表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

第20話 言葉は剣か盾か

その夜、信長のぶながはいつもよりおそ執務しつむえ、廊下ろうかしずかにあるいていた。


ろうの向こう、座敷ざしきえんにぽつんとこしかけるかげがある。

すっかり見慣みなれたうしろ姿だったが、今日はどこかちがってえた。


「……今宵こよいは、めしわぬのか?」


声をかけると、ハルのかたがぴくりとうごいた。

かえる顔にはみはなく、影がしていた。


「……なんか、今日はのどとおんねぇや」


信長はすぐそばまであゆると、となりすわった。

はるの夜はまだすこつめえていたが、空気くうきんでいた。


「また、なにかあったのか」


ハルはしばらくだまっていたが、やがてぽつりとつぶやいた。


「……たすけたのに、怒鳴どなられた。こわがられて……にらまれて。

おれ、やっぱり、ここの人間にんげんじゃねぇんだっておもった」


信長はうでんだまま、そらつめていた。

夜風よかぜが廊下をけ、たけがさらりとおとてる。


ひとは、自分じぶんちがうものをおそれる。

それはよわさでもあるし、防衛ぼうえいでもある。

だが、そのおそれを言葉ことばにしてしまえば――それは、つるぎとなる」


ハルはゆっくりと信長を見上みあげた。


「じゃあさ。おれの言葉ことばは、なんになる?

まもろうとしたそれも、つるぎだった?」


ちがう。おぬしの言葉は――たてじゃ」


信長の声には、一切いっさいまよいがなかった。

だれかをまもりたくてはっした言葉ことばは、るためのつるぎにはならん。

それは、きずつけられたものまえち、かぜふせたてじゃ」


ハルはくちびるんだ。

なにえなかったが、そのがわずかにれた。


言葉ことばつるぎつか――わしも、ようかんがえる。

だがなハル、わしはしんじておる。

このうごかすのはちからではなく、ねがいと、そのためにはっされる“言葉ことば”じゃと」


ふと、信長ががった。


はらっておるのなら、台所だいどころけ。ばばも、きっとっておる」


ハルはゆっくりとがり、信長のうしろをあるく。

あかひとみはまだ戸惑とまどいのいろびていたが、あゆみはたしかだった。


――言葉できずつけられるのなら、言葉でまもる。


そうおもえたのは、このよるはじめてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ