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第2話 異形の子

「そうじゃ、ハル。よい名であろう」


信長のぶなががぽつりと言うと、桃色の髪の子――ハルは、おそるおそるとうなずいた。

まだおびえてはいるものの、その赤い瞳には、かすかに安堵あんどの色が差していた。


信長は立ち上がり、後ろを振り返った。


「こやつを屋敷やしきへ連れて帰る。着物も、しょくも、るところも用意せい」


従者じゅうしゃたちは顔を見合わせた。困惑こんわくと恐れと、反発と――混じり合った感情が、誰の口も開かせない。


「どうした。命令が聞けぬか?」


その一言で、空気がぴたりと止まった。

やがて、ひとりの従者が深く頭を下げた。


「……承知しょうちつかまつりました」


信長はふっと鼻を鳴らすと、ハルの方へ手を差し出した。

ハルは、おびえたままその手を見つめていたが――やがて、そっと指先を伸ばし、信長の手に触れた。


冷たい、細い手だった。


「ようし、行くぞハル。わしの家は……わしの国じゃ」


そう言って、信長は歩き出した。

赤い瞳の子を連れて、春の山道をまっすぐに。



屋敷に戻ると、待っていたのは案のあんのじょう、父・信秀のぶひできびしい視線だった。


「信長。貴様、どこに行っていた」


「山じゃ」


「山……では、これは何だ」


信秀の視線が、信長の背後――信長の着物のすそに隠れるように立っていたハルに向けられる。

ハルは怯え、信長のそでを握りしめた。


ひろった。名はハルじゃ。これより、わしがともらす」


異形いぎょうの子を、屋敷に入れるというのか。正気か、信長」


家臣かしんたちもざわつき始める。

だが、信長はまっすぐ父を見返した。


「正気じゃ。わしが選んだ。この子はわしのもの。誰にもれさせぬ」


信秀は黙ったまま、息を吐いた。


「……くだらんなさけをかけるな。世はよわき者に甘くはない。いずれ裏切うらぎられるぞ」


「裏切られても構わぬ。わしはこの子を信じる。それがわしのやり方じゃ」


言い放ち、信長はハルの肩を軽く抱いて奥へ進んだ。

家中には冷たい視線が向けられていたが、信長は気にするそぶりもない。

ハルだけが、背中越しにそのすべてを感じ、また一つ、人のこわさを知った。


だが――信長の手のぬくもりは、たしかにそこにあった。

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