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Side:ハル 1
……さむいところだった。
くらくて、せまくて、こえがきこえない。
でも、あたまのなかで、なんどもひびいていた。
――ハル、という、なまえ。
あのひとがくれた。
うまれてはじめて、ぼくのものになったことば。
「そうじゃ、ハル。よい名であろう」って、やさしくわらった。
にんげんは、こわい。
こえが、おおきくて。かおが、いたくて。
なにもしなくても、にらまれて。うしろから、いしがとんできた。
でも――そのときも、きっと、あのひとのてだけは、ぬくかった。
だいてくれた。よびかけてくれた。
「おぬしは、なにも悪くはない」
それをきいて、ぼくのなかの“なにか”が、ふるえた。
あつくて、せつなくて、でもうれしかった。
……“ノブ”。
ぼくは、まだよくわからない。
でも――そのひとのそばなら、すこしだけ、こわくない。