真夜中に
伊勢湾台風 上陸の夜
海に近い木造二階建ての寮が流されたのに
残れたのは海からの距離と運
目が覚めたことがないのに、目が覚めた。
真っ暗?
声が聞こえた方を見る、
「 もっとあがってくるかもしれない、泳げない…」
おかあちゃんとおとうちゃんのやり取りか?‥‥
?…あれえ 押し入れのうえにあがっているんだ
目をこすって薄明りの中 床を見る
なんだか畳が膨らんでる 布団、まくらかな…浮いてるね
雨戸、窓は? どこへ???
火鉢がゆっくり浮いたまま動いて…る
薄っすら開けた目に映った
膨れた畳の上に乗ってみたいなぁ
無意識に動いたみたいで
ぎゅっと抱き寄せられたようだ
夢かしら…
意識を手放した
何しろ両親の腕の中
安心 安全 心もそれを知ってる
後に伊勢湾台風と呼ばれることに
夜中 高波、堤防が決壊
壊れて流された家も多い中
ちょっとだけ海から遠い場所だったから
押し入れへ避難して一夜を過ごし 事なきを得た
……
守られている安心と幸福感を思い出せる記憶の一つ
.........
明るい…目が覚めたけど、家じゃない
隣にはモーフにくるまってまだ寝ている人
避難所の床にモーフをひいてその上で寝ていた私
すでに両親の姿はない
座って周りを見回す 知った人はいないな
身体の方が先に動く 玄関へ
いっぱいの靴 下駄 サンダル等々
一番汚くてヨレヨレのサンダルを借りることにする
開け放たれたドアを出ると
雲がない青空 台風一過の澄んだ空気
前を向いて歩く
とことこ 無言で歩く
最初に目が向いたのは
後藤のおばさん
庭先にいる
下を向いて泥まみれになった花壇を 見ているのか?
なんだかいつもの気力を感じない
数カ月前 夢中で蝶を追いかけ、後藤のおばさんの花壇に踏み込んだことがある
「こら~」すごい剣幕で追い出され、「どうゆう教育をしたら人が大切にしている花壇を踏みつけ、花を蹴散らせるのか」すごい剣幕で怒鳴り込んできた。
怒気を含んだ声に圧倒された。夢中になっていて、おばさんが手塩にかけて育てていた草花を踏みつけてしまったことを知った。故意にではなかったけど謝らなくてはいけないことをしたようだど理解した。
あの時の気力は今はなく、どこから手を付けていいかわからない庭、家の中。
そ家が壊れなかったのが幸いだと気持ちを切り替えられますようにと その場でペコリと頭を下げて通り過ぎることにした。
しばらく行くと市役所と書いたチョッキを着た大人の人たち
あ、田中のおじちゃんもいる
みんな手を合わせて黙とうしている。終わるとゴザを使って丁寧に包んで手押し車に乗せるようだ。
ケンちゃんとこの犬、しろのようだ。庭に杭を打って鎖につないであったはず、高波にのまれても逃げられなかった。
街に様子は歩けるように道は泥をのけてある。朝早くから誰かが整備してくれた。
家は建ったままだけど家の中まで高波が来て泥だらけ。
まだ受け入れられず家の前ぼ~と立ち尽くす人、声をかけて励ましながら片付けを始める人。
私の家はもう少し海より この辺りより水に浸かったはず
昨日の夜のことを思い出しながら歩く
寝ているのに畳がふわりと浮いた、おとうちゃんは凄い、「起きろ」と叫びながら私と弟を布団にくるんで押し入れの上の段に乗せた。布団を持ったおかあちゃんごと抱えて自分も押し入れへ上がるのと雨戸が外れ高波が家へ入ってくるのが同時だ。雨戸とガラス窓、縁側からはいってきた黒くみえる海水だろう水
状況がよくわかってない私は膨らんで浮き上がった畳の上に乗ってみたいと駄々をこねた。
こどもだからね。
考え事をしていると早く着く
家の前




