Side:ハル 2
――紅の契りのあとの、夜。
しずかだった。
風の音も、火の音も、ぜんぶ、遠くにいってしまったみたいで。
ぼくは、小さな焚き火のそばで、信長の横に、そっとすわっていた。
ひとさし指を見つめる。
まだ、すこし、赤い。
血がまじったところ。あのとき――信長が、
「これが、わしとおぬしの紅の契りじゃ」って言ってくれた。
“契り”って、よくわからない言葉だった。
でも、さわった血があたたかくて。
その手が、ずっと離れなかったから――わかった。
“これで、ひとりじゃない”
……そう思ったのに、こわさは、まだある。
さっきの“風”も、“光”も。
なんで出るのか、どうやって出したのか、わからない。
だれも教えてくれなかった。
生まれてから、ずっと、そうだった。
「……こわいなぁ」
小さく、声にしてみる。
でもその声は、火の音にも負けて、信長には届かなかった。
村の子たちは、またぼくを、こわがるかもしれない。
昨日まで笑ってくれたのに、今日から石を投げるかもしれない。
でも。
でも――それでも。
ぼくは、あの子(薫)を、まもれて、よかった。
あの子の「ありがとう」が、
あの夜の星よりも、ずっと、ずっとあったかかった。
「まもったこと、まちがいじゃないよね……?」
今度は、声に出さずに、心のなかだけで聞いてみた。
そして、横を見る。
信長が、うとうとしていた。
でも、ぼくの手は――まだ、しっかり、にぎってくれていた。
火の光が、指と指のあいだから、ゆれる。
“これが、ぼくのいる場所”
その夜、ぼくは、
はじめて「眠っても、朝が怖くない」って思えた。




