が願いを叶える魔法で願ったモノを知ってる身として、その願いだけは絶対に阻止するべく、明日斗博士は改めて決意を固めた。
「——絶対に止めてみせる……! 私の半身である彼のことも……! 人間とは全く別の存在になってしまった彼女のことも……!」
*****
——同時刻。魔法界にあるスタースピリットの本拠地である城の最深部にて。
「美月……」
「陽太……」
バルカンの手で連れ戻されたムーンとサンは、スタースピリットを統べるビッグバンの指示を無視して、再び美月と陽太の元へと行こうとした為、こうして謹慎処分を受けていた。
そんな二人は今現在、玉座に座るスーパーノヴァの目の前で、糸が切れた人形の様に跪きながら、かつての相棒の名をブツブツと呟いていた。
すると、毛先の明るい紫の部分以外を瑠璃色に侵食された髪に、宝石の様に綺麗な紅玉の瞳に瑠璃色が混じったことで紫水晶の瞳になったスーパーノヴァが、ムーンとサンを優しく抱きしめた。
そして、その身から溢れ出て来るドス黒く禍々しい魔力を二人に注ぎ込んだ。
「「ア……ガ……!」」
「——お願い……どうか陽太と美月を……わたくしたちの子供たちを今度こそ……死なせてあげてね……? 解放してあげてね……?」
「美月ヲ死ナセル……」
「陽太ヲ解放スル……」
スーパーノヴァの魔力を受け取ったことで、黒いオーラに包まれたムーンとサンが壊れた人形の様に動き出した。
そんな二人の姿を見ながら、スーパーノヴァは綺麗で儚く、だげどどこかゾッとする笑みを浮かべながら、再び口を開いた。
「——お願いね、二人共? 死こそが全ての生命に与えられた平等な救いなのですから……。 そしてどうか、わたくしの願いを叶える手伝いをして欲しいのですわ……。 全てはこの世界を滅ぼす為に……」
第3章をお読み頂きありがとうございます。これにて第1部であるメカニカルウィッチ学園編は終わりになります。
次回からの第4章は小春ちゃんとジュピターちゃんのお話になります。




