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第17話 暁《あかつき》の火を越えて

夜が明けた。


とりでの地には、静けさだけが残されていた。

風がすすけた野を抜け、崩れた門をゆらす。空は、まるで何事もなかったように青く澄んでいた。


き火の前に、ふたり並んで腰を下ろしていた。

信長のぶながとハル。いくさのあとの、つかの間の静寂せいじゃく


信長の甲冑かっちゅうは泥に汚れ、ほおにはかすかな切り傷が残っていた。

だがその顔に疲れはなく、ただ、遠くを見据えるような瞳だけがそこにあった。


「……さむい?」


小さく、ハルがたずねる。信長は、ふと笑みをこぼした。


「そうじゃな。少しだけ、冷えるのう」


ハルはそっと、自分の袖を伸ばした。

指先が信長の腕に触れる。

その手はまだ少しだけ、あたたかかった。


「さっきの……ぼくの“あれ”、こわくなかった?」


しばしの沈黙。

焚き火が、ぱちりと音を立てた。


信長は、はっきりと答えた。


「いいや。あやつの手は、人をきずつけるための手ではなかった。

わしの命をすくい、仲間を守った。ならば、おそれるに足らぬ」


ハルは少しだけ目を伏せ、うなずいた。


「……ありがとう」


信長は、火を見つめながら言葉を継いだ。


「力は、使い方しだいで毒にもなる。されど――

それを“人のため”に使える者こそが、ほんとうの“つよさ”を持つ」


「ぼく……つよくなれる、かな」


「なれる。……いや、すでになっておるのかもしれんな」


空には朝日が差し始めていた。

砦の向こう、焼けた地にすその光は、ほんの少しだけ金色に染まっていた。


信長は立ち上がり、腰の太刀たちを直す。


「行くぞ、ハル。わしらには、まだやるべきことがある」


「……うん」


ふたりは並んで歩き出す。

焼け跡を越え、すすけた空を背にして。


その背中は、どちらもまだ小さい。

けれど、確かにその歩みは、これからの時代へと続いていた。



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