機密情報
堂山組は、組長の堂山大成を中心とする巨大な組織である。その支部は全国にあり、各地の組員が堂山に忠誠を誓いながら他の組織との闘争を繰り返している。
東京支部のトップは小松和也という男である。この男は気性が荒く、すぐにカッとなることで知られる。彼のもとで23名の組員が働いている。
そんな東京支部に1人の男が入った。名を竹山勝彦という。見るからに気が弱そうで、はっきりとものを言わない男であった。
彼は小松をはじめとした幹部たちのいじめを受けていた。
「おいお前、そんな弱そうな面して本当に敵と戦えるのか?」
小松はいつものように竹山相手に怒鳴り散らす。すると周りの人間達は嘲笑して竹山の方を見た。
「へぇ、こんな僕ですが、戦いでは活躍してみせます」
すると幹部の城山隆という男が竹山に告げた。
「そこまで言うならこの俺と今素手で戦ってみろ。お前の強さを確認してやる」
2人の戦いが始まった。体格のよい城山に対して、やせ気味の竹山はすぐに投げ飛ばされた。倒れ込んだ竹山に対して城山は攻撃をやめず、殴るや蹴るを繰り返した。周りもそれを見ながら笑って止めようとしない。
「城山さん、もうそれくらいにしてください。勝負はついています」
突然そう言って割って入った者があった。川上秀人という男である。この男は、武闘派揃いの東京支部の中で唯一温厚で理知的として知られている。
「なんだ川上、俺を止めるつもりか?」
城山は川上を睨みつけた。
「どうかやめてあげてください。せっかくの我々の仲間ではありませんか」
その日はなんとかそれで落ち着いた。この川上という男だけは竹山の味方であり、何かと面倒を見るようにしていた。しかしそれ以外の人間は竹山に対してのあたりがきつかった。竹山が小松や城山に気に入られていないこともあり、他の人間たちもそれに同調していたのである。
ある日東京支部に何者かが侵入し、機密情報のうちの1つが盗まれるという事件が発生した。犯人は堂山組のライバルである堀口組の人間であることが分かったが、その犯人を竹山が手助けしたのではないかという噂が起きた。事件が起きたそのタイミングに竹山がいつもの持ち場にいなかったというだけの理由であった。
竹山は全員の前で小松から尋問を受けた。
「お前が犯人を手助けしたのではないのか?」
そう言って小松は竹山を殴りつけた。
「無実です。信じてください。私がなぜ堀口組の人間を助けなければならないんですか?」
そこに竹山の味方である川上が割って入った。
「彼を疑うのはやめてあげてください。たまたまあの日持ち場にいなかったというだけのことです」
「お前はいつもこの男を構うんだな。ならば2人で横浜にある堀口組の支部に乗り込み、そこにいるはずの犯人を殺してこい。それができれば疑いはといてやる」
2人はすぐに横浜へと向かった。見張り役としてもう1人の若い男がついてくることになった。
3人はまず犯人を突き詰めようと建物の中に侵入し、固まっていては目立つからとばらばらに分かれた。
川上は敵の衣装を奪い変装をして組織の中に入り込もうとした。そして建物の中を歩いていると、仲間として来たもう一人の男が斬られて倒れているのを見つけた。脈を測ったが、すでに死んでいる。
川上は焦った。すでに敵に侵入者がいることがばれているはずである。彼は急ぎ竹山に連絡して逃げ帰ることにした。
何も得られず帰ってきた2人に対して小松は激怒した。
「この役立たずどもめ。竹山、お前はしくじったからには自分の無実を証明できなかったということだ。ならば裏切り者として死んでもらう」
そう言って小松は剣を引き抜いて竹山の方へと向けた。
「お待ちください」
と言って、またもや川上が小松を止めようとした。だが、
「黙れ。しくじっておいてまだ俺に意見するつもりか。そうだ、ならばお前がこの剣で竹山を斬れ。我々への忠誠の証しとしてな」
と言って小松は剣を川上に渡した。
川上の手は震えていた。彼には竹山を斬るような真似はできない。
「なんだできないのか?ならばお前も裏切り者だ。竹山とともに死ぬことになるぞ」
と小松が言った瞬間であった。竹山が突然自身の刀を抜いて小松の肩から腹部までを斬りつけた。小松は一瞬で絶命した。
あまりの出来事に全員が何が起きたのか理解できなかった。やっと状況を理解した3名が竹山に斬りかかったが、全員が竹山の返り討ちにあった。その太刀筋は美しくて素早く、今までの竹山のそれとはまるで違ったから誰もがその状況を理解できなかった。
竹山は全員を睨みつけた。
「お前たちの言う通り、機密情報を漏らしたのはこの俺だ。俺は堀口組の者でね、ここにはスパイとして潜伏していたんだ。おかげで他にもいろいろな情報を盗み出すことができた。もう少し居続けるつもりだったが、さすがにここまでのようだな。ここにいる全員を斬り捨てて、さよならするとしよう」
彼の眼光は鋭く、誰も近寄りがたいほどの覇気をまとっていた。気が弱くてやられっぱなしだったいつもの彼は演技であり、この場にいる全員が騙されていたのである。
「ここには20人ほどの人間がいる。お前1人でどうやって勝つつもりだ」
今になってやっと城山が口を開いた。強気なことを言っているが、声が若干震えている。まさか自分が馬鹿にしていじめてきた相手がスパイであったうえに、剣の腕も一流だとは思いもよらなかったのである。
「試してみるか?」
という一言で、竹山はその場にいる全員を威圧した。
「全員でかかれ。相手はたったの一人だ。怯まずにいけ」
城山の命令とともに全員が竹山に斬りかかったが、みな竹山には敵わなかった。やがて城山も剣を抜いて向かい合った。しかし一瞬にして彼の剣は竹山に弾き飛ばされた。
「助けてくれ。すまなかった。お前をいじめたことは謝る。頼むから殺さないでくれ」
城山の命乞いも虚しく、彼は一瞬にして斬り捨てられた。
最後に残ったのは川上1人である。竹山は剣を彼の首元にあてた。
「横浜で俺たちの仲間が死んでいたが、あれはお前の仕業だったのか?」
川上は恐る恐る尋ねた。
「そうだ。敵の侵入を許すわけにはいかないからな。本当はお前のことも殺すつもりだった。しかしお前には助けてもらった恩がある。さて今回はどうするかな?うちのボスからは、堂山組の東京支部の人間は全員殺してから帰ってこいと言われている」
「好きにしろよ」
「命乞いはしないのか?城山のように」
「生きるも死ぬも思い通りにはならない。俺たちは所詮ちっぽけな存在だよ」
竹山は剣を自分の鞘にしまった。
「そんなちっぽけな俺たちにだって仁義ってもんがある。お前は他の奴らとは違う。助けてくれた恩を仇で返したんじゃバチが当たるかもしれない。じゃあな」
竹山は背を向けてゆっくりと歩き始めた。川上にはその背後を狙うことができた。しかしそんな真似はしない。お互いがそれを理解している。川上はその大きな背中を何も言わずに見送った。




