第93話「日常の終わり」
——同時刻。ワールドユニオンの本部がある宇宙エレベーター内にある議長室にて。
『『——わたくし(僕)たちが現役高校生の中で一番の相棒! 高校生チャンピオンバディですわ(だ)!』』
『美月ちゃん〜〜!! サターン君〜〜!!』
『新しい高校生チャンピオンバディの誕生だ〜〜!!』
『可愛くて、綺麗で、カッコよくて……兎に角、最高〜〜!!』
『輝君とヴィーナスちゃん、それから焔君とマーズちゃんに勝つなんて、最強〜〜!!』
テレビが部屋の空中に映し出した決勝戦の中継を、アダム議長は無表情のまま眺めていた。
そしてバトルの終わりを確認したアダム議長は、冷たい瞳をしながら、ゆっくりと口を開いた。
「——さて、そろそろ頃合いですし……私の本命の作戦を開始するとしましょうか」
『機械仕掛けの神計画』で運用する無人機の最終調整が遅れてていた為、こうして作戦の開始が遅くなってしまったが、その時間を利用していろいろと下準備をすることができた。
前座として、黒穴博士とオフィウカスとサーペンスを派手に暴れさせて、明日斗博士のスタースピリットの目を誘導し、何も知らない一派市民にもテロリストが全国大会を襲ったと言う事実を植え付けた。
これにより、ワールドユニオン軍が正式に介入する口実ができ、さらにこの後行うマッチポンプでも、一般市民は狂人が犯人だと思う様に誘導できた。
後は無人機の運用実験も兼ねて、明日斗博士の娘の美月と、本来の精霊のサターン、それから前座として起こした事件で普通の存在では無いと判明した、ネオンとネプチューンを捕縛するだけだ。
『機械仕掛けの神』のコアである『擬似集合無意識システム』を完全な状態にする存在を手に入れる為に……。
アダム議長は早速、側に控えている秘書の英斗に指示を出した。
「英斗、『ユニオンエデン』の起動と、それから安全ロックの方は問題ありませんね?」
「はい、養父さん、問題ありません。 首輪の方は、現地にいるワールドユニオン軍に握らせてあります」
「よろしい。 では、JP国にいるセブン大佐に作戦の開始の通達を。 美月さんとサターン、それからネオンさんとネプチューンを捕縛します」
「了解です、養父さん」
指示を受けた英斗が自身のタブレットを操作し始める中、アダム議長は画面の向こうにいる美月たちへと、冷たい目を向けた。
「美月さん、申し訳ありませんが……貴方の日常はこれで終わりです」
*****
——『擬似宇宙』のバトルフィールドにて。
「——ありがとう、サターン……ううん、お兄様……! お兄様のおかげで、こうして高校生チャンピオンバディになることができました……!」
「いや、お嬢……ううん、美月が頑張ったのが一番の理由だよ! それに僕は美月の相棒なんだから、力を貸すのは当然さ!」
バトルの後、今は自分たち二人だけと言うことで、美月はバトルの時の人間人格から素の精霊人格に戻っていた。
そしてサターンもとい、兄と勝利の喜びを分かち合っていた。
「私の夢である人間とメカニカルウィッチが本当の意味で隣人になれる世界を作る為にも、このまま世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになって見せます……! お兄様も着いて来てくれますか?」
「勿論だよ、美月! 僕は美月の相棒として、この先もずっと一緒にいるから!」
「はい、お兄様……!」
それから美月は、サターンと夢を再確認した。
——その時だった。
『擬似宇宙』用の超特別仕様の何重にも重ね合わせた特別なマジカルバリアの一部が破壊された。
「ーーッ!?」
「一体何が……!?」
美月たちが思わずスタジアムの上空へと目を向けると、編隊を組んだ黒い戦闘機が次々にバトルフィールドに突入して来た。
安全上、破壊がほぼ不可能な特別なマジカルバリア、それも『擬似宇宙』用の超特別仕様の物をこんなにもあっさりと破壊するなんて……!?
そんな中、謎の戦闘機たちは、瞬時に人型の機体に完全変形した。
その謎の機体は、全身真っ黒で、背部にX文字を描く様な翼を携えて、酷く無機質な赤い瞳をしていた。
まるで十年前の事件で襲って来たあの機体みたいだった。
するとそれを見たサターンが思わず声を上げた。
「あれはまさか……!? ワールドユニオンが『代理戦争計画』の為に作った無人機……!?」
「なっ……!?」
「間違いない! 細部こそ違うが、明日斗博士が調べていたワールドユニオンの最高機密データの中にあった、『ユニオンエデン』と同じだ!」
確か……以前サターンは、ワールドユニオンは軍用のメカニカルウィッチを利用した無人機による国家間の代理戦争を行う、次世代の戦争システムを構築していると言っていた。
恒久和平の為の人間が死なない無人による新しい戦争の形を……。
人類の隣人である筈の人工精霊を戦争の道具として扱う、ワールドユニオンの所業を改めて目にした美月たちが怒りを覚える中、ユニオンエデンたちは盾を構えながら、銃を撃って来た。
不味い。今この場には、先程のバトルで戦闘不能になった焔とマーズのブラッドマーズと、輝とヴィーナスのノーブルヴィーナスがいるのに……!
アークサターンも全身がボロボロになっていて碌に戦闘できる状態では無いが、それでもやるしかない……!
美月は目を閉じて、お守りのペンダントを両手で握り締め、勇気のお呪いを唱えた。
「——頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!」
美月はこれから始まる本物の戦いに備えて、素の精霊人格から人間人格へと再び意識を完全に切り替えた。
それから機体の方もリミッターを解除して、実戦で戦える様にする。
「サターン! 魔王システムの発動をお願いします!」
「了解です、お嬢様! 行くぞ、陽太!魔王システム起動!」
「*************ー!!」
アークサターンの魔石の中からもう一人の兄の叫び声が聞こえて来ると、機体が紫の炎を纏った。
これで無尽蔵の魔力により機体が常に修復され、戦闘不能になること無く戦うことができる。
それでも先程のバトルで全ての武装を失い、機体も全身がボロボロになっている最悪の状況だ。
だけどこの場にいる輝たちと焔たちに、それから観客席にいる皆をワールドユニオンの魔の手から守る為に、それでも戦うしかない。
「行きますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
「「マジカルスキル! プラネットダーク!」」
美月たちはアークサターンの全身に黒い炎を纏わせ、機体の出力を可能な限り底上げさせた。
「「マジカルスキル! プラネットライト!」」
アークサターンはさらに背中に天使の様な六対の翼を生やし、神速のスピードで擬似宇宙の中を飛翔した。
大量のユニオンエデンたちを翻弄しながら、翼から発射した羽をドローン武器の様に操って飛ばした。
しかし……。
「くっ……!? 硬い……!?」
「ユニオンソルジャーとはまるで別物だ……!?」
ユニオンエデンの装甲にあっさりと弾かれてしまった。
以前戦ったユニオンクローンとは性能が明らかに違う。準決勝戦で戦った、あの黒穴博士が作ったサーペンスオフィウカスに近い性能だ……!
それでも……!
「「マジカルスキル! プラネットファイア!」」
アークサターンはさらに背中に炎の光輪を発生させると、パワーとスピードを兼ね備えた一撃を放った。
「まずは一機目……! ですが……!」
それによりユニオンエデンのマジカルバリアを破壊して戦闘不能にしたが……。
「数が多過ぎますわ……!」
「これがワールドユニオンの本気……!」
やっと一機撃破できただけで、宇宙にはまだまだ大量のユニオンエデンたちが残っていた。
——『個人』では決して勝てない、『軍』の力がそこにはあった。
*****
——一方その頃。観客席にて。
「あの謎の機体は一体……!? ワールドユニオン……!? それともスタースピリットなのか……!?」
「それよりも白金代表の安全対策はどうなってんだよ!? 突破されてんじゃねえか!?」
突如現れた謎の機体たちを見て、麗とウラノスが焦った声を上げていた。
するとそんな麗たちと対照的に、冷静なネオンとネプチューンが口を開いた。
「……ん。 相手がワールドユニオンだろうが、スタースピリットだろうが関係ない……。 美月を助けに行く……ただそれだけ……」
「そうそう♪ 運営は勿論、白金代表もあんまり頼りにならないから、あたしたち自身の手で何とかするのが一番だからね♪」
ネオンたちがそう口にすると、一緒に観戦していた小春とジュピター、それから冬馬とマーキュリーも同意して来た。
「うん! 早く焔たちを助けに行かなきゃ! ジュピター! 力を貸して!」
「う、うん……! 勿論だよ、小春ちゃん……!」
「それに輝先輩たちもだ……! 行くぞ、マーキュリー!」
「フッ、任せろ、冬馬……!」
さらにこの場にいたミライトウキョウ校の、咲良とキャンサー、王牙とレオ、秀次とスコーピオ、歌とカロン、それから決勝戦と言うことでここまで来ていた御霊とプルート、御影とカロンも同意して来た。
そして美月の家族のリンとグリ、それから輝の姪のレイと姉の光と家族のルミとエールも、どうか美月たちを助けて欲しいと頼み込んで来た。
するとそんな中、バトルフィールドに繋がる選手用の通路から白い機体が次々に突入して来た。
『——こちらはワールドユニオン軍です。 先日の事件の犯人と同一の可能性のあるテロリストたちは、我々軍が対処します。 観客の皆さんは、軍の指示に従って、落ち着いて避難をお願いします』
現れたのはワールドユニオン軍のユニオンクローン。それも白金代表から貰った情報で目にした、正式所属機の白のカラーの機体だった。
有事の際以外は競技場内への立ち入りを禁止されていたワールドユニオン軍が遂に介入して来た……!
しかも現れたのはそれだけじゃ無かった。
「ーーッ!? あの機体は……!?」
「まさか……!?」
現れた機体を見て、麗たちは思わず固まった。
あの機体は……二十年前、自分とウラノスが出会った最初の世界大会の決勝戦で、初代チャンピオンバディとなったきららとポラリスと激闘を繰り広げた……!
——そしてそれを駆る者こそ、ワールドユニオン軍最強と呼ばれた男だった。
*****
——再び場面は美月たちの方に戻る。
『『——美月!』』
『『——サターン(さん)!』』
「焔たちと輝先輩たちはわたくしたちが守りますわ!」
「はい! もう二度と、ワールドユニオンの奴らに僕たちの大切なものは奪わせない!」
美月たちは焔たちと輝たちを庇いながら、ユニオンエデン並びにユニオンクローンと戦っていた。
ワールドユニオンは人工精霊にテロリストの汚れ役をさせて、自身らはその鎮圧を大義名分にこうして介入して来た。とんだマッチポンプだ。
その証拠に、ユニオンエデンとユニオンクローンは一応戦闘をしているものの、明らかな機体性能差があるにも関わらず、ほぼ互角の状況になっていて、さらにダメージも最小限に抑えていた。完全な八百長だ。
しかも美月たちのことを保護すると口にしながら、自分たちがそれに従う気が無いことが分かると、ユニオンエデンに攻撃する程でこちらに攻撃して来た。
そしてそれに反撃すると、「黒土美月並びにサターンは、テロリストに関与している疑いあり。 よって戦闘を許可する」と、言って襲いかかって来た。とんだブーメランである。
しかし不幸中の幸いか、ユニオンクローンを撃破したところ、別のユニオンエデンも連動する様に動かなくなったことで、両機が魔力のパスで繋がっていることに気づけた。美月の魔力が見える目で確認したから間違いない。
人工精霊を戦争の道具として利用しながら、全く信用せずに首輪までつけるやり方には、本当に怒りを覚える。
だけど不謹慎なのは分かっているが、今はそのおかげで逆に助かっていた。
「サターン! ユニオンクローンを優先して撃破しますわよ! そうすれば首輪を握られているユニオンエデンも連動して止まる筈ですわ!」
「了解です、お嬢様! 魔王システムにより修復中のアークサターンでは、ユニオンエデンの相手は荷が重いですからね!」
「「マジカルスキル! プラネットウォーター!」」
アークサターンは今現在、武装が修復中の為、周囲に展開した水を次々にいろんな武器へと変化させて飛ばした。
それによりユニオンクローンを次々に撃破すると、連動する様にユニオンエデンも止まっていった。
この調子なら……!
——その時だった。
『マジカルスキル! コマンドコード07!』
遠方から放たれた究極を体現した超巨大なビームが、プラネットウォーターを消し飛ばし、そのまま美月たちの方へと飛んで来た。
「「ーーッ!? マジカルスキル! プラネットツリー!」」
アークサターンは咄嗟に近くにあった小惑星から木の根を伸ばして自然の盾を作り出した。
しかし……。
「くっ……!? きゃあっ……!?」
「お嬢様!?」
『『美月!? うわあっ……!?』』
『焔君!?』
『マスター!?』
圧倒的な火力を前に自然の盾は数秒と持たずに破壊されて、後ろにいたブラッドマーズとノーブルヴィーナス諸共、アークサターンは吹っ飛ばされてしまった。
そんな中、今の攻撃を放った来た張本人の機体と、その僚機たちが現れた。
「ーーッ!? あの機体は……!? きららさんたちが最初の世界大会の決勝戦でバトルした……!?」
「まさか……!? 『ユニオンビッグベア』……!?」
最初の世界大会の時とは姿が変わっているものの、その白と黒を基調とした、無機質な兵器を思わせる重装備な機体は、セブン・ガーディアンとビッグベアのユニオンビッグベアで間違い無かった。
そんなセブンたちは、最初の世界大会以外の場では、殆どバトルしなかったにも関わらず、今も尚、初代チャンピオンバディのきららたちの最大のライバルと言われていた。
「セブン・ガーディアン……! 不味い……!? 『ガーディアンズ』が……アダム・ガーディアンの養子で構成された、ワールドユニオン軍最強の部隊が出て来るなんて……!?」
「っ……!」
サターンが本気で焦っている姿を目にして、美月も思わず息を呑んだ。
『黒土美月並びにサターンの保護に移る』
『『『『『『了解』』』』』』
するとそんな中、ユニオンビッグベアと、それをベースにしたと思わしき、白を基調とし、それぞれのパーソナルカラーの装飾が入った六機の機体たちが、美月たちへと攻撃を仕掛けて来た。
美月はユニオンエデンの時と同様に、急いで相手の機体の情報をサターンから教えて貰った。
『ボンジュール、美月ちゃん〜。 お姉さんと少し、遊んで貰うわよ〜』
「くっ……!?」
先陣を切って来たのは、杖の『ユニオンGツインロッド』を装備した、赤い装飾をした機体『ユニオンドゥベー』。
軍人……それもエース部隊と言うこともあり、プロのトップと遜色ない強さをしていた。
それでも美月は未来が見える目を使って、修復中のアークシールドで防御し、さらに修復中のアークソードでカウンターを入れた。
『や〜ん、流石は明日斗博士の機体ね〜』
「今ですわ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
「「マジカルスキル! サターンスラッシュ!」」
アークサターンはそのまま紫色の魔力の斬撃を放った。
しかし……。
『……トゥーの家族は……トゥーが守る……』
大型の盾の『ユニオンGビッグシールド』を装備した、緑の装飾をした機体『ユニオンメグレス』が、間に割ってはいる形で防御した。
さらに続けて、大型のクロスボウの『ユニオンGクロスボウ』を装備した、青の装飾をした機体『ユニオンアリオト』が、牽制する様にこちらを攻撃して来た。
『フォー! 作戦行動中くらいは真面目にやって下さい!』
『もお〜、優しいトゥーちゃんと違って、スリーちゃんは相変わらず口うるさいんだから〜』
『……スリーも……フォーも……喧嘩は止めて……』
……と、口喧嘩しているものの、三機の連携は完璧だった。
そんな三機をまとめて攻撃するために、アークサターンは剣と盾を合体させてアークXアックスを作り出した。
「「マジカルスキル! サターンアークブレ……!」」
『そうはさせない……』
「「くっ……!?」」
しかし大剣の『ユニオンGバスターソード』を装備した、藍色の装飾をした機体『ユニオンミザール』が突撃して来て、サターンアークブレイクを中断させられた。
『ファイブ。 今のうちにフォーの機体を……』
『了解です、王さん』
その隙にサポートメカの『ユニオンGサポートキット』を装備した、黄の装飾をした機体『ユニオンフェクダ』が、ユニオンドゥベーのダメージを修復していた。
あの機体を放置するのは厄介だ……!アークサターンは修復中のアークXランスを構えた。
「「マジカルスキル! サターンアークスト……!」」
『そうはさせないと言った筈です』
「「くっ……!?」」
しかし今度は武器庫の『ユニオンGマルチコンテナ』を装備した、紫の装飾の機体『ユニオンアルカイド』がドローン武器で攻撃して来て、サターンアークストライクを中断させられた。
『シックスさん、いつもすみません……!』
『私はこの部隊の副隊長ですから』
本人たちの強さもさることながら、チームの連携も完璧だった。
これがワールドユニオン軍最強の部隊……!
それでも……!
「「マジカルスキル! サターンバースト!」」
アークサターンは隙を突いて、アークステッキから闇の力を持つ巨大なビームを放った。
しかし……。
『無駄だ。 お前たちでは俺たちには勝てない』
「きゃあっ……!?」
「お嬢様!?」
いつの間にか背後に回り込んでいたユニオンビッグベアがアークサターンを押さえつけた。
それによりサターンバーストは明後日の方向に飛んで行った。
しかも……。
「これでは……サターンクロノスワールドが……!?」
『もう諦めろ』
「「くっ……!?」」
修復中のアークサターンではサターンクロノスワールドの負荷に耐えきれないのもあるが、こうして拘束されたことでダメ元でも使えなくなってしまった。
そしてそんな美月たちを他の六機が取り囲むように包囲して来た。
——その時だった。
『——****よ……』
『——****よ……』
『『『『『『『ーーッ!?』』』』』』』
遠方から飛んで来た、水の塊から創造された巨大な槍と、業火の炎がワールドユニオンの機体たちをまとめて蹴散らした。
美月たちがそちらへと目を向けると、そこにはドクロの形をした宝玉がついた巨大な杖を持った両脚の無い幽霊の様な機体のムーンと、機体のサイズに見合わない巨大な大剣と異形の両腕を持つ怪物の様な機体のサンがいた。
「ムーン……!?」
「サン……!?」
『『——よくも妾(我)の美月(陽太たち)に、また手を出してくれたな……ワールドユニオン……!」』




