怪奇事変 漫画喫茶
漫喫は何度か仕事で終電逃した時に利用してましたが、こんな怖い所なら俺なら使わないね
第十四怪 漫画喫茶
とある東京のビルにある漫画喫茶、数年前、そこで自殺した人が居るとニュースにもなり一時は誰も利用したがらなくなった。
漫画喫茶――そこは漫画の読める場所の他に、飲み物、食事、入浴、そして個室での動画視聴などができるビジネスホテルより安いホテル感覚で使える場所。
そんな場所で自殺者が出てしまったのは店にも大ダメージであり、何よりそこを利用している客にも印象が悪くなり、一時は収益が見込めなかったとか。
山崎亨はそんなニュースなど知らずよくこの漫画喫茶を利用している客であった。
山崎が利用するのは至って単純な理由、安さと利用者の少なさが彼がこの漫画喫茶を利用している最大の理由だ。
世の中知らない事があった方が良いと言うのはこう言う場合一番楽だと感じつつも、山崎は度重なる残業によってまともに家に帰れていない。
最早、第2の移住区と化していた。
「何時間ご利用になりますか?」
「……5時間で」
これが山崎の日課だと思うと、他の方はどう見るだろうか?
合鍵とロックを解除できるタッチ式のキーの2つを渡され、まずタッチ式のキーで入居者の区域の扉を開き、彼が今回利用する303号室の鍵を開ける。
個室で服や鞄を置き、コンビニで購入してきた弁当を持ち、部屋を出て、好きなだけ飲める飲み物コーナーと完備された電子レンジに弁当を入れて温める。
「……帰りたい」
ぽつりと出てしまった独り言、誰かに聞かれてないか急いで確認するが誰も居ない。
ただレンジで温める電子音がゆっくり音を立て、暖かい飲み物を先に部屋に戻し、あとで弁当を取りに戻る。
個室に鍵を付け、目の前に置かれたパソコンを使って何か面白い番組がないか探しつつ、空腹に耐えられない胃は悲鳴を上げる。
ようやく面白そうな番組を見つけると、山崎は木の端を割り「いただきます」っと弁当を頬張る。
空腹で我慢していた為、唾液が口内で滲みだし運ばれた食材に絡みつつ、咀嚼音を立てながら食べて行く。
「ビールは、流石に明日早いから――」
っと購入したコーラーを開封してこれも飲みながら食事を頬張る。
かけた番組はエンタメ系のお笑い番組。
ぼーっと死んだ魚の目をした表情で見ていると、またあの音が隣から聞こえてくる。
ギシギシと鳴る音、隣の人だろう、壁が薄いせいもあって嫌でも聞こえてしまう。
アダルトコンテンツがあるとは言え、流石にどんだけっと思い、何度か注意をしようとしたが、ヘッドホンを付けて音量を上げればそれで解決できるので問題なし。
しばらくテレビを見続けると隣の音も気にならなくなり、徐々に満腹感から眠くなってくる。
簡単にタイマーを設定して寝る準備をする。
レンタルだが布団を借りようと思えば借りられるので借りて完全な睡眠をとれるように準備する。
が――
ギシギシギシギシ
「……うるさいな」
どうやらまさ再開してしまったようだ。
流石に今日は我慢しようと無理やり眠りに入る事にした。
幸い疲れも溜まっていた為、ゆっくりと眠る事はできたが皮肉なものだ。
家には帰宅できず、その稼いだ金を好きなものではなく仕事に使い、ようやくの想いで寝ようとしたら真横からの妨害……一体自分が何をしたんだと被害者面にもなってしまう。
隣から聞こえる音はいつの間にか鳴りやんでいたが、他に泊まっている方は注意しないのだろうか?っとふと思ったが、睡魔により深い深淵へと意識を落としていった。
「何時間で?」
「………5時間で」
また同じ会話をした、これで何度目だろう?と思い、流石に店員も自分の顔を覚えているらしくスムーズに手続きが進むのは喜ばしい事だ。
道中購入したコンビニ弁当を片手に303号室の鍵を開け入ろうとした際に、隣の304号室の扉を見る。
「(今日もまたあの音か……参るな、今日は一段と疲れてるってのに)」
更に隣は無い為、自分しか聞こえぬ苦悩を味わうのは最早絶望に近い。
今日もし五月蠅かったら流石に店員に文句を言ってもらおうと決心し、何時もの準備を進ませる。
準備ができた山崎はそのまま飯にありつき、お笑いのテレビ番組を見る。
ふと――感じてしまった。
もし、何処かで、何かきっかけがあれば――自分もテレビの向こう側の世界で働いていたのかっと。
そしたらこんなに苦しくはない日々で、それなりに人気になって、綺麗な女性とお付き合いし、家庭環境にも恵まれたのか?っと。
「現実逃避……だな」
飯を口に運びながら嘲笑気味に笑う。
それが今できる精一杯の抵抗――っと
ギシギシギシギシ
「……」
始まった、また始まった。
隣の利用者は壁が薄いって事を分かっていないのだろうか?馬鹿なのか?
扉を開けて文句を言おうとしたが、その際に音が途端に止んだ。
「(なんだ、なんで急に――)」
扉が開いた――と言う事はなく、何も聞こえない。
近づいて耳を当ててみるも、何も聞こえないのだ。
何故だが恐怖が込み上げてきた山崎はそのままエントランスに向かい別の仕事をしている従業員を捕まえて事情を説明する。
「は~?えっと304号室は使用禁止となっているはずですけど……」
「え?」
「知らないんですか?清掃はされてますが304号室で数年前、自殺者が出て以来、あの部屋を誰も利用してないんですよ」
「……」
「てっきり、お客様も知っているかと思ったんですが……知らなかったんですか?」
「…………はい」
ゆっくりと答える。
自殺者?そんな話、初耳だった。
「良ければお部屋お返しましょうか?少し値段は上がってしまいますがもし気になるようでしたら、上の階にはなってしまうんですが――」
「お願いします」
そうと分かればそんなフロアとはおさらばだと山崎は決め、直ぐに行動に移し、403号室の鍵を貰い、そこに入る。
フロアの作りは基本的に同じだが、これ以上の階は無い為、此処が限界って所だろう。
「曰く付きか……場所、変えるか」
流石に君の悪い話を仕事終わりに聞かされた事もあって先ほどから鳥肌が止まらない。
そうと分かっていたら最初からこんな場所選ばなかったのにっと考えていたが、その日は以前と違ってゆっくりと熟睡できた。
今日は全く別の漫画喫茶だ。
事前に事故物件を調べる事ができるアプリを使用して何もない事を知っており、少々値段は上がってしまったが、それでも快適に過ごせた気がする。
だが――
ギシギシ
「……」
あの音が聞こえた。
「(此処は事故物件じゃない、何もない、なのになんで――)」
真横に耳を当てると確かに聞こえる音。
御盛んなのは勝手だが辞めてほしい、何故寝ようとするタイミングでそんな音を聞きながら眠りに入らないといけないのだと愚痴ってしまう。
だが――
その音が止んだ、しばらく様子を見るも確かに止んだ。
「(やめたのか?)」
耳を近づけると
ドン!
っと激しい音が耳を直撃し、ビックリして、その場から遠ざかる。
ドン!ドン!ドンドン!
まるで部屋の扉を叩く様な勢いでその音の波は止まらない。
数十分、布に包まったまま硬直していると、やがて音はなりやみ、あのギシギシっと言う音がまた鳴り響く。
急いで部屋を出て従業員に説明する。
「わかりました、お隣の方には注意させていただきますので」
「……お願いします」
だがこのまま部屋に戻って大丈夫なのだろうか?
ふとあの音について少し気になる事が思い出したのだ。
「(音が似てるんだよな、ギシギシ……まるで何かを吊ってるような)」
そうして部屋に戻ると、やはりあの音は再開されるのであった。
しばらくして従業員が隣の扉を叩く音と共に扉が開いた音が聞こえ「隣の方から騒音の話で――」っと説明してくれているようだ。
その光景を思い浮かべながら眠りにつく事になったが――
ドン!
従業員が帰るなりいきなり強い衝撃で壁を殴りつけるような音を出して来たのだ。
一体自分が何をしたのだっと思うと同時に怒りが込み上げてくるも、また睡魔に負けてしまい、その日は眠りについた。
「何時間のご利用で」
「…………5時間」
最早、亡霊の様に喋り、鍵を受け取り部屋に入るなりその場で倒れた。
過去な労働環境、上司の叱責、周りの態度……どれもこれも気に入らないものばかり。
「それでも……仕事しないと」
購入したコンビニ飯には一切手を付けず、そのまま眠りに落ちる。
しばらくして――またあの音が山崎を覚醒させる。
ギシギシーー
「五月蠅い!」
流石にもう直接抗議をしようと考え、隣の部屋の扉を叩いた。
だが音は止んだもののそこから人が出てくる事も、扉が開く事もなかった。
「あの、嫌がらせやってるなら辞めてもらえませんか?こっちは明日早いんですよ!?」
それでも出てこない住人にイライラしつつ、ドアノブを開けようとするも当然ロックがかかっている――と思いきや、扉は自然とあいた。
真っ暗な空間、手探りで電気のスイッチを押すも、そこには誰も居なかった。
「は?」
すると今度は隣――つまり、自分が使っている部屋からあの奇妙な音が鳴り響く。
急いで借りている自室に戻ると、今度は隣が鳴ると言う。
「あり……えない」
今の一連の動作で誰も人が入って来る事などできないし、そもそも会ってすら居ないからだ。
ならばこの奇妙な音の正体は?
ギシギシ
今度は頭上から聞こえる、上の階か――と思い、上を見上げるとただ天井だけがあるだけ。
が、部屋には既に異変として変わった事が起きていた。
「なんだ、コレ……」
そこに置かれていたのはナイフ、縄、薬、どれも使用前のまま置かれていた。
まるでコレで何かをしろっと言われている様な気分になり、急いでその部屋をあとにする。
エントラスで店員に声をかけ自体の内容を説明し、一緒に同行してもらうも、何も起こらなかった。
「申し訳ありませんが、その……凶器となる品物もございませんし、失礼ですがお客様のかんちが――」
「違う!此処にナイフと縄に薬が!?」
そう指さす部分には、確かにあったはずの物が消えていた。
エントランスに行くまでエレベータではなく階段を利用して1~2分の世界の話だ、往復すれば隠す事も……できなくはないが、確かに誰にも会ってない事が気がかりだった。
結局、その日は部屋を変えてもらい、完全個室ではなく通常の個室に変更してもらった。
前回の事もあり、部屋は完全個室ではなく、個室を利用して過ごす事になった。
周りの視線や音、声などダダ洩れなので近くに人が居る安心はあるものの、五月蠅くて眠れない点がデメリットだ。
ヘッドホンを利用し、BGMは癒し系のさざ波などの自然の音で寝る事にした。
しばらくして睡魔が直ぐにやってきて眠りに落ちる。
――苦シイーー
「……」
――疲レターー
「……」
――何デ、俺ガ、残業ナンーー
「うる……さい」
誰だ?さっきから声を出してる奴は?っとヘッドホンを外し辺りを見渡すも静寂そのものだった。
稀に咳き込む声などするぐらいで、これと言った話声などは聞こえない。
「んだよ、クソ、うるせーんだよ」
小声で文句を言いながらヘッドホンを装着して、また瞼を降ろすと――
――グッーガァーァァァァーー
「……ん?」
――聞コーーエル?――
「ッ!?」
思わずヘッドホンを投げ飛ばしてしまった。
間違いない、音の発生源はこのヘッドホンだ。
直ぐに店員に事情を説明し、不具合があるかどうか確認してもらい、別のヘッドホンを借りたが、差込口に端子を繋ぐ勇気が出ない。
ギシギシ
「ッ!?」
どこからともなく聞こえる軋り音、そしてヘッドホンを通して聞こえた声。
信じたくはないが、間違いない、これはテレビ番組やドラマなどで見る“心霊体験”と言うやつだ。
結局、その時の俺はヘッドホンを使わず借りたアイマスクで視界を塞ぎ寝る事にした。
その時、若干首に痛みを抱えた違和感があったがそれだけだ。
だが今も耳に木魂するあの男か女か分からない不気味な声と、断続的に続く軋む音――多分、自殺があった前の住人が憑いて来ているのだろう。
死因はきっと――首吊り自殺だ。
そして――その日から山崎の調子は酷く悪化していった。
胃薬を片手に水を飲み、小さな果物ナイフを持つ癖がついた。
このナイフを持っていると落ち着く……だが同時にナイフに映る自身を見ると――無償に殺したくなる。
そして買ってきたロープ、何故かこれを抱いて寝ると安心するのだ。
そして更にその日から山崎は個室からまた完全個室へと戻り、まるで日数を付ける様に、肌に自傷行為を残し始めた。
日記などに書けばっと言う発想もあったが、どうせ碌に書かないし、後で読み返す事もないだろうっと一見し、肌に残せばすぐ確認できると言った理由だった。
床についた血は……ウエットティッシュで拭けば問題ないだろう。
そしてロープを首に巻くと――更に、一段と落ち着く自分が居る事に気づいた山崎は、それ以降首にロープを巻いて寝る様にした。
もうあの軋み音も謎の声も聞こえない、なんて落ち着く世界なんだろうっと、山崎は久々に夢を見て眠る事にした。
「お客様、利用時間が過ぎてるようですが延長なさいますか?お客様?」
何度ノックしても部屋の主は声を返さない。
「開けますよ?」
一言確認を取り、店員は「失礼します」とだけ伝え扉を開けると、そこには吊るされた男が居た。
山崎亨、享年24歳でこの世を去った。
死因は――首吊り自殺。
この狭い空間と天井で首を吊るスペースなどないはずなのに、首は強く締め付けられ、宙に打ち込まれたナイフが彼を支えている状態だった。
手首には傷跡が無数にあり、リストカットした様なあとになっており、そして何よりこの悪臭。
恐らく死後、尿と排便がされた為、部屋の臭いは最悪だった。
しばらくして救急車と警察が同時に到着するも、山崎は前述した通り死亡が確定しており、死因は首による圧迫骨折と呼吸困難による酸素供給不足による酸欠が原因。
だが、その手法が――謎なのだ。
こうして“また”使用不能な部屋が誕生するのであった。
第十四怪 吊るされた漫画喫茶
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