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第16話 誓火《せいか》、青く灯りて

とりでの地は、もはや砦とは呼べぬ有様だった。


さくは焼かれ、門は破られ、地面は血と灰に塗れていた。

野武士の旗が、黒煙の中で不気味に揺れている。


信長のぶながは、わずか二十騎にも満たぬ手勢を率いて、砦の裏手へとまわった。

敵の数は倍以上。だが、信長の目に迷いはなかった。


「皆の者、聞け。ここが、わしのはじめてのいくさじゃ。

だが、恥じることはない。敵は数におごり、心を持たぬ。

おぬしたちは、心を持て。義のために刃を振るう者に、恐れなどいらん!」


兵たちはわずかに目を見交わし、やがて誰からともなくうなずいた。

幼い主君のその声に、不思議な“重さ”があった。


戦が始まる。剣が交わり、叫びが飛ぶ。

信長は前へ、前へと進む。剣の先に、恐れも迷いもなかった。


だが――


「おのれ、小僧が……!」


信長の足元が崩れた。罠か、それとも土が緩んでいたのか。

バランスを崩した刹那せつな、太刀を振り上げた敵が迫る。


――届かぬ。身を戻すには、半瞬足りない。


そのときだった。


「やめろッ!」


耳に響いたのは、甲高く、叫ぶようなハルの声。

そして次の瞬間――


敵の全身が、青白い光に包まれた。


風もないのに、炎が立ちのぼった。

それは赤くもなく、熱くもなかった。ただ、静かに燃える“青い火”。


敵兵はその場に崩れ落ちた。焼かれたわけではない。ただ、力を奪われたように。


信長が振り返ると、ハルがその場に立っていた。

その手のひらから、なお淡く揺らめく青い炎がこぼれていた。


「……ハル、おぬし……」


ハルは自分の手を見つめ、かすかに震えていた。

目を大きく見開き、恐れとも、驚きとも、安堵ともつかぬ表情を浮かべている。


「わからない……ぼく、なんで……でも、からだが、うごいて……」


信長はゆっくりと近づいた。

そして、剣を収めると、そっとハルの手を包み込んだ。


「恐れることはない。おぬしは守ったのじゃ。

それで十分じゃ。――その炎は、ちかいの火じゃ」


青い火は、すうっと消えていった。

けれど、その“ぬくもり”は、ふたりの手のひらに、静かに残っていた。



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