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今の主人
あの日のことを思い出すたびに、「もし素直に受け取っていたら、何かが変わっていたかもしれないな」なんて、ぼそっと呟く。けれど、その表情はどこか穏やかで、ほんのりと笑っているのだ。人は失敗や後悔をして、ようやく誰かの気持ちに気づけるのかもしれない。それでも僕は思う。あの時の沙也加さんの「…あげよっか」という言葉は、主人の心の奥で今も小さく光っている。
冬の冷たい空気の中で溶けずに残った、優しいチョコの想い出として。
それから幾つの冬を越えただろう。季節が巡るたびに、街のショーウィンドウに並ぶチョコレートを見ては、あの瞬間の息づかいを思い出す。
手渡された訳でも、口にした訳でもないのに、なぜだか温かく胸の奥に残っている。今ならわかる。あの時の「…あげよっか」は、たった一粒のチョコよりもずっと大切な気持ちだったのだと。




